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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
新たな知恵 ~セントの場合
しおりを挟む新たな知恵 ~セントの場合
アーハムの街にある魔導器の修理屋、《復元工房》は街の襲撃後、繁忙期に突入した。戦いで破損した魔導器の修理依頼が、大量に舞い込んできた――という事だった。
そんなわけで、僕は店長であるダグラスさんから直接に頼まれて、バイトに来ていた。
大きくへこんだ鎧の板金を、僕は裏側から叩き直していた。
レオナは《金の砂塵亭》でバイト中だ。終わったら、こっちに来るって言ってたけど……遅くなるから、先に帰っていてもいいのに。
鎧の伝導板の確認をしていると、ダグラスさんが近寄って来た。
「……すまんな。おまえさんたちも大変だろうに」
「あ、いえ。寧ろ、少しだけ楽になってます。色々とあって、給料も上がりましたし」
「ああ、その噂は聞いている。なんとかって軍人の後押しらしいな」
流石に客商売、特に軍人や護衛兵を相手にしてるだけあって、耳が早いなぁ。
僕は「ええ、まあ、そんな感じです」と、内容を濁した。詳細を話し始めると、長くなるし……僕もどこまで理解しているか、非常にあやしかったりする。
そんな僕に、ダグラスさんは珍しく冗談めかした表情で大きく息を吐いた。
「なんだ、便利に使われた挙げ句、気づいたら軍に編入されてた、ってのは勘弁してくれ。正直、おまえさんがいないと、商売が回らないときが増えてきた」
「あ……ファインさんに、近いことを言われましたしね。気をつけます」
「ああ、もう動いてたのか。気をつけてくれよ、頼むから。なにせ、あの魔神だったか。あいつを封印した箱を調査するために、軍のお偉いさんが来るらしいからな」
「え? あの大きな箱が発掘されたんですか?」
「いや……見つかったかもしれん、という噂でしかない。ともかく、用心することだ」
「……そうします」
僕が乾いた笑いを浮かべたとき、セントさんが僕を呼んだ。
「アウィン、あの魔導器ちゃんが来たぞ」
「あ、ありがとうございます」
セントさんに会釈をしてから、開かれたシャッターを振り向くと、ワンピースを着たレオナが立っていた。
僕が手を振ると、レオナは口元に笑みを浮かべながら、工房に入ってきた。
レオナは、布巾が被せられた皿を片手に乗せていた。
「これ、おかみさんから。余り物なんだけど、食べてって」
「えっと……鶏の唐揚げ?」
「そうなの。少し多めに造り過ぎちゃったって。今日はスープのほうが売れちゃってたから。発掘技師だけなら、こんなことはないんだけどね……」
「え? ほかのお客さんが来てるの?」
《金の砂塵亭》は発掘技師が多く住む区画にあるから、客層は発掘技師しかない、と言っても過言じゃないはずなんだけど。
そんな僕の疑問に、レオナは肩を竦めた。
「最近、何故か護衛兵の客が増えてるの」
「ああ、それならお嬢ちゃん目当てだろ。そんな噂を聞いたぞ? 勝利の女神というか、姐さんというか、そう思っている奴らが増えてるらしい。昨日の襲撃で、さらに増えるんじゃないか?」
「……あ、そういうことですか。でも、困ったなぁ。あたしが原因だと、バイトできなくなっちゃう。お店に来てる発掘技師と護衛兵が、少しギスギスとしちゃって……」
「そんなら、おまえさんがひと言、護衛兵に言ってやればいい。仲違いすんなってな。それで、少しは大人しくなるだろ」
「それもなんだか……まあ、背に腹は代えられませんし、やってみますけど」
あまり、普通の女の子から逸脱したことは、日常ではやりたくないんだろうな……レオナは、あまり乗り気じゃない感じだった。
ダグラスさんが自分の作業に戻っていったとき、入れ替わりにセントさんが近寄ってきた。
「アウィン……そして魔導器ちゃん。俺はあれから、色々と反省したんだ」
やけに真面目な顔をしているセントさんに、僕の脳裏に言いしれぬイヤな予感というものが去来した。なんか、こういうときのセントさんは、碌なことを言わない気がする。
僕とレオナが警戒していると、セントさんはグッと握った拳を小さく突き上げた。
「俺が触ったり揉んだりするのは、さすがに軽率だった。そして、女の子から触ったりしてくれっていうのは、図々しかったよ」
なにやら真面目なことを言っている。本気で前の発言を省みたんだな――と思っていたら、まだセントさんの発言は続いていた。
「だから、俺は考えた。どうすればいいか、反省も踏まえて導き出したのは――」
セントさんは、いきなり床の上で大の字になった。
「さあ、魔導器ちゃん。俺を踏んでくれ! 思う存分! ぐいぐいっと!」
……この人、なにを言ってるんだろう?
唖然としている僕の横で、レオナは半目になっていた。
「……アウィン。踏めって言われてるし、この人の頭を踏み砕いてもいいのかな。本気でやれば、それくらいはできそうなんだけど」
「いや、その……ほどほどに加減してあげて――じゃなくて、やるだけ喜ぶだけだと思うよ」
「むー」
レオナが少しむくれた顔をしたとき、僕らの背後からダグラスさんが現れた。
ダグラスさんは大の字になって寝そべっているセントさんを睨むと、怒気を孕んだ声で告げた。
「……そんなに踏んでほしけりゃ、俺が踏んでやろうか」
「あの、その……」
怯えたように床を這うセントさんに対し、ダグラスさんが怒鳴り声をあげた。
「遊んでないで、さっさと仕事しろ!!」
「は、はいっ!」
大慌てで自分の作業台に戻って行くセントさんを睨んでから、ダグラスさんは溜息を吐いた。
「まったく……黙ってれば腕の良い技師なのにな」
それについては、僕も概ね同意見だ。
一体、どこに向かっているのやら……セントさんの煩悩の行く末が、すこぉしだけ心配になった今日この頃だった。
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