最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか

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弟四章『地下に煌めく悪意の星々』

三章-7

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   7

 ユタさんの案内に従って、俺たちは海岸沿いに移動を続けていた。一時間も進んでいると、遠目に入り江が見えてきた。ユタさんによれば、あの入り江に件の町があるらしい。
 ここからでは、町が良く町が見えない。入り江の周囲にある岩場しか……と目を細めていると、ユタさんが苦笑した。


「あの岩場までが、緩やかな傾斜になっていてね。登り坂になっているのよ。あの岩場まで行けば、町が見下ろせるはずよ」


「そうやって、人目から隠されていたんですか?」


「最初は、そういうわけじゃなかったみたいよ。だけど何十年も昔に、あたしたちみたいな存在が便利に使い始めたのよね。そこからは、まあお察しの通りよ」


 つまり、密偵御用達の町ってことか。でも、商人なども来てないっぽいんだけど、どうやって生活をしているんだろうか、謎だ。
 そんな俺の疑問に、ユタさんはパタパタと手を振った。


「他の街に買い出しに行ったり、漁で生計を立ててるわ。そんな心配より、早く行かない?」


 それは確かに、そうなんですが。
 俺はユタさんに促されるまま、馬車で斜面を登った。町は、ホウよりは少し小さめだ。港もあるが、漁港といった感じで、交易船などは停泊していない。
 三台の馬車が町に入ると、町の門の横にいた男が、こちらをジロッと見てきた。
 俺たちが町の旅籠屋に近づくと、中から数人の男たちがやってきた。ぱっと見には平民に見えるけど、その物腰は剣客のそれに近い。
 ……六人、か。
 男たちは、俺たちを囲むように広がった。俺やアリオナさんと一緒に、周囲を見回していたユタさんが、いきなりスクッと立ち上がった。


「これは、どういうことかしら? 久しく来てなかったけれど、あたしの顔を知らない人ばかりになったわけ?」


「……ユタ、か」


 男たちの背後から、中年の男が進み出てきた。白髪交じりのブラウンの髪を、うなじのところで一本に纏めていた。前髪もそれなりに長いのか、前頭部はオールバックみたいな髪型になっていた。
 男たちと同様に平民らしい服装をしているが、老獪という言葉が似合う、厳つい顔つきをしていた。
 ユタさんはその中年男に、不遜な顔を向けた。


「リチャード、久しぶり。それで、これはなんのつもり?」


「久しぶりに来て、態度がでかいな。おまえさんがいるってことは……これはカーター家の馬車か。秘蔵っ子が、隊商をやっていると聞いていたが」


「その通りよ。だけど、それがどうしたの?」


「おまえたちを、ここで拘束させて貰う」


 リチャードという男が小さく手を挙げると、俺たちを取り囲む男たちが、一斉に短剣を抜いた。
 それを見て、ユタさんは珍しく怒気を露わにした。


「これは、どういうつもり?」


「命により、おまえたちを拘束する」


 リチャードの発言に、俺は御者台に置いてあった長剣を手にした。
 ここにもすでに、チャーンチの手が回っていたのか――そう思っていたんだが、リチャードが発した言葉は、その予想を裏切った。


「おまえたちには、王家反逆の嫌疑がかかっている。大人しく捕まるならよし。さもなくば命はないと思え」


「……なんですって? あたしたちが王家に反逆しているとか、なんの冗談よ」


「……冗談ではない。国王の勅命である」


 リチャードが断言すると、さすがのユタさんも狼狽えた。
 俺は長剣を鞘ごと掴んだまま腰を浮かすと、短剣を手にした男たちが一斉に身構えた。


「……待って下さい。争うために動いたわけじゃありません。反逆の嫌疑と言っていたわりに、捕まれと言うのは何故です? 普通なら暗殺になると考えますが」


「国王も、真偽がわからぬまま暗殺はできぬと仰有っているようだ」


「……真偽がわからぬのに、俺たちを捕まえるんですか? それは……俺からしたら意味がわかりません。王城で、なにがあったというのですか」


 俺の問いに、リチャードは大きく肩を揺らした。なにか検分するように目を細めると、腕を組んだ。


「……エルサ姫からもたらされた告発らしい。それ以上は、知らん」


「エルサ姫から?」


 そう声を発したのは、エリーさんだ。メリィさんの制止を、やんわりと制してから馬車を降りると、俺の居る位置まで進み出た。


「それは変ですわ。このクラネスさんが、制度としての議会制を広めようとしている――と。王家を長く存続させるためためにもなるからと、エルサ姫にお話をしたのは、わたくしです。それが、どうして反逆という話になったのでしょうか?」


「貴様は……?」


「わたくしは、ファレメア国、フォンダント侯爵家の末娘。エレノア・フォンダントと申します。チャーンチをいう一団に国を奪われ、ここまで流れて参りました」


 優雅な所作で会釈をするエリーさんに、リチャードは訝しげな顔をした。


「ファレメア国の御令嬢だと? 証拠もなしに、そんな話を信じることはできぬ」


「証拠は……こちらでは不足でしょうか」


 エリーさんは、首元から首飾りを取り出した。それには、紋章の刻まれた指輪が、ぶら下がっていた。
 配下の一人を護衛代わりに引き連れたリチャードは、エリーさんの首飾りを手に取った。


「……確かに、見覚えがあるな。ファレメア国の侯爵家の紋章だ。だが、これが盗品ではないという保証もないが」


「そうですわね。ですが、情報を扱っているのでしたら、エルサ姫が市場に訪れたとき、このクラネスさんの隊商を訪問なされたことをご存知ではありませんか? そこで、わたくしとメリィは、エルサ姫からお茶会に誘われましたの」


「……その話が真実が、確かめる術はない」


 エリーさんの話を聞いてもなお、リチャードの態度は変わらない。彼の配下が、俺たちを取り囲みながら、その範囲を狭めていく。
 こんなところで、無駄な時間を費やす余裕はない。俺が長剣の柄に手を掛けると、ユタさんが片手で制した。


「……駄目よ。ここで抵抗をすれば、それこそ王への反逆を肯定することになるわ」


「じゃあ、捕まれっていうんですか? 弁明の機会すら、あるかわからないのに。それにチャーンチが王城に潜んでいる以上は――」


「クラネス君、落ちついて。チャーンチについては、リチャードに説明しておくから。あとは……あたしに任せて」


 エリーさんは俺から離れると、リチャードを睨めながら馬車を降りた。


「指示には従ってあげるわ。だけど、エリーが言ったことの真偽は、確かめてくれるんでしょうね。エリーの話が真実なら、下手なことをすれば、それこそ問題じゃないかしら」


「わかっている。だが、それまでは牢に入っていて貰う」


「……仕方ないわね」


 ユタさんとリチャードの会話を聞きながら、俺は焦れていた。俺の《力》を駆使すれば、ここを無傷で脱することも可能だけど……。
 ユタさんは、いつになく真剣だ。
 俺は不安げなアリオナさんの肩を抱きながら、周囲を見回した。クレイシーも空気を読んでいるのか、抵抗の意志を見せていない。
 リチャードたちに促された俺たちは、町の縁にある地下牢へと入れられた。

   *

 ウーエイとヴェムは偽装船から降ろした小舟で、入り江の町の港へと入港した。
 漁師たちの注目を浴びる中、上陸をしたウーエイとヴェムは、近くにいた男に話しかけた。


「すまない。ラオンに来た交易船なのだが、海路で迷ってしまい、食料などが尽きそうなのだ。食料の補給をしたいのだが、この町で可能だろうか?」


「補給? ここで分けてやれるのは、魚くらいだ」


「魚……か。それでも構わない。その店か商店に、案内を頼めないだろうか」


「商店というか……旅籠だな。ここで獲れた魚は全部、そこへ持って行くからよ」


「わかった。頼む」


 ウーエイとヴェムが男の案内で旅籠へ向かう。その途中で、三台の馬車の横を通り過ぎた。
 ヴェムは横目で馬車を眺めていたが、やがてハッとした顔で、案内をする男へ声をかけた。


「すまぬが……ここに隊商が来ておるのか? ホウの町で見た馬車があるようだが」


「……いや、来ていないな。あの馬車は……なんだっけな。町の誰かの馬車じゃないか? ホウの町へは、魚を売りに行ったりするからな。そのときの馬車を見たんじゃないかな」



「ふむ……そうか」


 険しい顔をするヴェムに、ウーエイは顔を寄せた。


(どうした?)


(いや、あの男の言葉……嘘だな。これは直感だが、少し調べる必要があるかもしれん)


 ヴェムの直感という不確かな意見に、ウーエイは眉を寄せた。だが、熟練の戦士の直感というのは、馬鹿にできない。


(わかった。巧くやってくれ)


(承知)


 そんな小声での会話をしていると、男が立ち止まった。


「そこの二階建ての家が、旅籠だ」


「ああ、ありがとう」


「俺は、少し町を見て回りたい。構わぬだろう?」


 ヴェムの言葉に、ウーエイは男へ肩を竦めてみせた。


「始めて来た町だから、好奇心が疼くみたいだ。迷惑はかけんだろうから、散策をさせてもいだろうか?」


「まあ、それくらいならいいだろ。家の中を覗いたりはしないでくれよ」


「ああ、わかった」


 ヴェムとウーエイは目配せをすると、お互いに別の方向へと歩き始めた。
 呑気に歩くような仕草で周囲を見回すヴェムは、町の至る所から視線を感じた。だが、視線の主を見ることはできない。


(ふむ……これは、大蛇が出るかもしれんな)


 ヴェムは疑念が表情に出さないよう気を配りながら、町の中を歩き始めた。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

まあ、こーなるよねって話になりました。強行突破は格好良いですが、そのあとのことを考えると、少数ではやりにくいですね。やるなら、それこそ敵ではない集団の皆殺し――もしくは気絶なりさせて拘束なんでしょうが。
それでも、王の命令や勅命には逆らったという事実が残り、今度は派兵された討伐隊みたいなのとの戦いになるわけで――。

これをやると、文字通り国力を削ってしまうためにチャーンチの収奪を手助けしてしまうというですね。ユタはこれを懸念しています。一応の補足として。

というわけで、次回から四章突入で御座います。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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