【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

文字の大きさ
33 / 45

33 赤い花に込めた願い

しおりを挟む
   ◇

 大聖堂を丸ごと遊び場にしてしまった「大聖女の祈りの舞」から数日後。

 遊び部屋では、エトワールと大聖女はアクセサリーキットに夢中になっている。

 大聖女付きの侍女たちは見守るように控え、窓の外では白雲がゆったりと流れていく。

「できまちた!」

 エトワールが得意げに掲げたのは、紫のビーズで作ったブレスレット。
 とてとてっと駆け寄って、私の手首にはめてくれる。
 窓から射す光を受け、ビーズがきらりと輝く。

「おかぁしゃまに、にあう」

 その言い方は公爵が私に贈り物を渡すときとそっくりで、思わず笑ってしまう。

「エト、ありがとう。とっても嬉しいわ。これは宝物ね」

「たからもの!」

「……」

 視線を感じて振り返ると、大聖女がこちらをじっと見つめていた。
 小さな手には、赤いビーズで作ったブレスレットがある。

 それをぎゅっと握りしめ、大聖女はキッズテントの中へ隠れてしまった。

 私は迷わず後を追い、入口にしゃがんで声をかける。

「大聖女様のブレスレットも、完成したのですよね?」

「……うまく、いきませんの」

 心細そうな声だ。
 私はテントの布にそっと手を添え、穏やかに続ける。

「赤いビーズが華やかで、お花みたいですね」

「おかあさまは、あかいおはなをそだてていますの。『これは、たいせつなことをおもいだす、とくべつなはなです』って、おしえてくれました。だから……」

「お母様に、贈りたいのですね」

 しばらく静まり返った。
 やがて布越しに、小さく頷いた気配が伝わってきた。

 ようやく、大聖女が胸の奥に仕舞い込んでいた孤独の一片に触れられた気がした。

「でも……どうわたせばいいのか、わかりませんわ」

 そのとき、今まで静かだったエトワールが私の隣に来て、はっきりと言った。

「サンタしゃん、たのむの!」

 布の向こうで、小さく息をのむ気配がする。
 テントがそっと開き、大聖女の顔がひょこっと出てきた。
 その瞳には、ほんの少し期待の色が宿っている。

「サンタさまって……あの、アルージュさまのえほんにでてくる、プレゼントをくばるおかた?」

「えんとつからきたら、エトおねがいしましゅ! たからもの! レオしゃまのおかあしゃまに、とどけてくだしゃい!」

 次の瞬間、大聖女はぱっと飛び出し、拳をしっかりと握りしめた。

「ブレスレットはプレゼントようのふくろにしまって、サンタさまがみつけやすいように、もみのきにかざりますわ!」

「あいっ!」

 二人は大はしゃぎで袋を探し回り、クリスマス風の小さな赤いブーツの形を見つける。
 そこに赤い花のブレスレットを丁寧にしまい込み、楽しげに笑い合っている。

「サンタしゃん、まちがえてたべましぇんように」

「まあ! それはこまります……そうですわ! サンタさまに、おてがみをかきます。『これは、たべないでください。わたくしのおかあさまにわたしてください』って、おねがいします!」

「エトも、おねがいしゅる!」

「あっ、でも……」

 大聖女の眉がふっと曇る。

「このへやには……サンタさまがいらっしゃるえんとつも、ふくろをかざるきも、ありませんわ」

「大丈夫ですよ」

 私は大聖女と目線を合わせて、微笑んで頷いた。

「中庭の木に飾りたいと、猊下にお話してきます。その間にふたりは、準備を続けていてくださいね」

「「はぁい!」」

 二人は同時に跳ね上がり、それからひそひそと作戦会議を始める姿が微笑ましい。

 廊下に出た私は一瞬だけ立ち止まり、窓越しに小さな背中を見守った。
 大聖女は手紙を書き、エトワールは飾り用の折り紙を広げている。
 
(届きますよ。ちゃんと)

 階段を軽やかに駆け下りながら、その願いが叶う瞬間を思い浮かべて、自然と笑みがこぼれた。

(サンタクロースって、きっとこんな気持ちなのね)
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜

咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。 全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。 ​「お前から、腹の減る匂いがする」 ​空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。 ​公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう! ​これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。 元婚約者への、美味しいざまぁもあります。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

処理中です...