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第一章

訓練3

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パンチを改心させてから、ユウトは夜な夜な、スキル持ちの兵の所に通い、『剣気』『操作』『瞬足』『鑑定』を手に入れた。

そして、長男のジョンが騎士学院を卒業して王宮に戻った。

「父上、なぜロベルトが私たちと一緒に食事をするのですか?」

またここからか。
まじ ため息が出る。

でも事態は少し変わっていた。

「兄さん、ロベルトもぼくらと同じ王様の子どもだから、ぼくは気にしないよ」

そんなことを次男のパンチが言ったのだ。

「ええーー おいパンチ どうしたんだ?熱でも有るのか?お前がロベルトの味方するなんて」

「ジョン兄さん。ぼくは、世の中全ての人の味方になりたいんだ。
兄さんの味方だし、ロベルトの味方もするんだ。」

「お前いつからそんな偽善者になった?」

「そう考えるようになったのは最近だけど、偽善とは思わないよ。
力で支配すると恨みもかうって思うんだ。
それより魅力的な人間になるよう努力すれば、きっと人はついてくるとぼくは思うんだ」

「ほう お前は、いつから兄に意見するように偉くなったんだ。生意気な!
その甘ったるい考えを俺が叩き直してやる!」

「やめんか!ジョン!
殴って脅しても人を支配はできんぞ!
お前の味方だと言ってるパンチをなぜ素直に受け入れないのだ。」


「なっ ふふふ 道理で様子がおかしいと思ったら、そう言うことですか。
お優しくなられて。
父上も耄碌されましたな。さっさと優退されて、私に王位をお譲り下さい。
私が正しき道へとこの国を導きましょう」

「なにぃ、ジョン お前親に向かって耄碌だと
暴言も甚だしい。
ジョン、お前に謹慎を命ずる。
わしがよいと言うまで、部屋で反省しとれ!」

「ハハハ そうです。父上はそうでなくては。
あなたは結局は、力ずくで人を押さえるんです。
こうして命令一つで。
それが王様の力です。
強い王様の息子としてその親よりもっと強い男を俺は目指しています。
世の中の全てをいつか我が手に入れて見せましょう」

「もうよい。行け!目障りだ。」


ロベルトは自分に火の粉が飛ぶのが避けられて、ホッとした反面、父と兄との間にいつ火がついてもおかしくない状況に背筋が寒くなる思いがした。





この頃のロベルトは普通の人程度には、筋力がアップした所だ。
ユウトの自動回復無しでは、腕立て伏せが15回やっと程度の14歳の少年だ。

新たにユウトが写して来たスキルの訓練もしたいがまだまだ筋力不足で『剣気』『瞬足』は体が持たない。

訓練所で、アングリさんに魔法について尋ねた。
すると早速魔法属性を調べる話となった。

テスターに血を1滴垂らすと、直ぐに判定が出た。
土属性 優

「おお さすが殿下。優はこの部隊でも殆どおりませんよ。
属性は違いますが、水属性が優の者に指導させましよう」

近衛兵には珍しく、女性の隊員を紹介された。
身長はぼくと同じ位で、スタイルもいい美人だ。
エメラルド色の髪にブルーの瞳で歳は19歳。ぼくとは違い立派な大人だ。1年前に騎士学院を成績トップで卒業して、いきなり近衛兵に採用されたエリート中のエリートだ。
そしてメネデール男爵家の次女だ。

「ロベルト様 マリーンと申します。殿下のご指導に任命されました。わたくしでは力不足と思いますが、一生懸命努めさせていただきます。
どうぞ、よろしくおねがいします。」

