消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

十話 殺意の矛先

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 十話 殺意の矛先

 刻は少し遡る。
 アウィンが発掘作業へ行くために家を出たあと、レオナシアは部屋から出た。
 昨晩は、魔導器にされてしまったことへの哀しみ、そしてコーナル・コーナルへの怒りが頭の中を渦巻き、ほとんど眠れなかった。
 しかし、今の身体は睡眠をとらなくても平気――ということもわかっていた。睡眠を取る理由は、精神的な安定を得るために過ぎない。
 魔導器を組み込まれ、または交換された身体に睡魔はこない。眠りたい時間に、まるで電源を切るように意識の半分が落ちるだけだ。
 そして起きたい時間になると、目が覚める。
 ただし、今のレオナシアは精神的に不安定なため、眠る――そして起きるという機能が誤作動を起こしていた。
 ドアの横にあるワンピースと朝食、そして硬貨が入っていると思しき小袋を一瞥したレオナシアは、そのまま廊下を進もうとした。
 だが、そんな彼女の耳元に、魔導器による合成音が聞こえてきた。


〝魔力低下。できうる限り、速やかに食物の摂取をして下さい〟


(うるさい――)


 警告を無視しようとしたが、それ以外にも腹の虫が朝食を求めていた。
 お腹を押さえながら踵を返したレオナシアは、廊下でパンと茹で卵という簡素な朝食を食べ終え、小袋を手にした。
 それから家の中を彷徨ったレオナシアは、その目的が曖昧なままに棚という棚を開け、中のものを床に散乱させていった。
 記憶が混濁して、まだ過去のすべてを思い出してはいない。それが、なにかを調べなきゃ――という焦燥感となって、レオナシアを突き動かしてた。
 
 結局、なにもわからないまま正午近くになった。
 家を出ようとした直前、レオナシアはワンピースを前に迷っていた。
 自分の格好――水着のような補助アーマーのまま、外に出たくない。だけど、アウィンに買って貰ったワンピースに袖を通すのは抵抗があった。
 結局、ワンピースを着てから、レオナシアは家を出た。行く宛はなかったが、昨晩の記憶を頼りに食べ物屋や商店の並ぶ通りへと向かった。
 昨晩と違い、通りにはほとんど人が居ない。技師たちが発掘に出ているためだが、あの賑わいがないことで、静けさよりも寂れた印象が強くなる。
 なんとなく昨晩の店を覗き込んだレオナシアに、店のおかみが気づいた。


「おや――あんた、アウィンが連れてた子だろ? 入っておいでよ」


「あ、いえ、わたしは――」


 違います、と言いかけたところで、警告も出ていないのに腹の虫が、その存在を主張した。それほど空腹ではなかったが、店から漂うシチューや揚げ物の香りで、胃が刺激されたようだ。
 恥ずかしそうに腹を押さえるレオナシアを見て、おかみは苦笑しながら手招きした。
 レオナシアは店内に入ると、昨晩と同じ席に腰を降ろした。


「はい、いらっしゃい。なんにする?」


「あの――唐揚げを」


「昨日と同じで、三人前?」


「いえ、その……一人前で大丈夫です」


 昨晩に行った自らの食いっぷりを思い出し、レオナシアは顔を真っ赤にさせながら俯いた。おかみはそんな様子に瞬きをしながら、滅多に見せない柔和な笑みを浮かべた。


「あんた、昨晩と雰囲気が違うね。なにかあったのかい?」


「いえ、その……なんでも――いえ、その、色々と」


 言葉を濁したレオナシアに、おかみは肩を竦めた。


「ま、あたしは今のほうがいいと思うけどね。あんな無愛想な顔をしてるよりは、全然いいよ、あんた」


「そう……ですか? ありがとう――ございます」


 少し複雑な心境で、レオナシアは小さく会釈をした。
 おかみがテーブルから離れようとしたとき、レオナシアは突然の衝動にかられて「あの」と呼び止めた。


「一つ、お聞きしても――その、アウィンってどんな人だと思いますか?」


「え? おかしなこと聞くね――って、ああ、まだ二日しか一緒にいないんだっけ? そうだね――見たままの子じゃないかね」


 おかみは立ち止まりながら、指折り数えた。


「おおかたの評判は悪くないね。大人しいけど、いざってときは言うことを言うし。技師としての腕も年の割には良いって話だし――まあ、ちょっと魔導器好きが度を超してるみたいだけど」


