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45 ずぶ濡れの偽王女
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庭園へ人影が舞い降りた。
レイナルトは浮遊魔術のなめらかな着地を終えると、横抱きにしているミスティナを丁重におろす。
その場にいた人々の注目が集まる中、ファオネア辺境伯は慌てた様子でやってきた。
「ミスティナ様、レイナルト殿下! あなたたちが飛び降りてきたバルコニーから、先ほど侵入者が噴水に落ちたのです。なにがあったのですか!?」
「ティナがそこの侵入者に襲われかけた」
レイナルトはずぶ濡れで捕縛されたクルーラに一瞥を向ける。
しかしクルーラは、レイナルトの視線を受けて頬を染めた。
「レイナルト様、お久しぶりです!」
浮かれた様子で近づこうとするクルーラは、しかし衛兵に拘束されている。
レイナルトは眉を寄せた。
「……いや。今まで一度も会った覚えはないが。誰だ?」
「思い出してください。グレネイス帝国の建国記念式典で、一度だけお会いしました。大勢の賓客が集まる中、あなたが遠くの席でも、私を見つめていましたよね? あの瞬間、私に想いを寄せてくださっていると気づきました」
不法侵入者であるクルーラの場違いな発言に、周囲の者が唖然とする。
レイナルトの眼差しが冷ややかに陰った。
「……なるほど、君は呼ばれてもいない式典に現れた、愚かな公爵の娘か。我が国の皇帝陛下は穏健なため、自由席に通したようだが。俺は恥知らずな者のことなど、いちいち覚えたりはしない。招待者以外は来場を拒否する」
「そんな! レイナルト様、目を覚ましてください! あなたはミスティナに惚れ薬を盛られておかしくなっています!」
「おかしいのは誰か、惚れ薬を見境なく盛り続けたのは誰なのか……君が一番知っているだろう」
レイナルトはファオネア辺境伯の背後を振り返る。
そこにはフレデリカとアランがいた。
クルーラは粗悪な惚れ薬を飲ませてから失踪していた相手に気づき 信じられないかのように顔を歪める。
「そんな! なぜアランが生きているの!?」
「姉上たちに助けてもらって、粗悪な惚れ薬は解毒できたんだ。君の余罪も徐々に明らかになるだろうね」
「な、なんの話かしら!? 誤解よ! 私はなにもしていないわ!」
クルーラは必死の形相であたりを見回し、レイナルトにすがるように訴える。
「レイナルト様、ミスティナではあなたの婚約者は務まりません。婚約者の替えとして、私の方があなたにふさわしいんです。どうか目を覚ましてください!」
「目を覚ました方がいいのは君だ」
レイナルトは素知らぬ顔でミスティナの腰に手を添え、やさしく引き寄せる。
「言っておくが、ローレット王国のミスティナ王女が私の婚約者であることは、我がグレネイス帝国の皇帝陛下も認めている。替えなどという発想は許しがたい侮辱だ。そもそも俺が彼女以外の者を望むなどありえない」
レイナルトはその証のように、ミスティナのこめかみに口づけた。
クルーラは愕然としたまま力が抜けたように膝をつくと、抵抗する力もなく衛兵に連行されていく。
ファオネア辺境伯は戸惑った様子で聞いた。
「彼女はいったい……バルコニーではなにがあったのですか?」
レイナルトは目撃した一連のこと、ミスティナがクルーラに襲われかけたことを話す。
ファオネア辺境伯は苦々しい表情で胃の辺りを押さえた。
「上階からの破裂音や、落ちてきた侵入者が魔導杖を握っていたことから、嫌な予感はあったのですが……まさかミスティナ様の命を狙うとは」
「まったくだ。こんな祝いの日に、愚かな狼藉を働く者がいるとはな」
見ると執事に案内されて、皇帝陛下夫妻が庭園にやってくる。
ふたりは長身の息子を見つけると、その隣に立つミスティナへ歩み寄った。
「ミスティナ、レイナルト、元気にしていたか」
「私たち、楽しみにしていたのよ。陛下なんてカレンダーに毎日チェックをつけて今日が来るのを数えていたもの」
「そ、それをバラすな。おまえだってミスティナからもらった香油を毎日付けながら、鼻歌を歌っていだろう」
庭園内の人々が皇帝夫妻の意外な和やかさに注目する中、ミスティナはにこやかに応じた。
「皇帝陛下、皇妃殿下、私もお会いできる日を心待ちにしていました」
そして背後にいる自分によく似た青年、弟のアランを夫妻に紹介した。
彼が載せた王冠の宝玉は、ローレット王国の正当なる王位継承者の証として輝いている。
「アランは先ほど捕らえられたヴィートン公爵夫妻の娘、クルーラに毒を盛られて体調を崩していました。しかしグレネイス帝国の皇太子、レイナルト殿下とファオネア辺境伯の協力もあり、今はこの場に立てるほど回復しています」
ミスティナはローレット王国がヴィートン公爵夫妻によって不当に私物化され、王族である自分と弟は不遇な扱いを受けていたことを説明する。
