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10章
75・夢では……ありません!
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影は思いもしない強さで跳ね上がり、エレファナの右腕に巻き付いた。
「!」
キキキと不快な声が上がる。
『ィノチ、ヨコせ!』
エレファナが気づいたときには、月光も届かない漆黒の中にいた。
全てが闇に閉ざされ、上下感覚もわからない。
(これは、一体……!?)
反射的に魔導で飛び去ろうとしたが、しかしなにも起こらなかった。
(魔力が使えない? ここは魔導耐性のある空間なのでしょうか。もしかすると私は、ドルフ皇帝の影の内側にとり込まれたのかもしれません)
違和感を覚えて目を向ける。
先ほど影に巻き付かれた自分の右腕が、景色と同化するように黒く染まっていた。
(あら。腕が固定されたみたいに動きません……。魔導も発現しません。放してもらうなら、この方法しかなさそうです!)
エレファナは辺りの闇に向かい、自由の利く左手で懸命にくすぐってみる。
辺りに満ちる黒い空間から、わずかに震えが伝わってきた。
『ヤメロ』
(やはりくすぐったいのですね。でもなかなか我慢強いです。諦めません……!)
『ダかラヤメロ』
「諦めません!」
『ムダだ。ドゥセモウ、デらレナイ』
「いいえ、私は出ます。セルディさまが待っているのですから!」
エレファナは全く揺るがずに答える。
それを否定するように、視界が黒く塗りつぶされた。
エレファナは驚いて見回したが、自分の姿すら捉えられない。
(なんでしょう……。胸の奥が寝苦しいような、嫌な感じです)
『ォいデ』
「行きません」
『ヒヒっ』
「笑われても、私はセルディさまのところへ帰ります!」
迷わず答えた。
しかし以前の自分なら「そういうものなのですね」と受け入れていたような気もする。
(でも今は違います。私は色々なことを知りました。自分のことがわかってきました)
「このままお別れなんて嫌です。私はセルディさまに会いたいです!」
「ああ、ここにいるよ」
「えっ!?」
望んでいた声が聞こえた。
理由など考えず、エレファナはその闇の先へと指を伸ばす。
「セルディさま!」
重苦しかった胸の内が、力を得たように熱くなった。
指の先から魔導の光が奔流のように溢れていく。
まばゆさに目を閉じたとき、エレファナが差し出した手はしっかりと握られていた。
見えなくても、その感触ですぐにわかる。
「会いたかったです……!」
安堵に思わず抱きつくと、応えるように包み込まれた。
気づくとエレファナは、セルディの腕の中にいる。
『ケケッ! エサフえタ!!』
狂ったような歓喜の声が上がった。
エレファナの右腕に絡みついていた黒い塊が飛び跳ねると、捕食するかのように広がる。
セルディはエレファナをかばうように、さっと前に身をひるがえした。
「エレファナはもう、そのような扱いを受けることなどない!」
そしてきつく握りしめた拳を構えると、その膜のようなものの腹に強烈な一撃を喰い込ませる。
弾かれるように影の膜が吹き飛んだ。
突如、エレファナの視界は開けるように色を取り戻す。
(ここは……)
エレファナは先ほどの草地にいた。
空は夜から移ろい、昇る朝日に淡く白みはじめている。
(夢では……ありません!)
目の前にはやはり、エレファナが会いたいと願うその人がいた。
「!」
キキキと不快な声が上がる。
『ィノチ、ヨコせ!』
エレファナが気づいたときには、月光も届かない漆黒の中にいた。
全てが闇に閉ざされ、上下感覚もわからない。
(これは、一体……!?)
反射的に魔導で飛び去ろうとしたが、しかしなにも起こらなかった。
(魔力が使えない? ここは魔導耐性のある空間なのでしょうか。もしかすると私は、ドルフ皇帝の影の内側にとり込まれたのかもしれません)
違和感を覚えて目を向ける。
先ほど影に巻き付かれた自分の右腕が、景色と同化するように黒く染まっていた。
(あら。腕が固定されたみたいに動きません……。魔導も発現しません。放してもらうなら、この方法しかなさそうです!)
エレファナは辺りの闇に向かい、自由の利く左手で懸命にくすぐってみる。
辺りに満ちる黒い空間から、わずかに震えが伝わってきた。
『ヤメロ』
(やはりくすぐったいのですね。でもなかなか我慢強いです。諦めません……!)
『ダかラヤメロ』
「諦めません!」
『ムダだ。ドゥセモウ、デらレナイ』
「いいえ、私は出ます。セルディさまが待っているのですから!」
エレファナは全く揺るがずに答える。
それを否定するように、視界が黒く塗りつぶされた。
エレファナは驚いて見回したが、自分の姿すら捉えられない。
(なんでしょう……。胸の奥が寝苦しいような、嫌な感じです)
『ォいデ』
「行きません」
『ヒヒっ』
「笑われても、私はセルディさまのところへ帰ります!」
迷わず答えた。
しかし以前の自分なら「そういうものなのですね」と受け入れていたような気もする。
(でも今は違います。私は色々なことを知りました。自分のことがわかってきました)
「このままお別れなんて嫌です。私はセルディさまに会いたいです!」
「ああ、ここにいるよ」
「えっ!?」
望んでいた声が聞こえた。
理由など考えず、エレファナはその闇の先へと指を伸ばす。
「セルディさま!」
重苦しかった胸の内が、力を得たように熱くなった。
指の先から魔導の光が奔流のように溢れていく。
まばゆさに目を閉じたとき、エレファナが差し出した手はしっかりと握られていた。
見えなくても、その感触ですぐにわかる。
「会いたかったです……!」
安堵に思わず抱きつくと、応えるように包み込まれた。
気づくとエレファナは、セルディの腕の中にいる。
『ケケッ! エサフえタ!!』
狂ったような歓喜の声が上がった。
エレファナの右腕に絡みついていた黒い塊が飛び跳ねると、捕食するかのように広がる。
セルディはエレファナをかばうように、さっと前に身をひるがえした。
「エレファナはもう、そのような扱いを受けることなどない!」
そしてきつく握りしめた拳を構えると、その膜のようなものの腹に強烈な一撃を喰い込ませる。
弾かれるように影の膜が吹き飛んだ。
突如、エレファナの視界は開けるように色を取り戻す。
(ここは……)
エレファナは先ほどの草地にいた。
空は夜から移ろい、昇る朝日に淡く白みはじめている。
(夢では……ありません!)
目の前にはやはり、エレファナが会いたいと願うその人がいた。
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