62 / 76
62・どんなご用ですか?
しおりを挟む
「この話、ハーロルトさんは知っているんですか?」
「彼が言い出したのよ。レナーテさえ望めば、帝国にいることができるようにしたいって。あなたは力があるのに無防備すぎるから、一生逃げ暮らすことになるかもしれないと心配しているのよ」
二人には立場もあるはずだ。
今は聖女でもない私を養子にするなんて……。
「簡単に言いますね」
「簡単よ、レナーテのためだもの。あなたを失う方が、私にはよっぽど難しいわ」
ベルタさんは平然として、特大アイスを頬張っている。
すごい勢いで減っていく……。
確かに彼女はとんでもないようなことを簡単にこなす、伝説的な大魔術師だ。
「だけどどうして、ふたりとも私にそこまでしてくれるんですか?」
「あなたに侯爵令嬢の身分があれば、色々と都合がいいもの」
「都合がいい?」
「だってあの山小屋で一緒にお泊り会をする娘がいるなんて、考えただけで楽しいでしょう? 体が冷えて魔術が不安定になったら補佐もしてもらえるし、一緒にアイス屋巡りだって最高……あら。私にとっての都合ばかりになってしまったけれど。でもあなたにとっても悪い話ではないと思うの」
本当にその通りだ。
私がラグガレド帝国の侯爵家の者になれば、周辺国や格下の爵位の者はうかつに近づけなくなる。
先ほどの男爵のような人もいるだろうけれど、ベルタさんとハーロルトさんは、そういうわずらわしさから私のことを守ろうとしてくれているのだと思う。
ベルタさんは秘密にしていた正体まで明かしてくれて、その話をしに来てくれた。
「いつもありがとうございます。ベルタさん」
「ふふ。アイスのおかわりをしようかしら」
「えっ。これ以上はさすがにお腹を壊しますよ。冷えると魔力も乱れますし」
「大丈夫。ドレスの下には私の技術を詰め込んだ温魔術で編んだ腹巻を忍ばせているから。それに今日はもう魔術を使わないって約束したもの。わたしのことなら心配せず、考えておいてね」
ベルタさんは迷いなく特大アイスを注文しに行く。
普通サイズを食べ終えた私は、彼女に手を振って別れた。
あの様子だと、ベルタさんはアイスのことで頭がいっぱいだから、気づいていなさそう。
私は広い庭園をのんびり歩きながら、とある茂みの中を覗き込んだ。
「それであなたは、私にどんなご用ですか?」
「きゃっ!」
現れたのは私より少し年上、まだ二十歳になる前くらいの令嬢が目を丸くしている。
彼女に気づいたのはベルタさんに会う前、ディルの様子を見るために招待客の区画へ移動してからだった。
それから今まで、彼女が長い道のりと時間を使って私を追っていたのは間違いない。
「不用心に人をつけ回すのは危ないですよ。特に私と一緒にいた夫人は、平然ととんでもないことをしますから。食べ物の恨みは恐ろしいとか言って」
令嬢は青ざめていく。
茶色い髪に、落ち着いた深緑のドレスは動きやすそうで、貴人に仕える侍女のように見えた。
「許してください。食べきれないほどのアイスなんて奪いませんから……」
やっぱり私たちの様子をうかがっていたらしい。
ここは私たちが座っていたベンチから少し距離があるし、彼女から魔力がほとんど感じられないので、魔術で盗聴はしていなさそうだけれど。
「夫人はあなたに気づいていないので、安心してください」
ベルタさんはアイスに夢中だったし、体が冷えて魔力の精度が下がっている。
それでも念のため、私はこの令嬢の周囲に魔術を遮断する防壁を巡らせて、気づかれないようにしておいた。
ベルタさんがいるとこの令嬢は委縮してしまって、本当のことを聞けない気がしたから。
「私にどんなご用ですか」
「……私のことを覚えていますか? あなたにお礼を言いたかったんです」
「彼が言い出したのよ。レナーテさえ望めば、帝国にいることができるようにしたいって。あなたは力があるのに無防備すぎるから、一生逃げ暮らすことになるかもしれないと心配しているのよ」
二人には立場もあるはずだ。
今は聖女でもない私を養子にするなんて……。
「簡単に言いますね」
「簡単よ、レナーテのためだもの。あなたを失う方が、私にはよっぽど難しいわ」
ベルタさんは平然として、特大アイスを頬張っている。
すごい勢いで減っていく……。
確かに彼女はとんでもないようなことを簡単にこなす、伝説的な大魔術師だ。
「だけどどうして、ふたりとも私にそこまでしてくれるんですか?」
「あなたに侯爵令嬢の身分があれば、色々と都合がいいもの」
「都合がいい?」
「だってあの山小屋で一緒にお泊り会をする娘がいるなんて、考えただけで楽しいでしょう? 体が冷えて魔術が不安定になったら補佐もしてもらえるし、一緒にアイス屋巡りだって最高……あら。私にとっての都合ばかりになってしまったけれど。でもあなたにとっても悪い話ではないと思うの」
本当にその通りだ。
私がラグガレド帝国の侯爵家の者になれば、周辺国や格下の爵位の者はうかつに近づけなくなる。
先ほどの男爵のような人もいるだろうけれど、ベルタさんとハーロルトさんは、そういうわずらわしさから私のことを守ろうとしてくれているのだと思う。
ベルタさんは秘密にしていた正体まで明かしてくれて、その話をしに来てくれた。
「いつもありがとうございます。ベルタさん」
「ふふ。アイスのおかわりをしようかしら」
「えっ。これ以上はさすがにお腹を壊しますよ。冷えると魔力も乱れますし」
「大丈夫。ドレスの下には私の技術を詰め込んだ温魔術で編んだ腹巻を忍ばせているから。それに今日はもう魔術を使わないって約束したもの。わたしのことなら心配せず、考えておいてね」
ベルタさんは迷いなく特大アイスを注文しに行く。
普通サイズを食べ終えた私は、彼女に手を振って別れた。
あの様子だと、ベルタさんはアイスのことで頭がいっぱいだから、気づいていなさそう。
私は広い庭園をのんびり歩きながら、とある茂みの中を覗き込んだ。
「それであなたは、私にどんなご用ですか?」
「きゃっ!」
現れたのは私より少し年上、まだ二十歳になる前くらいの令嬢が目を丸くしている。
彼女に気づいたのはベルタさんに会う前、ディルの様子を見るために招待客の区画へ移動してからだった。
それから今まで、彼女が長い道のりと時間を使って私を追っていたのは間違いない。
「不用心に人をつけ回すのは危ないですよ。特に私と一緒にいた夫人は、平然ととんでもないことをしますから。食べ物の恨みは恐ろしいとか言って」
令嬢は青ざめていく。
茶色い髪に、落ち着いた深緑のドレスは動きやすそうで、貴人に仕える侍女のように見えた。
「許してください。食べきれないほどのアイスなんて奪いませんから……」
やっぱり私たちの様子をうかがっていたらしい。
ここは私たちが座っていたベンチから少し距離があるし、彼女から魔力がほとんど感じられないので、魔術で盗聴はしていなさそうだけれど。
「夫人はあなたに気づいていないので、安心してください」
ベルタさんはアイスに夢中だったし、体が冷えて魔力の精度が下がっている。
それでも念のため、私はこの令嬢の周囲に魔術を遮断する防壁を巡らせて、気づかれないようにしておいた。
ベルタさんがいるとこの令嬢は委縮してしまって、本当のことを聞けない気がしたから。
「私にどんなご用ですか」
「……私のことを覚えていますか? あなたにお礼を言いたかったんです」
4
あなたにおすすめの小説
【完結】勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい ~婚約者契約は円満に終了しました
九條葉月
恋愛
【ジャンル1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約(婚約者関係)を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
順調に準備を進めていると、契約を終えたはずの公爵様や王太子殿下たちがなぜか次々とお店にやって来て――!?
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤
凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。
幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。
でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです!
ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?
追放された伯爵令嬢は、辺境の竜騎士様に拾われて愛されすぎています ~あの時見下した婚約者たち、今さら後悔してももう遅い~
exdonuts
恋愛
婚約者に裏切られ、王都を追われた伯爵令嬢リリシア。
絶望の旅路で出会ったのは、無口な辺境の竜騎士・カイル――彼は冷たく見えて、誰よりも優しかった。
王都で笑っていた者たちが、彼女の輝きに気づくのはずっと後のこと。
元婚約者よ、あの時の侮辱を今も覚えている? でも、もう私の隣には最強の竜騎士がいるの。
ざまぁと溺愛が交錯する、甘くて痛快な逆転劇。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる