消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

四章 寄生 十六話 見開く目

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 四章 寄生


 十六話 見開く目

 発掘都市アーハムにある第三坑道、地下約六〇リン(約五五メートル)付近。通称《大広間》から繋がる枝道を通った先に、ダントとラント、そしてエディンはいた。
 ラントが持って来たランプで周囲を照らしてはいるが、光量の関係か壁や天井までは視認できなかった。
 地べたに座り込んだダントとラントは、無言で俯いていた。
 これから先のことが、なにも思いつかなかったからだ。このまま戻れば、殺人と殺人未遂で拘束。父親の口利きに期待しても、刑務所への収監は免れない。
 かといって、ずっと坑道内を逃げ回るわけにもいかない。昼間になれば、警護兵や発掘技師たちが来るから、すぐに発見されてしまうだろう。

 それに――今現在、この坑道のどこかに魔神とその眷属が潜んでいる。
 長居するのは、危険だった。
 この場所に潜伏してから、すでに一時間以上が経過している。足音や声が聞こえないことから、ファインたちの追跡はないと判断していた。
 ダントが口を開いたのは、潜伏してから二時間以上が経過してからだ。日付こそ変わっていないが、もう深夜になっている。


「これから、どうする?」


「さあな」


 ラントの短い返事に、ダントは少し顔を上げた。元々、回答を期待した質問ではない。沈黙に耐えきれず、つい口を開いてしまっただけだ。
 目だけを動かして左右を見回したダントは、近くにエディンがいないことに気づいた。


「あの野郎……どこへ行きやがった」


 ダントは上半身を捻って、後ろを見た。
 少し離れたところで、エディンがどこかで拾った紙とペンで、なにかを書いていた。ダントは疲れや全身の痛み――アウィンにやられたものだ――に耐えながら立ち上がると、エディンに近寄った。


「おい、なにを遊んでやがる」


「べ、別に遊んでなんか……ない」


 その紙になにかを包むと、エディンは作業着のポケットにねじ込んだ。その態度が気に入らないダントは、睨むような目でエディンに詰め寄った。


「遊んでるじゃねぇか。元はと言えば、てめぇが人形を発掘しないから、こんな目にあったんだ。遊ぶ暇があるなら、発掘の一つでもやれ」


「そんな……無茶だよ。明かりもない、道具もない。一人じゃ限界だってあるんだから」


「文句ばかり言ってねえで、発掘してきやがれっ!!」


 ダントの怒鳴り声が、坑道内に響き渡った。
 荒い息を吐くダントが、肩を上下させながらエディンの胴を蹴った。地面でお腹を押さえながら蹲るエディンに対し、ダントはさらに暴力を振るおうとした。
 ラントはその様子を横目に見ながら、静かな声で告げた。


「やめとけ。そんなことをしても、状況は変わらねぇさ」


「だけどよ、兄貴――」


「体力の無駄だ。今は身体を休めて、明日からに備えねぇとな。逃げるにせよ、食料なんかはいるだろ。どうにかして手に入れねぇと――」


 話の途中で、ラントは異音を聞いた。
 ピチャン、という水音だ。音が反響して出所は掴めないが、その音は明らかな指向性を持って、ラントたちのいるほうへと移動していた。


「気をつけろ」


 ラントがライフル型の魔導器を構えると、ダントも大剣を構えた。
 相手に自分たちの位置を気取られぬように、ランプの光量を絞ったダントは、息を殺しながら相手を待った。
 水音は、次第に間隔を空け始めていた。しかし、確実に音は大きくなっていた。
 ダントは大剣の魔導器を構えると、柄にあるクリスタルに触れた。
 アウィンにやられて消耗した魔力は、一戦する程度には回復していた。

 いつの間にか、水音は止んでいた。

 しかし、強烈な威圧感のようなものが、ダントとラントに降り注いでいた。
 油断なく周囲を警戒するダントは、背後からカサッ――という小さな音を聞いた。即座に振り返ったダントだったが、その直後に大きな手で首を掴まれてしまう。
 絞った光量に、ぼんやりと照らし出される姿は異形――いや、片腕の悪魔だった。
 ダントは大剣を無茶苦茶に振るが、手に伝わってくるのは、固い岩盤を叩くような感触だ。


「くそったれ――!」


 ラントがライフル型の魔導器を構えた直後、片腕の悪魔は視界から消えた。
 突然のことに、ラントは銃口を動かすことを忘れ、首だけで周囲を見回した。微かに空気の動きを感じた直後、ラントは頭上から振ってきた二本の前足に叩き付けられ、背中から地面に倒れた。
 すぐに起き上がろうとしたが、先ほどの悪魔に二本の脚で踏まれおり、身動きすらままならなかった。
 悪魔の首が、恐怖で腰の抜けたエディンに向けられた。
 蜘蛛のような悪魔の顔に、エディンの目が見開かれた。作業着のポケットを握り締めながら、必死に後ずさろうとする。
 前足でラントの喉を押しつぶした悪魔は、エディンへと迫った。


 絶叫が坑道内に響き渡ったが、それを聞く者は誰一人としていなかった。

   *

 修理屋の工房でバイトをしていた途中、修理を終えた魔導器を運び終えた僕は、自分の作業台に戻る途中で、膝から崩れ落ちそうになった。


「あぶない」


 今日も見学――というか、僕の護衛というか――に来ていたレオナが、倒れそうだった僕の身体を受け止めてくれた。


「ご――ごめん」


「それはいいけど……」


 僕を立ち上がらせてから、レオナはふと表情を曇らせた。


「ねえ。やっぱり、ファインの言うとおり働き過ぎじゃない?」


「あ、いや……大丈夫だよ」


「そーかー? そうは見えねぇけどなぁ」


 横から近寄ってきたセントさんは、僕が持っていた兜型の魔導器をひょいっと取り上げてしまった。


「昨日や今日は、大変だったんだろ? 色々あったみたいだしさ」


 セントさんの言葉に、僕の胸が少し痛んだ。
 エディンに……いや。僕がダントやラントに、閉じているはずの坑道に連れ込まれたのは昨晩のことだ。
 レオナやファインさんが駆けつけてきてくれて、そこからも色々とあったけど。
 昨晩のファインさん訪問から、深夜の二時くらいまで事情聴取や証拠の提示、その他諸々の事務処理が僕らを待っていた。
 帰宅してから僕の失言――らしい――で機嫌を損ね、今朝になって機嫌が治ったレオナとともに、発掘現場での容疑者捜索にも駆り出されてしまった。

 今日の捜索では、ダントやラント――そしてエディンは発見されていない。被害者などもいなかったことから、忽然と消えたという噂が、発掘技師たちのあいだで流れ始めていた。

 僕は大きく息を吸って、少しだけ気を落ち着かせてから、セントさんへぎこちない笑みを浮かべた。


「まあ、その通りですけど」


「だろ? 無茶すんなよ」


「いや、でも……」


 口ごもっていると、レオナが僕の顔を覗き込んできた。


「もしかして……食事代のため? そうなのね、アウィン」


「あ、や、そこはレオナは気にしなくて――」


「気にするわよ!」


 レオナは怒鳴ってから、身体の前で腕を組んだ。


「夕食が外食ばかりだから、変だと思ってたのよ。もしかして、あたしに気を使ってるの? 自炊のご飯だって、文句言わな
いわよ。朝ご飯は、家で食べてるんだし」


 レオナの言葉に、僕と――事情を知っているセントさんは、困ったように顔を見合わせた。目線と微かな表情の変化で、どっちが説明するかの応酬を交わしたあと、セントさんが引き受けてくれた。


「あのさ……こいつ、ちょっと料理は駄目なんだよ。苦手っつーか」


「どうしてです? 素材を炒めたりくらいは、簡単じゃないですか」


 レオナはそう言うけど……再び僕とセントさんとで視線のやりとりをしていると、ダグラスさんが近づいてきて、店の奥を後ろ手に指さした。


「アウィン。台所を貸してやるから、目玉焼きを作ってこい」


「え? でも――」


「噂より、一緒に食事と酒――って言うだろ。実施に見たほうが、早い」


 ダグラスさんの声は穏やかだったが、有無を言わせぬ迫力があった。僕は反論を諦めて、台所へと向かった。

 そして、五分が経過した。

 皿の上に乗った僕の力作を見て、レオナは目を丸くした。


「……なに? この、形容しがたい炭の塊は」


「目玉焼き……」


 僕の返答に、今度はレオナの目が点になった。


「アウィン、冗談よね? だって、ただの目玉焼きだって」


「いや、アウィンはいつもこうだ。大抵の料理は、炭か燃えかすになる」


 僕の代わりに、ダグラスさんが答えた。レオナは一度だけダグラスさんを見たあと、目を点にしたまま僕に向き直った。


「……なんで、こうなるの?」


「いやだって……金属を打ち直すときだって、火力は最大でやるじゃない。だから料理だって――」


「アウィン。卵は、鉄板とは違うのよ?」


 レオナは「呆れた……」と呟きながら、僕とほぼ炭化した目玉焼きを交互に見た。


「朝ご飯に茹で卵ばかり出ると思ったら……こういう理由だったの。これは、あたしが料理するしかないかな」


「え? できるの?」


「出来るわよ! 少なくとも、目玉焼きくらい人並みにできるんだから! ダグラスさん、台所をお借りします」


 ダグラスさんが頷くと、レオナは台所に向かった。

 そして、約一〇分が経過した。

 レオナが持ってきた皿に載っているのは、白身の端が焦げて茶色になり、黄身に泡のような白身が混ざり合っている――そんな目玉焼きだった。
 セントさんとダグラスさんが、疑念の目を向けると、レオナは少し恥ずかしそうに言った。


「本当は、もっと上手に出来るんです! なんでここ、弱火に調整できないんですか」


「弱火に調整……竃の薪を調整すれば、できるだろ?」


「違うんです! もっとその……ボタン一つで切り替えとか」


「いや……そういうのは、ちょっとねぇな。昔はあったかもしれねぇが、今はないぞ」


 ダグラスさんの返答に、レオナは絶望感を露わにしながら、目玉焼きと僕を交互に見た。
 このとき、僕はなにをしていたかというと……目を見開いて、目玉焼きを眺めながら感動を覚えていた。


「凄い……白身と黄身が、ちゃんとある。レオナ、料理上手だったんだね」


「え――あ、う、うん。もっと料理道具が……当時のものだったら、もっと見栄えも良くできるんだけどね」


 言葉とは裏腹に、レオナの表情はどこかぎこちない。どうしたんだろう、と思っていると、レオナは意を決したように小さく拳を握った。


「わかった。しばらく、ご飯はあたしが作るから。自炊にすれば、バイトの数も減らせるんじゃない? 身体もちゃんと休ませないと……その、心配しちゃうから」


 そう言って、レオナは少し頬を染めた。
 心配とまで言われると、僕も反論しづらかった。そんなわけで、明日の帰りにでも材料を買い出し、レオナが晩ご飯を作ってくれることが決まったんだ。
 なんか申し訳ない気がしたんだけど……レオナはどこか、楽しげだった。
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