「度を超してる――ですか?」


「聞いた話じゃね。壊れた魔導器は修理しないと気が済まないとか、壊れて使い物にならなくなった魔導器を集めては、部品取りしたり――いい年なんだから、もう少し女の子にも興味を持てばいいんだけどねぇ」


 そう言って肩を竦めるおかみは、両腰に手を添えながら苦笑した。


「率直な感想を言えば、魔導器オタクだけど、良い奴だと思うよ。あんたは、どう感じてるのさ」


 おかみからの質問に、レオナシアは返答に窮した。
 自分の身体を改造したコーナル・コーナルの子孫というだけで、印象は最悪だ。顔もどことなくコーナル・コーナルの面影を残しているし、腫れ物に触るような対応に苛々したこともある。


(だけど――)


 おかみの言うとおり、人間としては善良で《いい人》に属している。彼女の意見に、レオナシアも異論は挟めなかった。
 現状、レオナシアのことを女の子――人間に近い扱いをしているのは、彼だけだ。
 だが――やはり身体を改造されたことへの恨みと怒りが、それを認めるのを拒んだ。改造をした本人ではないが、やはり怒りはアウィンへと向かう。


「……わかりません」


 おかみの顔を見ることができず、俯いたままレオナシアは答えた。

   *

 バイトを終えて帰宅した僕が見たのは、ぐちゃぐちゃに物が散乱した家だった。
 物取り――つまりは泥棒の可能性は、極めて低い。この街の発掘技師の家に
入ったところで、めぼしいものはあまりないからだ。
 僕は慎重に家の中を進むと、まずは二階に行くことにした。レオナシアさんが、まだここにいてくれているかどうか……それを確かめたかったんだ。

 階段を上がり、二階の廊下を見回すと、朝に置いていったワンピースや朝食、小銭の入った袋がなくなっていた。
 とりあえず、ご飯を食べには行ったみたいだけど……問題は、帰宅しているかどうかだ。
 僕は、今はレオナシアさんが使っている部屋のドアをノックした。


「……レオナシアさん、いますか?」


 ドアノブを回して引いてみると、ドアは開いた。
 鍵がかかっていないところを見ると、出て行ったきり戻ってないのかな? 僕は少し肩を落としながら、部屋の中に入った。
 部屋は、両親が使っていたときのままにしてある。
 ベッドに棚、燭台とテーブルがあり、部屋の隅には洋服を入れる埋め込み式のクローゼットがある。
 この部屋もクローゼットの扉は開けられ、中にあった、今は形見の衣類も床に散らばっていた。
 ベッドや窓の近くに、レオナシアさんの姿はない。
 僕は部屋をぐるっと見回してから、再び廊下に戻った。


「動かないで」


 部屋から出た途端、レオナシアさんの鋭い声がした。僕は動きを止めると、横目にレオナシアさんを見た。
 レオナシアさんは、ワンピース姿ではなかった。鎧に身を包んだ彼女は、まるで仇を見るような目をしながら、右腕にある魔力銃の銃口を僕に向けていた。
 僕はなるべく動かないようにしながら、レオナシアさんに質問をした。


「身体を改造された恨みを晴らすんですか?」


「……そうね。そういうことよ」


 どこか曖昧に答えながら、レオナシアさんは小さく頭を振った。


「ほかに、思いつかないのよ。こんな――身体を戦闘用なんかに改造されたら、もう普通の生活には戻れない。確かに、あたしは戦いで瀕死になった。けど、こんな身体にされたら恋人をつくったり、結婚したり――そんな普通の生活なんかできない。
 そんなの……死んだほうがマシじゃない!!」


 レオナシアさんの叫びを聞きていた僕は、思わず振り返った。彼女の目から、涙が頬を伝って床に落ちていたんだ。
 僕は思わず、レオナシアさんのほうへ向き直った。


「あの、大丈夫ですか?」


「な――なにが大丈夫よ? 大丈夫なわけないじゃない!!」


「あ、いやまあ、それはそうかもですけど……その、泣いてるみたいなので」


 僕の言葉に、レオナシアさんは初めて涙を流していることに気づいたみたいだ。左手の甲で涙を拭うと、僕に戸惑いの目を向けた。


「な……なんでよ。怖くないの? 死にたくないんじゃないの? 逃げようとするなり、悲鳴をあげたりするのが普通でしょ!?」


「まあ、死にたくないのは、そりゃそうなんですけど……不思議と怖くはなくて」


「な……」


 返答を聞いて言葉を失ったらしいレオナシアさんに、僕はそのまま言葉を続けた。どうしてかは、自分でもわからないけど、たとえ殺されるにしても、これだけは伝えておきたい――そんな気持ちが僕の口を動かしていた。


「最初に助けて貰ったとき……人間の姿になったレオナシアさんを見て、僕は妖精とか女神みたいだなって思ったんです。とても綺麗で、その、可愛い女の子だなって。怖くないのは初対面で、そう思っちゃったからかもしれません」


 言いたいことは、すべて言った。僕は三歩だけ近寄ってから、レオナシアさんの顔を真っ直ぐに見た。


「あの……撃たないんですか?」


 僕の言葉を聞いて、レオナシアさんは一歩退いた。そして、再度右腕の魔力銃を構え直しながら、今にも泣きそうな顔で首を左右に振った。


「どうして……どうして、そんなことを言うの?」


 震える声で言いながら、レオナシアさんは双眸から涙を溢れさせていた。


「そんなこと言われたら、あなたを憎みきれないじゃない! 記憶を取り戻す前から、人を人間みたいとか、女の子とか……なんで? 服を買ったり、食事の準備とか――記憶を取り戻して塞ぎ込んだときだって、お金を置いていったり……どういうつもりなの!?」


「え? だって……どう見ても人間の女の子にしか思えなかったですし。それに僕、女の子の扱いって、わからなくて。とにかく、親切にすればいいのかなって……その、なんかごめんなさい」


 僕は謝ってから、レオナシアさんが構える魔力銃の前に立った。彼女の弁じゃないけど、こうすることしか、思いつかなかったんだ。


「先祖がやったこととはいえ、レオナシアさんの怒りは当然だと思います。だからきっと、僕を撃つ資格がある。えっと、だからその……撃ってもいいです」


 真っ直ぐに目を向けた僕の顔を見て、レオナシアさんはぎこちない所作で俯いた。右手を固く握りながら、銃口を上に逸らしてしまった。


「……撃ちたい。撃たなきゃって思ってるのに。あなたを殺したらきっと、あたしはどうにかなっちゃう。自分が許せなくて、悲しくて――自分で自分を撃つと思う」


「ええっ!? 駄目だよ、そんなの!」


 反射的に、僕は叫んでいた。
 その言葉に泣き笑いのような表情を浮かべたレオナシアさんは、膝から崩れ落ちるように床に座り込んだ。


「あたし……どうすればいいの? こんな、誰も知らない時代に蘇って、こんな身体で……」


「あ、あの……僕が言えることじゃないかもしれませんけど」


 そこで言葉を区切って息を整えていると、レオナシアさんが僅かに顔を上げた。
 今なお涙を流し続けているレオナシアさんと目線を合わせてから、僕は言葉の続きを話し始めた。


「こんなに感情を露わにして、涙を流しているレオナシアさんは、魔導器なんかじゃなく、人間の女の子なんだと思います。その……姿とか、身体の構造とか。そういうのは関係なくて、レオナシアさんという人格が生きている以上は、人間の女の子なんです、きっと。だから……自分のことを、死んだほうがマシだなんて、言わないで下さい」


 言いながら、僕は両親のことを思い出してしまい、胸の奥から熱い感情が込み上げてきてしまった。
 目に熱いものが込み上げてくるのを必死に堪える僕と、レオナシアさんの目が合った。


「住む場所は、飽きるまでここを使って貰ってもいいです。僕だってレオナシアさんのこと綺麗な女の子だって思ったんですから。ほかにもきっと、そういう男の人が現れますよ。全部を諦めることは、ないと思います」


 言い終わって冷静さを取り戻した僕は、急に恥ずかしくなってしまった。普段なら、こんなことは口が裂けても言わないのに……勢いとはいえ、まるで告白のようなことを口走ってしまった。


「あの、なんか、すいません。生意気なこと言って。言いたかったのは、それだけです。撃つなら――」


「……あなた、変よ」


「え?」


 質問の意味を掴めきれなかった僕がきょとん、としていると、レオナシアさんは僅かに顔を上げた。


「……天然ジゴロとか、そう言われたことは?」


「……なんですか、それ?」


 聞き馴染みのない言葉に首を捻っていると、レオナシアさんは大きな息を吐いた。


「あたしの身体を点検ができるのは、今はあなたしかいないのよね」


 僕の言葉を遮るように、レオナシアさんが口を開いた。


「昨晩みたいに沢山食べるかもしれないし、軍とかから色々言われるかもしれないけど……それでも、あたしをここに住まわせてくれるの?」


「も、もちろん、です」


「結局、ほかに行く宛がなくて、ずっとここに住むかもしれないけど。それでもいいの? あたしと、ずっと一緒に暮らしてくれる?」


「はい――それは全然構いません。けど、なんかその……」


「なに?」


 泣き腫らした目で、レオナシアさんは僕を見た。話の続きを無言で促しているのがわかるけど、その、なんというか。
 正直、続きを言うのが恥ずかしかった。


「あ、あの、その、その言い方だと、結婚を申し込んでるみたいに聞こえちゃって。その……ずっと一緒に暮らしてとか、そういう表現は抑えたほうがいいと」


 僕の言葉を聞いて、レオナシアさんは最初、ぽかんとした顔をした。しかし数秒後には、顔を真っ赤にして両手を慌ただしく、無茶苦茶に降り始めた。


「ち――違うから! そんなんじゃないから。その……なんていうの? 言葉の綾というか、ほかにいい言い回しが思いつかなかっただけだからっ!!」


 ムキになって否定するレオナシアさんは、やっぱりどこをどう見ても普通の女の子だった。
 でも、なんというか……こっちが地の性格なのかもしれない。
 最初の印象とは随分と変わってしまったけど、とにかくこれで記憶の問題は終われそうだ。
 安心したら、急に腹の虫が鳴り出した。


「えっと……アウィン、あなたご飯は?」


「あの、実はまだで……」


 レオナシアさんのことが心配で、ご飯を食べる気になれなかったんだ。ただ、これは彼女には内緒にしておいたほうがいいかな……と思ったので、僕は「バイトが終わったばかりでしたし」と誤魔化すことにした。
 なにか作ろうか――と思ったら、レオナシアさんが泣き顔のまま微笑んだ。


「実は、あたしもまだなの。これから一緒に、食べに行かない?」


「……そうしましょうか。あ、レオナシアさん、服を着ますよね。それまで待っ――」


「レオナでいいよ。その、家族とかは、そう呼んでたし。敬語もいらないから」


「家族……って。僕とレオナシアさんが?」


 僕の呟きに、レオナシアさんは――その意味に気づいたらしい。再び顔を真っ赤にさせながら、さっきよりも大袈裟に手を振り回した。


「だから! そーゆーんじゃなくてぇ!! なんか堅苦しいのはヤダっていうか! そーゆーのだから!」


「あ、うん……わかりまし――あ、わかった……よ、レオ……ナ。僕は、下で待ってる」


 なんか、かなり照れてしまう。顔が上気するのを自覚しながら、僕は小走りに階段を降りた。
 家の片付けとか、そういうことはあとにしよう。レオナシア――あ、レオナがワンピースを着るのを待って、僕らは一緒に家を出た。
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