【完結】地味顔令嬢は平穏に暮らしたい

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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86・特別な景色

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(どうすればいいのかわからないこと、誰にも打ち明けられなかったこと……それは)

 ひとつだけ浮かび、ティサリアはぽつりと呟く。

「クレイをこんなに好きになってしまったこと」

「……」

(はっ!)

 クレイルドの「それ、相談?」という疑問を、ティサリア自身が先に察して、慌てて補足した。

「あっ、あの! 急に聞かれたから、それしか頭の中に浮かばなくて! だけど相談というには、クレイの相談に負けず劣らず変かも──」

 ふとクレイルドの右手が伸びてきて、ティサリアの顎をとらえる。

「動かないで」

 やさしく囁いてから、彼は左手の指の腹でティサリアの唇を撫でた。

 そしてその指を自分の元まで持っていき、味見するように口づける。

「!」

「カステラがついてたから、一口もらったよ」

「もっ、もらっ!?」

 クレイルドはむじゃきなようで、しかしぞくりとさせるほど色気のある笑みを浮かべた。

「次の相談は、今の続きにするよ」

 クレイルドの両腕が伸びてきて、ティサリアはその中に閉じ込められる。

 顔を上げると、いつもの澄んだ眼差しが、迷うことなくティサリアを見つめていた。

「長かったな」

 その言葉の重みを感じると、ティサリアは彼の胸に顔を寄せて、ずっと気になっていたことを聞く。

「どうして護衛の方たちに、私を探させなかったの?」

「君がギルバルト殿の邸館で、何人かの女の子と集まって理想の恋人の話をしていたからね」

「そういえば、そんな話をしたような……私、何か言ってたの?」

「ティサリアの理想の恋人はね、『自分のことを見つけてくれる人』だったんだよ。だから聞いたとき、俺が絶対自分で見つけるって誓って、ギルバルト殿にも君のことを聞きたかったけれど、なんとか思いとどまったんだよ」

「えっ」

「ん?」

「……」

 ティサリアは思わず漏らした驚きの理由を言わずに沈黙していたが、無言のクレイルドもなにかを察しているようなので、正直に白状した。

「あのね、それは全然ロマンチックな意味ではなくて。ただ私のことを、人違いしない方がいいというだけで……」

「……つまり」

 別に、ティサリアをどうやって探しても問題はなかった。

「さっさと名前聞いておけばよかった……」

 会えなかった期間を悔やむように、抱きしめてくる腕の力がこもる。

「ティサリア、好きだよ」

 ティサリアは小さく頷くと、少し緊張するような、しかしほっとできるような、その居心地の良い場所で目を閉じる。

(どきどきしたり、穏やかな気持ちになったり……クレイって本当に、不思議だな)

 二人は言葉を交わすこともなく、しばらくそのままでいた。

 やがてクレイルドは腕の力を緩めると、今度はティサリアの前に手を差し伸べる。

「そこの窓まで行こうか」

「窓?」

「今日のデートだよ。窓まで手を繋いで歩いて、一緒に空を見よう」

(あっ。さっき私が慣れないことをして謎の行動に走ったから、負担にならないように気をつけてくれているんだ)

 ティサリアは彼の温かい手を取ると、クレイルドがそばにある窓まで連れて行ってくれる。

「次はこうやって、一緒に王都を歩こう。ティサリアがあの飛空船を守ってくれてから、最近は誰も俺にそっけない視線を向けなくなったよ」

「よかった。クレイのことを怖がらなくていいって、わかってもらえたんだね」

 クレイルドと並び、ティサリアは晴れやかな気持ちで、窓から見える世界を仰いだ。

(最近は忙しくて、こうやって空を眺めるのも忘れていたな)

「ねぇクレイ。今度、時計塔の最上階までのぼってもいい?」

「いいね。一緒に行こう」

「うん!」

 住み慣れた場所から見るいつもの空も、彼と過ごすと特別な景色になっていく。

 それはきっと、これからも。





 
 <おしまい>

最後までお付き合い下さり、本当にありがとうございました!!

後半の更新は追い付かなくなってしまいましたが、読んでいただけることが力になって、どうにか完結までたどり着くことが出来ました。

これからもティサリアたちはずっと楽しく暮らしていきますので、ご安心ください。

また見かけることがありましたら、寄ってくださると嬉しいです。

では、またいつか!


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