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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

発掘都市アーハム襲撃 その6

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 発掘都市アーハム襲撃 その6


 アーハムに戻った僕たちを出迎えたのは、ジョージ大尉と護衛兵たちだ。
 ファインさんやハービィさん、それにグレイさんの姿はないから、多分だけど僕らの知り合いは連れてきていないようだ。
 魔造動甲冑から人間の姿に戻ったレオナが、僕を抱きかかえながら着地をすると、ジョージ大尉が前に進み出た。


「諸君らの助力に感謝する」


「いえ、その、念のため準備してたら、大岩が降ってきたので……つい、出しゃばっちゃいました」


「それより、魔導器を装備した敵兵への対処がされてないように思えます。訓練とかはしてないんですか?」


 皮肉というわけではなさそうだけど、レオナはかなり呆れているようだ。
 ジョージ大尉は、背後に控えている警護兵に聞こえないよう、二歩ほど僕らに近づいてから答えた。


「前線の兵にはするが……街の守備については、そこまで手が回らないのが現状だ」


「ああ、理解しました。道理で、ゴブリンやワーグ程度に手こずってたわけですね」


「そう言わないでくれ。限られた人員で、精一杯はやってるんだ。ところで、今回の敵はかなりの手練れだった。恐らくは精鋭部隊だと思われるが、やつらがこの街を襲った理由は、見当がつくかね?」


「御言葉ですが、大尉。やつらの目的など、見当がつくものではありません。単なる破壊活動かもしれませんし、補給を絶つための作戦だった可能性だってあります。あとは……復活した魔神と合流を果たすため、とか。あ、そういえば」


 レオナは周囲を見回してから、ジョージ大尉に訊いた。


「魔神の死骸は、どうしたんです?」


「あれは、街の北側にある駐屯地で保管している。まだ、あの封印用の巨大な箱は発掘できていない。それまでは、現状維持だ。調査も研究もさせるつもりはない」


「懸命だと思います、大尉。活動は停止してますが、どこまで死んでいるかわかりませんし。さっさと封印するのが最善手でしょう」


 軍人らしい口調で話すレオナに、僕はどこか違和感を覚えていた。元軍人なんだから、別に変ではないはずなんだけど……。
 どこか、胸の奥がもやっとする。
 ジョージ大尉と別れた僕とレオナは晩ご飯を食べに、いつもの通りへと歩き始めた。

   *

 金の砂塵亭での夕食を終えた僕らは、夜の九時過ぎに帰宅した。
 僕が風呂掃除をしていると、水着みたいな補助アーマー姿になったレオナがやってきた。


「アウィン……ちょっといい?」


「どうしたの?」


「右腕の調子が、少し悪くて」


「そうなの? 少し待ってて」


 僕は急いで工具を取ってくると、レオナを椅子に座らせた。
 右腕の点検口を開けて、内部の伝導板や水晶を確認する。一つ一つ確認していくと、部分的に焦げてるヤツを見つけた。
 魔術文字は……まだ、判別はできる。


「これだと思うよ。ちょっと待っててね」


 僕は工作室に戻ると、新しい伝導板に魔術文字を書き写す。それからレオナのところに戻ると、伝導板を差し込んでから固定した。


「どう?」


 調子を確認する僕の問いに、レオナは右腕を動かしてから振り向いた。


「うん。いいみたい。なんか、ゴメンね。手間かけさせちゃって」


「あ、いや……それは、大丈夫だよ」


「ふぅん。魔導器オタクだから、弄るのが楽しい……とか?」


 微笑んではいたけど、レオナの表情にはどこか不安の色がみえた。
 僕はレオナの点検口から最後の確認をしながら、答え始めた。


「そういうんじゃないよ。小さいときとか、親が病気や怪我をしたとき、なにもできないのが悔しくて。でもレオナの不調は……全部じゃないと思うけど、でも治せる部分があるんだよね。それが……ちょっと嬉しいんだ。
 こんなの、ずっとしてたってイヤにならないよ」


「え――あ、ずっと?」


「ずっと、だけど。なんで?」


 レオナの顔が赤くなっていることに、僕はまだ気づいてなかった。
 点検口を閉じてからレオナの顔を見た僕は、きょとんとした。耳まで顔を真っ赤にして、俯いてしまっている。
 なんで赤くなってるんだろう――と思っていたら、レオナが上目遣いに潤んだ瞳を向けてきた。


「……そーゆーこと言うの、あたしだけじゃないじゃない」


「え? そういうことって……」


「ずっと一緒にいたいとか、そういうこと……だよね? それって、アウィンがよく言ってた――」


 レオナの言葉の途中で、僕は気づいた。
 さっき言ったことって、その、あの――と、考えた途端、僕の思考は麻痺した。顔が熱くなるのを感じながら、あわあわと狼狽えてしまった。


「あ、あの、そーゆーことじゃ……でも、一緒にいたいって気持ちはあるし、えっと……な、なんか、ごめん……」


「……謝ることでも、ないと思うけど」


 レオナは指先で、僕の袖を掴んだ。
 甘えてきてるのがわかって、僕はそっとレオナの腕に触れた。いや、これ以上なにかやるわけじゃないけど、これだけで幸せな気持ちになるなんて。
 レオナと出会う前では、考えられなかった。

 それから――お互いに照れが収まるのを待って、交互に風呂に入り、就寝したわけだけど。ジッとこっちを見てくるレオナの視線に、僕はなにかをしなきゃという衝動に駆られ――たけれど。
 なにをすればいいのか分からなくて、結局はそのまま寝てしまった。
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