23 / 57
消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
五章 魔神血戦 二十話 発掘技師
しおりを挟む
五章 魔神血戦
二十話 発掘技師
翌朝になり、僕とレオナはいつも通り坑道へと来ていた。
だけど普段なら開けられている門は閉ざされたままで、その前では発掘技師たちが集まっていた。
坑道に入れないことに、みんなは困惑した顔をしていた。
今まで発掘が中止になったことはないし、事前になんの報せもなかったわけだから、困惑するのも当然かもしれない。
僕は近くにいた顔をしっている発掘技師に、話しかけた。
「なにがあったんです?」
「さあ……坑道に入れないし、かといって家に帰るわけにもいかないしなぁ」
僕らの作業は、街の存在意義そのものだ――というのが理由じゃない。仕事をしなければ、その日の日当も出ないんだ。
その日暮らしに近い発掘技師にとって、一日の日当は生命線だ。貯金する余裕なんか、ほとんどない。僕は技師としてバイトや副業をしてるから、少しの蓄えはあるけど。
背伸びをして坑道の門を見てみると、三人の護衛兵が、詰め寄る発掘技師たちを押し戻していた。
「なんだろう?」
「昨日の襲撃で、やっと危険性がわかったってことじゃない? 対応としては、かなり遅いと思うけど……確認したいよね。ファインとかいないかな?」
レオナは僕に言いながら、辺りを見回した。
しかし、ファインさんの姿はどこにもない。このまましばらく待つか――というところで、門の前にジョージ中佐が現れた。
ジョージ中佐は、声を大きくする魔導器――多分、拡声器だ――で、集まっていた僕らに語りかけた。
『諸君――わたしは国家連合軍、参謀本部のジョージ・マクラーレン中佐である。諸君らも知っての通り、この坑道には現在、魔神と称される魔物が潜んでいる。昨日の襲撃も、魔神に操られた被害者によるものだ。
そこで軍は、この坑道の一時封鎖を決定した。ここ数日の間に、軍による魔神掃討作戦を計画している。それまで諸君らは、自宅で待機していて欲しい。話は以上だ』
ジョージ中佐の言葉に、発掘技師たちはざわめき出した。
ここ数日というけど、そのあいだ、ほとんどの発掘技師の収入はなくなる。人によってはそのあいだ、飢えることになる。
発掘作業で魔神に襲われる危険性と、飢え。どっちがマシなんだろう。
ジョージ中佐の発言が終わったあとも、発掘技師たちは戸惑いながら、門の前に残っていた。
僕は腰袋に入れた紙を気にしながら、門へと移動を始めた。発掘技師の集団から出ると、まだそこにいたジョージ中佐に声をかけた。
「ジョージ中佐! 坑道に入れて下さい!」
「君は――いや、今回の作戦に例外はない。明日にも部隊は到着する。封印されていた巨大な箱の調査も含めて、あとは軍にて執り行う予定だ」
「あいつらが潜んでいる場所が、わかるかもしれないんです。地層の調査を――」
「その話は聞いている。だが、そのために発掘技師を入れれば、護衛兵を投入せねばならん。今度の犠牲者は、数人では済まないかもしれん」
「でも、エディンが残した砂を調べるだけなんです!」
「帰り給え。話は以上だ」
僕の訴えを、ジョージ中佐はにべ無く退けた。
背後の発掘技師たちは俯いたり、視線を逸らしていた。皆、シンと静まり返ったまま、軍の上層部に対する文句や不平を口に出来ないでいた。
「あ――ちょっと待って!」
そんなとき、僕の後ろから青年の声があがった。
振り返れば、最奥で僕と拳銃の魔導器を見つけた青年の発掘技師が、両手を挙げながら近づいて来た。
「砂を調べるって?」
「えっと……はい。エディンが……昨日、眷属――化け物に寄生された僕の友だちが持っていた手紙に紛れていた砂なんですけど。それがどの地層の砂かわかれば、魔神の居所がわかるって思って……」
「なるほどね。砂自体は調べた?」
「はい。粘土とかはなくて、混ざり砂じゃないです。玄武岩や輝石もなくて、灰色の粗粒砂ばかりです。角が丸いやつも混じってますね」
僕の返答を聞いて、青年は少し考えた。
「灰色だと、花崗岩かな? それだと最深部あたりに多いね。ただ、角が丸いってなると……発掘で出来る砂じゃない」
「川の砂なんかが、角が丸まってるわね」
すぐ後ろにいた女性の発掘技士が、話に入って来た。年の頃は、二〇代後半だと思う。周囲の視線を気にするでもなく、小さく手を挙げていた。
僕と青年が振り向くと、その女性は微かに肩を竦めた。
「子どもの頃、少し離れた川で魚とか採ってたの。ご飯の足しにって。そのとき、足の裏についた砂は、角が丸かった気がする」
「じゃあ、昔に水が流れていた地層を調べれば――」
「最深部でそういう痕があるのは、五箇所くらいだ。それぞれ、場所は離れているけどな。調べるだけなら、そう時間はかからんだろう」
中年の発掘技師が、腕まくりをしながら近寄って来た。改めて周囲を見れば、発掘技師たちは一様に、力強い目をしていた。
あとから追いついてきたレオナが僕の横に来ると、最深部で班長をしていた発掘技師が、僕らの前に進み出た。
「わたしらから、提案です。最深部の調査に、一時間。時間をくれませんか。それで手掛かりが掴めれば、安いものでしょう。調査も班長職の十人くらいで事足ります。こいつは、俺たちにしかできない戦い方です。
任せてもらえませんか?」
「あ、あの――僕も行きます! 言い出しっぺですし、その、リーンアームドもありますから、少しくらいは身を護れます」
「もちろん、あたしも行きます。出来る限り、援護はさせて貰います」
僕に続いて、レオナもジョージ中佐に進言した。
ジョージ中佐は僕ら発掘技師たちを見回してから、なにかを言おうと一度は口を開きかけた。だけど、代わりに大きな溜息そのを吐いた。
護衛兵の一人を呼び寄せると、ジョージ中佐は小声でなにかを告げた。護衛兵は少し驚いた顔をしたけど、すぐに踵を返してどこかへ行ってしまった。
返答がないまま、数分が経過した。
僕らがジッと待っていると、先ほどの警護兵が戻ってきた。警護兵は、近くにいる僕らに聞こえるような声で報告した。
「揃いました! 調査は可能と判断、ということです」
その声に、僕らは静かに「よし」と拳を握った。
ジョージ中佐はなにやら複雑な顔で、再び拡声器を口に寄せた。
「調査を許可する。ただし、一時間だけだ」
その言葉に、班長は素早く動いた。
「よし、各班長を集めろ! 燃料と弁当になるもの、あとは道具だ。急げ!!」
周囲の発掘技師が、一斉に動き始めた。
僕も手伝おうとしたけど、それは班長に止められた。
「おまえも来るんだろ? なら、いざってときの体力は残しておけ」
「は、はい」
班長と別れた僕の横に、レオナが並んだ。
「いいね。良い雰囲気」
「うん。そう思う」
それから三〇分ほどで、すべての準備が終わった。発掘技師二人に対し、護衛兵が四人の構成で、僕たちは坑道内へと入った。
僕の班には班長が一人とレオナ、護衛兵にはファインさんとハービィさんが就いてくれた。
*
ランプの灯りを頼りに、僕は燃焼炉に燃料を入れはじめた。金属製の容器から、透明の燃料が燃焼炉に注がれていくと、鼻孔に刺さるような独特な臭いが漂ってきた。
容器の中の燃料をすべて入れ終えてから、僕は蓋をした。
最後に燃焼炉のレバーを思いっきり引っ張ると、ブフォン、という音がして、近くの照明が点灯した。
「よし――サンプルは全員に配ったし。俺たちは俺たちで始めよう」
僕がいるのは、眷属に寄生されたワームに襲われた場所だ。
あの砂と似たような地層の一つは、ここだ。班長と僕は地層の表面を確認しながら、表面を削り落としていった。
「……ここは違うか。花崗岩なのは間違いないが、角の丸まった砂はなさそうだ。俺はこのあたりを全体的に見てきたが……多分の場所も似たようなものかもな」
「そんな……」
班長の話を聞いた僕は、絶望感よりも頭を忙しく働かせるほうに集中していた。
折角の機会なのに――ここで簡単に諦めたら、エディンの死がまったくの無駄になる。そう思いたいだけかもしれないけど……エディンを掴み損ねたときみたいな、後悔はしたくなかった。
もっとほかに、怪しいところは――と、忙しく周囲を見回した僕は、枝道の一つで目を止めた。
エディンが、キノコが生えている場所を教えてくれたところだ。色々あって、その一回しか行ってないけど――そこまで記憶を遡っていた僕は、やっと気づいた。
「僕は、馬鹿だ」
エディンは最初から、僕に答えを教えていてくれていた。それに気がつかず、見当違いな考えで、随分と大回りをしてしまった。
呆然と枝道を見ている僕に、ファインさんが怪訝な顔で近づいて来た。
「どうしたの?」
「あの場所……」
僕の呟きに、表情を引き締めたレオナが前に出た。
どうやらレオナも思い出したみたいだ。あの先には、地底湖があるってことに。キノコも、あそこで摂れるものだ。
レオナは班長に、燃焼炉から照明に伸びているケーブルを指さした。ケーブルは、途中で大きく蛇行している。
「班長さん。あの照明って、そこの枝道の先に持って行けます?」
「さあな……長さは少し足りないかもしれないが」
「光が届けば充分です。アウィン、そういうことよね?」
「うん。ハービィさん、手伝って下さい」
僕とハービィさんとで、照明を枝道に運んだ。ケーブルはギリギリ届かなかったけど、照明の光は地底湖の奥まで照らし出した。
地底湖の奥行きは、五〇リン(約四十七メートル)ほど。幅は……照明の光では補い切れないほど広かった。
地面は岩質だけど、増水することもあるみたいで、砂が敷き詰められているような状態だ。
まずは地面の砂を調べるべきなんだろうけど、僕の目は違う場所に釘付けになっていた。いや、正確にはここに来た全員がだ。
照明の光によって照らし出された天井には、無数の蜘蛛の糸が張り巡らされていた。白く光を反射する糸は、斜め左方向に見える大穴へと続いていた。
僕らから見て、その大穴は地底湖の対岸にある。水面すれすれにある大穴は、高さだけでも一〇リンくらいはある。
その縁に、白い物が動いていた。蜘蛛に似たそれは、間違いなく眷属だ。
レオナが、素早く動いた。
右腕の魔力弾を、眷属に向けて連射した。そのうちの数発を身体に受けた眷属は、体液を撒き散らせながら、大穴の縁から消えた。
静寂が戻ったとき、最初に口を開いたのは、ハービィさんだった。
「大当たりってわけか。すぐに報告しねぇと……」
「みんなは、ここから退いて。あたしは、ここを見張っておくから」
「それなら……僕もいなきゃ。護りはいる……でしょ?」
僕は、油断泣く銃口を構えるレオナの左後ろに移動すると、リーンアームドに右手を添えた。
僕の声は、自分でも驚くほど震えていた。
ファインさんは驚いた顔で、僕の右腕を掴んできた。
「駄目よ! 軍の命令だもの。みんな、地上に戻るの」
真剣な顔で説得してくれるファインさんに、僕は首を横に振った。
「班長と一緒に、地上に行って下さい。僕らは最悪、結界で護れますから。軍に報告をお願いします」
「アウィン……もう、遅いわ」
緊張感の増したレオナの声に、僕は大穴を見た。
イヤに細い腕を穴の縁にかけたベベリヌが、その蜘蛛に似た目を僕らに向けていた。
二十話 発掘技師
翌朝になり、僕とレオナはいつも通り坑道へと来ていた。
だけど普段なら開けられている門は閉ざされたままで、その前では発掘技師たちが集まっていた。
坑道に入れないことに、みんなは困惑した顔をしていた。
今まで発掘が中止になったことはないし、事前になんの報せもなかったわけだから、困惑するのも当然かもしれない。
僕は近くにいた顔をしっている発掘技師に、話しかけた。
「なにがあったんです?」
「さあ……坑道に入れないし、かといって家に帰るわけにもいかないしなぁ」
僕らの作業は、街の存在意義そのものだ――というのが理由じゃない。仕事をしなければ、その日の日当も出ないんだ。
その日暮らしに近い発掘技師にとって、一日の日当は生命線だ。貯金する余裕なんか、ほとんどない。僕は技師としてバイトや副業をしてるから、少しの蓄えはあるけど。
背伸びをして坑道の門を見てみると、三人の護衛兵が、詰め寄る発掘技師たちを押し戻していた。
「なんだろう?」
「昨日の襲撃で、やっと危険性がわかったってことじゃない? 対応としては、かなり遅いと思うけど……確認したいよね。ファインとかいないかな?」
レオナは僕に言いながら、辺りを見回した。
しかし、ファインさんの姿はどこにもない。このまましばらく待つか――というところで、門の前にジョージ中佐が現れた。
ジョージ中佐は、声を大きくする魔導器――多分、拡声器だ――で、集まっていた僕らに語りかけた。
『諸君――わたしは国家連合軍、参謀本部のジョージ・マクラーレン中佐である。諸君らも知っての通り、この坑道には現在、魔神と称される魔物が潜んでいる。昨日の襲撃も、魔神に操られた被害者によるものだ。
そこで軍は、この坑道の一時封鎖を決定した。ここ数日の間に、軍による魔神掃討作戦を計画している。それまで諸君らは、自宅で待機していて欲しい。話は以上だ』
ジョージ中佐の言葉に、発掘技師たちはざわめき出した。
ここ数日というけど、そのあいだ、ほとんどの発掘技師の収入はなくなる。人によってはそのあいだ、飢えることになる。
発掘作業で魔神に襲われる危険性と、飢え。どっちがマシなんだろう。
ジョージ中佐の発言が終わったあとも、発掘技師たちは戸惑いながら、門の前に残っていた。
僕は腰袋に入れた紙を気にしながら、門へと移動を始めた。発掘技師の集団から出ると、まだそこにいたジョージ中佐に声をかけた。
「ジョージ中佐! 坑道に入れて下さい!」
「君は――いや、今回の作戦に例外はない。明日にも部隊は到着する。封印されていた巨大な箱の調査も含めて、あとは軍にて執り行う予定だ」
「あいつらが潜んでいる場所が、わかるかもしれないんです。地層の調査を――」
「その話は聞いている。だが、そのために発掘技師を入れれば、護衛兵を投入せねばならん。今度の犠牲者は、数人では済まないかもしれん」
「でも、エディンが残した砂を調べるだけなんです!」
「帰り給え。話は以上だ」
僕の訴えを、ジョージ中佐はにべ無く退けた。
背後の発掘技師たちは俯いたり、視線を逸らしていた。皆、シンと静まり返ったまま、軍の上層部に対する文句や不平を口に出来ないでいた。
「あ――ちょっと待って!」
そんなとき、僕の後ろから青年の声があがった。
振り返れば、最奥で僕と拳銃の魔導器を見つけた青年の発掘技師が、両手を挙げながら近づいて来た。
「砂を調べるって?」
「えっと……はい。エディンが……昨日、眷属――化け物に寄生された僕の友だちが持っていた手紙に紛れていた砂なんですけど。それがどの地層の砂かわかれば、魔神の居所がわかるって思って……」
「なるほどね。砂自体は調べた?」
「はい。粘土とかはなくて、混ざり砂じゃないです。玄武岩や輝石もなくて、灰色の粗粒砂ばかりです。角が丸いやつも混じってますね」
僕の返答を聞いて、青年は少し考えた。
「灰色だと、花崗岩かな? それだと最深部あたりに多いね。ただ、角が丸いってなると……発掘で出来る砂じゃない」
「川の砂なんかが、角が丸まってるわね」
すぐ後ろにいた女性の発掘技士が、話に入って来た。年の頃は、二〇代後半だと思う。周囲の視線を気にするでもなく、小さく手を挙げていた。
僕と青年が振り向くと、その女性は微かに肩を竦めた。
「子どもの頃、少し離れた川で魚とか採ってたの。ご飯の足しにって。そのとき、足の裏についた砂は、角が丸かった気がする」
「じゃあ、昔に水が流れていた地層を調べれば――」
「最深部でそういう痕があるのは、五箇所くらいだ。それぞれ、場所は離れているけどな。調べるだけなら、そう時間はかからんだろう」
中年の発掘技師が、腕まくりをしながら近寄って来た。改めて周囲を見れば、発掘技師たちは一様に、力強い目をしていた。
あとから追いついてきたレオナが僕の横に来ると、最深部で班長をしていた発掘技師が、僕らの前に進み出た。
「わたしらから、提案です。最深部の調査に、一時間。時間をくれませんか。それで手掛かりが掴めれば、安いものでしょう。調査も班長職の十人くらいで事足ります。こいつは、俺たちにしかできない戦い方です。
任せてもらえませんか?」
「あ、あの――僕も行きます! 言い出しっぺですし、その、リーンアームドもありますから、少しくらいは身を護れます」
「もちろん、あたしも行きます。出来る限り、援護はさせて貰います」
僕に続いて、レオナもジョージ中佐に進言した。
ジョージ中佐は僕ら発掘技師たちを見回してから、なにかを言おうと一度は口を開きかけた。だけど、代わりに大きな溜息そのを吐いた。
護衛兵の一人を呼び寄せると、ジョージ中佐は小声でなにかを告げた。護衛兵は少し驚いた顔をしたけど、すぐに踵を返してどこかへ行ってしまった。
返答がないまま、数分が経過した。
僕らがジッと待っていると、先ほどの警護兵が戻ってきた。警護兵は、近くにいる僕らに聞こえるような声で報告した。
「揃いました! 調査は可能と判断、ということです」
その声に、僕らは静かに「よし」と拳を握った。
ジョージ中佐はなにやら複雑な顔で、再び拡声器を口に寄せた。
「調査を許可する。ただし、一時間だけだ」
その言葉に、班長は素早く動いた。
「よし、各班長を集めろ! 燃料と弁当になるもの、あとは道具だ。急げ!!」
周囲の発掘技師が、一斉に動き始めた。
僕も手伝おうとしたけど、それは班長に止められた。
「おまえも来るんだろ? なら、いざってときの体力は残しておけ」
「は、はい」
班長と別れた僕の横に、レオナが並んだ。
「いいね。良い雰囲気」
「うん。そう思う」
それから三〇分ほどで、すべての準備が終わった。発掘技師二人に対し、護衛兵が四人の構成で、僕たちは坑道内へと入った。
僕の班には班長が一人とレオナ、護衛兵にはファインさんとハービィさんが就いてくれた。
*
ランプの灯りを頼りに、僕は燃焼炉に燃料を入れはじめた。金属製の容器から、透明の燃料が燃焼炉に注がれていくと、鼻孔に刺さるような独特な臭いが漂ってきた。
容器の中の燃料をすべて入れ終えてから、僕は蓋をした。
最後に燃焼炉のレバーを思いっきり引っ張ると、ブフォン、という音がして、近くの照明が点灯した。
「よし――サンプルは全員に配ったし。俺たちは俺たちで始めよう」
僕がいるのは、眷属に寄生されたワームに襲われた場所だ。
あの砂と似たような地層の一つは、ここだ。班長と僕は地層の表面を確認しながら、表面を削り落としていった。
「……ここは違うか。花崗岩なのは間違いないが、角の丸まった砂はなさそうだ。俺はこのあたりを全体的に見てきたが……多分の場所も似たようなものかもな」
「そんな……」
班長の話を聞いた僕は、絶望感よりも頭を忙しく働かせるほうに集中していた。
折角の機会なのに――ここで簡単に諦めたら、エディンの死がまったくの無駄になる。そう思いたいだけかもしれないけど……エディンを掴み損ねたときみたいな、後悔はしたくなかった。
もっとほかに、怪しいところは――と、忙しく周囲を見回した僕は、枝道の一つで目を止めた。
エディンが、キノコが生えている場所を教えてくれたところだ。色々あって、その一回しか行ってないけど――そこまで記憶を遡っていた僕は、やっと気づいた。
「僕は、馬鹿だ」
エディンは最初から、僕に答えを教えていてくれていた。それに気がつかず、見当違いな考えで、随分と大回りをしてしまった。
呆然と枝道を見ている僕に、ファインさんが怪訝な顔で近づいて来た。
「どうしたの?」
「あの場所……」
僕の呟きに、表情を引き締めたレオナが前に出た。
どうやらレオナも思い出したみたいだ。あの先には、地底湖があるってことに。キノコも、あそこで摂れるものだ。
レオナは班長に、燃焼炉から照明に伸びているケーブルを指さした。ケーブルは、途中で大きく蛇行している。
「班長さん。あの照明って、そこの枝道の先に持って行けます?」
「さあな……長さは少し足りないかもしれないが」
「光が届けば充分です。アウィン、そういうことよね?」
「うん。ハービィさん、手伝って下さい」
僕とハービィさんとで、照明を枝道に運んだ。ケーブルはギリギリ届かなかったけど、照明の光は地底湖の奥まで照らし出した。
地底湖の奥行きは、五〇リン(約四十七メートル)ほど。幅は……照明の光では補い切れないほど広かった。
地面は岩質だけど、増水することもあるみたいで、砂が敷き詰められているような状態だ。
まずは地面の砂を調べるべきなんだろうけど、僕の目は違う場所に釘付けになっていた。いや、正確にはここに来た全員がだ。
照明の光によって照らし出された天井には、無数の蜘蛛の糸が張り巡らされていた。白く光を反射する糸は、斜め左方向に見える大穴へと続いていた。
僕らから見て、その大穴は地底湖の対岸にある。水面すれすれにある大穴は、高さだけでも一〇リンくらいはある。
その縁に、白い物が動いていた。蜘蛛に似たそれは、間違いなく眷属だ。
レオナが、素早く動いた。
右腕の魔力弾を、眷属に向けて連射した。そのうちの数発を身体に受けた眷属は、体液を撒き散らせながら、大穴の縁から消えた。
静寂が戻ったとき、最初に口を開いたのは、ハービィさんだった。
「大当たりってわけか。すぐに報告しねぇと……」
「みんなは、ここから退いて。あたしは、ここを見張っておくから」
「それなら……僕もいなきゃ。護りはいる……でしょ?」
僕は、油断泣く銃口を構えるレオナの左後ろに移動すると、リーンアームドに右手を添えた。
僕の声は、自分でも驚くほど震えていた。
ファインさんは驚いた顔で、僕の右腕を掴んできた。
「駄目よ! 軍の命令だもの。みんな、地上に戻るの」
真剣な顔で説得してくれるファインさんに、僕は首を横に振った。
「班長と一緒に、地上に行って下さい。僕らは最悪、結界で護れますから。軍に報告をお願いします」
「アウィン……もう、遅いわ」
緊張感の増したレオナの声に、僕は大穴を見た。
イヤに細い腕を穴の縁にかけたベベリヌが、その蜘蛛に似た目を僕らに向けていた。
0
あなたにおすすめの小説
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最弱弓術士、全距離支配で最強へ
Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」
剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。
若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。
リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。
風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。
弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。
そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。
「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」
孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。
しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。
最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる