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7章
58・私は旦那さまの食べ方が好きです
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フロリアンはエレファナの笑顔になにか勘違いしたらしく、「ははっ」と笑い声をあげた。
「困ったな」
「困りますか?」
「ああ。まさか君にそこまで想われているとは気づかなかったよ。納得もできるけれどね」
「そうですか。あなたが痛かったのではないかと思って、心配していました」
「そのことは忘れよう。……実はね。俺は、あれからよく考えてみたんだ。君の価値のことを。君は俺にふさわしい女性かもしれないことを」
フロリアンは相変わらず気取った振る舞いで、前髪をかき上げる。
「君はどうだい? あんな堅物と……セルディといてもつまらないだろう?」
「? 一番楽しいです」
「遠慮する必要はないさ。俺の方があいつより継ぐ予定の爵位も高いし、王都に住んでいて流行の遊び方もよく知っている。女性の扱いもね。だから一緒にいても楽しいよ。もちろん君の望む贅沢も十分にさせてあげられるしね」
「そうなのですか。でも贅沢は十分していますし、一緒にいるのはセルディさまがいいです」
「かわいそうに」
セルディの名を出すときは笑顔になるエレファナを見て、フロリアンはあわれむように笑った。
「俺は君と会ったときのことを、覚えているよ」
(あら? 忘れていなかったのですね!)
「あいつは君が、洒落た街ではなく自然しかない林をふらついているというのに、注意すらしないのだろう? あのブルーベリーの慣れた食べ方を見ると、どうせ野生児のようなことばかりさせられているはずだ。俺ならもっと高価なものを、上品に食べさせてあげることだってできるんだよ」
「それでしたら、私はセルディさまの食べ方が好きです。フロリアンさまの食べ方は、好きではありません」
エレファナがよどみなく告げると、フロリアンはセルディより下の扱いをされたと思ったのか、信じられないように眉をひそめる。
「……なんだと?」
「私はセルディさまの食べ方が好きです。フロリアンさまの食べ方は、好きではありません」
エレファナが堂々と繰り返すので、大人しそうな令嬢たちも驚いた様子で見つめてくる。
フロリアンはプライドを傷つけられたのか、面白くなさそうに目をつり上げた。
「……さっきから、大人しく聞いていれば適当なことを言ってくれるじゃないか。俺を侮辱するのなら、きちんと説明してもらおうか!」
(侮辱したつもりはなかったのですが、説明が足りなくて誤解を受けてしまったかもしれません)
「はい、お話します。フロリアンさまは騎士さまたちが見張っているドルフ領に無断侵入して、お腹が空いたら私のブルーベリーの木の実を食べていたようでした。あのとき、従者の方たちが上手く採れなくて潰した実を舐めていましたよね?」
背後の令嬢たちが不快そうに眉をひそめていることに気づき、フロリアンは慌てた様子で声を荒げた。
「なっ……そんなこと、妙な言いがかりだ!」
「そうでしたか? 従者の方たちは採ったものをすべて潰してがっかりしていましたが、フロリアンさまは会ったとき唇が紫になっていました。だからあの潰されたブルーベリーを一人で舐めていたのだと思うのです。あの実はおいしいので気持ちもわかりますが、お行儀が悪いと思います。なによりお腹の空いた従者の方たちもいたのですから、一緒に分けた方がおいしいのに、どうしてひとりで舐めていたのだろうと不思議でした。私はセルディさまの食べ方の方が好きです」
そのとき足早にやって来たセルディが、エレファナを守るように身を寄せる。
「困ったな」
「困りますか?」
「ああ。まさか君にそこまで想われているとは気づかなかったよ。納得もできるけれどね」
「そうですか。あなたが痛かったのではないかと思って、心配していました」
「そのことは忘れよう。……実はね。俺は、あれからよく考えてみたんだ。君の価値のことを。君は俺にふさわしい女性かもしれないことを」
フロリアンは相変わらず気取った振る舞いで、前髪をかき上げる。
「君はどうだい? あんな堅物と……セルディといてもつまらないだろう?」
「? 一番楽しいです」
「遠慮する必要はないさ。俺の方があいつより継ぐ予定の爵位も高いし、王都に住んでいて流行の遊び方もよく知っている。女性の扱いもね。だから一緒にいても楽しいよ。もちろん君の望む贅沢も十分にさせてあげられるしね」
「そうなのですか。でも贅沢は十分していますし、一緒にいるのはセルディさまがいいです」
「かわいそうに」
セルディの名を出すときは笑顔になるエレファナを見て、フロリアンはあわれむように笑った。
「俺は君と会ったときのことを、覚えているよ」
(あら? 忘れていなかったのですね!)
「あいつは君が、洒落た街ではなく自然しかない林をふらついているというのに、注意すらしないのだろう? あのブルーベリーの慣れた食べ方を見ると、どうせ野生児のようなことばかりさせられているはずだ。俺ならもっと高価なものを、上品に食べさせてあげることだってできるんだよ」
「それでしたら、私はセルディさまの食べ方が好きです。フロリアンさまの食べ方は、好きではありません」
エレファナがよどみなく告げると、フロリアンはセルディより下の扱いをされたと思ったのか、信じられないように眉をひそめる。
「……なんだと?」
「私はセルディさまの食べ方が好きです。フロリアンさまの食べ方は、好きではありません」
エレファナが堂々と繰り返すので、大人しそうな令嬢たちも驚いた様子で見つめてくる。
フロリアンはプライドを傷つけられたのか、面白くなさそうに目をつり上げた。
「……さっきから、大人しく聞いていれば適当なことを言ってくれるじゃないか。俺を侮辱するのなら、きちんと説明してもらおうか!」
(侮辱したつもりはなかったのですが、説明が足りなくて誤解を受けてしまったかもしれません)
「はい、お話します。フロリアンさまは騎士さまたちが見張っているドルフ領に無断侵入して、お腹が空いたら私のブルーベリーの木の実を食べていたようでした。あのとき、従者の方たちが上手く採れなくて潰した実を舐めていましたよね?」
背後の令嬢たちが不快そうに眉をひそめていることに気づき、フロリアンは慌てた様子で声を荒げた。
「なっ……そんなこと、妙な言いがかりだ!」
「そうでしたか? 従者の方たちは採ったものをすべて潰してがっかりしていましたが、フロリアンさまは会ったとき唇が紫になっていました。だからあの潰されたブルーベリーを一人で舐めていたのだと思うのです。あの実はおいしいので気持ちもわかりますが、お行儀が悪いと思います。なによりお腹の空いた従者の方たちもいたのですから、一緒に分けた方がおいしいのに、どうしてひとりで舐めていたのだろうと不思議でした。私はセルディさまの食べ方の方が好きです」
そのとき足早にやって来たセルディが、エレファナを守るように身を寄せる。
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