73 / 83
10章
73・作戦開始です!
しおりを挟む
(この作戦が成功すれば、セルディさまの体調も良くなるはずです。もしかすると、長年患っていた動物アレルギーだって治るかもしれません! セルディさまも目が痒くならないのなら、好きな動物と一緒に暮らすことができるようになります! 私はすでに、色々な動物さん候補が浮かんでいます!)
エレファナは一刻も早くセルディの元へ戻って、その話をしたくなった。
肌にまとわりつくような不快な気配が迫ってきても、ひるまず急降下する。
(なるほど。ドルフ皇帝が魔獣に近い存在になっているとしても……。私の中にいる精霊さんの加護だけでは消しきれないほどの禍々しさです)
近づけば近づくほど、皇帝が不完全な研究道具によって自分の魂を削り、朽ちかけていることを感じる。
しかし彼自身が死期を悟っていたとしても、生き永らえる執着を手放せるとは思えなかった。
(その欲望がきっと、セルディさまを助けられる鍵になります。『深く考えず、確認せず、どうぞよろしくお願いいたします!』作戦開始です!)
丈の短い草地を風の渦で円形に倒しつつ、エレファナはその中心に降り立つ。
闇の中に、なにかがうごめいていた。
その場所だけが、自ら闇を放っているかのように、黒々と視界を塗りつぶしている。
「お久しぶりです。ドルフ皇帝」
赤く不吉に光る二つの瞳孔が、現れた生贄を見て喜んでいた。
『マッテイタゾ……エレフぁナ』
「はい。あなたは自分をうち滅ぼして栄えている王国を滅ぼすため、そして失われつつある魂に力を呼び戻すため……私の命が欲しいのですよね」
『ホしィナア』
「でも王城にいる人々を襲おうとしたり、私を呼び出すように命じて、枷のあるセルディさまを苦しめるのは困ります」
エレファナが訴えると、無気味な笑い声が漏れる。
『サぁ、ココヘ』
(相変わらず自分のことしか、考えていないようです。とても都合がいいです)
エレファナは恐れる様子もなく、闇の濃い場所へと歩み出る。
『ォマエの、イのチヲ……』
「私はもう、あなたに従うことはありません」
エレファナはさらりと拒絶した。
そして魔女らしい笑みを浮かべ、視界の閉ざされた闇へ手を伸ばす。
「だからどうしても欲しいのなら、私を蹂躙すればいいのです」
その言葉の響きが気に入ったのか、ケタケタと気味の悪い哄笑が起こる。
あたりの気配が変わった。
ざわざわと草木が揺れ、エレファナを取り囲むように冷たい風が巻き立った。
『ワレニ、サさゲョ』
肘から上が失われた不気味な黒い手の影が、夜の平原に一段と濃く浮いている。
(服従の枷を壊すことは困難ですが、転術ですからおそらく……来ました)
ドルフ皇帝だった影の腕を中心に、空間が禍々しく歪みはじめた。
その薬指が鮮血の色に揺らぎ、見覚えのある紋様の枷が浮き上がる。
エレファナの指輪の下に隠されている枷からも、逆らえば全身を苛む服従の指示が、びりびりと送られてくる。
(セルディさまでしたら、私にこんなことはしません。今の枷の相手は間違いなくドルフ皇帝……。上手くいったようです!)
エレファナは一刻も早くセルディの元へ戻って、その話をしたくなった。
肌にまとわりつくような不快な気配が迫ってきても、ひるまず急降下する。
(なるほど。ドルフ皇帝が魔獣に近い存在になっているとしても……。私の中にいる精霊さんの加護だけでは消しきれないほどの禍々しさです)
近づけば近づくほど、皇帝が不完全な研究道具によって自分の魂を削り、朽ちかけていることを感じる。
しかし彼自身が死期を悟っていたとしても、生き永らえる執着を手放せるとは思えなかった。
(その欲望がきっと、セルディさまを助けられる鍵になります。『深く考えず、確認せず、どうぞよろしくお願いいたします!』作戦開始です!)
丈の短い草地を風の渦で円形に倒しつつ、エレファナはその中心に降り立つ。
闇の中に、なにかがうごめいていた。
その場所だけが、自ら闇を放っているかのように、黒々と視界を塗りつぶしている。
「お久しぶりです。ドルフ皇帝」
赤く不吉に光る二つの瞳孔が、現れた生贄を見て喜んでいた。
『マッテイタゾ……エレフぁナ』
「はい。あなたは自分をうち滅ぼして栄えている王国を滅ぼすため、そして失われつつある魂に力を呼び戻すため……私の命が欲しいのですよね」
『ホしィナア』
「でも王城にいる人々を襲おうとしたり、私を呼び出すように命じて、枷のあるセルディさまを苦しめるのは困ります」
エレファナが訴えると、無気味な笑い声が漏れる。
『サぁ、ココヘ』
(相変わらず自分のことしか、考えていないようです。とても都合がいいです)
エレファナは恐れる様子もなく、闇の濃い場所へと歩み出る。
『ォマエの、イのチヲ……』
「私はもう、あなたに従うことはありません」
エレファナはさらりと拒絶した。
そして魔女らしい笑みを浮かべ、視界の閉ざされた闇へ手を伸ばす。
「だからどうしても欲しいのなら、私を蹂躙すればいいのです」
その言葉の響きが気に入ったのか、ケタケタと気味の悪い哄笑が起こる。
あたりの気配が変わった。
ざわざわと草木が揺れ、エレファナを取り囲むように冷たい風が巻き立った。
『ワレニ、サさゲョ』
肘から上が失われた不気味な黒い手の影が、夜の平原に一段と濃く浮いている。
(服従の枷を壊すことは困難ですが、転術ですからおそらく……来ました)
ドルフ皇帝だった影の腕を中心に、空間が禍々しく歪みはじめた。
その薬指が鮮血の色に揺らぎ、見覚えのある紋様の枷が浮き上がる。
エレファナの指輪の下に隠されている枷からも、逆らえば全身を苛む服従の指示が、びりびりと送られてくる。
(セルディさまでしたら、私にこんなことはしません。今の枷の相手は間違いなくドルフ皇帝……。上手くいったようです!)
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係
ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる