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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
五章 魔神血戦 二十話 発掘技師
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五章 魔神血戦
二十話 発掘技師
翌朝になり、僕とレオナはいつも通り坑道へと来ていた。
だけど普段なら開けられている門は閉ざされたままで、その前では発掘技師たちが集まっていた。
坑道に入れないことに、みんなは困惑した顔をしていた。
今まで発掘が中止になったことはないし、事前になんの報せもなかったわけだから、困惑するのも当然かもしれない。
僕は近くにいた顔をしっている発掘技師に、話しかけた。
「なにがあったんです?」
「さあ……坑道に入れないし、かといって家に帰るわけにもいかないしなぁ」
僕らの作業は、街の存在意義そのものだ――というのが理由じゃない。仕事をしなければ、その日の日当も出ないんだ。
その日暮らしに近い発掘技師にとって、一日の日当は生命線だ。貯金する余裕なんか、ほとんどない。僕は技師としてバイトや副業をしてるから、少しの蓄えはあるけど。
背伸びをして坑道の門を見てみると、三人の護衛兵が、詰め寄る発掘技師たちを押し戻していた。
「なんだろう?」
「昨日の襲撃で、やっと危険性がわかったってことじゃない? 対応としては、かなり遅いと思うけど……確認したいよね。ファインとかいないかな?」
レオナは僕に言いながら、辺りを見回した。
しかし、ファインさんの姿はどこにもない。このまましばらく待つか――というところで、門の前にジョージ中佐が現れた。
ジョージ中佐は、声を大きくする魔導器――多分、拡声器だ――で、集まっていた僕らに語りかけた。
『諸君――わたしは国家連合軍、参謀本部のジョージ・マクラーレン中佐である。諸君らも知っての通り、この坑道には現在、魔神と称される魔物が潜んでいる。昨日の襲撃も、魔神に操られた被害者によるものだ。
そこで軍は、この坑道の一時封鎖を決定した。ここ数日の間に、軍による魔神掃討作戦を計画している。それまで諸君らは、自宅で待機していて欲しい。話は以上だ』
ジョージ中佐の言葉に、発掘技師たちはざわめき出した。
ここ数日というけど、そのあいだ、ほとんどの発掘技師の収入はなくなる。人によってはそのあいだ、飢えることになる。
発掘作業で魔神に襲われる危険性と、飢え。どっちがマシなんだろう。
ジョージ中佐の発言が終わったあとも、発掘技師たちは戸惑いながら、門の前に残っていた。
僕は腰袋に入れた紙を気にしながら、門へと移動を始めた。発掘技師の集団から出ると、まだそこにいたジョージ中佐に声をかけた。
「ジョージ中佐! 坑道に入れて下さい!」
「君は――いや、今回の作戦に例外はない。明日にも部隊は到着する。封印されていた巨大な箱の調査も含めて、あとは軍にて執り行う予定だ」
「あいつらが潜んでいる場所が、わかるかもしれないんです。地層の調査を――」
「その話は聞いている。だが、そのために発掘技師を入れれば、護衛兵を投入せねばならん。今度の犠牲者は、数人では済まないかもしれん」
「でも、エディンが残した砂を調べるだけなんです!」
「帰り給え。話は以上だ」
僕の訴えを、ジョージ中佐はにべ無く退けた。
背後の発掘技師たちは俯いたり、視線を逸らしていた。皆、シンと静まり返ったまま、軍の上層部に対する文句や不平を口に出来ないでいた。
「あ――ちょっと待って!」
そんなとき、僕の後ろから青年の声があがった。
振り返れば、最奥で僕と拳銃の魔導器を見つけた青年の発掘技師が、両手を挙げながら近づいて来た。
「砂を調べるって?」
「えっと……はい。エディンが……昨日、眷属――化け物に寄生された僕の友だちが持っていた手紙に紛れていた砂なんですけど。それがどの地層の砂かわかれば、魔神の居所がわかるって思って……」
「なるほどね。砂自体は調べた?」
「はい。粘土とかはなくて、混ざり砂じゃないです。玄武岩や輝石もなくて、灰色の粗粒砂ばかりです。角が丸いやつも混じってますね」
僕の返答を聞いて、青年は少し考えた。
「灰色だと、花崗岩かな? それだと最深部あたりに多いね。ただ、角が丸いってなると……発掘で出来る砂じゃない」
「川の砂なんかが、角が丸まってるわね」
すぐ後ろにいた女性の発掘技士が、話に入って来た。年の頃は、二〇代後半だと思う。周囲の視線を気にするでもなく、小さく手を挙げていた。
僕と青年が振り向くと、その女性は微かに肩を竦めた。
「子どもの頃、少し離れた川で魚とか採ってたの。ご飯の足しにって。そのとき、足の裏についた砂は、角が丸かった気がする」
「じゃあ、昔に水が流れていた地層を調べれば――」
「最深部でそういう痕があるのは、五箇所くらいだ。それぞれ、場所は離れているけどな。調べるだけなら、そう時間はかからんだろう」
中年の発掘技師が、腕まくりをしながら近寄って来た。改めて周囲を見れば、発掘技師たちは一様に、力強い目をしていた。
あとから追いついてきたレオナが僕の横に来ると、最深部で班長をしていた発掘技師が、僕らの前に進み出た。
「わたしらから、提案です。最深部の調査に、一時間。時間をくれませんか。それで手掛かりが掴めれば、安いものでしょう。調査も班長職の十人くらいで事足ります。こいつは、俺たちにしかできない戦い方です。
任せてもらえませんか?」
「あ、あの――僕も行きます! 言い出しっぺですし、その、リーンアームドもありますから、少しくらいは身を護れます」
「もちろん、あたしも行きます。出来る限り、援護はさせて貰います」
僕に続いて、レオナもジョージ中佐に進言した。
ジョージ中佐は僕ら発掘技師たちを見回してから、なにかを言おうと一度は口を開きかけた。だけど、代わりに大きな溜息そのを吐いた。
護衛兵の一人を呼び寄せると、ジョージ中佐は小声でなにかを告げた。護衛兵は少し驚いた顔をしたけど、すぐに踵を返してどこかへ行ってしまった。
返答がないまま、数分が経過した。
僕らがジッと待っていると、先ほどの警護兵が戻ってきた。警護兵は、近くにいる僕らに聞こえるような声で報告した。
「揃いました! 調査は可能と判断、ということです」
その声に、僕らは静かに「よし」と拳を握った。
ジョージ中佐はなにやら複雑な顔で、再び拡声器を口に寄せた。
「調査を許可する。ただし、一時間だけだ」
その言葉に、班長は素早く動いた。
「よし、各班長を集めろ! 燃料と弁当になるもの、あとは道具だ。急げ!!」
周囲の発掘技師が、一斉に動き始めた。
僕も手伝おうとしたけど、それは班長に止められた。
「おまえも来るんだろ? なら、いざってときの体力は残しておけ」
「は、はい」
班長と別れた僕の横に、レオナが並んだ。
「いいね。良い雰囲気」
「うん。そう思う」
それから三〇分ほどで、すべての準備が終わった。発掘技師二人に対し、護衛兵が四人の構成で、僕たちは坑道内へと入った。
僕の班には班長が一人とレオナ、護衛兵にはファインさんとハービィさんが就いてくれた。
*
ランプの灯りを頼りに、僕は燃焼炉に燃料を入れはじめた。金属製の容器から、透明の燃料が燃焼炉に注がれていくと、鼻孔に刺さるような独特な臭いが漂ってきた。
容器の中の燃料をすべて入れ終えてから、僕は蓋をした。
最後に燃焼炉のレバーを思いっきり引っ張ると、ブフォン、という音がして、近くの照明が点灯した。
「よし――サンプルは全員に配ったし。俺たちは俺たちで始めよう」
僕がいるのは、眷属に寄生されたワームに襲われた場所だ。
あの砂と似たような地層の一つは、ここだ。班長と僕は地層の表面を確認しながら、表面を削り落としていった。
「……ここは違うか。花崗岩なのは間違いないが、角の丸まった砂はなさそうだ。俺はこのあたりを全体的に見てきたが……多分の場所も似たようなものかもな」
「そんな……」
班長の話を聞いた僕は、絶望感よりも頭を忙しく働かせるほうに集中していた。
折角の機会なのに――ここで簡単に諦めたら、エディンの死がまったくの無駄になる。そう思いたいだけかもしれないけど……エディンを掴み損ねたときみたいな、後悔はしたくなかった。
もっとほかに、怪しいところは――と、忙しく周囲を見回した僕は、枝道の一つで目を止めた。
エディンが、キノコが生えている場所を教えてくれたところだ。色々あって、その一回しか行ってないけど――そこまで記憶を遡っていた僕は、やっと気づいた。
「僕は、馬鹿だ」
エディンは最初から、僕に答えを教えていてくれていた。それに気がつかず、見当違いな考えで、随分と大回りをしてしまった。
呆然と枝道を見ている僕に、ファインさんが怪訝な顔で近づいて来た。
「どうしたの?」
「あの場所……」
僕の呟きに、表情を引き締めたレオナが前に出た。
どうやらレオナも思い出したみたいだ。あの先には、地底湖があるってことに。キノコも、あそこで摂れるものだ。
レオナは班長に、燃焼炉から照明に伸びているケーブルを指さした。ケーブルは、途中で大きく蛇行している。
「班長さん。あの照明って、そこの枝道の先に持って行けます?」
「さあな……長さは少し足りないかもしれないが」
「光が届けば充分です。アウィン、そういうことよね?」
「うん。ハービィさん、手伝って下さい」
僕とハービィさんとで、照明を枝道に運んだ。ケーブルはギリギリ届かなかったけど、照明の光は地底湖の奥まで照らし出した。
地底湖の奥行きは、五〇リン(約四十七メートル)ほど。幅は……照明の光では補い切れないほど広かった。
地面は岩質だけど、増水することもあるみたいで、砂が敷き詰められているような状態だ。
まずは地面の砂を調べるべきなんだろうけど、僕の目は違う場所に釘付けになっていた。いや、正確にはここに来た全員がだ。
照明の光によって照らし出された天井には、無数の蜘蛛の糸が張り巡らされていた。白く光を反射する糸は、斜め左方向に見える大穴へと続いていた。
僕らから見て、その大穴は地底湖の対岸にある。水面すれすれにある大穴は、高さだけでも一〇リンくらいはある。
その縁に、白い物が動いていた。蜘蛛に似たそれは、間違いなく眷属だ。
レオナが、素早く動いた。
右腕の魔力弾を、眷属に向けて連射した。そのうちの数発を身体に受けた眷属は、体液を撒き散らせながら、大穴の縁から消えた。
静寂が戻ったとき、最初に口を開いたのは、ハービィさんだった。
「大当たりってわけか。すぐに報告しねぇと……」
「みんなは、ここから退いて。あたしは、ここを見張っておくから」
「それなら……僕もいなきゃ。護りはいる……でしょ?」
僕は、油断泣く銃口を構えるレオナの左後ろに移動すると、リーンアームドに右手を添えた。
僕の声は、自分でも驚くほど震えていた。
ファインさんは驚いた顔で、僕の右腕を掴んできた。
「駄目よ! 軍の命令だもの。みんな、地上に戻るの」
真剣な顔で説得してくれるファインさんに、僕は首を横に振った。
「班長と一緒に、地上に行って下さい。僕らは最悪、結界で護れますから。軍に報告をお願いします」
「アウィン……もう、遅いわ」
緊張感の増したレオナの声に、僕は大穴を見た。
イヤに細い腕を穴の縁にかけたベベリヌが、その蜘蛛に似た目を僕らに向けていた。
二十話 発掘技師
翌朝になり、僕とレオナはいつも通り坑道へと来ていた。
だけど普段なら開けられている門は閉ざされたままで、その前では発掘技師たちが集まっていた。
坑道に入れないことに、みんなは困惑した顔をしていた。
今まで発掘が中止になったことはないし、事前になんの報せもなかったわけだから、困惑するのも当然かもしれない。
僕は近くにいた顔をしっている発掘技師に、話しかけた。
「なにがあったんです?」
「さあ……坑道に入れないし、かといって家に帰るわけにもいかないしなぁ」
僕らの作業は、街の存在意義そのものだ――というのが理由じゃない。仕事をしなければ、その日の日当も出ないんだ。
その日暮らしに近い発掘技師にとって、一日の日当は生命線だ。貯金する余裕なんか、ほとんどない。僕は技師としてバイトや副業をしてるから、少しの蓄えはあるけど。
背伸びをして坑道の門を見てみると、三人の護衛兵が、詰め寄る発掘技師たちを押し戻していた。
「なんだろう?」
「昨日の襲撃で、やっと危険性がわかったってことじゃない? 対応としては、かなり遅いと思うけど……確認したいよね。ファインとかいないかな?」
レオナは僕に言いながら、辺りを見回した。
しかし、ファインさんの姿はどこにもない。このまましばらく待つか――というところで、門の前にジョージ中佐が現れた。
ジョージ中佐は、声を大きくする魔導器――多分、拡声器だ――で、集まっていた僕らに語りかけた。
『諸君――わたしは国家連合軍、参謀本部のジョージ・マクラーレン中佐である。諸君らも知っての通り、この坑道には現在、魔神と称される魔物が潜んでいる。昨日の襲撃も、魔神に操られた被害者によるものだ。
そこで軍は、この坑道の一時封鎖を決定した。ここ数日の間に、軍による魔神掃討作戦を計画している。それまで諸君らは、自宅で待機していて欲しい。話は以上だ』
ジョージ中佐の言葉に、発掘技師たちはざわめき出した。
ここ数日というけど、そのあいだ、ほとんどの発掘技師の収入はなくなる。人によってはそのあいだ、飢えることになる。
発掘作業で魔神に襲われる危険性と、飢え。どっちがマシなんだろう。
ジョージ中佐の発言が終わったあとも、発掘技師たちは戸惑いながら、門の前に残っていた。
僕は腰袋に入れた紙を気にしながら、門へと移動を始めた。発掘技師の集団から出ると、まだそこにいたジョージ中佐に声をかけた。
「ジョージ中佐! 坑道に入れて下さい!」
「君は――いや、今回の作戦に例外はない。明日にも部隊は到着する。封印されていた巨大な箱の調査も含めて、あとは軍にて執り行う予定だ」
「あいつらが潜んでいる場所が、わかるかもしれないんです。地層の調査を――」
「その話は聞いている。だが、そのために発掘技師を入れれば、護衛兵を投入せねばならん。今度の犠牲者は、数人では済まないかもしれん」
「でも、エディンが残した砂を調べるだけなんです!」
「帰り給え。話は以上だ」
僕の訴えを、ジョージ中佐はにべ無く退けた。
背後の発掘技師たちは俯いたり、視線を逸らしていた。皆、シンと静まり返ったまま、軍の上層部に対する文句や不平を口に出来ないでいた。
「あ――ちょっと待って!」
そんなとき、僕の後ろから青年の声があがった。
振り返れば、最奥で僕と拳銃の魔導器を見つけた青年の発掘技師が、両手を挙げながら近づいて来た。
「砂を調べるって?」
「えっと……はい。エディンが……昨日、眷属――化け物に寄生された僕の友だちが持っていた手紙に紛れていた砂なんですけど。それがどの地層の砂かわかれば、魔神の居所がわかるって思って……」
「なるほどね。砂自体は調べた?」
「はい。粘土とかはなくて、混ざり砂じゃないです。玄武岩や輝石もなくて、灰色の粗粒砂ばかりです。角が丸いやつも混じってますね」
僕の返答を聞いて、青年は少し考えた。
「灰色だと、花崗岩かな? それだと最深部あたりに多いね。ただ、角が丸いってなると……発掘で出来る砂じゃない」
「川の砂なんかが、角が丸まってるわね」
すぐ後ろにいた女性の発掘技士が、話に入って来た。年の頃は、二〇代後半だと思う。周囲の視線を気にするでもなく、小さく手を挙げていた。
僕と青年が振り向くと、その女性は微かに肩を竦めた。
「子どもの頃、少し離れた川で魚とか採ってたの。ご飯の足しにって。そのとき、足の裏についた砂は、角が丸かった気がする」
「じゃあ、昔に水が流れていた地層を調べれば――」
「最深部でそういう痕があるのは、五箇所くらいだ。それぞれ、場所は離れているけどな。調べるだけなら、そう時間はかからんだろう」
中年の発掘技師が、腕まくりをしながら近寄って来た。改めて周囲を見れば、発掘技師たちは一様に、力強い目をしていた。
あとから追いついてきたレオナが僕の横に来ると、最深部で班長をしていた発掘技師が、僕らの前に進み出た。
「わたしらから、提案です。最深部の調査に、一時間。時間をくれませんか。それで手掛かりが掴めれば、安いものでしょう。調査も班長職の十人くらいで事足ります。こいつは、俺たちにしかできない戦い方です。
任せてもらえませんか?」
「あ、あの――僕も行きます! 言い出しっぺですし、その、リーンアームドもありますから、少しくらいは身を護れます」
「もちろん、あたしも行きます。出来る限り、援護はさせて貰います」
僕に続いて、レオナもジョージ中佐に進言した。
ジョージ中佐は僕ら発掘技師たちを見回してから、なにかを言おうと一度は口を開きかけた。だけど、代わりに大きな溜息そのを吐いた。
護衛兵の一人を呼び寄せると、ジョージ中佐は小声でなにかを告げた。護衛兵は少し驚いた顔をしたけど、すぐに踵を返してどこかへ行ってしまった。
返答がないまま、数分が経過した。
僕らがジッと待っていると、先ほどの警護兵が戻ってきた。警護兵は、近くにいる僕らに聞こえるような声で報告した。
「揃いました! 調査は可能と判断、ということです」
その声に、僕らは静かに「よし」と拳を握った。
ジョージ中佐はなにやら複雑な顔で、再び拡声器を口に寄せた。
「調査を許可する。ただし、一時間だけだ」
その言葉に、班長は素早く動いた。
「よし、各班長を集めろ! 燃料と弁当になるもの、あとは道具だ。急げ!!」
周囲の発掘技師が、一斉に動き始めた。
僕も手伝おうとしたけど、それは班長に止められた。
「おまえも来るんだろ? なら、いざってときの体力は残しておけ」
「は、はい」
班長と別れた僕の横に、レオナが並んだ。
「いいね。良い雰囲気」
「うん。そう思う」
それから三〇分ほどで、すべての準備が終わった。発掘技師二人に対し、護衛兵が四人の構成で、僕たちは坑道内へと入った。
僕の班には班長が一人とレオナ、護衛兵にはファインさんとハービィさんが就いてくれた。
*
ランプの灯りを頼りに、僕は燃焼炉に燃料を入れはじめた。金属製の容器から、透明の燃料が燃焼炉に注がれていくと、鼻孔に刺さるような独特な臭いが漂ってきた。
容器の中の燃料をすべて入れ終えてから、僕は蓋をした。
最後に燃焼炉のレバーを思いっきり引っ張ると、ブフォン、という音がして、近くの照明が点灯した。
「よし――サンプルは全員に配ったし。俺たちは俺たちで始めよう」
僕がいるのは、眷属に寄生されたワームに襲われた場所だ。
あの砂と似たような地層の一つは、ここだ。班長と僕は地層の表面を確認しながら、表面を削り落としていった。
「……ここは違うか。花崗岩なのは間違いないが、角の丸まった砂はなさそうだ。俺はこのあたりを全体的に見てきたが……多分の場所も似たようなものかもな」
「そんな……」
班長の話を聞いた僕は、絶望感よりも頭を忙しく働かせるほうに集中していた。
折角の機会なのに――ここで簡単に諦めたら、エディンの死がまったくの無駄になる。そう思いたいだけかもしれないけど……エディンを掴み損ねたときみたいな、後悔はしたくなかった。
もっとほかに、怪しいところは――と、忙しく周囲を見回した僕は、枝道の一つで目を止めた。
エディンが、キノコが生えている場所を教えてくれたところだ。色々あって、その一回しか行ってないけど――そこまで記憶を遡っていた僕は、やっと気づいた。
「僕は、馬鹿だ」
エディンは最初から、僕に答えを教えていてくれていた。それに気がつかず、見当違いな考えで、随分と大回りをしてしまった。
呆然と枝道を見ている僕に、ファインさんが怪訝な顔で近づいて来た。
「どうしたの?」
「あの場所……」
僕の呟きに、表情を引き締めたレオナが前に出た。
どうやらレオナも思い出したみたいだ。あの先には、地底湖があるってことに。キノコも、あそこで摂れるものだ。
レオナは班長に、燃焼炉から照明に伸びているケーブルを指さした。ケーブルは、途中で大きく蛇行している。
「班長さん。あの照明って、そこの枝道の先に持って行けます?」
「さあな……長さは少し足りないかもしれないが」
「光が届けば充分です。アウィン、そういうことよね?」
「うん。ハービィさん、手伝って下さい」
僕とハービィさんとで、照明を枝道に運んだ。ケーブルはギリギリ届かなかったけど、照明の光は地底湖の奥まで照らし出した。
地底湖の奥行きは、五〇リン(約四十七メートル)ほど。幅は……照明の光では補い切れないほど広かった。
地面は岩質だけど、増水することもあるみたいで、砂が敷き詰められているような状態だ。
まずは地面の砂を調べるべきなんだろうけど、僕の目は違う場所に釘付けになっていた。いや、正確にはここに来た全員がだ。
照明の光によって照らし出された天井には、無数の蜘蛛の糸が張り巡らされていた。白く光を反射する糸は、斜め左方向に見える大穴へと続いていた。
僕らから見て、その大穴は地底湖の対岸にある。水面すれすれにある大穴は、高さだけでも一〇リンくらいはある。
その縁に、白い物が動いていた。蜘蛛に似たそれは、間違いなく眷属だ。
レオナが、素早く動いた。
右腕の魔力弾を、眷属に向けて連射した。そのうちの数発を身体に受けた眷属は、体液を撒き散らせながら、大穴の縁から消えた。
静寂が戻ったとき、最初に口を開いたのは、ハービィさんだった。
「大当たりってわけか。すぐに報告しねぇと……」
「みんなは、ここから退いて。あたしは、ここを見張っておくから」
「それなら……僕もいなきゃ。護りはいる……でしょ?」
僕は、油断泣く銃口を構えるレオナの左後ろに移動すると、リーンアームドに右手を添えた。
僕の声は、自分でも驚くほど震えていた。
ファインさんは驚いた顔で、僕の右腕を掴んできた。
「駄目よ! 軍の命令だもの。みんな、地上に戻るの」
真剣な顔で説得してくれるファインさんに、僕は首を横に振った。
「班長と一緒に、地上に行って下さい。僕らは最悪、結界で護れますから。軍に報告をお願いします」
「アウィン……もう、遅いわ」
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【作品紹介】
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だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
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