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5章
45・とぼけます!
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フロリアンが恐怖のあまり叫ぶ中、林は何事もなかったかのような静けさに包まれている。
しかし辺りは今も、濃密で圧倒的な魔導の気配が満ちていた。
「……ありえない」
フロリアンは全身の感覚が麻痺するような恐怖すら感じ、驚愕に冷や汗をにじませる。
「水でもなく風でもなく、あの炎を異次元へ移動させたとでもいうのか、この刹那に……? まさか近くに凶悪魔獣が……!?」
フロリアンは顔をひきつらせながら見回すが、何者かが詠唱や身振り手振りで魔導を編み出した様子も、魔獣の姿も見当たらない。
しかしバートの背後で静かにしているエレファナの指の枷に目を留めると、みるみるうちに青ざめさせて震え上がった。
「ま、まさか……っ、傾国の!?」
(あっ、こっそり魔導を使ったことに気づかれたでしょうか? ……とぼけます!)
「ど……どうかされましたか?」
「ひっ! よ、寄るな! 俺に魔導を使うな!」
「は、はい」
フロリアンは後ずさると「今日はこのくらいで許してやる!」と、情けない捨て台詞を吐いて逃げ去る。
魔導を全く感知していない従者の二人はよくわからない様子でついて行くが、フロリアンの後ろ姿を見てあっと驚きの声を上げた。
「うわっ! フロリアンさま、焦げ臭いです!」
「尻が火を噴いてます!」
従者たちが騒いでいる通り、すでに走り去り遠くなったフロリアンの背面から煙が立ち昇っている。
バートが呆れたように息をついた。
「先ほどすごいだろうと見せつけてきた、魔導詠唱の不手際ですね……」
息を切らしてようやく追いついたポリーが、大慌てでエレファナの様子を確認する。
「奥さま、大丈夫ですか? 目の前であんな炎を見せられて怖かったでしょう。お怪我はありませんか?」
「炎が当たると怖いので、のみこみました。ブルーベリーの木も怪我をしていません。でもあの方のお尻が悲惨なことに……時空魔導は人に向けて使うと危険なので、それっ!」
そのとき、フロリアンの頭上に特大の水の塊が滝のように降り注いだ。
「ひいいいいっ! 魔女! 俺に魔導を使うなと言ったのに! なんてやつだ!!」
ずぶ濡れのフロリアンは罵りながら飛び跳ねている。
「あっ、消火できましたが……ちょっと荒業となりました! ポリー、フロリアンさまを怒らせてしまったようですが……乾かしてあげた方がいいでしょうか?」
「いえいえ! 彼は先ほどから『俺に魔導を使うな』と何度も懇願していましたので、自分でなんとかするのでしょう」
ポリーがはっきりと否定したので、エレファナも合点がいく。
「確かにそうです。相手の嫌がることをしてはいけませんね」
納得しながら、エレファナは派手にくしゃみをして走り去るフロリアンを見つめた。
(本当にセルディさまの言った通りでした。火遊びは自分にとっても危ないのですね)
***
「セルディさま、こっちです!」
エレファナはセルディと、数日ぶりの散歩に来ていた。
もともとドルフ領は忌み地のため、基本的な立ち入りは禁じられている。
しかし今まで連絡ひとつ交わさなかったフロリアンが来て、エレファナ達の前で炎の魔導を使ったと聞き、セルディはここ数日忙しくしているようだった。
さらに砦を守る騎士たちが「ほとんどいない魔獣より、ドルフ領への不法侵入者の方が看過できない」と考えたため、現在は領地の侵入者に対する警備が強化されている。
そのおかげで今日から、エレファナはセルディと一緒ならと外へ出ることができた。
空は雲に覆われていたが、日差しが和らいで過ごしやすくもある。
(今日はこれです!)
しかし辺りは今も、濃密で圧倒的な魔導の気配が満ちていた。
「……ありえない」
フロリアンは全身の感覚が麻痺するような恐怖すら感じ、驚愕に冷や汗をにじませる。
「水でもなく風でもなく、あの炎を異次元へ移動させたとでもいうのか、この刹那に……? まさか近くに凶悪魔獣が……!?」
フロリアンは顔をひきつらせながら見回すが、何者かが詠唱や身振り手振りで魔導を編み出した様子も、魔獣の姿も見当たらない。
しかしバートの背後で静かにしているエレファナの指の枷に目を留めると、みるみるうちに青ざめさせて震え上がった。
「ま、まさか……っ、傾国の!?」
(あっ、こっそり魔導を使ったことに気づかれたでしょうか? ……とぼけます!)
「ど……どうかされましたか?」
「ひっ! よ、寄るな! 俺に魔導を使うな!」
「は、はい」
フロリアンは後ずさると「今日はこのくらいで許してやる!」と、情けない捨て台詞を吐いて逃げ去る。
魔導を全く感知していない従者の二人はよくわからない様子でついて行くが、フロリアンの後ろ姿を見てあっと驚きの声を上げた。
「うわっ! フロリアンさま、焦げ臭いです!」
「尻が火を噴いてます!」
従者たちが騒いでいる通り、すでに走り去り遠くなったフロリアンの背面から煙が立ち昇っている。
バートが呆れたように息をついた。
「先ほどすごいだろうと見せつけてきた、魔導詠唱の不手際ですね……」
息を切らしてようやく追いついたポリーが、大慌てでエレファナの様子を確認する。
「奥さま、大丈夫ですか? 目の前であんな炎を見せられて怖かったでしょう。お怪我はありませんか?」
「炎が当たると怖いので、のみこみました。ブルーベリーの木も怪我をしていません。でもあの方のお尻が悲惨なことに……時空魔導は人に向けて使うと危険なので、それっ!」
そのとき、フロリアンの頭上に特大の水の塊が滝のように降り注いだ。
「ひいいいいっ! 魔女! 俺に魔導を使うなと言ったのに! なんてやつだ!!」
ずぶ濡れのフロリアンは罵りながら飛び跳ねている。
「あっ、消火できましたが……ちょっと荒業となりました! ポリー、フロリアンさまを怒らせてしまったようですが……乾かしてあげた方がいいでしょうか?」
「いえいえ! 彼は先ほどから『俺に魔導を使うな』と何度も懇願していましたので、自分でなんとかするのでしょう」
ポリーがはっきりと否定したので、エレファナも合点がいく。
「確かにそうです。相手の嫌がることをしてはいけませんね」
納得しながら、エレファナは派手にくしゃみをして走り去るフロリアンを見つめた。
(本当にセルディさまの言った通りでした。火遊びは自分にとっても危ないのですね)
***
「セルディさま、こっちです!」
エレファナはセルディと、数日ぶりの散歩に来ていた。
もともとドルフ領は忌み地のため、基本的な立ち入りは禁じられている。
しかし今まで連絡ひとつ交わさなかったフロリアンが来て、エレファナ達の前で炎の魔導を使ったと聞き、セルディはここ数日忙しくしているようだった。
さらに砦を守る騎士たちが「ほとんどいない魔獣より、ドルフ領への不法侵入者の方が看過できない」と考えたため、現在は領地の侵入者に対する警備が強化されている。
そのおかげで今日から、エレファナはセルディと一緒ならと外へ出ることができた。
空は雲に覆われていたが、日差しが和らいで過ごしやすくもある。
(今日はこれです!)
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