屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか

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第一〇部『軋轢が望む暗き魔術書』

三章-3

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   3

 ランドたちが鉱山に到着した時刻より、少しばかり刻を遡る。
 食事を終えたランドたちが王都を出た直後、そのあとを追うように、一台の馬車が王都の門の前で止まった。
 もう日が暮れているため、城塞の門は固く閉ざされている。
 黒く塗られた馬車は、その一族を表す紋章が削ぎ落とされており、貴族が所有するものだと推測はできるが、所有者の特定ができなくなっていた。
 ランタンの灯りが灯された御者台には、フードを目深に被った御者がいるだけだ。客車の中からは物音がしていて、誰かが乗っている気配はしていた。
 門番をしている数人の衛兵が、槍を手に馬車へと近寄った。


「もう閉門しているため、許可無き者は通すわけにいかぬ。明日の開門を待って、また来られるが良い」


「我らは火急の用で、先に出た馬車を追わねばならぬ。門を開けられよ」


「……それは、できぬ。許可がなければ、誰であろうと門を通せぬ」


 御者と門番のやり取りが聞こえたのか、客車の小窓が開いて、中に乗っていた女性が顔を出した。


「……なんか問題でして?」


「それが――」


 御者が状況を説明すると、女性は顔を引っ込めた。それから十秒ほどあと、小窓から出た白い腕が、近くの衛兵へ長手袋を差し出した。
 長手袋の腕カバーの部分には、小さな紋章が刺繍されていた。その紋章を見た衛兵が、目を丸くした。


「これは……」


「さあ、まだ問題はありまして? わたくしたち、とても急いでおりますの」


 女性の声に、長手袋を見た衛兵は皆を下がらせた。


「問題は……ありません。今、開門を致します」


「ええ。それでよくってよ」


 衛兵たちが城門へ戻って行くと、女性の手が馬車に引っ込んだ。
 馬車が一台通れるだけの隙間が開くと、馬車がゆっくりと動き出した。

   *

 エリザベートはリリンの身代わりに、テレサと坑道の入り口から離れた。
 坑道からランドたちの持つ灯りが見えなくなるのを待ってから、エリザベートは尊大に問い掛けた。


「それで? わざわざ皆と引き離すような真似をしてまで、このリリアーンナ・ラーニンスに、なんの御用かしら?」


「それは……その」


 質問が先に来るとは考えていなかったのか、テレサは言葉を詰まらせた。
 その表情に、エリザベートはリリンが間違いを訂正しなかった理由を察した。


「あら。まさか、用件も無しに引き留めたのかしら? それではまるで、わたくしが坑道に入らせないこと自体が目的みたいね」


「あ――」


 愕然とした顔をするテレサに、エリザベートは勝ち誇った顔で腕を組んだ。


(図星ね。ラーニンス家の命令ってところかしら。この顔を見るに、根っこは素直みたいだから、完全に人選を誤ったようね)


 エリザベートは小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、あっさりと踵を返した。


「なんの相談もないなら、わたくしは坑道へ行くわ」


「お、お待ち下さい! 坑道へ入るのは、その……お待ち下さい」


 テレサはエリザベートが坑道へ入るのを止めようと、坑道への進路へと回り込み、両手を大きく広げた。
 行く手を阻まれて眉を顰めるエリザベートに、今にも泣きそうな顔を向けた。


「お願いします……今しばらく、この場にいて下さいませんか」


「残念ね。その理由がないわ」


「いいや、あるのさ。坑道に入れば、間違いなく死んでしまうだろう。それを止めたのだから、感謝くら――」


 暗がりから出てきたヒースローが、目の前にいる二人の少女を見て硬直した。
 しばらく交互に見てから、震える指先をエリザベートに向けた。


「……誰だ、そいつは」


「え――?」


 ヒースローの指摘にテレサはきょとんとした顔をし、その直後に青ざめた表情でエリザベートを見た。
 二人からの視線を一身に受けたエリザベートは、優雅な所作でローブの裾を払った。


「ごきげんよう。お初にお目にかかりますわね。わたくしは《白翼騎士団》に所属するエリザベートと申します。こちらとしては、そんなつもりは皆無ですけれど、どうぞ、よしなにして下さいまし」


 エリザベートの自己紹介を受けて、ヒースローはテレサに詰め寄った。


「き、貴様――しくじったな!?」


「ま……お待ち下さい。わたしは、確認をしてお連れしてきたんです」


「うるさいっ! これでリリアーンナが死んだら……全部、貴様の責任だからな!」


「あら、無様なこと。部下の失敗なんて、すべて上官の無能が原因でしてよ。大体、容姿のことすら伝えていないなんて、無様にも程があるでしょう」


 エリザベートの嘲りに、顔を真っ赤にして怒るヒースローは、腰に下げた長剣を抜き払った。


「貴様ら……この場で切り捨ててやる!」


「あら。そんな余裕が、あなたにあるのかしら? もし本当に坑道に入ったら魔獣に殺されるというなら、すぐに呼び戻すなり、救助に行くなりするべきではなくて?」


 エリザベートの指摘に、ヒースローは怒りの形相で鉱山を降り始めた。


「誰かおらぬか! 兵を集めよ!!」


 ヒースローが早足に去って行くと、テレサは膝から崩れ落ちた。


「どうしよう……これでリリアーンナ様が死んでしまわれたら……」


「あら。そんな心配をしても無駄よ」


 お気楽そうに肩を竦めるエリザベートに、テレサは絶望的な顔を向けた。


「それは……もう死んでいるだろうから……ということですか?」


「馬鹿ね、違うわよ。あいつらが、魔獣程度で死ぬわけないじゃない。ケロッとした顔で戻って来るから、安心してなさい」




 俺たちが坑道内に入ってから、数十分ほど経った。
 先頭を歩く鉱夫の持つ松明の灯りを頼りに、俺たちは六つ目の分岐まで進んでいた。そこは天井が崩落して、折れた支柱や瓦礫が散乱していた。
 そんな状況だから当然の如く、どちらの分岐も通行不可だ。
 俺は折れた木材や崩れた石材を眺めながら、鉱夫に問い掛けた。


「ここ以外で、崩落した場所は?」


「いえ……ここだけです」


「それじゃあ魔獣さえ出なければ、採掘自体には問題がないんですね?」


「それが……今現在、採掘ができるのは、この先だけでして。ほかの場所では、もう鉱石が採れなくなってまして。色々と坑道を広げつつ、採掘できる場所を探しております、はい」


「ああ……」


 土砂で埋まった坑道を復元しようとすれば、かなりの日数を要するだろう。再度の崩落を防ぐために支柱を増やし、時間をかけて慎重に工事を進めるしかない。
 俺が坑道を埋め尽くす土砂を見ていると、セラの声が聞こえてきた。

「……そうなると、魔獣はここから来たわけではないのでしょう?」


「ここから来たのかは、わかりません。ですが、魔獣どもが現れたのは、この崩落のあとでありますから。なにかしらの関連があるのでは……と、我々は考えております」


 衛兵の返答に、セラは「なるほど」と言いつつリリンを見た。
 こうして情報を引き出していけば、リリンがなにかに気付くだろう――という考えみたいだ。
 リリンの《スキル》は、〈計算能力〉だ。これは数字の計算だけでなく、様々な事柄
ついて、精密な計算をするかのように考える力だ。
 しかし、ここまでの情報では、セラが考えるような返答は導きだせなかったらしい。リリンはセラの視線に対し、静かに首を振っただけだ。
 瑠胡はそんな二人のやり取りを見て、鉱夫へと扇子を向けた。


「今は、坑道の崩落は捨て置くが良い。それより、魔獣の元へ案内あないせよ」


 瑠胡の口調に驚きながらも、鉱夫は首を横に振った。


「魔獣は、どこにでも出てきました。こうして、崩落場所の復旧をしている途中にも……」


「ほお? であれば……ランド、それにセラ。これは、わたくしたちで探した方が早いかもしれません」


 瑠胡が精神を研ぎ澄ませるように目を閉じると、俺とセラはハッとした顔をした。
 瑠胡は精霊の声を手掛かりに、魔獣を探すつもりらしい。なるほど、それなら闇雲に探し回るよりは、遙かに効率がいい。


「わたしは、周囲の警戒をします。ランドも魔獣を探して下さい」


 そう言いながら、セラはミスリルの細剣を抜いた。
 俺はセラに頷いてから、目を閉じて意識を集中させた。坑道の中というからには、やはり土の精霊の声を探すのが一番妥当だろう。
 俺がノームの声を探していると、不意に〝後ろから獣がくる〟という声を聞いた。
 振り返ると、俺たちが歩いて来た坑道があるだけだ。今まで、魔獣が潜んでいるような気配は、まったく感じられなかった。
 まさか――と思っていると、瑠胡も俺と同じ方角へと向き直った。


「セラ。その奥から魔獣が五体、近づいて来ています」


「え――?」


 セラが振り返ったとき、闇に覆われた坑道の奥から、砂を蹴るような軽い音が聞こえてきた。
 とても小さなその音は、徐々に数を増してきた。


「セラ、なにか来る!」


 魔剣を抜剣した俺は、セラお衛兵がいる最後尾へと進み出た。
 坑道に近づくと、僅かに空気の流れが感じられた。魔剣を構えた直後、闇が盛り上がったように見えた。
 出てきたのは、黒い体毛に覆われた、豹に似た獣だ。黒豹と異なるのは、瞳までもが黒色をしていることと、側頭部から前方に突き出た二本の角だ。
 どうやら、こいつが魔獣らしい。
〝ガァッ!〟
 短く吼えた魔獣に、俺は魔剣で斬りかかった。緩やかに湾曲した刀身が、魔獣の頭部に食い込――まなかった。
 柔らかそうな体毛とは裏腹に、まるで金属鎧にでも斬りかかった様な感触だ。

 
「――チッ!」


 舌打ちをしながら一歩退いた俺の前に、似たような魔獣が五頭ほど現れた。
 俺は左手を真横に広げながら、背後にいる皆へと叫んだ。


「こいつに剣は通じねぇ! 魔術で応戦するしかない。セラと俺で壁になります。瑠胡とリリンは魔術を!」


 俺の指示で、瑠胡とリリンは魔術の詠唱を始めた。
 俺とセラが、迫り来る魔獣の頭部や身体に剣を叩き込む。体毛を鎧としている魔獣だが、魔剣の一撃を受ければ怯むくらいはするらしい。
 俺とセラで一体ずつ押しとどめたとき、背後から八本の魔力の矢が飛来した。魔力の矢は魔獣たちに降り注ぐと、胴体や頭部に突き刺さった。
 魔獣たちが苦悶の悲鳴をあげた直後、今度は瑠胡の魔術が発動した。
 冷気の光線が魔獣たちの四肢や胴を凍らせ、動きを封じ始めた。凍っていないのは、最後尾にいた一体だけ。
 相手の動きが鈍くなった今、俺にも余裕が生まれた。
 頭の中で俺は魔獣たちへと向かう線を描いたが、これは《スキル》を発動させるための前準備だ。
 意識を集中させた俺は、〈断裁の風〉を放った。
 不可視の魔力が、瑠胡が身体を凍らせた四体の魔獣を切り刻んだ。〈断裁の風〉は最後尾の一頭にも放っていたが、それは胴体を大きく斬っただけで、絶命には至らなかった。
 四頭の魔獣が地に倒れると、最後尾にいた一頭は坑道の奥へ逃げていった。


「ランド、セラ。追いましょう」


「わかりました。リリンはここで――」


「ランドさん、わたしも行きます」


 リリンの返答を聞きながら、俺は鉱夫から松明を借りた。瑠胡やセラ、それにリリンと、俺は魔獣を追い始めた。
 地面に落ちた血の痕を頼りに、坑道を戻るように枝道を曲がっていく。三つ目の分岐で、魔獣の血は出口とは異なる方向へと向かっていた。
 埃や壁の色から察するに、ここを採掘していたのは、随分と前のことらしい。魔獣の血は、採掘場だったらしい広い空洞へと続いていた。
 血の跡を追っていた俺たちは、周囲を警戒しながら空洞へと入った。松明の光は空洞全体を照らしていたが、魔獣の姿は見えなかった。


「どこに行ったんだ……?」


 俺たちが周囲を見回していると、リリンの目が一点で止まった。


「あれは……」


 その呟きに、俺はリリンの視線の先を追った。
 そこには空洞の中央に描かれた、魔方陣があった。どこかで見覚えがある気がしたけど、それがどこか思い出せない。
 それからしばらく坑道を探したが、魔獣は見つからなかった。
 仕方なく鉱夫や衛兵と合流をしてから、俺たちは坑道から出ることにした。衛兵は魔獣の死骸から、頭部を切断していた。
 なんでも「討伐の証拠ですから」ということらしい。

 ……いや、いいけど。なんかその……ちょっとグロイんですが。

 それで満足するなら、別にいいけど。
 四つの魔獣の首を抱えた衛兵に、ちょっとどん引きしながら、俺たちは坑道の出口へと歩き始めた。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

ちょっと話が走り過ぎかも……と思いつつ。文字数が多くて、最期の方を次回に回したのは内緒です。
次回は三千文字くらいで収めたい。

そんな希望を抱きつつ、就寝時間を過ぎている今現在。
就寝時間を囚人時間とタイプミスをする程度には、睡魔がががが。

囚人時間ってなんでしょう? そういうプレ(自主検閲のため中略)とはえ、そういうお店は未経験なんですが。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回も宜しくお願いします!
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感想 3

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