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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
十八話 渡せなかった手紙
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十八話 渡せなかった手紙
夕方になり、僕とレオナは発掘現場から地上に出てきた。
エディンがダントたちと坑道内に消えてから、もう三日が経っていた。三人は一向に見つかる気配はなかった。
僕らが使っている出入り口以外に、坑道から外に出る術はないから、三人が見つからないのは謎でしかなかった。
「エディン……魔神に襲われてないといいけど」
「そうね……魔神はまだ、回復中だと思う。ヤツがなにかをするときは、もう坑道だけじゃなく、街も大災害になってるはずよ。あとはベベリヌだけど……ごめん。こればかりは、わからない。
動きがないのも不穏なんだけど……奴らがどこにいるか、わかればね……」
「向こうから、動くのを待つしかないの?」
「探すとなると、坑道内のすべてを掘削するしかない……かな。探知ができればいいんだけど、あたしには無理だし」
伏せ目がちに言うレオナに、僕の胸がズキン、と痛んだ。
レオナは好き好んで改造されたわけじゃない。それを知っているのに……迂闊な質問をしてしまったみたいだ。
「ご、ごめん……あの、レオナに探してって言ったわけじゃないんだ」
「え? ああ、そんなのわかってる。アウィンは、エディンのことが心配なだけなんだもんね」
レオナはそう言って微笑んでくれたけど、その声はどこか不満げというか。なにかに嫉妬しているようにも聞こえた。
それから僕らは話題を変えて、夕食の買い出しの内容を決めることにした。
レオナの発案で、今日はジャガイモとソーセージのシチューということになった。
「なるべく新鮮な牛乳が欲しいけど――」
そんなことを話し合っていると、僕らの前からファインさんと仲間の護衛兵たちがやってきた。
ファインさんは僕らを見つけると、少し躊躇いながら手を振ってきた。
「アウィン……ごめん、ちょっといい?」
「ファインさん、どうしたんですか?」
僕が訊き返すと、駆け寄ってきたファインさんは腰のポーチから灰色の包みを取り出した。
「あのね……前に会った、ジョージ中佐からなんだけど。あなたにって」
「僕に?」
少し戸惑いながら、僕はファインさんから受け取った包みを開けた。
包みの中から出てきた拳銃型の魔導器を見て、僕は多分、表情が固まったと思う。それは、レオナも同じみたいだった。
なにせこれは――少し病んでいた僕が、自害しかけたときに使った銃だからだ。
そんな雰囲気を察したのか、ファインさんは僕らの顔を見回した。
「え――なに? なにがあったの?」
「あの、その、これって……ちょっと色々とあって」
「色々って?」
鸚鵡返しに聞いてくるファインさんに、僕は返答に詰まった。まさか、自殺しかけたときに使った銃です――なんて、言えるはずもない。かといって、その場凌ぎの嘘を吐いても、すぐにばれそうだ。
僕が迷っていると、レオナが助け船を出してくれた。
「あ、あの、修理中にアウィンが誤射をして、家の壁に穴を開けちゃったヤツ……だったっけ?」
「あ――そうだね。それ、だよ」
僕がぎこちなく頷く様子を、ファインさんは疑心丸出しで見てきた。
「そういうことなら、別にいいけど。えっと、それじゃあ渡しちゃってもいい?」
「えっと……本当に、僕が持つんですか?」
「中佐の指示よ。今の状況を鑑みて、アウィンが持っていたほうがいいってことみたい」
今の状況ってことは、魔神アイホーントや眷属のこと……かなぁ。
正直に言えば受け取るか迷ったけど、断ればファインさんも困るだろうし、レオナも「別にいいんじゃない?」という顔をしていた。
僕はファインさんに頷くと、包みを腰袋に入れた。
「それじゃあ、一応……持ってます。けど使うかど――」
僕の言葉に覆い被さるように突然、サイレンが鳴り響いた。これはアーハムの街では滅多に聞くことのない、非常事態の合図だ。
表情を引き締めた直後に、ファインさんは仲間の護衛兵に呼ばれた。
「第三坑道の出入り口みたいだ。すぐに行くぞ!」
「わかった。それじゃ、アウィン――」
「待って。あたしたちも、念のために行くわ」
その言葉を聞いて振り返った僕に、レオナが頷いた。
魔神の眷属か、ベベリヌかもしれない。そういうことみたいだ。僕は胸の奥に渦巻く不安と恐怖心を押し殺しながら、でも大きく頷いた。
「行きます。僕らも」
「……わかった。でも、警護兵の指示には従ってね」
僕とレオナに告げながら、ファインさんは坑道へ向けて走りだした。
僕らが坑道の前に到着したとき、出入り口はすでに二〇人を超える警護兵に囲まれていた。出入り口から真正面の位置には、ダムイ上等兵長の姿もある。
顰めっ面の印象しかなかったダムイの顔が、今は不安げに揺れていた。そんなダムイの横にいた大鎧を着た護衛兵が、一歩前へ出た。
「その出入り口は完全に包囲した! 人質を解放したのち、武器を捨てて投降したまえ! 抵抗する素振りを見せるのであれば、我々は攻撃も辞さない」
「待ってくれ、分隊長! 攻撃はしないでくれ。なにかの間違いかもしれん」
「そんなものは、状況次第です」
分隊長の言葉に、ダムイは絶望的な顔をした。
一体なにが起きたのかと、僕が護衛兵らの最後尾から坑道を覗いたとき、出入り口へ向けられたライトの光に、二つの巨体が照らし出された。
鎧は大きく破損し、兜はなし。武器を片手に持っている、ダントとラントだった。ダントは左手で、中年の発掘技師らしい男性を引きずっていた。
その首元からは、血が垂れていた。
「止まれ!!」
分隊長の制止も聞かずに、ダントとラントは歩みを止めなかった。
ライトに照らされた二人の顔は土気色をしていて、僕にはどこか……死人に見えてしまった。
でも、このときの僕は別のことに気を取られていた。二人が出てきたということは、エディンもいるはず――いや、いて欲しい。
僕は、エディンの無事な姿を必死で探した。
そして、見つけた。少し破れた作業着を着たエディンが、二人に隠れるように歩いていた。
「エディン――」
「アウィン、待って!」
レオナが腕を掴まなければ、僕は駆け出していた。
どうして止めるんだろうと怪訝に思った僕に、レオナは少し辛そうに、でも、はっきりと言い切った。
「……行ってはダメ。できれば……このまま帰って」
「どうして? だって、エディンが」
「いいからっ!!」
声を荒げるレオナの声に被さるように、護衛兵たちのどよめく声が聞こえてきた。
ダントが左手で引きずっていた発掘技師を、取り囲む警護兵へと投げつけたんだ。
「ダントっ!!」
分隊長の号令を止めたダムイが、ダントとラントへと駆け寄った。鎧を着ているけど、ダムイは武器を持ってない。
両手を広げて、ダムイは息子たちに話しかけた。
「どうした? なにがあったんだ!? 悪いようにはしない。ちゃんと話をして――」
ダムイは、言葉の途中でダントの大剣に薙ぎ払われた。ダントの大剣が魔力による強化が働いていないことと、魔導器の鎧を着ていることが幸いして、ダムイは大した怪我もしてないようだ。
数リンは吹っ飛ばされたダムイが無事なことを見てから、分隊長の怒鳴り声が辺りに響き渡った。
「総員――攻撃!」
分隊長の号令で、護衛兵たちは一斉に攻撃を開始した。
銃撃や白兵戦――そのすべての攻撃を受けながら、ダントとラントは平然と立っていた。鎧には魔力が伝わってないのか、結界は働いてない。
しかし攻撃を受け続けても、二人は傷一つ負わなかった。それどころか二人が振り回す武器の一撃を食らい、警護兵たちは数リンほど吹き飛ばされる始末だ。
レオナは僕を見ないまま、右腕から光の刀身を出していた。
「アウィンは、帰って」
そう言い残して、レオナは護衛兵を追い越しつつ前へ出た。
僕は帰るなんてできなくて、エディンの元へと駆け出していた。
戦い続けるダントとラントを迂回するように、エディンが街へ向けて歩いているのが見えた。
僕はエディンの進行方向に先回りして、両手を広げた。
「エディン、無事だったんだ……あの二人に、なにかされてない?」
僕が声をかけると、エディンは顔を上げた。
その――土気色をした無表情な顔を見て、僕は「ヒッ!」という短い悲鳴をあげた。
エディンの顔は傷まみれで、無残なものだった。目は左右で見ている方角が違うし、鼻血が出たあとが、顎まで黒い筋となって残っていた。
なんの返答もないことに、どこか不安というか、本能的な恐怖感を覚えた僕は、手を下ろしながら一歩退いてしまった。
「……エディン?」
僕が名前を呼んだ直後、いきなりエディンが僕に襲いかかってきた。両手で肩を掴まれ、その勢いのままに地面へと押し倒された僕に、エディンは黒ずんだ歯を剥いた。
「エディン! どうしたんだよ、エディン!!」
僕は叫ぶように呼びかけたが、エディンからはなんの返答もない。
ダントとラントたちに異変が現れたのは、そんなときだ。表情だった顔が歪み始め、目が左右バラバラに動き始めた。
その次の瞬間、顎だけを残して、二人の頭部が弾け飛んだ。
血飛沫や肉片が飛び散ったあと、頭があったところでは、蜘蛛に似た頭部が露わになっていた。
そして――僕の目の前で、エディンの頭部も弾け飛んだ。
蜘蛛の頭部を露わにしたエディンは、前顎で僕の顔を囓ろうとしてきた。
「うわああっ!! 止めてよ、エディン!」
僕は必死で抵抗したけど、エディンの力が上回っていた。
リーンアームドの結界のことなんて、頭になかった。恐怖とショックなどで、僕も錯乱しかかっていた。
護衛兵の大半は、阿鼻叫喚の渦に飲み込まれていた。
逃げる者、無茶苦茶に攻撃を繰り返す者――それらの護衛兵を抜き去ったレオナが、脹ら脛から光を放ちつつ、飛び上がった。
「みんな、退いて!!」
レオナの声を理解したのは、半分にも満たない――ように見えた。
護衛兵が退く中、レオナの右腕から伸びる光の刀身が、眩い光を放ち始めた。
「剣圧最大――雷撃波っ!!」
雷のように伸びた刀身が、ダントとラントの頭部を一太刀で両断した。その勢いを生かしたまま、レオナは雷撃波をエディンに向けた。
「止めて!!」
僕は自分の状況も忘れて、叫んでいた。
でも――レオナの口が「ごめん」と動いた直後、雷撃波は僕を避けるように、蜘蛛のものとなったエディンの頭部を貫いていた。
その一撃で、生命活動のすべてを止めたエディンは、後ろに仰け反るように倒れた。
「……エ……ディン?」
「それはもう、エディンじゃない。眷属に寄生された、骸よ」
「そんな――」
レオナの言葉に、僕は絶望しかかっていた。
やっと会えた……戻って来たと思ったのに。眷属に寄生されていたなんて。ショックが強すぎたのか、涙さえ出なかった。
「アウィン……ごめんなさい。眷属に寄生されたら、こうするしかないの。憎まれても仕方ないと思うけど……理解はして……欲しいの」
「憎むとか……」
僕の中に生まれた感情は、そんなのじゃない。
レオナを振り返った僕は、震える声で言った。
「レオナを恨んだり……しない。けど、なんなの、魔神って……奴らにとって、僕らはエサでしかないってわけ!?」
「多分……だけど、駆除対象でしかないのよ。だから、どんな酷いこともできる」
「そんな……こんな、こんなの……人間の死に方じゃ……ない」
僕がエディンの身体に触れたとき、カサっという軽い音がした。
なんだろうと、僕はエディンの作業着のポケットから、くしゃくしゃになった紙を取り出した。
なにかを包んだように丸められたそれを開けると、中から坑道に生えているキノコの傘が出てきた。
そして紙の表面には、デコボコな場所で書いたのか、歪な文字が記されていた。
『アウィン、ごめん』
この短い一文で、僕は理解した。
裏切った、逃げた――そんな状況でも、確かにエディンは、僕の友だちだったんだ。
キノコから出た汁が染みを作った紙を握り締めながら、僕は人目もはばからずに泣いた。
夕方になり、僕とレオナは発掘現場から地上に出てきた。
エディンがダントたちと坑道内に消えてから、もう三日が経っていた。三人は一向に見つかる気配はなかった。
僕らが使っている出入り口以外に、坑道から外に出る術はないから、三人が見つからないのは謎でしかなかった。
「エディン……魔神に襲われてないといいけど」
「そうね……魔神はまだ、回復中だと思う。ヤツがなにかをするときは、もう坑道だけじゃなく、街も大災害になってるはずよ。あとはベベリヌだけど……ごめん。こればかりは、わからない。
動きがないのも不穏なんだけど……奴らがどこにいるか、わかればね……」
「向こうから、動くのを待つしかないの?」
「探すとなると、坑道内のすべてを掘削するしかない……かな。探知ができればいいんだけど、あたしには無理だし」
伏せ目がちに言うレオナに、僕の胸がズキン、と痛んだ。
レオナは好き好んで改造されたわけじゃない。それを知っているのに……迂闊な質問をしてしまったみたいだ。
「ご、ごめん……あの、レオナに探してって言ったわけじゃないんだ」
「え? ああ、そんなのわかってる。アウィンは、エディンのことが心配なだけなんだもんね」
レオナはそう言って微笑んでくれたけど、その声はどこか不満げというか。なにかに嫉妬しているようにも聞こえた。
それから僕らは話題を変えて、夕食の買い出しの内容を決めることにした。
レオナの発案で、今日はジャガイモとソーセージのシチューということになった。
「なるべく新鮮な牛乳が欲しいけど――」
そんなことを話し合っていると、僕らの前からファインさんと仲間の護衛兵たちがやってきた。
ファインさんは僕らを見つけると、少し躊躇いながら手を振ってきた。
「アウィン……ごめん、ちょっといい?」
「ファインさん、どうしたんですか?」
僕が訊き返すと、駆け寄ってきたファインさんは腰のポーチから灰色の包みを取り出した。
「あのね……前に会った、ジョージ中佐からなんだけど。あなたにって」
「僕に?」
少し戸惑いながら、僕はファインさんから受け取った包みを開けた。
包みの中から出てきた拳銃型の魔導器を見て、僕は多分、表情が固まったと思う。それは、レオナも同じみたいだった。
なにせこれは――少し病んでいた僕が、自害しかけたときに使った銃だからだ。
そんな雰囲気を察したのか、ファインさんは僕らの顔を見回した。
「え――なに? なにがあったの?」
「あの、その、これって……ちょっと色々とあって」
「色々って?」
鸚鵡返しに聞いてくるファインさんに、僕は返答に詰まった。まさか、自殺しかけたときに使った銃です――なんて、言えるはずもない。かといって、その場凌ぎの嘘を吐いても、すぐにばれそうだ。
僕が迷っていると、レオナが助け船を出してくれた。
「あ、あの、修理中にアウィンが誤射をして、家の壁に穴を開けちゃったヤツ……だったっけ?」
「あ――そうだね。それ、だよ」
僕がぎこちなく頷く様子を、ファインさんは疑心丸出しで見てきた。
「そういうことなら、別にいいけど。えっと、それじゃあ渡しちゃってもいい?」
「えっと……本当に、僕が持つんですか?」
「中佐の指示よ。今の状況を鑑みて、アウィンが持っていたほうがいいってことみたい」
今の状況ってことは、魔神アイホーントや眷属のこと……かなぁ。
正直に言えば受け取るか迷ったけど、断ればファインさんも困るだろうし、レオナも「別にいいんじゃない?」という顔をしていた。
僕はファインさんに頷くと、包みを腰袋に入れた。
「それじゃあ、一応……持ってます。けど使うかど――」
僕の言葉に覆い被さるように突然、サイレンが鳴り響いた。これはアーハムの街では滅多に聞くことのない、非常事態の合図だ。
表情を引き締めた直後に、ファインさんは仲間の護衛兵に呼ばれた。
「第三坑道の出入り口みたいだ。すぐに行くぞ!」
「わかった。それじゃ、アウィン――」
「待って。あたしたちも、念のために行くわ」
