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第三章

魔族侵攻

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「あれは、コーフーの町の方じゃないか?」

レイは背中に寒気を覚えた

「レイ 行きましょう。
みんなが心配よ」

ゴローナがレイの手を握った。
レイはうなずき『転移』を発動しようとした。

しかし「転移先がみつかりません」とメッセージが頭の中に響いた。

自宅の誰の部屋もだめだ。
冒険者ギルドも教会も反応しない。
以前定宿していた宿屋もだめだ。

頭の中は、嫌な想像しかない。
ゴローナの手をギュッと握り
「町は消滅しているみたいだ」と言葉を吐き出した。

『転移』初日キャンプした場所が反応があった。

そこからゴローナと自分を結界で包んで、空を飛んだ。
コーフーの町のあったあたりは大きなクレーターが出来ていた。
地上に降りてみても
もう跡形もなくどこがどうだったかもわからない。

イレーヌもマリクレールもブリジットもケリーもその亡骸さえも無い。

「ああ~~~~~」

レイは、天に向かって泣き叫んだ。

「ああ~~~~~」

レイは膝をついて泣いている。

ゴローナはレイを抱き締めて
レイの顔を自分の胸にうずめた。

「レイは生きている。
私も生きている。」

ゴローナは放心状態のレイを抱いたまま、彼が落ち着くまでそうしていようと思った。

月明かりの中、何かがこちらに飛んでくるのが見えた。

ガーゴイル!

ゴローナがその正体に気づいたときは、既に周りを取り囲まれていた。

「人間 お前たち、何で生きてる?
町ごと消し飛んだはず」

その声を聞いて、レイの目に火が灯った。

ババババババ

たったその一瞬で、ガーゴイルたちは、魔石だけを残して消えた。

「魔族のしわざだったのね」

「許さない、ぼくは、魔族を絶対許さない」

レイは、今すぐ飛び出しそうな感じだ。

「レイ、私も行くから!絶対レイと離れないから!」

ゴローナの訴えで少しだけレイは冷静になった。
もう自分の愛する人はゴローナだけしかこの世にいないかも知れない。

レイは改めてゴローナを鑑定してみた。

忍者(上級) 幻術士 隠れ蓑 空蝉 影縛り 毒マスター

修行の上で会得した技はあるが、スキルとは違うようだ。

「ゴローナ、君にぼくのスキルの1つをプレゼントさせてくれ。
もう誰も失いたくないんだ。だから………」

レイは一度空を見上げ、またゴローナを真っ直ぐに見た。
その目には光るものがあった。

「ぼくのスキルは、
鑑定・探知・操作・剣気・瞬足・転移・ストレージ・裁縫・錬金
この中から1つ選ぶなら、どれがいい。」

「『操作』にするわ、投げたクナイの軌道を変えたり、空を自由に飛んだりできれば、攻撃の幅が広がるわよね。」

「ぼくとしては、危なくなった時に逃げる為に『転移』がオススメだけど」

「二人で逃げるなら、レイ一人が『転移』持っていれば十分でしょ。
私はやっぱり『操作』がいいわ」

レイが『操作』スキルを付与すると、早速ゴローナは空を飛びだした。
やはり筋がいい。直ぐに使いこなすだろう。

ガーゴイルたちの本体は、どっちだ?
まだ遠いのか、『探知』にもかかってこない。

「畜生 一匹残しておけばよかった。」

「あいつらなら東から飛んで来たわよ。本隊を叩きたいんでしょ。
でも、ちょっと考えてよ。
町を吹き飛ばす威力がある術者が居るなら、現場にレイが来たのに、どこに相手が居るかわからないなんて変よね。考えられる。」

「ゴローナ、とにかく端から全部やっつければいいんだよ。みんなの仇討ちなんだから」

「私が言いたいのは、大将とか敵の主力を叩き潰すのが大事で、雑魚かまってて逃げられたら元も子もないってことよ。
それと、強力な一発を遠距離からどうやって撃ったのか?
それがわからないと、いつまでも安全とは言えないわ。」

「どうやって、雑魚に見つからずに本隊に近づくんだい。」

「レイの結界で私も一緒に包んで飛んで。
そしたら、私が『隠れ蓑』でレイの結界ごと包むから」

「ゴローナ 流石忍者だ。それで行こう。」


二人は舞い上がり東へと飛んだ。

これだけ一気に破壊しておいて斥候のガーゴイル以後魔物の姿が無かった。

二人はそのまま東へと進、飛んで峠の頂上に着いた。


「あれは何かしら?」
「大砲だ、多分魔道砲だろう」

「大砲?魔道砲?」 

「魔力を沢山集めておいて、ドカンとぶっ放す魔道具だよ」 

「ファイヤーボールを撃てる杖の特大版ってこと?」

「きっとそうだよ。あれでコーフーの町を。クソ」

それは見るからにおぞましい形をしていた。

根元には、二つの魔力嚢がぶら下がり、胴回り2メートル位の砲筒は先端が丸くなっていて、そこから潤滑油を流している。
  
砲筒には、一人の半裸の女が股がっている。

峠の向こう側を見ると、おびただしい数の魔物が列をなして登って来ている。
そして、その魔物が山頂の魔道砲に次々と吸収されている。

「ヒール・デ・フンデ様、魔力充填30%です」

「そんなことは、わかってるよ。あんたもティン砲の玉になりな!」

ヒール・デ・フンデと呼ばれたその半裸の女は、報告に来たリザードマンをムチで叩いた。

「痛~ ハァハァ フンデ様 もっと 下さい」

ピシッ ピシッ

「アア イイ」

「まだ欲しいのかい?」

リザードマンがコクコクとうなずくと、ヒール・デ・フンデは砲筒から降りて、リザードマンに足払いをして倒し、リザードマンをブーツのヒールでグリグリ踏みつけた。

ピシッ

「コラ!そんなところ大きくするんじゃないよ。
もうお前も行け!」

リザードマンは、のそのそと起き上がり、ティン砲の魔力嚢のそばに行き、その姿を消した。
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