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8・1 偶然の出会い
***
(俺という存在を忘れて、ロイエになりきれたらどれほど楽だろうな)
ノアルトがエルーシャと出会ったのは、彼が18歳のころ。
騎士隊の遠征に参加した帰路で、ジュファティー領の施療院に宿を借りたときのことだった。
(今回の遠征では目当ての荒魔竜に遭遇しなかったな。でも人里を襲おうとした荒魔獣を数頭討伐できた。被害を出さなくてよかった)
そのほとんどがノアルトの手柄だった。
しかしその賛辞は、自分とよく似た双子の弟であるロイエとして受けている。
(ただロイエのことだから『その程度なら俺の武勲には物足りない』と文句を言うだろうけど……)
ロイエに逆らうことは考えていない。
もしノアルトがロイエに逆らったりノアルトだと他者に知られることがあれば、黒魔術で人質になっている妹の心臓は止まる。
妹はひとりではなく、衰弱した乳母と一緒にいるはずだ。
乳母はノアルトの母親から嫉妬され、黒魔術で老婆のような姿に変化させられている。
今も身体は弱り続けているだろう。
(メラニーとティアナの命がかかっている。俺は決して、自分の存在を知られるわけにはいかない)
そのためノアルトは、普段から人に関わることを避けていた。
施療院に着いてからも、ひとりで過ごせそうな場所を探しながら、閑散とした廊下を歩く。
通路の角を曲がり、ノアルトは視界の先に目を奪われた。
(あの人は……?)
夕日色の髪をふわりと揺らす娘が、よろめきながら壁に手をついている。
「どうかしたのか?」
近づきながら彼女に声をかけ、不意打ちを食らった。
今にも倒れそうなその人は振り返ると、胸がすくような笑顔を返してくる。
「平気です。少し睡眠不足でふらついただけなので」
言葉とは裏腹に、彼女は壁に寄りかかったまま崩れ落ちていく。
「っ、おい」
ノアルトは彼女を慌てて支えた。
(気を失っている……?)
そして迷わず横抱きにすると、先ほど通り過ぎた廊下を少しだけ引き返した。
(なぜ救護室に誰もいないんだ)
とりあえず彼女を寝台に横たえる。
(睡眠不足と言っていたけれど、このまま彼女をひとりにするのも気が引けるし……。誰かが来るのを待つか)
彼女の変調が心配だったため、そばの椅子に腰かけて様子を見守る。
品よく整ったその寝顔は、あどけないのに美しかった。
先ほどの笑顔が忘れられず、つい見入ってしまう。
(なんてかわい……い、いや。倒れている相手に不謹慎だな。でもさっき笑った顔は最高にかわい……って、だから不謹慎だろ!)
ノアルトはひとり挙動不審になりながらも、彼女を見つめずにはいられなかった。
(年は俺と同じ……ではなくて、3つ下のメラニーくらいか)
妹と乳母にはもう何年も会っていない。
生きているのかすら、わからなかった。
ノアルトはロイエに従うことで、ふたりの心臓が動いているはずだと信じるしかない。
(しかし母上は厄介なものを残していったな)
黒魔術に手を染めてからの母親は、天恵である『聖結界』の力が徐々に弱まっていた。
そのためクリスハイル領内には荒魔獣が大量発生し、父親は無理をして討伐に明け暮れたまま、帰らぬ人となっている。
母親は夫を失った孤独を埋めるように、子どもたちの支配にますます執心していった。
(そして黒魔術に蝕まれて、半年ほど前に亡くなってしまった)
ロイエは母親が衰弱することを悲しんでいるように見せていたが、実際はそうでもない。
彼は今年18歳の成人になり、天恵の価値とノアルトの武勲で公爵位を得ていた。
そして母親から財産とクリスハイル領をそのまま引き継ぐと、面倒事はすべてノアルトに任せて、相変わらずの生活を送っている。
母親のことなど思い出す素振りもない。
狂ったように愛を求め続けた母親の末路は、あわれだった。
(だからといって、メラニーとティアナを苦しめる理由にはならない)
なによりの問題は、母親という術者がいなくなった今も、彼女の黒魔術が解けていない可能性が高いことだ。
片時も忘れることのない葛藤が、ノアルトの感情の底から這い上がってくる。
(ふたりの自由は黒魔術に奪われたままだ。一刻も早く助け出したいのに……!)
「あなたは……誰?」
柔らかな声がして、ノアルトは心を洗われるように我に返った。
娘が意識を取り戻している。
その大きく澄んだ琥珀色の瞳は、ノアルトを不思議そうに見つめていた。
(きれいな瞳だな。俺の正体を見透かしているような……)
ノアルトは自分が騎士の甲冑を身に着けていることを確認した。
顔を隠すヘルムを装備していると、自分がロイエではないことをごまかせるようで落ち着く。
そのため人前に出るときはこの鎧姿でいることが多かった。
「俺は昨夜からこの施療院で世話になっている、クリスハイル領の騎士だ。君が先ほど倒れたので、救護室と書かれた部屋に運んだ。しかし誰もいなかったので付き添いをしていた」
「そうだったんですね。クリスハイル領の騎士様、ありがとうございました」
「君はまだ具合が悪いんだろう。誰を呼べばいい?」
「いいえ平気です。私はすぐ戻りますし」
「戻る?」
「ええ。施療院のお手伝いをするんです」
話を聞き、ノアルトは彼女を止めた。
寝食を惜しんで施療院を手伝っているらしい。
(なにが彼女をそこまで突き動かすんだろう)
どう考えても過労だと指摘すれば、彼女は恥ずかしそうに笑う。
「ごめんなさい。私、動いていると気持ちが楽だから、つい……」
「君はもっと休んだほうがいい。もし人手が足りないのなら、俺が代わりに手伝うから」
「騎士様が手伝い……ですか?」
「明日の出立までは時間があるんだ。それまですることもないから、遠慮せず頼ってほしい。洗濯でも食器洗いでも子どもの世話でも」
「騎士様がですか!?」
「それとも動いていたいというのは、君はどこか行きたいところでもあるのか? 歩くのがつらいのなら俺が手を貸すし、先ほどのように抱いて運ぶこともできるから遠慮せず言ってくれ。屋根の上でも隣町でも南の島でも」
ノアルトが軽口を叩くと、娘は楽しそうに笑った。
「クリスハイル領の騎士様って、みんなあなたみたいにおもしろいんですか?」
「おもしろい?」
「だって普通では考えられないことを、当たり前のように言うんだもの。なんでもできるヒーローみたい」
そう言われて、ノアルトははっとした。
気が緩んだのか、ロイエではなく自分の行動として振る舞っている。
(なぜだろう。彼女と話していると素が出てしまいそうだ。気をつけないと)
娘は寝台に横たわったまま、ノアルトを見つめて微笑んでいた。
「素敵な騎士様に心配をかけてはいけませんね。親切にしてくださって、本当にありがとうございました。私はもう少しここで休んでいますから、ご安心ください」
もう付き添いの手間はいらないという意味だろう。
しかしノアルトは席を立たなかった。
彼女が心配でもあるし、ただ離れがたいだけの気もする。
(でも俺がここにいても彼女は退屈だろうな。さっきはロイエのふりを忘れかけていたけど、もともと気の利いた話ができるわけでもない)
ノアルトはロイエの名誉を傷つけないように命じられているため、誤解を受けるような発言を恐れていた。
普段のように黙っていると、代わりに彼女が色々なことを話しはじめる。
(不思議な人だな。彼女が語れば理不尽な過去もささやかな日常も、幸せな日々として胸に迫ってくる。不確定な未来さえも、希望にあふれる物語みたいだ……)
いつぶりだろうか。
会話を恐れていたはずのノアルトは、自然と言葉を交わしていた。
もっと彼女のことが知りたい。
(俺という存在を忘れて、ロイエになりきれたらどれほど楽だろうな)
ノアルトがエルーシャと出会ったのは、彼が18歳のころ。
騎士隊の遠征に参加した帰路で、ジュファティー領の施療院に宿を借りたときのことだった。
(今回の遠征では目当ての荒魔竜に遭遇しなかったな。でも人里を襲おうとした荒魔獣を数頭討伐できた。被害を出さなくてよかった)
