消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

八話 父と母の記憶と、レオナシア

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 八話 父と母の記憶と、レオナシア

 ハンマーでひん曲がった魔力の伝導板を修正していると、不意に昔のことを思い出すことがある。
 魔導器の修理する技術を教えてくれたのは、僕の父さんだ。
 護衛兵への登用試験に落ちた日、父さんは落ち込む僕に、滅多なことでは使わない根っこのコーヒーを煎れてくれた。


「なんで、わたしたちに内緒で、護衛兵の試験を受けたんだい?」


 怒っている雰囲気はなかった。普段と変わらない、父さんの物静かな声に、僕はうつむいたまま答えた。


「……なりたかったんだよ。護衛兵のほうが給料はいいんでしょ?」


「まあ、それはそうだが……」


「僕が護衛兵になれば、父さんたちの生活が、楽になると思ったんだ」


 今でもあまり変わらないけど、両親が発掘技師として働いていた当時も、家は赤貧に等しかった。当時の僕はそれがイヤで、なんとかして稼ぐ手段はないかと模索していたんだ。
 啜るように、砂糖やミルクの入っていないコーヒーを飲む僕に、父さんは優しく頭を撫でてくれた。


「……そうだったのか。苦労をかけてしまってるね」


 優しげに言ってくれたけど、その言葉はどこか寂しそうだった。
 少しの沈黙のあと、父さんは僕の肩に手を添えた。


「なあ、アウィン。発掘技師になってみないか? 確かに、今の時代では稼げないけどな。代々、技師をやってきた家系なりのやりがいは、あるものなんだよ」


 柔やかに微笑む父さんの顔は、僕の好きな顔だった。
 振り返れば、母さんも僕を見ていた。二人の顔は発掘のあとで、土や砂塵で汚れきっていた。だけど……そんな汚れなんか気にならないほど、僕は両親のことが大好きだった。



「アウィン、ちょっといいか?」


 セントさんの声で我に返った僕は、勢いよく顔を上げた。
 僕がいるのは、バイト先である魔導器を修理する店だ。修理屋のセントさんが勤める店で、護衛兵だけでなく街で稼働している設備の修理なんかも請け負っている。修理屋としては、かなり大きな店だった。
 僕は発掘が終わったあと、食事もそこそこに、この店へバイトに来ていた。
 レオナシアさんもついて来ちゃったけど……まあ、警護を兼ねているのかもしれない。

 僕が振り返ると、セントさんは顔を寄せてきた。


「なんで、あの魔導器少女も一緒なんだ?」


「えっと……ついて来ちゃって。すいません、気になりますか?」


「いや、別にいいんだけどさ」


 セントさんは一度言葉を切ってから、数秒だけ悩む素振りをした。でも、その数秒後には意を決したように、改めて僕に顔を向けた。


「あの子のさ、お尻がダメなら、胸に顔を埋めたい」


 ……数秒ほど、僕はセントさんがなにを言ったのか、理解できなかった。
 そして理解すると、呆れたというか、色々で諸々の感情が沸き起こって、全身から力が抜けていくのを感じた。かなりの忍耐と我慢、それに辛抱とかを総動員しながら、僕は搾り出すような声を出した。


「……なにを、考えて、いるんですか?」


「いや、だって諦めきれないでしょ。おまえから、あの子に頼めないか?」


「全力でお断りしていいですか?」


「いいじゃんか、ケチケチすんなって」


「いえ、ケチとかそーゆー問題ではなくて。駄目なものは駄目ですって」


 僕が断った直後、セントさんの後頭部にネジが飛んできた。
 ネジが直撃して「あいた!」と叫んだセントさんと僕がネジは、飛んできた方向を見た。そこには工房の店長である、ダグラスさんが立っていた。
 セントさんを睨みながら、ダグラスさんは腕を組んだ。


「くっちゃべってねぇで、さっさと作業に戻れ!」


「は、はいぃ!」


 セントさんは大慌てしながら、自分の作業台に戻って行った。
 ダグラスさんは僕の作業台に乗った胴鎧を覗き込んで、唸った。


「大したもんだ。親父さんの教えがいいんだろうな。あいつも腕っこきだったからな」


「……店長、僕の父さんを知ってるんですか?」


 心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、僕はダグラスさんを見上げた。両親のことが話題になると、今でも胸の奥が苦しくなる。


「ああ。忙しくなったり、大口の仕事が来たときに、よく手伝ってもらった。良い腕だったのに、惜しいヤツを――」


 ダグラスさんは言葉の途中で、ハッとした顔になった。そして難しい顔をすると、咳払いをしてから、大きく息を吐いた。


「あ……なんだ、すまん」


「いえ、大丈夫です。気を使わせて、すいません」


 ダグラスさんが立ち去ると、僕は大きく息を吐いた。
 父さんもここの手伝いをしたことあるんだ――そう思うと、懐かしさとともに熱い塊が目頭まで込み上げてくる。


「作業に集中しなきゃ」


 ワザと言葉を口に出して自分の意識を変えようとしたとき、レオナシアさんが僕に近づいて来た。


「大丈夫ですか?」


「あ――うん。なんか、弱いところ見せちゃって……ごめんなさい」


「どうして謝るのですか? 人を想うことは悪いことではありません。それが哀しみだとしても、他者へ謝罪する必要はありません。あなたは……その優しさを誇るべきです」


 僕はレオナシアさんの言葉に、少し驚いていた。口調が固いし感情がないから説明っぽく聞こえるけど、僕には慰めてくれているように聞こえた。
 僕は目に浮かんでいた涙を袖で拭った。


「ありがとうございます。その、慰めてくれて。なんか、本当に人間の女の子みたいですね。女の子に慰めてもらったことないから、ちょっと嬉しかったですよ」


「え――」


 今まで無表情だったレオナシアさんの顔に、初めて表情らしいものが浮かんだ――そんな気がした。
 それはどこか呆然としているというか、なにかを思い出しかけた、そんな表情だった。


「わたしが、人間……女の子。そのはず……いえ、でも……なにか、おかしい?」


「あれ? どうしたんで――」


 レオナシアさんの異変に気づいて声をかけた僕は、目を疑った。魔導器であるはずの彼女の目から、涙があふれていたんだ。
 その原因や理由は、わからない。だけど、涙が頬を伝っているレオナシアさんの表情は、僕にはただの女の子にしか見えなかった。


「あ、あの、どうかしたんですか? なんで泣いてるんです?」


「泣いて、いる――?」


 レオナシアさんは、震える手で自分の頬に触れた。大きく息を吸いながら、濡れた指先を見つめているあいだも、涙は流れ続けた。


「これ――涙? あたしの?」


 口調が変わった――僕がそう思ったとき、レオナシアさんは目を閉じた。その表情には、どこか苦痛のようなものが浮かんでいた。
 右手で頭に触れながら、しかし再び無表情な顔つきに戻ったレオナシアさんは、僕にいつもと変わらぬ口調で告げた。


「頭痛がします。この水は、洗浄液が漏れたのかもしれません」


「いやあの、その結論はどうかと思いますけど……でも頭痛って、大丈夫なんですか?」


「わかりません。人間――女の子……なにか思い出しかけた感じはありましたが、それ以上はなにも起きません。もしかしたら、戦闘時の衝撃の影響かもしれませんが……」


 言われてみれば、レオナシアさんはワームの突撃を受けて、地面に落とされてたんだった。そのあとも平気な様子で戦っていたから、大丈夫なんだと思ってたけど。

 戦いがあったあとは、点検をするようにするべきかもしれないな……。

 僕は戦いの影響を軽く見ていたことを反省すると、左腕のリーンアームズをチラ見してから、顔を上げた。


「……今日は早めに帰って、調べてみますね」


 僕は答えながら、違うことを考えていた。
 店長に早めに帰ることを告げた僕は、目の前にある仕事を終わらせるべく、いつもよりも作業に集中することにした。
 もしかすると、僕は御先祖の悪行を知ることになるかもしれない。そんな予感が頭の中で大きくなっていって、僕はそのあと、レオナシアさんをまともに見られなくなってしまった。

   *


 食堂からの帰り道、エディンは修理屋の前を通りかかった。
 工房の中は、まだ煌々とした明かりが灯っていた。修理屋が一番忙しいのは、夜だ。
 発掘が終わったあと、調子の悪くなった魔導器が運び込まれるのが夕方。そのほとんどを翌朝には返却しなければならない。
 アウィンがバイトをすることに修理屋が好意的なのも、それが理由だ。
 発掘技師は数多くいるが、魔導器の修繕が行える技師は、ほんの一握りだ。大半の発掘技師は、発掘した魔導器の稼働を確かめることしかできない。
 修理屋でも内部のことまで精通しているのは、ごく少数だ。こういった現状を踏まえると、アウィン・コーナルの家系がいかに特殊であるか――エディンはそんな考えを頭から振り払うと、工房から離れた。

 魔導器に関する技術の差――それを考えると、エディンは激しい劣等感に苛まれる。発掘しかできない自分とは違い、アウィンは発掘技師のあいだでも重宝がられている。
 昨日でも発掘した魔導器の選別を任され、工房でバイトをするにも困らない。


(それに昨日だって)


 魔導器の少女を連れていたとはいえ、あんな気軽に街の発掘技師たちに囲まれたりもする。アウィンは比較的大人しい性格だが、陽性な気質が人を呼び寄せるのかもしれない。
 技術も含めて、エディンには持っていないものだ。

 暗い気持ちで家路を進んでいたエディンは、いつしか人通りの少ない細道に入っていた。エディンの住む集合住宅までの近道だが、ほとんど人は通らない。街灯もないため、星明かりだけが周囲を照らしていた。
 やや俯き加減に歩いていたエディンは、十字路に差し掛かったところで、いきなり横から伸びた手に腕を掴まれた。


「え――?」


 と思ったのもつかの間、路地裏に連れ込まれたエディンは、二人の大男の影に囲まれた。


「よぉ。おまえは確か、エディンっていったよなぁ?」


 にやけた顔のダントが、蹴るような動きで足を出した。その足に躓いてエディンは、そのまま転んでしまった。


「いた――」


 膝に痛みを感じながら起き上がろうとしたとき、エディンの腹部へ目掛けて、ラントの足底が勢いよく下ろされた。
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