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6章
47・旦那さまの胸の内を知りました
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「ここはあのブルーベリーの木の近くにある小さな礼拝堂だ。雨宿りをしていたのだが、いつの間にか夕焼けになっていたな」
エレファナは長椅子に横たわっていることに気づいて身体を起こす。
掃き清められた堂内は、中央の通路を対称として、長椅子が縦一列に整然と並べられていた。
その一番後ろの席に座っているエレファナは、見たことのない景色に驚き、小さく息をのむ。
白を基調とした質素な石造りの礼拝堂の奥には、祭壇が置かれていた。
その背面の壁には縦長のステンドグラスがいくつも並び、不規則ながらも秩序の保たれた模様で彩られている。
堂内はガラスを通して斜陽に照らされ、静謐な空間を淡くまばゆく不思議な加減の色で満たしていた。
厳かな美しさに、エレファナは引き寄せられるように立ち上がると、祭壇の前へと歩みを進める。
「ステンドグラスが燃えるような陽に照らされて綺麗です。でも恐ろしい炎というより穏やかで温かみのある、不思議な色……」
靴の音をゆったりと響かせて歩み、隣に立ったセルディを、エレファナは見上げる。
「炎のように美しい色だと思いますが、綺麗でも私は火遊びなどしません。お尻が燃えるのも困りますから。セルディさまの言った通り危ないのです」
セルディは黙って頷くと、エレファナの髪を撫でながら、そのつむじに自然と口づけた。
「……俺が不在のときに、フロリアンさまが来たそうだな。不快な目に遭わせてすまなかった」
(フロリアンさま?)
「……あの方は、セルディさまのお兄さまではありませんでしたか」
「ああ。俺が物心つく前に、ひとりで育ててくれた母が病で亡くなったそうでね。俺はそれから養子として叔母夫婦に引き取られていたから、彼は兄ということになるのだろうな。しかし俺が忌み地であるドルフ領を下賜されたとき、あちら側からはもう関わらないと言い渡されていたから……。だから俺の家族は今まで誰も来たことがなかっただろう」
エレファナがこくりと頷くと、セルディは美しく照らされるステンドグラスを仰ぎ、どこかさびしそうに微笑んだ。
「俺はずっとこんな感じだから……家族ができたと喜んでくれている君にどう向き合えばいいのか、今でもよくわからないんだ。君への接し方もなにか足りていない……間違えている気がして、いつもすまないと思っている」
「そうでしたか」
エレファナはセルディから大切にされていると感じながらも、彼が切実ななにかからそうせずにはいられない、相手へ愛情を注がなければならないと駆り立てられているような、その漠然としていた正体をようやく知った気がした。
(口にはしなくても、セルディさまは私のためにと思って、色々考えたり悩んだりしてくれていたのですね。やっぱり素敵な方です。それに……)
エレファナはなにか良いことに気づいたような、小さな笑みを浮かべる。
エレファナは長椅子に横たわっていることに気づいて身体を起こす。
掃き清められた堂内は、中央の通路を対称として、長椅子が縦一列に整然と並べられていた。
その一番後ろの席に座っているエレファナは、見たことのない景色に驚き、小さく息をのむ。
白を基調とした質素な石造りの礼拝堂の奥には、祭壇が置かれていた。
その背面の壁には縦長のステンドグラスがいくつも並び、不規則ながらも秩序の保たれた模様で彩られている。
堂内はガラスを通して斜陽に照らされ、静謐な空間を淡くまばゆく不思議な加減の色で満たしていた。
厳かな美しさに、エレファナは引き寄せられるように立ち上がると、祭壇の前へと歩みを進める。
「ステンドグラスが燃えるような陽に照らされて綺麗です。でも恐ろしい炎というより穏やかで温かみのある、不思議な色……」
靴の音をゆったりと響かせて歩み、隣に立ったセルディを、エレファナは見上げる。
「炎のように美しい色だと思いますが、綺麗でも私は火遊びなどしません。お尻が燃えるのも困りますから。セルディさまの言った通り危ないのです」
セルディは黙って頷くと、エレファナの髪を撫でながら、そのつむじに自然と口づけた。
「……俺が不在のときに、フロリアンさまが来たそうだな。不快な目に遭わせてすまなかった」
(フロリアンさま?)
「……あの方は、セルディさまのお兄さまではありませんでしたか」
「ああ。俺が物心つく前に、ひとりで育ててくれた母が病で亡くなったそうでね。俺はそれから養子として叔母夫婦に引き取られていたから、彼は兄ということになるのだろうな。しかし俺が忌み地であるドルフ領を下賜されたとき、あちら側からはもう関わらないと言い渡されていたから……。だから俺の家族は今まで誰も来たことがなかっただろう」
エレファナがこくりと頷くと、セルディは美しく照らされるステンドグラスを仰ぎ、どこかさびしそうに微笑んだ。
「俺はずっとこんな感じだから……家族ができたと喜んでくれている君にどう向き合えばいいのか、今でもよくわからないんだ。君への接し方もなにか足りていない……間違えている気がして、いつもすまないと思っている」
「そうでしたか」
エレファナはセルディから大切にされていると感じながらも、彼が切実ななにかからそうせずにはいられない、相手へ愛情を注がなければならないと駆り立てられているような、その漠然としていた正体をようやく知った気がした。
(口にはしなくても、セルディさまは私のためにと思って、色々考えたり悩んだりしてくれていたのですね。やっぱり素敵な方です。それに……)
エレファナはなにか良いことに気づいたような、小さな笑みを浮かべる。
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