そのほとんどがノアルトの手柄だった。
しかしその賛辞は、自分とよく似た双子の弟であるロイエとして受けている。
(ただロイエのことだから『その程度なら俺の武勲には物足りない』と文句を言うだろうけど……)
ロイエに逆らうことは考えていない。
もしノアルトがロイエに逆らったりノアルトだと他者に知られることがあれば、黒魔術で人質になっている妹の心臓は止まる。
妹はひとりではなく、衰弱した乳母と一緒にいるはずだ。
乳母はノアルトの母親から嫉妬され、黒魔術で老婆のような姿に変化させられている。
今も身体は弱り続けているだろう。
(メラニーとティアナの命がかかっている。俺は決して、自分の存在を知られるわけにはいかない)
そのためノアルトは、普段から人に関わることを避けていた。
施療院に着いてからも、ひとりで過ごせそうな場所を探しながら、閑散とした廊下を歩く。
通路の角を曲がり、ノアルトは視界の先に目を奪われた。
(あの人は……?)
夕日色の髪をふわりと揺らす娘が、よろめきながら壁に手をついている。
「どうかしたのか?」
近づきながら彼女に声をかけ、不意打ちを食らった。
今にも倒れそうなその人は振り返ると、胸がすくような笑顔を返してくる。
「平気です。少し睡眠不足でふらついただけなので」
言葉とは裏腹に、彼女は壁に寄りかかったまま崩れ落ちていく。
「っ、おい」
ノアルトは彼女を慌てて支えた。
(気を失っている……?)
そして迷わず横抱きにすると、先ほど通り過ぎた廊下を少しだけ引き返した。
(なぜ救護室に誰もいないんだ)
とりあえず彼女を寝台に横たえる。
(睡眠不足と言っていたけれど、このまま彼女をひとりにするのも気が引けるし……。誰かが来るのを待つか)
彼女の変調が心配だったため、そばの椅子に腰かけて様子を見守る。
品よく整ったその寝顔は、あどけないのに美しかった。
先ほどの笑顔が忘れられず、つい見入ってしまう。
(なんてかわい……い、いや。倒れている相手に不謹慎だな。でもさっき笑った顔は最高にかわい……って、だから不謹慎だろ!)
ノアルトはひとり挙動不審になりながらも、彼女を見つめずにはいられなかった。
(年は俺と同じ……ではなくて、3つ下のメラニーくらいか)
妹と乳母にはもう何年も会っていない。
生きているのかすら、わからなかった。
ノアルトはロイエに従うことで、ふたりの心臓が動いているはずだと信じるしかない。
(しかし母上は厄介なものを残していったな)
黒魔術に手を染めてからの母親は、天恵である『聖結界』の力が徐々に弱まっていた。
そのためクリスハイル領内には荒魔獣が大量発生し、父親は無理をして討伐に明け暮れたまま、帰らぬ人となっている。
母親は夫を失った孤独を埋めるように、子どもたちの支配にますます執心していった。
(そして黒魔術に蝕まれて、半年ほど前に亡くなってしまった)
ロイエは母親が衰弱することを悲しんでいるように見せていたが、実際はそうでもない。
彼は今年18歳の成人になり、天恵の価値とノアルトの武勲で公爵位を得ていた。
そして母親から財産とクリスハイル領をそのまま引き継ぐと、面倒事はすべてノアルトに任せて、相変わらずの生活を送っている。
母親のことなど思い出す素振りもない。
狂ったように愛を求め続けた母親の末路は、あわれだった。
(だからといって、メラニーとティアナを苦しめる理由にはならない)
なによりの問題は、母親という術者がいなくなった今も、彼女の黒魔術が解けていない可能性が高いことだ。
片時も忘れることのない葛藤が、ノアルトの感情の底から這い上がってくる。
(ふたりの自由は黒魔術に奪われたままだ。一刻も早く助け出したいのに……!)
「あなたは……誰?」
柔らかな声がして、ノアルトは心を洗われるように我に返った。
娘が意識を取り戻している。
その大きく澄んだ琥珀色の瞳は、ノアルトを不思議そうに見つめていた。
(きれいな瞳だな。俺の正体を見透かしているような……)
ノアルトは自分が騎士の甲冑を身に着けていることを確認した。
顔を隠すヘルムを装備していると、自分がロイエではないことをごまかせるようで落ち着く。
そのため人前に出るときはこの鎧姿でいることが多かった。
「俺は昨夜からこの施療院で世話になっている、クリスハイル領の騎士だ。君が先ほど倒れたので、救護室と書かれた部屋に運んだ。しかし誰もいなかったので付き添いをしていた」
「そうだったんですね。クリスハイル領の騎士様、ありがとうございました」
「君はまだ具合が悪いんだろう。誰を呼べばいい?」
「いいえ平気です。私はすぐ戻りますし」
「戻る?」
「ええ。施療院のお手伝いをするんです」
話を聞き、ノアルトは彼女を止めた。
寝食を惜しんで施療院を手伝っているらしい。
(なにが彼女をそこまで突き動かすんだろう)
どう考えても過労だと指摘すれば、彼女は恥ずかしそうに笑う。
「ごめんなさい。私、動いていると気持ちが楽だから、つい……」
「君はもっと休んだほうがいい。もし人手が足りないのなら、俺が代わりに手伝うから」
「騎士様が手伝い……ですか?」
「明日の出立までは時間があるんだ。それまですることもないから、遠慮せず頼ってほしい。洗濯でも食器洗いでも子どもの世話でも」
「騎士様がですか!?」
「それとも動いていたいというのは、君はどこか行きたいところでもあるのか? 歩くのがつらいのなら俺が手を貸すし、先ほどのように抱いて運ぶこともできるから遠慮せず言ってくれ。屋根の上でも隣町でも南の島でも」
ノアルトが軽口を叩くと、娘は楽しそうに笑った。
「クリスハイル領の騎士様って、みんなあなたみたいにおもしろいんですか?」
「おもしろい?」
「だって普通では考えられないことを、当たり前のように言うんだもの。なんでもできるヒーローみたい」
そう言われて、ノアルトははっとした。
気が緩んだのか、ロイエではなく自分の行動として振る舞っている。
(なぜだろう。彼女と話していると素が出てしまいそうだ。気をつけないと)
娘は寝台に横たわったまま、ノアルトを見つめて微笑んでいた。
「素敵な騎士様に心配をかけてはいけませんね。親切にしてくださって、本当にありがとうございました。私はもう少しここで休んでいますから、ご安心ください」
もう付き添いの手間はいらないという意味だろう。
しかしノアルトは席を立たなかった。
彼女が心配でもあるし、ただ離れがたいだけの気もする。
(でも俺がここにいても彼女は退屈だろうな。さっきはロイエのふりを忘れかけていたけど、もともと気の利いた話ができるわけでもない)
ノアルトはロイエの名誉を傷つけないように命じられているため、誤解を受けるような発言を恐れていた。
普段のように黙っていると、代わりに彼女が色々なことを話しはじめる。
(不思議な人だな。彼女が語れば理不尽な過去もささやかな日常も、幸せな日々として胸に迫ってくる。不確定な未来さえも、希望にあふれる物語みたいだ……)
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