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8・3 なにかが変わっていく
(だけどまだふたりの黒魔術は解けていない。このことは誰にも知られずに実現する必要がある……)
「もし黒魔術にかかっている知り合いの方がいたら、ぜひこの施療院へ連れてきて。ここはジュファティー領が運営していて、治療費の心配がいらないのよ。それに私は基本的に、ジュファティー領を出られないから」
「領を出られない?」
「そうなの。私は保護対象の天恵者だから、基本的に領内で暮らすことになっているわ。だから領外へ出るには王国に申請を通さなければいけないの。今は荒魔竜が現れたり、天恵者狙いの人さらいも増えているから難しくて」
(確かに国内では荒魔竜の出現から、天恵者が命を落とす事例も増えているな)
実際に、希少な天恵を持つエルーシャの両親も、荒魔竜に襲われていた。
(この国は前国王の時代から、天恵者の血統を増やす方針が功を奏して豊かになった。現国王も、天恵者の減少で国力が低下することを懸念しているんだろう)
そのため天恵者は基本的に、国と親の方針で将来が決められていた。
前国王の時代ほど強制されるわけではなかったが、今もその傾向にある。
(でもエルは家族を失っている。両親の後ろ盾がない彼女は、国の方針に逆らえるはずもない……)
エルーシャの語った希望にあふれる将来が、ノアルトには先ほどと違う角度で見えはじめた。
「エルは不自由な生活でも、全然悲観していないように見えるな」
「だって私、これからしたいことがたくさんあるの!」
エルーシャはいきいきとした様子で、領内につくりたい薬草園や果樹園の話をはじめる。
一番したいことは荒魔竜の襲来によって増えた、行き場の定まらないない孤児を引き取ることだった。
「あっ、ごめんなさい。私の話ばかりで……」
「話してよ。エルの話は楽しいから」
「……本当?」
「うん。もっと聞かせてほしい」
エルーシャの目に光が宿る。
「この話をすると、いつも笑われたり変な顔をされたりするの。でも騎士様の顔はヘルムで見えないけれど、誰よりも真剣に聞いてくれている気がして」
「うん。生きてきた中で一番、真剣かもな」
「そこまで!?」
ノアルトは彼女に見惚れたまま頷いた。
「俺はエルのことを知りたい。君に話したいことがあるなら、どんなことでも教えてほしい」
「騎士様って、とっても聞き上手なのね!」
エルーシャは感心した様子で笑った。
そして先ほどの続きに戻り、周囲から「未成年が孤児を引き取るのは無理だ」と止められている話をする。
「でも私、孤児たちを引き取ることを諦められなくて、色々と考えているの。だって荒魔竜に襲われて家族を突然失うだけでも心細いのに、行くところが定まらないなんて……。私がもっと早く成人できたらいいのに」
「俺も手伝えたらな」
「え?」
「ひとりでは難しくても、一緒にやればうまくいくかもしれないからさ」
ふと漏らしたノアルトの本音に、エルーシャは不意を突かれたように頬を染めた。
「そんな風に言ってもらえたの、はじめて。私、今日のこと忘れないわ。騎士様のこと、忘れない……」
その少し恥ずかしそうな笑顔を、ノアルトは眩しい気持ちで見つめる。
(そうか。エルはいつも明るく振る舞っているけれど、本当はひとりでできることの限界も理解しているんだ。でも諦めたくなくて、ひたむきで……だから俺はこんなにも、彼女の笑顔に胸を打たれるんだ)
妹と乳母を助けるという願いは変わらない。
しかしノアルトは彼女と過ごしたひとときの中で、なにかが変わっていくのを自覚した。
「そうだ。あなたはクリスハイル領の騎士様なのよね。それならクリスハイル公爵閣下のことも知っているでしょう?」
ノアルトはぎくりとしたまま硬直する。
エルーシャはその動揺に気づいていないらしく、瞳を輝かせた。
「彼は天恵『魔力堅固』を持っているそうね! 彼なら凶悪な荒魔にも耐えられるはずだから、荒魔竜を倒す最有力候補だって聞いたわ。どんな方なの?」
「もし黒魔術にかかっている知り合いの方がいたら、ぜひこの施療院へ連れてきて。ここはジュファティー領が運営していて、治療費の心配がいらないのよ。それに私は基本的に、ジュファティー領を出られないから」
「領を出られない?」
「そうなの。私は保護対象の天恵者だから、基本的に領内で暮らすことになっているわ。だから領外へ出るには王国に申請を通さなければいけないの。今は荒魔竜が現れたり、天恵者狙いの人さらいも増えているから難しくて」
(確かに国内では荒魔竜の出現から、天恵者が命を落とす事例も増えているな)
実際に、希少な天恵を持つエルーシャの両親も、荒魔竜に襲われていた。
(この国は前国王の時代から、天恵者の血統を増やす方針が功を奏して豊かになった。現国王も、天恵者の減少で国力が低下することを懸念しているんだろう)
そのため天恵者は基本的に、国と親の方針で将来が決められていた。
前国王の時代ほど強制されるわけではなかったが、今もその傾向にある。
(でもエルは家族を失っている。両親の後ろ盾がない彼女は、国の方針に逆らえるはずもない……)
エルーシャの語った希望にあふれる将来が、ノアルトには先ほどと違う角度で見えはじめた。
「エルは不自由な生活でも、全然悲観していないように見えるな」
「だって私、これからしたいことがたくさんあるの!」
エルーシャはいきいきとした様子で、領内につくりたい薬草園や果樹園の話をはじめる。
一番したいことは荒魔竜の襲来によって増えた、行き場の定まらないない孤児を引き取ることだった。
「あっ、ごめんなさい。私の話ばかりで……」
「話してよ。エルの話は楽しいから」
「……本当?」
「うん。もっと聞かせてほしい」
エルーシャの目に光が宿る。
「この話をすると、いつも笑われたり変な顔をされたりするの。でも騎士様の顔はヘルムで見えないけれど、誰よりも真剣に聞いてくれている気がして」
「うん。生きてきた中で一番、真剣かもな」
「そこまで!?」
ノアルトは彼女に見惚れたまま頷いた。
「俺はエルのことを知りたい。君に話したいことがあるなら、どんなことでも教えてほしい」
「騎士様って、とっても聞き上手なのね!」
エルーシャは感心した様子で笑った。
そして先ほどの続きに戻り、周囲から「未成年が孤児を引き取るのは無理だ」と止められている話をする。
「でも私、孤児たちを引き取ることを諦められなくて、色々と考えているの。だって荒魔竜に襲われて家族を突然失うだけでも心細いのに、行くところが定まらないなんて……。私がもっと早く成人できたらいいのに」
「俺も手伝えたらな」
「え?」
「ひとりでは難しくても、一緒にやればうまくいくかもしれないからさ」
ふと漏らしたノアルトの本音に、エルーシャは不意を突かれたように頬を染めた。
「そんな風に言ってもらえたの、はじめて。私、今日のこと忘れないわ。騎士様のこと、忘れない……」
その少し恥ずかしそうな笑顔を、ノアルトは眩しい気持ちで見つめる。
(そうか。エルはいつも明るく振る舞っているけれど、本当はひとりでできることの限界も理解しているんだ。でも諦めたくなくて、ひたむきで……だから俺はこんなにも、彼女の笑顔に胸を打たれるんだ)
妹と乳母を助けるという願いは変わらない。
しかしノアルトは彼女と過ごしたひとときの中で、なにかが変わっていくのを自覚した。
「そうだ。あなたはクリスハイル領の騎士様なのよね。それならクリスハイル公爵閣下のことも知っているでしょう?」
ノアルトはぎくりとしたまま硬直する。
エルーシャはその動揺に気づいていないらしく、瞳を輝かせた。
「彼は天恵『魔力堅固』を持っているそうね! 彼なら凶悪な荒魔にも耐えられるはずだから、荒魔竜を倒す最有力候補だって聞いたわ。どんな方なの?」
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