消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

七話 眷属

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 七話 眷属

 灯りに照らされた発掘現場では、先ほどの青年がダントとラントに詰め寄られていた。


「だから、休憩中だし。どこに行ったかまで知らねぇよ!」


「だったら探して――おい、帰ってきたみたいだぜ」


 ダントが僕を見つけると、ラントを引き連れて近づいて来た。
 青年は「やめろ!」と制止するが、二人はそんな言葉など聞く耳を持たない。ダントとラントは、僕とレオナシアさんを交互に見ながら、にやけた顔を浮かべた。


「よお、アウィン。昨日はいろいろと世話になったな」


「お礼に、その魔導器は俺たちが引き取ってやるぜ? そういう命令を出しな」


「女の姿をして、まあまあの容姿だ。俺たちの性処理用としても使ってやるからよ」


「はっはっはぁっ! そりゃいい!!」


 好き勝手なことを口走ったダントとラントに、僕は自分でも珍しいと思うくらいの怒りが沸いた。固く拳を握り閉めながら、レオナシアさんを庇うように、片手を真横に挙げた。


「おまえら、女の子に言っていいことじゃないだろ! レオナシアさんに謝れ!!」


「なんだぁ? ただが発掘技師が、俺たちに指図かよ。ええ?」


 ダントは凄みのある顔で詰め寄ってくると、驚くほど素早い動きで、大剣を僕の首筋に添えた。
 そして魔力を受けて淡く光る刀身を、ワザと僕の視界に入れた。


「おら、もういっぺん言って見ろや」


 緊張と恐怖心から生唾を呑み込んだ僕は、まだ残っている怒りをすべて出し切った。


「僕は、間違ったことを言ってない。レオナシアさんに謝れ」


 僕が反論することは想定外だったんだろう、ダントは少し驚いた顔をしたが、しかしすぐに怒りを露わに歯を剥き出した。


「いい度胸だな! 望み通り、今すぐ地獄に送ってやらあっ!!」


 ダントが叫んだ直後、その身体が吹っ飛んだ。
 僕の腕を避けたレオナシアさんによる、回し蹴りを喰らったみたいだ。ダントが地面に倒れると、ラントが「てめぇ!」と怒鳴りながら、レオナシアさんに銃口を向けた。
 そのとき、僕らのあいだに青年の護衛兵が割り込んできた。


「発掘技師に武器を向けるなんて、なにをやってるんだよ! 俺たちの仕事は、発掘技師を護ることだろ!?」


「なんだ、てめえ……良い子ぶってるんじゃねぇぞ? 俺たちの親父は、上等兵長だ。てめぇなんか、俺らの一声で最前線送りにできるんだからな」


「な――親の威を持ち出すのかよ」


「文句あんのか!? 俺たちが、発掘都市で一番偉いんだ。てめぇらは、俺らに従ってればいいんだよ、糞野郎ども!」


 言っている内容は馬鹿っぽいけど、脅しとしては充分だった。
 その効果を十二分に確かめたラントの顔が、にやついた。立ち上がったダントは憤怒といえるほど顔を真っ赤にさせている。
 その目がレオナシアさんに向けられたとき、奥から悲鳴に似た声が聞こえてきた。


「ワームだ! 助けてくれ!!」


 僕らが声の方角を振り向くと、逃げてきた発掘技師の後方に、薄い桃色の胴体を持つ、巨大なミミズのようなもの――ワームがいた。
 その数は七体で、体長はワームとしては平均的なものだ。
 だけど、このワームは普通のものとは異なっていた。
 普通のワームは頭部に目や鼻がなく、鋭く細かい牙が並んだ口しかない。だけど、目の前のワームには、口の上に六つもの黒い目と、鋏角のような上顎と触肢が見える。
 そこだけ見ると、まるで蜘蛛みたいだ。


「なんだ、あのワーム……くそ!」


 先ほどの青年が、逃げてきた発掘技師を庇うように、魔導器の長剣で先頭のワームに斬りかかった。
 ダントとラントも応戦はするが、前にでることはなく、自分たちに来るワームしか相手をしていない。
 逃げてきた発掘技師を追いかけて、四体のワームが僕らのほうへ来た。


「レオナシアさん、お願いできますか?」


「了解です。対象を殲滅します」


 レオナシアさんは、右腕のパーツから魔力弾を撃ち出した。
 魔力弾はワームの胴体を貫通したが、それで動きは止まらない。レオナシアさんは右腕のパーツから、今度は光の刀身を発生させた。
 ワームたちはレオナシアさんを取り囲むように広がると、そこで動きを止めた。


〝こいつには見覚えがある――〟


〝確か、殺したはずだ――〟


〝そうだ、殺した〟


〝確かに死んだはず――〟


 ワームたちが放つ言葉の意味は、僕には分からなかった。なにかの間違い――そう思いたかったけど、レオナシアさんの動きが止まったことに、僕は妙な不安を覚えた。


「わたしは――死んだ? でも――まさか。思い出せない――?」


 ほぼ棒立ちのレオナシアさんに、ワームの一体が襲いかかった。


「レオナシアさん、危ない!!」


 僕が叫ぶと、レオナシアさんは寸前のところでワームの突進を躱した。
 そのままワームの一体に飛びかかったレオナシアさんは、一刀のもとに蜘蛛に似た頭部を唐竹割りに断ち切った。
 だけど、相手の数が多い。横からワームの突進を受けてたレオナシアさんは、地面に叩き付けられた。
 苦悶――としか思えない声をあげたレオナシアさんは、僕のすぐ近くまで転がって来た。
 僕の耳――いや、鼓膜に直接、あの無機質な声が聞こえてきた。


〝推奨――防御機能起動〟


 その意味は、まったくわからない。けれど――僕の身体は勝手に、レオナシアさんの前へと出ていた。
 通常のものより強固なのか、護衛兵たちはワームに手こずっている。僕らのところに駆けつけれる護衛兵は、いない。
 我に返った僕が状況を把握したとき、まだ生き残っている三体のワームが襲いかかってきた!


「くそっ! 防御機能を起動して助けてよ!!」


 叫んだのは、半分はやけくそだ。
 両腕で頭部を護りながら目をつぶっていたが、数秒経ってもワームたちは襲ってこなかった。恐る恐る瞼を開けたとき、僕とレオナシアさんを包み込むように、半球状の青白い結界が包んでいた。
 見ると、リーンアームドの手の甲が、淡く光っている。まさかと思うけど――という僕の思考に割り込むように、立ち上がったレオナシアさんが柔らかな声で言った。


「これが、リーンアームドの防御機能です。助かりました。ありがとうございます」


「あ、いや……その、なにがなんだかで」


 僕は、辛うじてそう返事をするのが精々だった。
 周囲では、ワームが結界にぶつかってきては弾かれる、というのを繰り返していた。おっかなびっくりな顔で周囲を見回す僕の横で、レオナシアさんは光の刀身を発生させていた。


「わたしが飛び出しますので、結界を解除したあと、すぐに再構築して下さい。そのあとで、わたしが着地するのに合わせて、結界の解除と再構築。できますか?」


「そんなこと言われても、結界の消し方は――」


 そんな僕の言葉の途中で、結界は消えた。
 レオナシアさんは、間髪を容れずに飛び出していた。ワームの一体に斬りかかるのを見ながら、僕はついさっき言われたことを思い出した。


「護って! 防御!」


 音声認識ということは、もう理解した。無茶苦茶な命令だったが、僕の周囲に先ほどと同じ大きさの結界が発生した。
 結界の外側では、レオナシアさんが空中戦を繰り広げていた。脹ら脛の裏に丸く光っている部分があるから、その部分で短時間ながら空中での機動戦ができるみたいだ。
 二体のワームの突進を躱したレオナシアさんの右腕から、眩い光が放たれた。


「剣圧最大――雷撃波」


 光の刀身が、まるで雷のように迸ると、ワームの頭部を二体同時に貫いた。雷が木に落ちたときのように、かなりの熱量もあるのか、ワームの断面は少し燃えていた。
 そこで、レオナシアさんの脹ら脛から光が消えた。


「結界、解除」


 僕は結界を消すと、降下してきたレオナシアさんを見上げながら、タイミングを計った。


「防御!」


 僕が叫んだのと同時に、着地したレオナシアさんを追ったワームが結界に弾かれた。


「上手ですよ。それでは、再度行きます」


「あ、はい!」


 レオナシアさんに頷きながら、僕は再び結界を消した。
 今度はもう、結界を再構築する必要はなかった。身体を捻り、突進を躱しながら左手でワームの上顎を掴んだ。
 右手は、無造作とも見えるように振られただけだ。
 頭部を真一文字に両断されたワームは、そのまま地面に倒れた。これが、最期の一体だった。
 護衛兵の三人でワームを一体、ダントとラントで一体ずつ斃していた。


「……気持ちわる」


 護衛兵の青年は吐き出した言葉に、僕も同意した。ワーム自体、あまり見た目が良くないが、今回出てきたのは、さらに薄気味が悪い外見をしていた。
 蜘蛛に似た頭部――その姿に、僕は例の魔神を思い出していた。レオナシアさんを振り返ると、彼女は僕を見て一つ、頷いた。


「あれは、魔神の眷属に寄生されていました」


「眷属――寄生って、そんなヤツもいるの?」


「はい。あの眷属は魔神の体内から出てきて、ほかの生物に寄生します。知能や記憶を奪うことはありませんが、道具を真似て使う程度の知能はあります」


 僕が眷属の説明に身体を震わせていると、ダントとラントがすぐ側を通りかかった。
 僕になにかをしようとしたみたいだけど、レオナシアさんの視線に気づいて、舌打ちだけに終わった。


「魔神の件は、誰がなんと言おうと、おまえが悪いんだからな! 覚えとけっ!!」


 ラントを伴ったダントは、そんな捨て台詞を吐くと、去って行った。
 入れ替わりに、護衛兵の青年が声を掛けてきた。


「ここの発掘は、今日は止めにしておこう。俺らから上には報告しておくから、おまえらは上層の発掘を頼む」


「……わかりました。レオナシアさん、エディン、行こう」


 僕とレオナシアさんは、エディンと一緒に上層の発掘へと向かった。
 その途中で、僕はレオナシアさんに話しかけた。


「あのワームが言ったこと、気になりますか?」


「気になる――そうですね。ただ、そのことについて、なにも思い出せません。わたしは……一度、負けたのでしょうか?」


「それは僕ではわかりませんけど……」


 ワームは斃したけど、なにか大きな謎ができてしまったな……レオナシアさんを調べたほうがいいんだろうけど、詳細な構造とかわからないし。

 悩むことばかりだなぁ……最近。

 僕は溜息を吐きながら、上層の発掘現場へと向かった。
 とりあえず、この日はもうワームも眷属も出てこなかった。
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