最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか

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第三章『不条理な十日間~闇に潜む赤い十文字』

四章-2

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   2

 早朝に、俺たちは町を出た。しばらくは町の衛兵たちも同行したけど、それも二、三〇分くらいのことだ。
 旅の無事を祈りますと告げた衛兵たちは、町へと戻っていった。
 馬車列は、雑木林に入ったばかりだ。木々に囲まれているとはいえ、まだ周囲は明るい。上を見上げれば空が見えるし、雑木林の外から陽光も差し込んでいる。
 手綱を操りながら〈舌打ちソナー〉をしている俺の厨房馬車に、メリィさんの操る馬車、そして二頭の騎馬――フレディとクレイシーが近寄って来た。


「若――来ると思いますか?」


「噂が流れているのなら、多分。この先にある、視界が悪い場所で襲撃が一番、可能性があると思う」


 俺の〈舌打ちソナー〉に、視界は関係無い。どんなに鬱蒼と茂った森だろうが、その中に落ちている金貨一枚だって見つけられる。
 どんなに巧妙に潜んでいようが、見つけ出す。見つけ出してみせる。
 返ってくる〈舌打ちソナー〉が伝える周囲の景色を感じながら、俺はフレディとクレイシー、それからメリィさんの順番に、首を巡らせた。


「そのときがきたら、作戦通りに」


 と、仕切るようなことを言ってみるけど、そんなの理解している人たちばかりだ。
 俺が小さく手を挙げると、フレディとメリィさんたちの馬車が離れた。クレイシーは厨房馬車に移ってくると、俺が彼の乗っていた馬へと移動する。
 そう――作戦通りに。
 このままだと……あと十数分くらいか。二〇を超える集団が、街道の左右に潜んでいるのを感じ取ったんだ。
 俺は馬車の壁をノックして、中にいるアリオナさんに合図を送ってから、鐙で騎馬の腹を軽く叩いた。
 俺が前へ出るのを、騎士や兵士たちが訝しそうに見てくる。


「どうしたんだ?」


 先頭にいた騎士に、俺は馬を寄せた。


「山賊の襲撃がある――かもしれません。弓矢に警戒を」


「そんなことは、すでに心得ている。いつでも――」


「もうすぐ、来るかもしれないんです。今すぐに、警戒をして下さい。死にますよ」


 俺は長剣を抜くと、〈舌打ちソナー〉を連続で使った。この先にある木の上に、弓を携えた人影が、四名。その奥に、一六……いや、一七名が控えている。
 弓が四名……すべてを防ぎきるのは、ちょっと難しいか。俺は長剣の刀身に手を添えて、そのときを待った。
 反応的にも、もうすぐで弓の射程に入る……と思う。平地ならとっくに射られているだろうけど、雑木林では障害物が多いため、よほど接近しないと射られることはない。
 ただ、それはもう一方で、相手とかなり接近している状態でもあるということだ。弓矢のあとすぐに、敵の本隊が雪崩れ込んでくるはずだ。
 緩やかに曲がる道を進んでいると、〈舌打ちソナー〉が弓を構えた者たちが矢を番える像を伝えてきた。
 それを大人しくなっているなんで、そんなことはしない。

 先手必勝――。

 俺は矢を番えた四人へと向け、《力》を放った。
 いつもの〈共振衝撃波〉だが使い慣れている分、効果は絶大だ。四人が木の上から落下する像が返ってくるのを確認してから、俺は声を張り上げた。


「敵襲っ! 山賊らしき敵が潜んでいるぞ!!」


 俺の声は《力》によって隊商すべて、そして山賊たちへと響き渡った。
 弓矢による奇襲が失敗し、さらに潜伏していることすら知られたとなれば、やることは一つだろう。
 声が響き渡った直後、雑木林の奥から馬の嘶きや怒号が聞こえてきた。
 木々のあいだから、山賊らしい男たちの姿が見えてきた。前の方へと集まった騎士や兵士たちが、一斉に抜剣する。


「フレディ、エリーさん!」


 俺は馬首を巡らすと、厨房馬車の近くまで戻った。


「若、本当に宜しいので? わたしだけでも――」


「いや、みんなで山賊をお願い。暗殺者のほうは、俺とアリオナさん、クレイシーでなんとかする。とにかく、味方に死者を出さないで下さい」


 最後の言葉は、メリィさんも含めた三人に告げたものだ。
 俺は厨房馬車から出てきたアリオナさんを俺の後ろに乗せると、公爵の馬車へと近寄った。
 見るからに上品そうな御者に、俺は馬車列の後ろへと指を指し示した。


「公爵様の馬車は、後ろへ!」


「は、はい!」


 俺の指示で、公爵の馬車は街道を戻っていく。俺は手綱を操って公爵の馬車を追い越すと、先導するかのように前へと出た。
 クレイシーの騎馬は馬車の後方に位置している。前後で挟むようにしながら、俺とクレイシーは公爵の馬車を馬車列から引き離した。

 ――この辺りでいいか?

 町の衛兵たちと別れた付近まで来たところで、俺は速度を緩めながら、馬車を停めるよう御者に身振りだけで指示を出した。
 小窓から顔を出したミロス公爵が、俺へと目を向けた。 


「クラネス! 騎士たちと離れたのは、拙いだろう。早く戻った方がいい」


「……いえ、ミロス公爵様。奴らの中には弓矢を持っている者がおりました。火矢を使われては、御身が危のうございます。矢が届かない場所までと――ここまで避難致しました」


「ふむ……なるほど。しかし……騎士や兵士たちの安否が心配だ。戻ったほうが良いのではないか」


「向こうには護衛兵のフレディや、魔術の使える者がおります。怪我人は仕方ないでしょうか、死人を出さないことを最優先にするよう、指示をだしています」


 俺の説明を聞いてもミロス公爵は、まだ納得をしていないようだった。


「それほどの実力があるというのかね? 騎士たちを護れるほどに」


「ええ。保証しますよ。わたしが言うのもなんですが、凄腕です」

   *

 雪崩れ込んでくる山賊たちの先陣は、四騎の騎馬だった。錆びてはいるが、槍を携えた彼らは、得物のリーチを生かして騎士たちに突っ込んでいく。


「野郎ども、ザックの弔いだっ! 公爵諸共、皆殺しにしてやれ!!」


 先頭の山賊が腕を振りながら叫ぶと、雄叫びが上がる。血と殺戮に酔いしれた顔の一団が、その速度を増した。
 だが四騎の山賊たちは、炎の渦に巻き込まれた。エリーの〈炎渦〉による先制攻撃だ。


「おおっ!」


 フレディが生き残った一人に斬りかかる。


「傭兵どもに負けるな。かかれ!」


 騎士たちが躍りかかる直前、再びエリーの〈炎渦〉が山賊たちを遅う。
 魔術が存在する世界ではあるが、その威力を目の当たりにする機会は、それほど多くない。魔術師の絶対数が少ないのと、習得の難易度が高いためである。
 この二度の〈炎渦〉で、山賊たちの数人は、戦意を喪失していた。武器を捨てて逃げ出す彼らを、目に見えぬ魔力が拘束した。


「おおっ!」


 鬼気迫る気迫とともに、フレディが剣を振るい続ける。三人、四人と山賊を切り捨てるフレディの姿に、騎士たちもやや気圧され気味である。
 程なく、山賊は討伐されたのだが――。


 生き残って捕らえられた山賊は、近くにいた騎士へと怒鳴り声をあげた。


「くぞ! てめえら、ザックを殺しやがって! 絶対に許さねぇからな!」


 その主張に、騎士たちは困惑の色を浮かべた。


「……なんのことだ?」


「しらばっくれるな! 首を切り落とし、俺たちの寝床に放り込んだだろうが。御丁寧に、『こうなりたくなければ、公爵家の馬車が通るのを邪魔するな』って手紙付でな!」


 山賊の言葉を聞いて、エリーはハッと顔をあげた。
 クラネスたちが公爵家の噂を流したことは、予想以上の効果があったようだ。それも――あの暗殺者が、噂を聞きつけた山賊たちを利用するほどに。
 山賊の奇襲に便乗して、公爵の馬車を馬車列から離すのは計画の内だ。だが予想外だったのは、暗殺者も山賊を利用しようと企んだことだ。
 山賊の襲撃に便乗して、公爵を襲うのではない。山賊に襲撃をさせた上で、次の策を講じている可能性が高い。


「フレディさん」


「ええ。わかっています。若が――危ない」


 フレディは馬首を巡らすと、クラネスたちが向かった方角へと騎馬を駆った。
 ユタが隊商の馬車を纏めている横を、エリーとメリィの馬車がフレディを追いかけていった。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

さて、作戦の開始です。どっちの・・・・とは言いませんが。

普通の山賊なんかが相手だと、魔術・魔法の類いが強いですね。一網打尽感が、ゲームとかだと気持ちよい……skyrimではちょっと難しいですが、やればできるんですよね。

場所によってはリアル「人がゴミのようだ!」を体験できます。フォス・ロー・ダーは(色んな意味で)最強。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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