消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

九話 蘇った記憶

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 九話 蘇った記憶

 家に帰った僕は、レオナシアさんの点検を終えると、工作室に籠もった。
 時刻は、もう深夜一時。先祖代々受け継がれている書物を片っ端から読んでいるんだけど、レオナシアさんに関する手掛かりはまだ見つかっていない。
 思い過ごしかな……と思い始めた僕は、残り二冊の書物から、我が家の紋章が書かれた黒い書物を手に取った。
 表紙を開くと、黒い金属のプレートが挟まっていた。プレートは手の平大で、表面には我が家の紋様が刻まれていた。


「しおり……じゃないよなぁ?」


 僕はリーンアームズに覆われた左手で、プレートに触れた。その途端――僕の頭の中に膨大な情報が流れ込んで来た。
 魔導器の基礎的構造から、かなり複雑なもの、そしてレオナシアさんに使われた魔導器の仕組みや概念、構造――それら知識の量が膨大過ぎて、僕は放り出すようにプレートを放した。
 荒い息を吐きながら、僕は工作室から出た。
 レオナシアさんは昨日買った服を着たまま、居間の椅子に座っていた。僕の慌てた様子に、レオナシアさんは椅子から立ち上がった。


「なにかあったのですか?」


「レオナシアさん! 工房で思い出しかけたこと、わかるかもしれません」


 僕の言葉に、レオナシアさんの目が僅かに見開いた。
 頭痛がしたということは、記憶が蘇りかけた証拠だ。仕掛けは、一度目にしている。プレートからの知識で、なにをどうすればいいかは、理解している。
 僕は厭な予感を覚えながらも、レオナシアさんに訊ねた。


「記憶を呼び覚ますかどうかの判断は、レオナシアさんにお任せします。どうしますか?」


 僕の質問に、レオナシアさんは無表情のまま沈黙した。だけど、瞳は周囲を見回すように、忙しく動いていた。
 一応、悩んではいるみたい……なのかな?
 それから数十秒ほど経ってから、レオナシアさんは僕に瞳を向けた。


「お願いします。このような言い方は適切ではないかもしれませんが……時折、蘇りかける記憶の数々に、わたしの胸の奥が熱くなったり、疼いたりするのです。わたしは、その正体が知りたい。知らなければならないのだと思います」


「……わかりました。それでは、後ろの点検口を開けますから、後ろを向いて服を少し下げて下さい」


 椅子に座ったレオナシアさんは言われるまま、後ろを向くと前にある紐をほどいて、服を肩と背中の半分が出るまで下げた。
 水着に似た補助アーマーは身につけたままだから、素っ裸ではないんだけど……僕は少し照れながら、点検口を開けた。
 修正をするのは、『記憶の封印』と『記憶の維持』の二枚だ。
 刻まれた魔術文字はある意味、それ自体が力を生み出す媒体となり得るが、この二枚だけは接続先で意味合いが異なる――みたいだ。
 魔力の伝導体を兼ねているから、迂闊に取り外すことはできない。体内にある魔力のバランスが崩れて、一部の機能が使用できなくなる可能性があるからだ。
 頭の中に入ってきた知識が正しければ、『記憶の封印』を隣のスリットに接続。『記憶の維持』は、先ほどまで『記憶の封印』が入っていたスリットへ入れ直す。
 これで、記憶を司る神経が正常になるはずだ。今まで封印されていた記憶が表に現れるけど、これまでの記憶も残るから――大きな問題はないと思うけど。


「えっと……どうで――」


 僕が覗き込んだときレオナシアさんは、恐怖と絶望感の入り交じった表情を浮かべていた。今までが無表情だっただけに、今のレオナシアさんに声をかけることが躊躇われた。
 大きく肩を上下させながら、自分の両手を見つめたレオナシアさんが、すぐ真横で見守っていた僕を見た。
 その途端、勢いよく立ち上がったレオナシアさんは、服を脱ぎ捨てると僕の見ている前で戦闘用アーマーを装着した。
 右腕にある四角いパーツ――魔力銃の銃口を僕に向けると、怒りの形相で怒鳴った。


「コーナル・コーナルっ!! あたしになにをしたっ!?」


「え? あの――レオナシアさん、どうしたんです? 僕はアウィンですよ」


「嘘を――アウィン? あ、くっ――」


 いきなり記憶が戻った反動で様々な情報が混濁してるのか、レオナシアさんは苦悶の表情で僅かに視線を逸らした。


「あの……大丈夫ですか?」


 その表情があまりにも辛そうだったから、僕はレオナシアさんに近づいて、なにか出来ないかを聞こうとした。
 だけど――。


「近寄るなっ!!」


 頭を押さえながら、レオナシアさんは再び僕に銃口を向けた。


「コーナル・コーナルの子孫――なんかが、気安く近寄らないでっ! どうして――どうして、あたしの身体をこんなのにしたのよ!!」


 言ってる内容はまだ錯乱気味だけど、レオナシアさんに何が起きたのか――僕は厭な予感が当たったことを、ようやく理解した。
 つまり――過去の戦いで死んだか、瀕死だったレオナシアさんを、先祖であるコーナル・コーナルが魔造動甲冑のコアとして改造してしまったんだ。
 僕は、先祖が一人の少女の運命を変えてしまったことに、ショックを覚えていた。まともにレオナシアさんを見ることができず、視線を下に向けた。
 今のレオナシアさんに、言えることはなにもない。だけど――これだけは言わなきゃいけないと、僕は両拳を固く握り締めながら告げた。


