消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

十七話 後悔

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 十七話 後悔

 警護兵の詰め所の一つで、ファインは当直に就いていた。
 発掘現場の門は、今は閉じられている。六人ひと組の警護兵が交代で、見張りに就く決まりになっていた。
 昨日の当直うち、二人は懲罰房入りとなった。ダントとラントに「今日は代わってやる」と言われて、無断で休憩――ようするにサボっていたようだ。
 そのあとのことは――ファインは昨晩のことを思い出して、眉を顰めた。


(おかげで……)


 レオナシアとの会話が蘇り、ファインは顔を顰めた。
 唐突なライバル宣言をされたが、よくよく考えてみれば、アウィンの家に住み込んでいるレオナシアのほうが有利に思える。
 文句や不満が頭を過ぎったとき、女性用の当直室のドアがノックされた。


「ファイン、上が呼んでるぜ?」


 同じく当直に就いている警護兵の声に、ファインは立ち上がった。


「なんだろう……ありがと。準備して行くから!」


 ファインは応じると、鎧を身に纏った。最後のロックを閉めると、身体に身体能力を向上させる魔力が満ちた。
 長剣を腰に下げたファインは当直室を出て、上の階へと向かった。
 上官の部屋は、三階の一番奥にある。ドアの前で踵を合わせて姿勢を正してから、ファインはドアをノックした。


「ファイン・ランズです。召喚により――」


「……入れ」


 定型的な挨拶の途中で、急かすような声が飛んできた。
 ファインは静かに肩を竦めてから、ドアを開けた。部屋の中には上官のほかに、ダムイ上等兵長と参謀本部のジョージ中佐がいた。
 ファインは視線を動かさないように気をつけながら、後ろ手に手を組んだ。


「なんの御用でしょうか?」


 ファインの質問に、ダムイが口を開きかける。しかし、それを手で制しながら、ジョージ中佐は気さくさを演じるように手を挙げた。

「楽にしてくれ。あれから、アウィンとかいう発掘技師と魔導器の少女は、どうなっている?」


 質問の意図を汲みかねたファインは、自分の感情を抑えるのに必死だった。
 あの宣戦布告のような、レオナシアの発言が頭に浮かんだが、ギリギリのところで持ちこたえた。


「……関係は良好のようです。魔導器は……その、記憶を取り戻したと聞いてます。その、人間だったころの記憶ですが」


「人間――? あれは、元人間だったというのか?」


「そのようです。ただ、戦闘については問題ないかと。現に記憶を取り戻したあと、魔神の眷属を退けた――という報告があったようです」


「ふむ。その報告書は、わたしも見た。アウィンという発掘技師も、それに協力したようだ。これは、大変に好ましい状態でもある」


 ジョージ中佐はそこで言葉を切ると、横にいたダムイを見た。
 どうやらダムイは、息子たちのことを聞きたいようだが、ジョージ中佐のことが気になって、それも出来ないらしい。


(いい気味――って言いたいけど。家族のことだもんね)


 ファインは、ダムイから視線を逸らすと、ジョージ中佐へと首を向けた。


「ご質問は、以上でしょうか?」


「ああ……当直のところ、すまなかった。君からの情報は、今後の作戦に大きな影響を与えるだろう」


「作戦……ですか?」


「そうだ。まだ極秘だが……現在、魔神アイホーント殲滅作戦を準備中だ。その際には、彼らの協力が必須となるだろう。ああ、この件はまだ内密に頼む。」


「……はい。それでは話が終わりでしたら、失礼致します」


「あ、いや。もう一つだけ用件がある」


 ジョージ中佐は上官の机に置いてあった包みを取ると、ファインに差し出した。
 灰色の布で包まれたそれは、少なくとも箱状ではなかった。三角形のような台形のような……少し歪な形の包みは、少し重かった。


「それをアウィンに渡しておいてくれ」


「アウィンに……あの、開けてもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わない」


 ジョージ中佐の許可を得て、ファインを包みを開けた。
 出てきたのは、綺麗に磨かれた拳銃型の魔導器だった。黒に近い配色で、グリップは茶色だ。
 魔導器の武器の中で、最も素人が扱いやすい型だ。しかし、発掘技師であるアウィンが持つべき代物ではない。
 ファインは少し表情を引きつらせながら、ジョージ中佐を見た。


「これは……失礼ながら、アウィンは発掘技師です。正面に立って戦うべき者ではないと考えますが」


「もちろんだとも。この拳銃は、アウィンが修理、改修した魔導器だそうだ。試し打ちをしてみたが、通常のものより三倍から四倍の威力がある。元の等級は四級か五級だったろうが、これなら二級でも通用する」


 ただし――と、ジョージ中佐は付け加えた。


「射程の短さと連射性の低さから、前線の兵に持たせるには不足が多い。護身用として、アウィンに持たせてくれたまえ。発掘技師だから必要ないという、君の意見は正しい。だが、これからのことを踏まえると、これくらいは持っているべきだ。
 それに、君は発掘技師を低く見ているが……こと魔導器については、彼らのほうが詳しい場合が多い。整備だけでなく、取り扱いもだ。
 アウィンが、この拳銃を試し打ちしたときの命中率はわかるかな?」


「……昔、アウィンと登用試験を受けたときは、八割を僅かに下回っていたと記憶しています。最近は訓練をしていないようですし……五割くらいだと」


「なるほど。なかなか、興味を引く情報だ。それに贔屓や甘さがまったくない、良い考え方をしている。
 しかし、一つ教えておこう。わたしが見た記録では、アウィンの命中率は八割を超えていた。戦闘時ではないにせよ、技師は修理を終えたあとは、何十発と試し撃ちをする。これは平均的な兵士より、銃の訓練を積んでいるに等しい。
 ここまでは、理解はできたかな?」


「――はい」


 ジョージ中佐の話、そしてアウィンの命中精度の高さに驚いたファインは、目を丸くしたまま頷いた。
 そんな様子に満足げな顔をしたジョージ中佐が、ファインから一歩だけ離れた。


「よろしい。それでは、包みを彼に頼む」


 包みを元に戻したファインは、ジョージ中佐に敬礼を送ってから、部屋を出た。手にした包みが、妙に重く感じられた。
 手にした包みを胸の前で抱きながら、顔を青くしたファインは足早に廊下を歩き始めた。


「……どうしよう」


 レオナシアはともかく、アウィンを戦いに出すとは思っていなかった。軍人の努めとはいえ情報を伝えたことを、ファインは深く後悔した。


   *

 暗闇の中では魔神アイホーントを包む繭が、蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸に絡まれた状態で、宙に浮かんでいた。
 糸に残っている卵は、六つ。その近くには割れた卵の破片が十二個分、残っていた。
 繭の前で畏まるベベリヌに、乳白色をした眷属が近づいた。


〝ベベリヌよ〟


「は――」


 眷属を介して発せられる魔神アイホーントの声に、ベベリヌは畏怖を覚えながら姿勢を低くした。


〝貴様でも斃せぬか――失望したぞ〟


「返す言葉も御座いません」


〝しかし今はまだ、刻が欲しい。ベベリヌよ、貴様には働いて貰わねばならん〟


「ありがたき御言葉。時間を稼ぐための策は、講じております」



〝あんなもので、どこまで刻が稼げるかわからぬが……やってみるがよい〟


「万事、お任せ下さいませ」


 姿勢を低くしたまま礼を尽くすベベリヌに、眷属が近づいた。
 眷属はベベリヌの失った右腕に近づくと、そのまま八本の脚を傷口に押し込んだ。


「ぐお――っ! 我が女王、これは――!?」


 苦悶の声をあげるベベリヌだったが、魔神アイホーントからの返事はない。やがて、脚と胴の大半がベベリヌの体内に収まると、眷属の身体に異変が起き始めた。
 頭部の一部が盛り上がり、そこからベベリヌの腕と同じ長さの脚が、二本も生えた。また、頭部にある顎がクワガタのように大型化した。
 身体を僅かに上下させているベベリヌに、今や身体と融合を果たした眷属は、魔神アイホーントの声で告げた。


〝我が子を、貴様の腕とせよ。今度こそ、あの人形を滅ぼすのだ〟


「畏まりました。必ずや、ご期待に応えてご覧にみせましょう」


 もう、魔神の返答はなかった。
 ベベリヌが空間の隅へと向き直った。そこには天井から降りた糸に、三つの繭がぶら下がっていた。
 ベベリヌが状態を見定めるように眺めていると、真ん中にある繭の表面が、歪に波打った。
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