屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか

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第六部『地の底から蠢くは貴き淀み』

エピローグ

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 エピローグ


 俺たちがメイオール村に帰還してから、一週間が経過していた。
 しかし俺と瑠胡、それにセラは村でゆっくりと……は、していなかった。ラストニーやマナサーさんと別れてから、なにがあったか……順を追って挙げていこう。
 まず、ザイケンの領地内で、ドワーフの集落に匿われていた職人さんたちと遭遇した。
 どんな手段を使ったのかは知らないが、ドワーフを経由して、ラストニーからの伝言が届いたらしい。
 工事の報酬も支払われるらしく、こっちの件も一件落着したようだ。


「やっと故郷に帰れるよ」


 そう言って、職人頭さんと奥さんは微笑んでいた。仲睦まじい光景ではあるんだけど……まあ、幸せそうだからいいか、というのが俺の感想である。
 そしてメイオール村に戻った早々に、俺は紀伊さんにアムラダ様と話ができないか相談した。魔族ニッカーに言われたことを確認したい、というのが理由だ。
 しかし、紀伊さんは難色を示した。


「この場では、神器などを介さぬ限りは無理です。ただ、神界であれば可能です。与二亜様に、鱗を送ってみたらどうでしょうか」


 鱗を送る――とは、まあ手紙を送る、という意味みたいなものだ。
 瑠胡が神界での従者である沙羅さんと、連絡を取るときに使っていた手段だ。自らの鱗を一枚剥がし、言葉を乗せて相手に送る――というものらしい。
 俺はやったことがないけど……瑠胡なら、兄である与二亜に鱗を送ることは可能だ。
 瑠胡に頼んで鱗を送って貰った翌日、与二亜から返信が届いた。


「アムラダ様の許可が取れたようです。ランド、気になるようでしたら、すぐにでも神界へ行きましょうか?」


 俺は、すぐに首を縦に振った。断る理由なんかないし、化け物呼ばわりされたこともあって、気になって仕方がなかった。
 そんなわけで、俺たちは天竜神の神界に滞在していた。


「竜神・カドゥルー様から、報せも届いているよ。地竜族と、それに連なるドラゴンたちは、瑠胡とランドが、つがいになることを認める――ということだ。これで父が提示した、過半数は超えたかもしれないね」


 そう与二亜は俺たちに告げたあと、悪戯を思いついた幼子のような目を向けてきた。


「確実に超えたと示すなら、海竜族にも認めて貰ったほうがいいと思うけど」


「兄上は、すぐに意地悪を口になさいますから……妾たちで戯れないで下さいませ」


 瑠胡に苦言に、与二亜は苦笑した。


「それはすまない。アムラダ様の降臨には、少し時間を要すから。それまでは、神界で待っているといいよ」


 そう言われてから、もう五日が経過している。
 いい加減、焦れてきたころになって、紀伊さんが俺たちを呼びに来た。神祇官でもある彼女は、白い小袖に緋袴という、巫女らしい姿をそのままに、いつになく清楚な佇まいを見せていた。


「アムラダ様が御降臨なされます。皆様、ご起立の上、ご静粛にお願い申し上げます」


 俺と瑠胡、そしてセラが立ち上がると、紀伊さんは祝詞を唱え始めた。それからしばらくすると、紀伊さんの身体から光が溢れ始め、猫のような女性の姿が浮かび上がった。
 万物の神である、アムラダ様だ。
 瞼を閉じている表情でさえ、荘厳な雰囲気を醸し出していた。僅かに俺たちへと顔を向けたアムラダ様は、両手を軽く組みながら、静かに目を開けた。


〝まあ、瑠胡ちゃん。それにランド。お久しぶりねぇ。そちらはセラだったかしら。つがいとして、正式に認められたみたいね。おめでとう。婚礼の儀をメイオール村でするのなら、わたくしを奉る教会でやって、良ければ改宗もしてくれると嬉しいわ。今なら特別に、大判フォリオの経典と、幸福を招く壺を進呈するわよ?〟