周囲がミスティナたちに同情を寄せる中、皇帝夫妻も頷きながら聞いていた。
「どうやらローレット王国と我が国と争いの火種を起こしていたのは、ヴィートン公爵の横暴のためのようだな。その暴挙を我が帝国の者が協力して、ローレット王国の助けになっていたことを誇りに思う」
「私もアランも、グレネイス帝国で受けた温情に深く感謝しています。アランの戴冠式にはぜひ、皇帝陛下夫妻もお越しください」
「もちろんだ。アラン王子殿下が国王となることを、心より祝いたい」
皇帝がローレットの新たな国王を祝福する。
それはヴィートン公爵によって関係の悪化していた両国が、再び交流をはじめる合図だった。
今まで深刻に話を聞いていた来場者から、明るい声があがる。
「そうか、ローレット王国がグレネイス帝国を突然魔術で攻撃してきたのは、先ほど無礼を働いていたヴィートン公爵のせいだったのか!」
「そのせいで国同士が仲違いしていたけれど、これからやり直せばいいわ!」
「今日はグレネイス帝国とローレット王国にとって、新たな門出となるぞ!」
庭園内は和気あいあいとした雰囲気に包まれる。
皇帝はファオネア辺境伯に、いたわりを込めるように確認した。
「聞いたぞファオネア辺境伯。君の捜し続けた娘が見つかったと」
ファオネア辺境伯は照れくさそうな笑顔を浮かべる。
「はい。皇帝陛下、皇妃殿下はもちろん、今日お集まりいただいた人々に、改めて紹介させてください。彼女は私の愛する娘、フレデリカです!」
フレデリカは胸元に青く輝く宝玉の付いた首飾りを着け、うやうやしくスカートの裾をつまんで、堂々と礼をする。
庭園には驚きの声が上がった。
「まさか……ファオネア辺境伯と生き別れとなっていた、あのお嬢様が見つかったのか!?」
「まぁ、美しいご令嬢になって……」
「ははは、娘様に間違いない! 領主様とそっくりだ!」
歓声を受けたフレデリカは、皇帝夫妻と挨拶を交わした。
そしてファオネア辺境伯の前妻がヴィートン公爵夫人だったこと、彼女によってフレデリカとファオネア辺境伯が引き裂かれていた事情を説明する。
ファオネア辺境伯は改まった様子でミスティナに歩み寄った。
「しかしミスティナ様によって、前妻の企みは暴かれました。私と娘はこうして再会を果たし、今日の婚約パーティーで娘を祝うことができます!」
「「「娘を祝う?」」」
庭園内の人々は顔を見合わせる。
ミスティナは周囲をぐるりと見回し、深く礼をした。
庭園へ人影が舞い降りた。
レイナルトは浮遊魔術のなめらかな着地を終えると、横抱きにしているミスティナを丁重におろす。
その場にいた人々の注目が集まる中、ファオネア辺境伯は慌てた様子でやってきた。
「ミスティナ様、レイナルト殿下! あなたたちが飛び降りてきたバルコニーから、先ほど侵入者が噴水に落ちたのです。なにがあったのですか!?」
「ティナがそこの侵入者に襲われかけた」
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しかしクルーラは、レイナルトの視線を受けて頬を染めた。
「レイナルト様、お久しぶりです!」
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レイナルトは眉を寄せた。
「……いや。今まで一度も会った覚えはないが。誰だ?」
「思い出してください。グレネイス帝国の建国記念式典で、一度だけお会いしました。大勢の賓客が集まる中、あなたが遠くの席でも、私を見つめていましたよね? あの瞬間、私に想いを寄せてくださっていると気づきました」
不法侵入者であるクルーラの場違いな発言に、周囲の者が唖然とする。
レイナルトの眼差しが冷ややかに陰った。
「……なるほど、君は呼ばれてもいない式典に現れた、愚かな公爵の娘か。我が国の皇帝陛下は穏健なため、自由席に通したようだが。俺は恥知らずな者のことなど、いちいち覚えたりはしない。招待者以外は来場を拒否する」
「そんな! レイナルト様、目を覚ましてください! あなたはミスティナに惚れ薬を盛られておかしくなっています!」
「おかしいのは誰か、惚れ薬を見境なく盛り続けたのは誰なのか……君が一番知っているだろう」
レイナルトはファオネア辺境伯の背後を振り返る。
そこにはフレデリカとアランがいた。
クルーラは粗悪な惚れ薬を飲ませてから失踪していた相手に気づき 信じられないかのように顔を歪める。
「そんな! なぜアランが生きているの!?」
「姉上たちに助けてもらって、粗悪な惚れ薬は解毒できたんだ。君の余罪も徐々に明らかになるだろうね」
「な、なんの話かしら!? 誤解よ! 私はなにもしていないわ!」
クルーラは必死の形相であたりを見回し、レイナルトにすがるように訴える。
「レイナルト様、ミスティナではあなたの婚約者は務まりません。婚約者の替えとして、私の方があなたにふさわしいんです。どうか目を覚ましてください!」
「目を覚ました方がいいのは君だ」
レイナルトは素知らぬ顔でミスティナの腰に手を添え、やさしく引き寄せる。
「言っておくが、ローレット王国のミスティナ王女が私の婚約者であることは、我がグレネイス帝国の皇帝陛下も認めている。替えなどという発想は許しがたい侮辱だ。そもそも俺が彼女以外の者を望むなどありえない」
レイナルトはその証のように、ミスティナのこめかみに口づけた。
クルーラは愕然としたまま力が抜けたように膝をつくと、抵抗する力もなく衛兵に連行されていく。
ファオネア辺境伯は戸惑った様子で聞いた。
「彼女はいったい……バルコニーではなにがあったのですか?」
レイナルトは目撃した一連のこと、ミスティナがクルーラに襲われかけたことを話す。
ファオネア辺境伯は苦々しい表情で胃の辺りを押さえた。
「上階からの破裂音や、落ちてきた侵入者が魔導杖を握っていたことから、嫌な予感はあったのですが……まさかミスティナ様の命を狙うとは」
「まったくだ。こんな祝いの日に、愚かな狼藉を働く者がいるとはな」
見ると執事に案内されて、皇帝陛下夫妻が庭園にやってくる。
ふたりは長身の息子を見つけると、その隣に立つミスティナへ歩み寄った。
「ミスティナ、レイナルト、元気にしていたか」
「私たち、楽しみにしていたのよ。陛下なんてカレンダーに毎日チェックをつけて今日が来るのを数えていたもの」
「そ、それをバラすな。おまえだってミスティナからもらった香油を毎日付けながら、鼻歌を歌っていだろう」
庭園内の人々が皇帝夫妻の意外な和やかさに注目する中、ミスティナはにこやかに応じた。
「皇帝陛下、皇妃殿下、私もお会いできる日を心待ちにしていました」
そして背後にいる自分によく似た青年、弟のアランを夫妻に紹介した。
彼が載せた王冠の宝玉は、ローレット王国の正当なる王位継承者の証として輝いている。
「アランは先ほど捕らえられたヴィートン公爵夫妻の娘、クルーラに毒を盛られて体調を崩していました。しかしグレネイス帝国の皇太子、レイナルト殿下とファオネア辺境伯の協力もあり、今はこの場に立てるほど回復しています」
ミスティナはローレット王国がヴィートン公爵夫妻によって不当に私物化され、王族である自分と弟は不遇な扱いを受けていたことを説明する。
周囲がミスティナたちに同情を寄せる中、皇帝夫妻も頷きながら聞いていた。
「どうやらローレット王国と我が国と争いの火種を起こしていたのは、ヴィートン公爵の横暴のためのようだな。その暴挙を我が帝国の者が協力して、ローレット王国の助けになっていたことを誇りに思う」
「私もアランも、グレネイス帝国で受けた温情に深く感謝しています。アランの戴冠式にはぜひ、皇帝陛下夫妻もお越しください」
「もちろんだ。アラン王子殿下が国王となることを、心より祝いたい」
皇帝がローレットの新たな国王を祝福する。
それはヴィートン公爵によって関係の悪化していた両国が、再び交流をはじめる合図だった。
今まで深刻に話を聞いていた来場者から、明るい声があがる。
「そうか、ローレット王国がグレネイス帝国を突然魔術で攻撃してきたのは、先ほど無礼を働いていたヴィートン公爵のせいだったのか!」
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庭園内は和気あいあいとした雰囲気に包まれる。
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「聞いたぞファオネア辺境伯。君の捜し続けた娘が見つかったと」
ファオネア辺境伯は照れくさそうな笑顔を浮かべる。
「はい。皇帝陛下、皇妃殿下はもちろん、今日お集まりいただいた人々に、改めて紹介させてください。彼女は私の愛する娘、フレデリカです!」
フレデリカは胸元に青く輝く宝玉の付いた首飾りを着け、うやうやしくスカートの裾をつまんで、堂々と礼をする。
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「まさか……ファオネア辺境伯と生き別れとなっていた、あのお嬢様が見つかったのか!?」
「まぁ、美しいご令嬢になって……」
「ははは、娘様に間違いない! 領主様とそっくりだ!」
歓声を受けたフレデリカは、皇帝夫妻と挨拶を交わした。
そしてファオネア辺境伯の前妻がヴィートン公爵夫人だったこと、彼女によってフレデリカとファオネア辺境伯が引き裂かれていた事情を説明する。
ファオネア辺境伯は改まった様子でミスティナに歩み寄った。
「しかしミスティナ様によって、前妻の企みは暴かれました。私と娘はこうして再会を果たし、今日の婚約パーティーで娘を祝うことができます!」
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