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プロローグ

3・お役に立てることはありませんか?

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「実は私、少し落ち込んでいました。知っての通り、数日前に皇太子殿下から婚約をお断りされたばかりでしたから」

 それはドルフ帝国のあちこちに、凶悪魔獣が異常発生した時期だった。

 エレファナは次々に呼び出されるまま、不休で続けた対処をどうにか終えると、皇太子の使者がやって来る。

 数日前から食事はおろか、仮眠すらまともに取れないほど忙しいエレファナだったが、火急の件だと告げられればふらふらでも駆けつけた。

 すると皇太子は見知らぬ令嬢と優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいて、エレファナに気づくと芝居がかった口調で訴えた。

「君は作られた魔女のため完璧な強さを持つが、私は守ってあげなくてはならないほどか弱い令嬢と真実の愛に目覚めた。彼女と結ばれる運命にあることを、君ならわかってくれるだろう?」

 正直、今でもよくわからない。

(わかるのは、私に施された婚約の枷は不完全な魔導で編まれているため、破棄できない歪な術だということです)

「皇太子殿下は枷を転術するおつもりだったのでしょうが、私の身分では帝国の許可が無ければそれも違法でしたし、枷を付けたまま別の方と結婚するのも違法でした。だから私は、幼い頃からずっと憧れている夢……。家族のいる生活が、突然離れてしまったような気がしていたんです」

 皇帝の命で皇太子と婚約の枷を結ばされたのは、恐怖の対象であるエレファナを皇太子妃に置いて他国を威圧するため、そして魔女の血を引く次期皇帝の子を産むためということも、理解していた。

(それでも誰かが自分の家族になるということを、私は知ってみたかったのです。ずっと)

 しかし皇太子から婚約を破棄されるということは、そのまま放置されたり、皇妃ではなく妾の立場に置かれたとしても、自分に拒否をしたり、相手を選ぶ権利がないこともわかっている。

(だから夫になってくださる方が現れるなんて……夢のような話です!)

 エレファナは改めて、黒銀の騎士に感謝した。

「あなたは私の願いを叶えてくれました。しかも見た目も声も良くて、剣術の心得があって、なにか大切な事情を成し遂げるための自制心も備え、自分はやさしくないと謙遜されるようなお方です」

「待て、君の解釈は寛大過ぎる。特に最後の」

「そうでしょうか? 会ったばかりですが、私にとっては間違いなく、あなたは素敵な方なのです。そんな方が、私の夫になってくださる……家族になってくださるなんて! もちろん、なにか事情があるのもわかっています。もしよろしければ、私にもお役に立てることはありませんか? 旦那さま!!」


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