「失礼ながら、そのようなものは不要でございます。村人を安心させるために教会での婚礼は、必要かと考えております。ですが、改宗までは致しませぬ」


 少し呆れ気味な瑠胡の返答に、アムラダ様は残念そうな顔をした。
 胡散臭い宗教みたいな品とか、本気で要らないし……そう考えながら、俺は少し脱力した。
 瑠胡も少し呆れ気味だし、セラに至っては……そっか、初見だったな、この言動。表情が、完全に硬直してしまっている。
 俺は気を取り直すと、アムラダ様に最敬礼をした。


「この度は、わたくしの求めに応じて頂き、感謝しかございません。一つ確認したいことがあるのですが、お伺いしてもよろしいでしょうか」


〝ええ。聞きましょう〟


 アムラダ様がおっとりと頷くと、俺は顔を上げた。


「魔族ニッカーが、わたくしのことを〝化け物〟と呼びました。その理由は、それはアムラダ様に説明を求めよ――と」


 俺の質問に、アムラダ様の表情から笑みが消えた。


〝それは〈スキルドレイン〉が原因ではないのですか?〟


「違うと言われました」


 俺はニッカーとの会話の内容を、アムラダ様に話した。グレイバーンとの戦いでの一抹を話し終えたところで、アムラダ様は僅かに顔を顰めた。


〝魔族ニッカー……〟


 そう呟いたあと、アムラダ様は俺に、憂いを帯びた眼差しを向けてきた。


〝あなたがたには、申し訳ないのですが……その件については、神々での取り決めにより、すべてをお話することができません〟


「お待ち下され、アムラダ様。それではランドのみならず、妾も納得がいきませぬ。何故ランドに対し、これほどまでに手厳しい対応をなされるのでしょうか?」


 険しい顔をした瑠胡に、アムラダ様は静かに首を振った。


〝いいえ。手厳しくしているわけではありません。それは生物が持つには、異質な才能が原因なのです〟


「異質な才能? グレイバーンから《スキル》を奪ったことではなく?」


〝いいえ。これも仔細を話すことができませんが……この世界の法則から外れた才を、我らは確認したのです。グレイバーンの一件は、切っ掛けに過ぎません〟


「法則から、外れた……ですか?」


 鸚鵡返しに問いかけた俺に、アムラダ様は頷いた。


〝そうです。この世界には、存在してはならぬ才。我らはそれを、《異能イレギュラー》、と呼んでおります。これは、事と次第によっては、神魔を超えるものとなるでしょう。ランド・コール〟


 アムラダ様は、真っ直ぐに俺を見た。


〝ここで話さぬとも、すべてを理解する刻が訪れるかもしれません。我らが望むのは、そうなったあとでも、《異能》を正しく使ってくれることだけなのです〟


 その言葉を最後に、アムラダ様は消えてしまわれた。謎を解明したかったのに、かえって謎が深まってしまった。自分の身体に、なにが起きたのか――考えるだけで不安になってしまう。
 この日の夜。
 いつもとは異なり、俺はセラとの寝物語を先に終わらせた。次に瑠胡の寝室に入ると、アムラダ様が仰有った内容の話になった。


「瑠胡は、俺に対して不安とかないですか? 《異能》のこととか……」


「いいえ? どんな力を身に宿していたとしても、ランドはランドですから」


 瑠胡はそう言いながら、俺の頭を抱きしめてくれた。瑠胡の体温と柔らかさを感じながら目を閉じると、彼女の唇が右耳に寄せられた。


「あなたが裏切らない限り……わたくしもランドを裏切りません。その気持ちは、今でも変わっていませんから」


「うん……ありがとう、瑠胡」


「それより、この前の話……わたくしたちのことを認めたドラゴンは、もう過半数を超えたんですよ? 約束は、守られました」


 瑠胡は俺の頭部を抱きしめたまま、自分が下になるように位置を変えた。
 俺が目を開けると、真正面に瑠胡の顔があった。俺を見つめながら、瑠胡は瞳を潤ませた。


「もう、いいと思いませんか?」


「瑠胡――安仁羅様や与二亜様に、ひと言なくても大丈夫ですか?」


「平気ですよ。今は繁殖期ではありませんから、受胎はしません。冬が終わり、春の足音が聞こえてくるころが、天竜族の繁殖期なんですよ」


 だから心配はいらない――と、瑠胡は俺の頭を撫でてきた。
 すぐに子を宿せないということに、残念な気持ちはある。しかし互いの気持ちが重なり合うのを肌で感じると、胸の奥がざわめき始めた。
 アムラダ様の教義では、婚前の行為は背徳なんだけど……天竜族は互いに、つがいになる決意があるなら、好意的にとられると、俺はあとで知った。
 どちらからともなく、唇を重ねた。
 衣擦れの音と、直に触れ合う温もりを感じながら、俺たちは一晩を共に過ごした。

 翌朝。
 俺の身体にしがみつくように歩く瑠胡と、俺は朝餉の準備が整ったという食堂へと向かっていた。
 食堂に入るや否や、紀伊が俺たちを見て顔を険しくした。


「瑠胡姫様。そのように、しがみつきながら歩くなど。姫として、はいしたなく存じます」


「こうせねば歩けぬのだから、仕方なかろうもん」


「また、もんってなんですか! そういう言葉遣いが――」


 紀伊の説教が始まったけど、瑠胡の目は近寄って来たセラのほうへと向いていた。
 なにか言いたげな顔で目を伏せているセラへ、瑠胡は慈しむような微笑みを浮かべた。


「セラ? 今日はあなたの番のつもりですが、どうします?」


 セラは僅かに目を見広げたあと、瑠胡と俺とを交互に見ながら微笑んだ。


「よろしくお願いします」


 微笑み合う瑠胡とセラ。しかし、俺は一抹の不安を覚えながら、二人に問いかけた。


「あの……連日なんですか? 一日空けたりとかは……」


「あら。そうなると、わたくしの番が二日も空いてしまうではありませんか」


「そうですね。折角なわけですから」


 申し合わせたわけではないのに、二人して同じ考えだったらしい。そして、一つ理解したのは、この件に関して俺に拒否権はないらしい・・・・・・・・・・・ということだ。
 世の中には、ハーレムなんてものに憧れる者もいるらしいが……それは、現実を知らないヤツなんだと思う。
 こと女性が多い環境においては男の意見など塵芥に等しいことを、もっと理解するべきだと思う。
 血の気の引いた俺が立ち尽くしていると、紀伊が声をかけてきた。


「……ランド様。御食事は、精の付く物を多めにいたしましょうか?」


「ヨロシクオネガイシマス」


 返事が片言っぽくなったが、それはもう仕方が無い。
 繁殖期が来る前に、倒れないといいんだけど――という不安が、俺の頭の中で渦を巻き始めたのだった。

                                      完

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

最後のほうの部分がなにを指しているのかは……皆様のご想像にお任せします。

繁殖期――元がドラゴンですから、人間のそれとは異なるわけです。ちなみに、妊娠期間も長めの設定です。

ちなみにですが、象が650日ほど。キリンが450日ほど? だったような。それを考えると、ドラゴンは目茶苦茶長いと思います。

フォリオは用紙を裁断せず、二つ折りにして製本された書籍のことですね。大判って感じ。

某ゲームでは、貴重なフォリオの書籍を探すイベントがあるんですが……本の内容はエロ小説でした。このあたり、人間のスケベ心は古今東西変わりませんね。

次回ですが……多分、早くて来週の土曜日になると思われます。案の定、プロットが遅れ気味でして……。とにかく、資料集めに手こずりました(少々現在進行形

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回も宜しくお願いします!                                     
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