56 / 57
消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
邪な神託を求めて~そして封印へ その8
しおりを挟む邪な神託を求めて~そして封印へ その8
一ヶ月後。
発掘技師たちの努力によって、《箱》の修復は完了した。ただし、完全な復元には至っておらず、所々は歪みを残していた。
復元を行っている期間、旧第三坑道では急ピッチで縦穴が掘られた。
半径は約五リン(約四メートル六〇センチ)、深さは約二〇リン(約一八メートル八〇センチ)。《箱》のすぐ前へと通ずる縦穴は、魔神の身体を運び込むためのものだ。
技術部隊のクレーンで、関節ごとに切断、または肉体をブロック単位に切り分けられた魔神の身体が《箱》の前へと降ろされていた。
そこから、再びクレーンで身体の各パーツが《箱》の内部へと収められていった。
運搬や切断作業を含め、二日がかりで魔神を《箱》に収め終えた日の夕刻、厳重な警戒の中、ジョージ大尉の指揮で一人の男が《箱》の前へ連れてこられた。
袋を被らされた頭部は常人よりも大きく、それに歪な形状だ。 身に纏った白衣は薄汚れており、何日も入浴していないらしく、身体からは汗の腐ったような臭いが漂っていた。
両腕の手枷に繋がれた鎖は、前を歩く兵士の手まで伸びている。
足の裏から伝わる感触、そして周囲に漂う土埃――それらの情報から、その人物は自分がどこを歩いているのか理解したようだ。
「お、おい……わたしを何処へ連れて行くつもりだ? 牢に……牢に戻してくれっ!!」
袋の中で喚くアラド元技術長は、あれほど逃れたかった牢へ戻ることを渇望していた。外患誘致、裏切り――それらの罪を犯した軍人の末路など、一つしかない。
そして、牢から出されたということは、刑の執行が近いということだ。
アラド元技術長が《箱》の前に到着すると、ジョージ大尉は厳しい目を向けた。
「アラド技術長――とても残念だ。君とはあまり良い関係ではなかったが、それでも功績と実力は、ある程度の評価はしていたのだよ。それが裏切り――全人類への裏切りとはな」
「ち――違うんだ、大尉。わたしは……夢で――そう、夢の中で、あの神からの甘言に騙されてしまっただけなんだ。
それを証拠に、今のわたしの姿を見るといい。哀れなものだろう? 罪は充分に受けているようなものじゃないか。そうだろう?
こんな姿になったわたしを死罪など――それは非情過ぎる処分だと思わないか」
「ああ……神の言うことももっともだ。だから、安心していい。君は死罪ではない」
「え――? ほ、本当か?」
声に感謝と喜びが入り交じったアラド元技術長は、ジョージ大尉の声がする方向へ拝むような仕草をした。
そんな姿を前にして、ジョージ大尉は感情を押し殺した声で告げた。
「アラド技術長殿を中に入れろ」
「――はっ」
短く応じた兵士が、鎖を引っ張りながらアラド元技術長を《箱》の中へと連れて行った。鎖の先端を魔神の亡骸に縛り付けた。
周囲が薄暗くなったことに気づいたアラド元技術長が、不安そうに周囲を見回した。
「ジョージ大尉、大尉! ここは何処だ!? なにをするつもりだ!?」
「アラド――君に執行される刑は、封印だ。魔神の身体とともに、《箱》に封印されてもらう。これは、軍の参謀本部並びに、総司令部からの命令だ」
「そ、そんな――そんな!!」
生きたまま封印など、拷問よりも凄惨な末路が待っている。餓死が先か、それとも狂うのが先か――どちらにせよ、それは死刑宣告よりも遙かに地獄だ。
ジョージ大尉は、アラド技術長の絶叫を無視して、部下に命じた。
「閉じろ」
クレーンや人力を総動員して、《箱》の大扉が閉じていく。
アラド元技術長は逃げようと藻掻いたが、鎖に繋がれて《箱》から出ることはできなかった。
大扉が完全に閉じると、もう声は聞こえなくなった。
「総員、クレーンの解体を始めろ! 資材は縦穴の上にあるクレーンで引き上げる。すべての資材、そして人員の退避後、坑道の爆破を行う」
ジョージ大尉の命令で、兵士たちは行動を開始した。
*
僕がアラド技術長――元技術長の刑の執行を聞いたのは、第三坑道の爆破が行われた翌日のことだった。
生きたまま封印という刑に、僕は複雑な気持ちになっていた。
「……アウィンが責任を感じることなんか、なんにもないのよ?」
刑の執行を教えてくれたファインさんは、そう言ってくれたけど……もっと違う結末はなかったのかと、思わずにはいられない。
第二坑道での仕事を終えて帰宅する途中、護衛兵の集団とすれ違った。
「おい――あれって噂の」
その声が聞こえてきた突端、隣を歩いていたレオナが僕の腕を引っ張った。
早足で歩いて護衛兵から離れると、レオナは怒りを抑えるような顔で、大きく息を吐いた。
僕はレオナに、力なく言った。
「あ、レオナ? 噂のことなら知ってるから。化け物って言われてるの」
「知ってたの!?」
驚いた顔のレオナに、僕は頷いた。
大体のところはダグラスさんから聞いてるし、なにやらヒソヒソ声で話している光景を見れば、さすがに想像がつく。
そういう陰口を言われるのはイヤだけど、問答無用で襲われるよりはマシだ。
レオナは脱力した顔をしながら、大きく息を吐いた。
「知ってたなら、教えてよ……でも、酷い話よね。助けて貰ったのにさ」
「仕方ないよ。そう見えちゃったんでしょ。噂に対して僕が出来るのは、普通の人間でいることくらいだよ」
「噂が収まるのを待つ……か。消極的だけど、それしかないのかな」
そこで、会話が途切れた。
そのまま僕らが帰宅したんだけど、玄関の前でジョージ大尉が待っていた。
「待ってたよ。少し話があるのだが……」
「イヤな話ですか?」
レオナの問いに、ジョージ大尉は僅かに視線を逸らしながら「まあ、そんなところだ」と答えた。
「アーハムと同じく、発掘都市と呼ばれるフォーリアという街があるんだが……そこで、《箱》が発見された。その《箱》を開けようと、街の軍が動いているらしいのだが」
「開けないで下さい。そして、埋め直して下さい」
「僕もそう思います。開けないで、埋めましょう」
僕らが口を揃えて《箱》を埋めるよう提案したけど……ジョージ大尉は深い溜息を吐くだけだった。
「実は、そう返信をしたのだが……意地でも安全に開けると言ってきた。そこで、君たちに援護を依頼したいと……」
「絶対にやめさせて下さい」
僕とレオナは、同時にジョージ大尉へ詰め寄った。
一難去って、また一難。できれば……藪は突かないで欲しいと、切にお願いしたい。
完
---------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
約二ヶ月間、駆け抜けました……。
読んで頂いた方々、並びに投票して頂いた方々、本当にありがとうございました。
投票開始日から、順位アップしてました。
続きは、間が空くと思います。状況次第ですけど。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
ありがとうございました! またの機会に、よろしくお願いします!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる