12 / 57
消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
九話 蘇った記憶
しおりを挟む九話 蘇った記憶
家に帰った僕は、レオナシアさんの点検を終えると、工作室に籠もった。
時刻は、もう深夜一時。先祖代々受け継がれている書物を片っ端から読んでいるんだけど、レオナシアさんに関する手掛かりはまだ見つかっていない。
思い過ごしかな……と思い始めた僕は、残り二冊の書物から、我が家の紋章が書かれた黒い書物を手に取った。
表紙を開くと、黒い金属のプレートが挟まっていた。プレートは手の平大で、表面には我が家の紋様が刻まれていた。
「しおり……じゃないよなぁ?」
僕はリーンアームズに覆われた左手で、プレートに触れた。その途端――僕の頭の中に膨大な情報が流れ込んで来た。
魔導器の基礎的構造から、かなり複雑なもの、そしてレオナシアさんに使われた魔導器の仕組みや概念、構造――それら知識の量が膨大過ぎて、僕は放り出すようにプレートを放した。
荒い息を吐きながら、僕は工作室から出た。
レオナシアさんは昨日買った服を着たまま、居間の椅子に座っていた。僕の慌てた様子に、レオナシアさんは椅子から立ち上がった。
「なにかあったのですか?」
「レオナシアさん! 工房で思い出しかけたこと、わかるかもしれません」
僕の言葉に、レオナシアさんの目が僅かに見開いた。
頭痛がしたということは、記憶が蘇りかけた証拠だ。仕掛けは、一度目にしている。プレートからの知識で、なにをどうすればいいかは、理解している。
僕は厭な予感を覚えながらも、レオナシアさんに訊ねた。
「記憶を呼び覚ますかどうかの判断は、レオナシアさんにお任せします。どうしますか?」
僕の質問に、レオナシアさんは無表情のまま沈黙した。だけど、瞳は周囲を見回すように、忙しく動いていた。
一応、悩んではいるみたい……なのかな?
それから数十秒ほど経ってから、レオナシアさんは僕に瞳を向けた。
「お願いします。このような言い方は適切ではないかもしれませんが……時折、蘇りかける記憶の数々に、わたしの胸の奥が熱くなったり、疼いたりするのです。わたしは、その正体が知りたい。知らなければならないのだと思います」
「……わかりました。それでは、後ろの点検口を開けますから、後ろを向いて服を少し下げて下さい」
椅子に座ったレオナシアさんは言われるまま、後ろを向くと前にある紐をほどいて、服を肩と背中の半分が出るまで下げた。
水着に似た補助アーマーは身につけたままだから、素っ裸ではないんだけど……僕は少し照れながら、点検口を開けた。
修正をするのは、『記憶の封印』と『記憶の維持』の二枚だ。
刻まれた魔術文字はある意味、それ自体が力を生み出す媒体となり得るが、この二枚だけは接続先で意味合いが異なる――みたいだ。
魔力の伝導体を兼ねているから、迂闊に取り外すことはできない。体内にある魔力のバランスが崩れて、一部の機能が使用できなくなる可能性があるからだ。
頭の中に入ってきた知識が正しければ、『記憶の封印』を隣のスリットに接続。『記憶の維持』は、先ほどまで『記憶の封印』が入っていたスリットへ入れ直す。
これで、記憶を司る神経が正常になるはずだ。今まで封印されていた記憶が表に現れるけど、これまでの記憶も残るから――大きな問題はないと思うけど。
「えっと……どうで――」
僕が覗き込んだときレオナシアさんは、恐怖と絶望感の入り交じった表情を浮かべていた。今までが無表情だっただけに、今のレオナシアさんに声をかけることが躊躇われた。
大きく肩を上下させながら、自分の両手を見つめたレオナシアさんが、すぐ真横で見守っていた僕を見た。
その途端、勢いよく立ち上がったレオナシアさんは、服を脱ぎ捨てると僕の見ている前で戦闘用アーマーを装着した。
右腕にある四角いパーツ――魔力銃の銃口を僕に向けると、怒りの形相で怒鳴った。
「コーナル・コーナルっ!! あたしになにをしたっ!?」
「え? あの――レオナシアさん、どうしたんです? 僕はアウィンですよ」
「嘘を――アウィン? あ、くっ――」
いきなり記憶が戻った反動で様々な情報が混濁してるのか、レオナシアさんは苦悶の表情で僅かに視線を逸らした。
「あの……大丈夫ですか?」
その表情があまりにも辛そうだったから、僕はレオナシアさんに近づいて、なにか出来ないかを聞こうとした。
だけど――。
「近寄るなっ!!」
頭を押さえながら、レオナシアさんは再び僕に銃口を向けた。
「コーナル・コーナルの子孫――なんかが、気安く近寄らないでっ! どうして――どうして、あたしの身体をこんなのにしたのよ!!」
言ってる内容はまだ錯乱気味だけど、レオナシアさんに何が起きたのか――僕は厭な予感が当たったことを、ようやく理解した。
つまり――過去の戦いで死んだか、瀕死だったレオナシアさんを、先祖であるコーナル・コーナルが魔造動甲冑のコアとして改造してしまったんだ。
僕は、先祖が一人の少女の運命を変えてしまったことに、ショックを覚えていた。まともにレオナシアさんを見ることができず、視線を下に向けた。
今のレオナシアさんに、言えることはなにもない。だけど――これだけは言わなきゃいけないと、僕は両拳を固く握り締めながら告げた。
「ごめんなさい。僕には、これしか言えなくて……ごめんなさい」
僕は、レオナシアさんへと頭を下げた。身体を元に戻すことなんて出来ないし、先祖のコーナル・コーナルがなにを考えていたかなんて、分かるはずも無い。
謝ることしか、できなかった。
レオナシアさんはしばらく黙ったまま僕を睨んでいたが、やがて視線を逸らすと奥の階段を登っていってしまった。
落ちているワンピースを拾い上げた僕は、折りたたんでからあとを追いかけた。元は両親の寝室だった部屋にレオナシアさんが入るのを見て、ドアの外から声をかけた。
「あの……なにか要るものとかあったら、言って下さい。僕ももう寝ます……おやすみなさい」
少し待ってみたけど、返答はなかった。ワンピースはドアの脇に置くと、僕は部屋から離れた。
レオナシアさんの言動から察すると、僕の先祖を知っているようだ。レオナシアさんの身体を魔導器にしてしまったのが先祖のコーナル・コーナルであることは、彼女の鎧にある紋章が証拠になる。
厭な予感はしたけど、レオナシアさんのために――と思ったけど、記憶が戻ったことは、きっと彼女を苦しめただけだ。
僕は彼女の記憶を戻したことを少し後悔しながら、自分の部屋へと戻った。
*
翌朝、発掘に出る前にレオナシアさんの部屋のドアをノックした。
「ドアの横に朝食と、お昼代と晩ご飯代を置いておきます。昨日の店は、昼間も開いてますから。僕は……発掘に行ったあと、またバイトに行きます」
声をかけたけど、またしても返答はない。試しに軽くドアを開けようとしてみたけど、鍵はかかっていた。
部屋にはいるみたいだ――と思うと、少しだけ安心できた。
なるべく静かに家を出た僕は、ふと二階を振り返った。元は両親の寝室だった部屋には、カーテンが閉じられていた。
僕はトボトボとした足取りのまま、発掘現場に到着した。
「あの魔導器の女はどうした?」
発掘を取り仕切る技師長が、僕を見るなり訊いてきた。
昨日と同じく、最奥の発掘をさせるつもりなら、レオナシアさんの存在は大きいに違いない。
僕は少し気まずそうに、技師長に答えた。
「あの……少し調子が悪いみたいなので、家にいます。その、無理をさせて、なにか問題が起きても困るので……」
「はあ……まったく。おまえが任されているのだから、ちゃんと整備をしろ――と言いたいが、未知の仕組みがありそうだから、そうもいかんか。まったく……仕方ない。最深部の発掘は諦めるか――ああ、おまえはダントンの班に加われ」
「……はい。すいません」
僕は頷くと、無精髭が特徴的なダントンさんの班へと近づいた。
それから僕らは、ほぼ予定通りに発掘を終えた。ほかの人の話を聞いている分には、今日はワームなどの魔物は出なかったみたいだ。
そのまま僕はバイトをするために、ダグラスさんの修理屋へ向かった。
修理屋に入った途端、セントさんが僕に駆け寄ってきた。
「アウィン――あれ? あの魔導器ちゃんは?」
「えっと……調子が悪いので、家に……」
もしかしたら、もう家を出てどこかに行ってしまった可能性もあるけど――とは言えない。記憶が戻った以上、レオナシアさんがなにをしようと、それは彼女の自由だ。
僕に、レオナシアさんを束縛をする権利はない。
僕の返答を聞いて、セントさんはあからさまに落ち込んだ。
「なんだよぉ。せっかく、これだって頼み事を思いついたのに」
「……今度は、なにをさせようとしたんです?」
「今度は完璧だ! 俺から触るのは駄目なら、魔導器ちゃんから俺を触って貰えば――」
「あ、いや。それも駄目だと思います」
「なんでだぁぁぁっ!!」
明後日の方角を向いて絶叫するセントさんに、ダグラスが鉄製のヘラを投げつけた。
「セント! 遊んでないで、仕事しろ!!」
「ああ、やべ!」
セントさんが大慌てで自分の作業台に向かったあと、ダグラスさんが作業台についた僕に近づいて来た。
「どうした? 浮かない顔をしてるが」
「え? あっと、その……色々とありまして」
「ふぅん? あの魔導器の娘ッ子はどうした? 不調は直したんだろ?」
「ええ、まあ。直したっていうか、呼び覚ましたっていうか……ちょっと複雑な事情がありまして」
「ふん――まあ、魔導器でも、あれば特殊だからなぁ。会話ができるんなら、ちゃんと話をしてみるってのも重要かもしれねぇな」
「……話、ですか?」
それが出来たら苦労はしないんだけど、とは言えずに、僕は曖昧な口調で訊き返した。
ダグラスさんは質問を聞くと、顎に手を添えながら僕の顔を眺めた。しばらくは無言でジッと僕を眺めていたが、少しして頭を掻きながら、やや視線を逸らした。
「俺もカカアと揉めたときは、腰を据えて話を聞くことにしてんだよ。向こうの言い分をしっかりと聞いてから、言い負かすよりも妥協点を探すことにしてる」
「……妥協点、ですか?」
「ああ。そうだ。言い負かしたところで、あとが――その、大変だからな。まあ、頑張ってみな」
ダグラスさんは、そう言い残して自分の作業台へと戻って行った。
僕はひしゃげた兜を作業台に置きながら、ダグラスさんの話を反芻してみた。妥協点――しかし、御先祖が取り返しのつかないことをした以上、妥協点など探りようが無い。
バイトのあいだ、僕はずぶずぶと気持ちが沈んでいくのを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最弱弓術士、全距離支配で最強へ
Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」
剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。
若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。
リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。
風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。
弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。
そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。
「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」
孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。
しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。
最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる