消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

二十一話 紅い雷撃

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 二十一話 紅い雷撃

 大穴から這い出ていたベベリヌは、空中を伝うように天井へと登っていった。いや、違う――大穴から天井まで、ここからでは見えないほどの細い糸が張られていた。
 それを伝って、天井に辿り着いたベベリヌは、素早い動きで僕らの真上にやってきた。
 レオナは魔力弾を撃ったけど、ベベリヌの身体に傷一つ与えられなかった。
 天井から僕らを見下ろすベベリヌから、水滴が落ちて来た。どうやらあの大穴の向こう側はぬかるみらしく、脚の部分がまだ濡れていた。
 ベベリヌは威嚇するように、前顎を大きく動かした。


「貴様ら――ここに来たのは偶然ではない、ということか」


「その通りよ。これ以上、好き勝手させないから。覚悟するのね」


 レオナはベベリヌに言い返してから、異形の姿に表情を失い欠けているファインさんを一瞥した。


「ファイン、みんなを連れて退いて。アウィン、いくわよ」


 そう言いながら、レオナは僕の身体を後ろから抱きしめた。
 フワッという浮遊感と同時に、僕の視界が乳白色に包まれた。それも一、二秒のことで、気がつけば僕とレオナは、魔造動甲冑の内部にいた。


「アウィン、用意をして」


「あ――うん」


 僕がリーンアームドをした左手で目の前のレバーを掴むと、外の視界が僕の目に映し出された。
 足元では、ハービィさんに班長を連れて行くように言いながら、ファインさんは照明のところで踏みとどまっていた。
 班長を連れたハービィさんが、なにかを怒鳴りながら去って行く。だけど、ファインさんは照明の光を遮らないように、低い姿勢で盾を構えていた。
 早く逃げてと言いたかったが、その前にベベリヌが降下してきた。
 ベベリヌの右半身には、眷属が寄生していた。腕の代わりなのか、異様に長く伸びた二本の脚が、魔造動甲冑に襲いかかった。


「防御!」


 その攻撃を結界で防ぐと、ベベリヌは胴体の後ろから伸ばした糸を使って、魔導動甲冑の周囲を旋回する。
 ベベリヌの動きに、余裕が垣間見えるのは僕の気のせいだろうか?


「なるほど――落ち着いてみれば、簡単なことだったか。護っている間は、攻撃出来ぬのだから、その間に体勢を整えればよいのだ。そして――ここは、我に有利な場だ」


 旋回する勢いを利用して、ベベリヌは僕らの背後へと跳んだ。結界を解く瞬間に合わせて、レオナが光の刀身で斬りかかるが、ベベリヌは余裕で躱してしまった。


「やはり――動きが鈍いな」


 ベベリヌの呟きを聞いて、レオナが顔を顰める気配がした。
 レオナの動きが鈍い――その理由は、僕にもわかる。坑道内という場所では、壁や天井に流れ弾が当たれば、崩落の危険性がある。
 僕らだけなら、なんとかなるかもしれない。だけど、坑道内にはまだ発掘技師や警護兵たちがいる。
 彼らに被害が及ぶのを避けるため、攻撃自体が慎重になっている。

 二度目の攻撃を避けられた直後、ベベリヌの右肩から伸びる脚が魔造動甲冑に迫ってきた。
 それを寸前のところで結界で防いだ――けど、弾かれたベベリヌの脚が背後の壁を殴りつけた。
 破片が飛び散り、照明のところにいたファインさんへと破片が跳ねた。


「――っ!?」


 ファインさんは破片を盾で防いだ。けど、なんで退かないんだ――と思ったところで、僕は気づいた。ファインさんは、照明を護っていてくれているんだ。
 ここで明かりが無くなれば、僕らが不利になる。それに気づいてくれたらしい。

 それから、二度、三度と攻撃を繰り返すが、双方ともに決定打がないままだ。


「くそっ! なんてはしっこいの!?」


 レオナも必死だけど、巨体である魔造動甲冑では、ベベリヌの動きを追い切れないみたいだ。タイミングを見計らった攻撃をしても、寸前で躱されてしまう。
 それに長期戦となれば、こっちが不利だ。
 レオナもそうだけど、僕の魔力にも限界はある。あまり時間は掛けられない。


「こっちが護っているあいだ、無効は休憩できるわけか……」


「そういうことよね。ああ、もう! 護りながら攻撃できればいいのに!!」


 怒りを露わにしたレオナは、結界内から魔力砲を撃つ。しかし、それは予想通り、結界に当たって散り散りになってしまう。
 護りながら攻撃――その言葉に、僕は忌むべき記憶とともに、リーンアームドの機能の一つを思い出した。


「レオナ、一つ試してみたいんだけど」


「現状を打破できるなら、なんでもいいわよ!」


 ベベリヌと、数度目の攻防をしながら答えるレオナに頷くと、僕は意識を集中させた。
 旋回するベベリヌの動きを注視し、タイミングを計る。旋回の軌道が変わったのを見計らって、僕は叫んでいた。


「攻勢モードで防御!」


 僕の命令で、魔造動甲冑は紅い結界に囲まれた。
 さっきまでとは様子の異なる結界に、ベベリヌの動きに躊躇いが生まれた。寸前のところで軌道を変えたことにより、動きが大きく乱れたんだ。


「そこ!」


 レオナがベベリヌを追うように、魔導動甲冑を斜めに跳ばした。
 紅い結界はベベリヌの後ろ足を掠めただけだが、それでも少しは衝撃があったらしい。
 軌道をさらにずらしたベベリヌが、天井に張り付くと、結界を解いた僕らを見下ろしながら右肩にある大きな顎を動かした。


「なんだあれは……あの攻撃は、過去にも無かったはず。小癪な真似を――だが、奥の手があるのは貴様だけではないぞ」


 天井から僕らへ、ベベリヌは右肩にある眷属の口から糸を吐き出した。
 僕は咄嗟に、攻勢防壁を使って糸を防いだ。結界に弾かれた糸は、散り散りとなって周囲の地面に落ちていく。
 ベベリヌが地上に降りてきたのは、その直後だ。素早く動くでもなく、ただ静かに地面に着地した。
 その好機を、レオナは見逃さなかった。
 素早く脚を踏み出して、光の刀で斬りかかった。


「な――っ!?」


 だけど、驚愕の声をだしたのもレオナだった。魔造動甲冑の右足が、地面にくっついたように離れない。
 よく見ると、右足が蜘蛛の糸を踏んでいた。どうやら、糸の粘着力で岩盤に脚が接着された状態みたいだ。


「これで、動き難くなったな――」


 そう言うなり、ベベリヌは飛びかかってきた。結界で防いだ直後に、レオナが斬りかかる。だけど、右足が動けないせいで、ベベリヌは容易に一撃を躱してしまう。
 それどころか、躱しながら吐いた糸が、魔造動甲冑の左腕に絡みついた。


「この――」


 光の刀身で糸は切断したけど、まだ左腕には糸が絡みついたままだ。糸はじょじょに固まっていくのか、左腕は曲げた状態から動かなくなった。


「これ、大丈夫?」


「コアに戻れば、動甲冑自体の修復は可能だけど――その隙にヤツの攻撃が来るから」


 戻るに戻れない――だけど、このままでは徐々に動きが封じられ、いずれはやられる。
 この状況を打破する手段は……僕の脳裏に、ワームや、ダント……そしてエディンに寄生した眷属を両断した雷のことが蘇った。


「レオナ、あの雷なんとか、魔造動甲冑で使える?」


「その機能はあるけど――あたしじゃ魔力が足りないの」


「……なら、大丈夫。魔力なら、僕の分も使えば良い」


 そう言ってから、僕はリーンアームドを見た。
 左手の甲の部分は、まだ開いたまま――つまり、攻勢モードは、まだ継続中だ。
 僕は直感を頼りに、魔力を供給することに意識を集中した。
 普通のときより、攻勢モードのほうが攻撃に適してる――コーナル・コーナルから受け継いだ知識からの推測だけど、原理とかはまったくもって意味不明だ。
 攻勢モードで結界を張ったまま、僕らとベベリヌは睨み合っていた。
 先に動いたのは、ベベリヌだ。
 両手両脚を使って跳躍すると、結界の上から一撃を入れてきた。左腕が弾かれ、身体が地底湖のほうへと離れていく。


「レオナ、今だ!」


「剣圧最大――雷撃波っ!」


 裂帛の叫び声と共に振られた魔造動甲冑の右腕から、雷の刃が放たれた。それはレオナのときとは違い、攻勢モードの結界と同じ、深紅の雷だった。
 ベベリヌは横に跳ぶが、雷撃波の射程のほうが長い。
 紅い雷が、寄生した眷属諸共に、ベベリヌの胴体を斜めに両断した。
 悲鳴や絶叫は、なかった。
 ベベリヌの身体を真っ二つにした雷の刃は地底湖にも達し、激しい蒸気が周囲を包み込んだ。
 蒸気が晴れたとき、ベベリヌの死骸が地底湖の手前に横たわっていた。


「やった――」


 レオナの呟きに、僕は振り返らないまま頷くことで応じた。前に『あまり見ないで』と言われたから、なるべく後ろを向かないよう気をつけている。
 クスッと微笑む気配がした――と思ったとき、レオナの手が僕の両腕に触れた。
 外の視界が消え、乳白色で覆われていた周囲が、解けていく。
 元の姿に戻ったレオナと僕が地面に降りたとき、背後からファインさんの声がした。


「アウィン――二人とも、やったじゃない!」


 駆け寄ってきたファインさんは、僕の手を握るとブンブンと振ってきた。


「いえあの……あいつを斃したのはレオナですから」


「なんで? アウィンだって頑張ったんでしょ? 発掘技師なのに……ちゃんと戦いの補助もできるんだ」


 嬉々としたファインさんに、僕はそれ以上の反論ができなかった。困った顔でレオナを見れば、腕を組みつつも苦笑していた。
 とにかく、ベベリヌを斃した以上、この場に留まる意味はない。


「とりあえず、地上に戻りましょう。居所もわかったことですし」


「そうね。それが最善手かも。明日には来るっていう、軍の戦力に期待しましょ――」


 レオナが言葉を言い終える前に、地底湖の地面が揺れ始めた。
 地震――というのは、僕らの住むところでは滅多に起きない。ということは崩落か、それ以外のなにかだ。
 本能的な恐怖から僕らが身構えたとき、地底湖の対岸にある大穴から、白く光を反射する糸が無数に飛び出してきた。


「――眷属!?」


 レオナが光の刀身で糸に斬りかかったが、表面をなぞっただけで、切断どころか斬った跡すら残らなかった。
 糸は僕らの周囲で渦を巻くと、次第に繭のような形になった。レオナは魔力弾を乱射したけど、びくともしなかった。
 足元の地面ごと繭に囚われた僕らは、光も届かぬ闇の中、どこかに運ばれていくのを感じていた。
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