「ごめんなさい。僕には、これしか言えなくて……ごめんなさい」


 僕は、レオナシアさんへと頭を下げた。身体を元に戻すことなんて出来ないし、先祖のコーナル・コーナルがなにを考えていたかなんて、分かるはずも無い。
 謝ることしか、できなかった。

 レオナシアさんはしばらく黙ったまま僕を睨んでいたが、やがて視線を逸らすと奥の階段を登っていってしまった。
 落ちているワンピースを拾い上げた僕は、折りたたんでからあとを追いかけた。元は両親の寝室だった部屋にレオナシアさんが入るのを見て、ドアの外から声をかけた。


「あの……なにか要るものとかあったら、言って下さい。僕ももう寝ます……おやすみなさい」


 少し待ってみたけど、返答はなかった。ワンピースはドアの脇に置くと、僕は部屋から離れた。
 レオナシアさんの言動から察すると、僕の先祖を知っているようだ。レオナシアさんの身体を魔導器にしてしまったのが先祖のコーナル・コーナルであることは、彼女の鎧にある紋章が証拠になる。
 厭な予感はしたけど、レオナシアさんのために――と思ったけど、記憶が戻ったことは、きっと彼女を苦しめただけだ。
 僕は彼女の記憶を戻したことを少し後悔しながら、自分の部屋へと戻った。

   *

 翌朝、発掘に出る前にレオナシアさんの部屋のドアをノックした。


「ドアの横に朝食と、お昼代と晩ご飯代を置いておきます。昨日の店は、昼間も開いてますから。僕は……発掘に行ったあと、またバイトに行きます」


 声をかけたけど、またしても返答はない。試しに軽くドアを開けようとしてみたけど、鍵はかかっていた。
 部屋にはいるみたいだ――と思うと、少しだけ安心できた。
 なるべく静かに家を出た僕は、ふと二階を振り返った。元は両親の寝室だった部屋には、カーテンが閉じられていた。
 僕はトボトボとした足取りのまま、発掘現場に到着した。


「あの魔導器の女はどうした?」


 発掘を取り仕切る技師長が、僕を見るなり訊いてきた。
 昨日と同じく、最奥の発掘をさせるつもりなら、レオナシアさんの存在は大きいに違いない。
 僕は少し気まずそうに、技師長に答えた。


「あの……少し調子が悪いみたいなので、家にいます。その、無理をさせて、なにか問題が起きても困るので……」


「はあ……まったく。おまえが任されているのだから、ちゃんと整備をしろ――と言いたいが、未知の仕組みがありそうだから、そうもいかんか。まったく……仕方ない。最深部の発掘は諦めるか――ああ、おまえはダントンの班に加われ」


「……はい。すいません」


 僕は頷くと、無精髭が特徴的なダントンさんの班へと近づいた。
 それから僕らは、ほぼ予定通りに発掘を終えた。ほかの人の話を聞いている分には、今日はワームなどの魔物は出なかったみたいだ。
 そのまま僕はバイトをするために、ダグラスさんの修理屋へ向かった。
 修理屋に入った途端、セントさんが僕に駆け寄ってきた。


「アウィン――あれ? あの魔導器ちゃんは?」


「えっと……調子が悪いので、家に……」


 もしかしたら、もう家を出てどこかに行ってしまった可能性もあるけど――とは言えない。記憶が戻った以上、レオナシアさんがなにをしようと、それは彼女の自由だ。
 僕に、レオナシアさんを束縛をする権利はない。

 僕の返答を聞いて、セントさんはあからさまに落ち込んだ。


「なんだよぉ。せっかく、これだって頼み事を思いついたのに」


「……今度は、なにをさせようとしたんです?」


「今度は完璧だ! 俺から触るのは駄目なら、魔導器ちゃんから俺を触って貰えば――」


「あ、いや。それも駄目だと思います」


「なんでだぁぁぁっ!!」


 明後日の方角を向いて絶叫するセントさんに、ダグラスが鉄製のヘラを投げつけた。


「セント! 遊んでないで、仕事しろ!!」


「ああ、やべ!」


 セントさんが大慌てで自分の作業台に向かったあと、ダグラスさんが作業台についた僕に近づいて来た。


「どうした? 浮かない顔をしてるが」


「え? あっと、その……色々とありまして」


「ふぅん? あの魔導器の娘ッ子はどうした? 不調は直したんだろ?」


「ええ、まあ。直したっていうか、呼び覚ましたっていうか……ちょっと複雑な事情がありまして」


「ふん――まあ、魔導器でも、あれば特殊だからなぁ。会話ができるんなら、ちゃんと話をしてみるってのも重要かもしれねぇな」


「……話、ですか?」


 それが出来たら苦労はしないんだけど、とは言えずに、僕は曖昧な口調で訊き返した。
 ダグラスさんは質問を聞くと、顎に手を添えながら僕の顔を眺めた。しばらくは無言でジッと僕を眺めていたが、少しして頭を掻きながら、やや視線を逸らした。


「俺もカカアと揉めたときは、腰を据えて話を聞くことにしてんだよ。向こうの言い分をしっかりと聞いてから、言い負かすよりも妥協点を探すことにしてる」


「……妥協点、ですか?」


「ああ。そうだ。言い負かしたところで、あとが――その、大変だからな。まあ、頑張ってみな」


 ダグラスさんは、そう言い残して自分の作業台へと戻って行った。
 僕はひしゃげた兜を作業台に置きながら、ダグラスさんの話を反芻してみた。妥協点――しかし、御先祖が取り返しのつかないことをした以上、妥協点など探りようが無い。
 バイトのあいだ、僕はずぶずぶと気持ちが沈んでいくのを感じていた。
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