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62・どんなご用ですか?
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「この話、ハーロルトさんは知っているんですか?」
「彼が言い出したのよ。レナーテさえ望めば、帝国にいることができるようにしたいって。あなたは力があるのに無防備すぎるから、一生逃げ暮らすことになるかもしれないと心配しているのよ」
二人には立場もあるはずだ。
今は聖女でもない私を養子にするなんて……。
「簡単に言いますね」
「簡単よ、レナーテのためだもの。あなたを失う方が、私にはよっぽど難しいわ」
ベルタさんは平然として、特大アイスを頬張っている。
すごい勢いで減っていく……。
確かに彼女はとんでもないようなことを簡単にこなす、伝説的な大魔術師だ。
「だけどどうして、ふたりとも私にそこまでしてくれるんですか?」
「あなたに侯爵令嬢の身分があれば、色々と都合がいいもの」
「都合がいい?」
「だってあの山小屋で一緒にお泊り会をする娘がいるなんて、考えただけで楽しいでしょう? 体が冷えて魔術が不安定になったら補佐もしてもらえるし、一緒にアイス屋巡りだって最高……あら。私にとっての都合ばかりになってしまったけれど。でもあなたにとっても悪い話ではないと思うの」
本当にその通りだ。
私がラグガレド帝国の侯爵家の者になれば、周辺国や格下の爵位の者はうかつに近づけなくなる。
先ほどの男爵のような人もいるだろうけれど、ベルタさんとハーロルトさんは、そういうわずらわしさから私のことを守ろうとしてくれているのだと思う。
ベルタさんは秘密にしていた正体まで明かしてくれて、その話をしに来てくれた。
「いつもありがとうございます。ベルタさん」
「ふふ。アイスのおかわりをしようかしら」
「えっ。これ以上はさすがにお腹を壊しますよ。冷えると魔力も乱れますし」
「大丈夫。ドレスの下には私の技術を詰め込んだ温魔術で編んだ腹巻を忍ばせているから。それに今日はもう魔術を使わないって約束したもの。わたしのことなら心配せず、考えておいてね」
ベルタさんは迷いなく特大アイスを注文しに行く。
普通サイズを食べ終えた私は、彼女に手を振って別れた。
あの様子だと、ベルタさんはアイスのことで頭がいっぱいだから、気づいていなさそう。
私は広い庭園をのんびり歩きながら、とある茂みの中を覗き込んだ。
「それであなたは、私にどんなご用ですか?」
「きゃっ!」
現れたのは私より少し年上、まだ二十歳になる前くらいの令嬢が目を丸くしている。
彼女に気づいたのはベルタさんに会う前、ディルの様子を見るために招待客の区画へ移動してからだった。
それから今まで、彼女が長い道のりと時間を使って私を追っていたのは間違いない。
「不用心に人をつけ回すのは危ないですよ。特に私と一緒にいた夫人は、平然ととんでもないことをしますから。食べ物の恨みは恐ろしいとか言って」
令嬢は青ざめていく。
茶色い髪に、落ち着いた深緑のドレスは動きやすそうで、貴人に仕える侍女のように見えた。
「許してください。食べきれないほどのアイスなんて奪いませんから……」
やっぱり私たちの様子をうかがっていたらしい。
ここは私たちが座っていたベンチから少し距離があるし、彼女から魔力がほとんど感じられないので、魔術で盗聴はしていなさそうだけれど。
「夫人はあなたに気づいていないので、安心してください」
ベルタさんはアイスに夢中だったし、体が冷えて魔力の精度が下がっている。
それでも念のため、私はこの令嬢の周囲に魔術を遮断する防壁を巡らせて、気づかれないようにしておいた。
ベルタさんがいるとこの令嬢は委縮してしまって、本当のことを聞けない気がしたから。
「私にどんなご用ですか」
「……私のことを覚えていますか? あなたにお礼を言いたかったんです」
「彼が言い出したのよ。レナーテさえ望めば、帝国にいることができるようにしたいって。あなたは力があるのに無防備すぎるから、一生逃げ暮らすことになるかもしれないと心配しているのよ」
二人には立場もあるはずだ。
今は聖女でもない私を養子にするなんて……。
「簡単に言いますね」
「簡単よ、レナーテのためだもの。あなたを失う方が、私にはよっぽど難しいわ」
ベルタさんは平然として、特大アイスを頬張っている。
すごい勢いで減っていく……。
確かに彼女はとんでもないようなことを簡単にこなす、伝説的な大魔術師だ。
「だけどどうして、ふたりとも私にそこまでしてくれるんですか?」
「あなたに侯爵令嬢の身分があれば、色々と都合がいいもの」
「都合がいい?」
「だってあの山小屋で一緒にお泊り会をする娘がいるなんて、考えただけで楽しいでしょう? 体が冷えて魔術が不安定になったら補佐もしてもらえるし、一緒にアイス屋巡りだって最高……あら。私にとっての都合ばかりになってしまったけれど。でもあなたにとっても悪い話ではないと思うの」
本当にその通りだ。
私がラグガレド帝国の侯爵家の者になれば、周辺国や格下の爵位の者はうかつに近づけなくなる。
先ほどの男爵のような人もいるだろうけれど、ベルタさんとハーロルトさんは、そういうわずらわしさから私のことを守ろうとしてくれているのだと思う。
ベルタさんは秘密にしていた正体まで明かしてくれて、その話をしに来てくれた。
「いつもありがとうございます。ベルタさん」
「ふふ。アイスのおかわりをしようかしら」
「えっ。これ以上はさすがにお腹を壊しますよ。冷えると魔力も乱れますし」
「大丈夫。ドレスの下には私の技術を詰め込んだ温魔術で編んだ腹巻を忍ばせているから。それに今日はもう魔術を使わないって約束したもの。わたしのことなら心配せず、考えておいてね」
ベルタさんは迷いなく特大アイスを注文しに行く。
普通サイズを食べ終えた私は、彼女に手を振って別れた。
あの様子だと、ベルタさんはアイスのことで頭がいっぱいだから、気づいていなさそう。
私は広い庭園をのんびり歩きながら、とある茂みの中を覗き込んだ。
「それであなたは、私にどんなご用ですか?」
「きゃっ!」
現れたのは私より少し年上、まだ二十歳になる前くらいの令嬢が目を丸くしている。
彼女に気づいたのはベルタさんに会う前、ディルの様子を見るために招待客の区画へ移動してからだった。
それから今まで、彼女が長い道のりと時間を使って私を追っていたのは間違いない。
「不用心に人をつけ回すのは危ないですよ。特に私と一緒にいた夫人は、平然ととんでもないことをしますから。食べ物の恨みは恐ろしいとか言って」
令嬢は青ざめていく。
茶色い髪に、落ち着いた深緑のドレスは動きやすそうで、貴人に仕える侍女のように見えた。
「許してください。食べきれないほどのアイスなんて奪いませんから……」
やっぱり私たちの様子をうかがっていたらしい。
ここは私たちが座っていたベンチから少し距離があるし、彼女から魔力がほとんど感じられないので、魔術で盗聴はしていなさそうだけれど。
「夫人はあなたに気づいていないので、安心してください」
ベルタさんはアイスに夢中だったし、体が冷えて魔力の精度が下がっている。
それでも念のため、私はこの令嬢の周囲に魔術を遮断する防壁を巡らせて、気づかれないようにしておいた。
ベルタさんがいるとこの令嬢は委縮してしまって、本当のことを聞けない気がしたから。
「私にどんなご用ですか」
「……私のことを覚えていますか? あなたにお礼を言いたかったんです」
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