その言葉を聞いて振り返った僕に、レオナが頷いた。
魔神の眷属か、ベベリヌかもしれない。そういうことみたいだ。僕は胸の奥に渦巻く不安と恐怖心を押し殺しながら、でも大きく頷いた。
「行きます。僕らも」
「……わかった。でも、警護兵の指示には従ってね」
僕とレオナに告げながら、ファインさんは坑道へ向けて走りだした。
僕らが坑道の前に到着したとき、出入り口はすでに二〇人を超える警護兵に囲まれていた。出入り口から真正面の位置には、ダムイ上等兵長の姿もある。
顰めっ面の印象しかなかったダムイの顔が、今は不安げに揺れていた。そんなダムイの横にいた大鎧を着た護衛兵が、一歩前へ出た。
「その出入り口は完全に包囲した! 人質を解放したのち、武器を捨てて投降したまえ! 抵抗する素振りを見せるのであれば、我々は攻撃も辞さない」
「待ってくれ、分隊長! 攻撃はしないでくれ。なにかの間違いかもしれん」
「そんなものは、状況次第です」
分隊長の言葉に、ダムイは絶望的な顔をした。
一体なにが起きたのかと、僕が護衛兵らの最後尾から坑道を覗いたとき、出入り口へ向けられたライトの光に、二つの巨体が照らし出された。
鎧は大きく破損し、兜はなし。武器を片手に持っている、ダントとラントだった。ダントは左手で、中年の発掘技師らしい男性を引きずっていた。
その首元からは、血が垂れていた。
「止まれ!!」
分隊長の制止も聞かずに、ダントとラントは歩みを止めなかった。
ライトに照らされた二人の顔は土気色をしていて、僕にはどこか……死人に見えてしまった。
でも、このときの僕は別のことに気を取られていた。二人が出てきたということは、エディンもいるはず――いや、いて欲しい。
僕は、エディンの無事な姿を必死で探した。
そして、見つけた。少し破れた作業着を着たエディンが、二人に隠れるように歩いていた。
「エディン――」
「アウィン、待って!」
レオナが腕を掴まなければ、僕は駆け出していた。
どうして止めるんだろうと怪訝に思った僕に、レオナは少し辛そうに、でも、はっきりと言い切った。
「……行ってはダメ。できれば……このまま帰って」
「どうして? だって、エディンが」
「いいからっ!!」
声を荒げるレオナの声に被さるように、護衛兵たちのどよめく声が聞こえてきた。
ダントが左手で引きずっていた発掘技師を、取り囲む警護兵へと投げつけたんだ。
「ダントっ!!」
分隊長の号令を止めたダムイが、ダントとラントへと駆け寄った。鎧を着ているけど、ダムイは武器を持ってない。
両手を広げて、ダムイは息子たちに話しかけた。
「どうした? なにがあったんだ!? 悪いようにはしない。ちゃんと話をして――」
ダムイは、言葉の途中でダントの大剣に薙ぎ払われた。ダントの大剣が魔力による強化が働いていないことと、魔導器の鎧を着ていることが幸いして、ダムイは大した怪我もしてないようだ。
数リンは吹っ飛ばされたダムイが無事なことを見てから、分隊長の怒鳴り声が辺りに響き渡った。
「総員――攻撃!」
分隊長の号令で、護衛兵たちは一斉に攻撃を開始した。
銃撃や白兵戦――そのすべての攻撃を受けながら、ダントとラントは平然と立っていた。鎧には魔力が伝わってないのか、結界は働いてない。
しかし攻撃を受け続けても、二人は傷一つ負わなかった。それどころか二人が振り回す武器の一撃を食らい、警護兵たちは数リンほど吹き飛ばされる始末だ。
レオナは僕を見ないまま、右腕から光の刀身を出していた。
「アウィンは、帰って」
そう言い残して、レオナは護衛兵を追い越しつつ前へ出た。
僕は帰るなんてできなくて、エディンの元へと駆け出していた。
戦い続けるダントとラントを迂回するように、エディンが街へ向けて歩いているのが見えた。
僕はエディンの進行方向に先回りして、両手を広げた。
「エディン、無事だったんだ……あの二人に、なにかされてない?」
僕が声をかけると、エディンは顔を上げた。
その――土気色をした無表情な顔を見て、僕は「ヒッ!」という短い悲鳴をあげた。
エディンの顔は傷まみれで、無残なものだった。目は左右で見ている方角が違うし、鼻血が出たあとが、顎まで黒い筋となって残っていた。
なんの返答もないことに、どこか不安というか、本能的な恐怖感を覚えた僕は、手を下ろしながら一歩退いてしまった。
「……エディン?」
僕が名前を呼んだ直後、いきなりエディンが僕に襲いかかってきた。両手で肩を掴まれ、その勢いのままに地面へと押し倒された僕に、エディンは黒ずんだ歯を剥いた。
「エディン! どうしたんだよ、エディン!!」
僕は叫ぶように呼びかけたが、エディンからはなんの返答もない。
ダントとラントたちに異変が現れたのは、そんなときだ。表情だった顔が歪み始め、目が左右バラバラに動き始めた。
その次の瞬間、顎だけを残して、二人の頭部が弾け飛んだ。
血飛沫や肉片が飛び散ったあと、頭があったところでは、蜘蛛に似た頭部が露わになっていた。
そして――僕の目の前で、エディンの頭部も弾け飛んだ。
蜘蛛の頭部を露わにしたエディンは、前顎で僕の顔を囓ろうとしてきた。
「うわああっ!! 止めてよ、エディン!」
僕は必死で抵抗したけど、エディンの力が上回っていた。
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護衛兵の大半は、阿鼻叫喚の渦に飲み込まれていた。
逃げる者、無茶苦茶に攻撃を繰り返す者――それらの護衛兵を抜き去ったレオナが、脹ら脛から光を放ちつつ、飛び上がった。
「みんな、退いて!!」
レオナの声を理解したのは、半分にも満たない――ように見えた。
護衛兵が退く中、レオナの右腕から伸びる光の刀身が、眩い光を放ち始めた。
「剣圧最大――雷撃波っ!!」
雷のように伸びた刀身が、ダントとラントの頭部を一太刀で両断した。その勢いを生かしたまま、レオナは雷撃波をエディンに向けた。
「止めて!!」
僕は自分の状況も忘れて、叫んでいた。
でも――レオナの口が「ごめん」と動いた直後、雷撃波は僕を避けるように、蜘蛛のものとなったエディンの頭部を貫いていた。
その一撃で、生命活動のすべてを止めたエディンは、後ろに仰け反るように倒れた。
「……エ……ディン?」
「それはもう、エディンじゃない。眷属に寄生された、骸よ」
「そんな――」
レオナの言葉に、僕は絶望しかかっていた。
やっと会えた……戻って来たと思ったのに。眷属に寄生されていたなんて。ショックが強すぎたのか、涙さえ出なかった。
「アウィン……ごめんなさい。眷属に寄生されたら、こうするしかないの。憎まれても仕方ないと思うけど……理解はして……欲しいの」
「憎むとか……」
僕の中に生まれた感情は、そんなのじゃない。
レオナを振り返った僕は、震える声で言った。
「レオナを恨んだり……しない。けど、なんなの、魔神って……奴らにとって、僕らはエサでしかないってわけ!?」
「多分……だけど、駆除対象でしかないのよ。だから、どんな酷いこともできる」
「そんな……こんな、こんなの……人間の死に方じゃ……ない」
僕がエディンの身体に触れたとき、カサっという軽い音がした。
なんだろうと、僕はエディンの作業着のポケットから、くしゃくしゃになった紙を取り出した。
なにかを包んだように丸められたそれを開けると、中から坑道に生えているキノコの傘が出てきた。
そして紙の表面には、デコボコな場所で書いたのか、歪な文字が記されていた。
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この短い一文で、僕は理解した。
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※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
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