ニコッと微笑まれると、ロベルトの心が揺れた。

「マリーンさん、よろしくおねがいします。それと敬語は無しで、普通に接して下さい。
ぼくは、王家から出てゆく人間です。
王族とは思わずに接して下さい。」


「おいロベルト、彼女に一目惚れか?頭が良くて美人でスタイル良くて、優良物件だぜ。早めに手を出してものにしないとな。ライバルは多いぞ!」

「ユウト 冷やかさないでよ」

「アハハ、俺たちの間では残念ながら全部筒抜けだぜ。彼女を見て心拍があがっているのを俺も感じているんだぜ」

「わかってるよ。そんなこと、でも冷やかさないでよ」

「初恋 実るといいな」

「ユウト 絶対余計なことをしないでよ」

「はい はい 応援にとどめます」




この時から魔法が訓練メニューに加えられた。

最初にマリーンの魔力を流し込まれた。柔らかくて温かいマリーンの魔力が体の中を通り過ぎて出てゆく。

「わたしの魔力が流れ込んだのを感じましたか?
それでは、ご自分の魔力の流れを感じてみて下さい。」

「魔力の流れですか?」

「そうです。人は血液だけでなく魔力も体の中を流れています。
それを感じることが最初です。
両手を胸に当てましょう」

「こうですか」

「そうです。心臓の拍動で血液が送り出されるのを感じますか。」

「はい、感じます」

「では、それと一緒に何か温かなものをかんじませんか?」

「う~ん よくわかりません」

「では、もう一度私の魔力を流しますね。
両手を繋ぎます」

えっ 見つめ合って両手を繋いでクルクル回るのかな。
そのあとぼくは片膝ついて指輪を差出して、こう言うんだ
「マリーン一生離さない。ぼくと結婚してください」

「ロベルト殿下 ロベルト どうしました。」

「あっ すみません。ちょっと考え事を」

「集中してください。」

真っ直ぐなマリーンの視線にまた心を射貫かれる。
繋いだ両手を引き寄せて抱きしめたい。

「ブルーの瞳、綺麗だ」

「えっ」

マリーンは手を離して、少し顔を紅くして、横を向いて

「ロベルト殿下!私の瞳の色はこの訓練と関係ありません。
そういう言葉は、大切な女性に言ってあげて下さい。」

「あ すみません。
聞こえちゃいました?
はい集中します。魔力の流れですね。」

改めてマリーンと両手を繋ぐ。
マリーンは、横を向いたままだ。

「では行きます。私が流し込んだ魔力がロベルトどこを通っているか、話して下さい。」


「繋いだ右手から入って来たのを感じます。
今肩のあたりです。
胸の真ん中に居ます。
ああ、また動き始めました。
左肩から手のひらの方にゆっくり移動しています。
ああ、消えました。」

「よく捉えて居ますね。その私の魔力と同じように、ロベルトにも魔力があります。それを感じとって下さい。」




「ん んんんー ロベルト」

「はい マリーンさん」

「あの 手はもう離していいですよ」

「あっ はい そ そうですよね。
あの もう一度マリーンさんの魔力流してもらえませんか。
なんかそうした方がわかる気がして。」

「わかりました。ではまたいきますよ。」







「ごめんなさい、マリーンさん、これが最後でいいですから、あと少しなんです。もう一度おねがいします。」

ロベルトはマリーンの手を強く握った。
マリーンは、ちょっと嫌そうに目を細めたが、渋々
魔力を流し込んだ。

マリーンの魔力が丁度ロベルトの胸の当たりを通ろうとした時、ロベルトは両手をマリーンから離して、自分の胸に当てた。

「コレですよね。」

手で拳大のボールを包むようにして、私の魔力の塊を
大事そうに優しくマリーンの前に差出した。

「離してあげて」

マリーンがそう言うとロベルトは手を開いた。

マリーンの魔力の塊は霧散した。

「マリーンさん、見てて下さい」

ロベルトはそう言うと、再び手でボールを包むような形を作り、そしてその手の中に自身の魔力の塊を作り出して見せた。

「もしかしてロベルト、それ元々出来たっていうこと?」
マリーンは少し疑った目をした。

「いえいえ、そんなわけ無いでしょ。今が初めてですよ。
そりゃあマリーンさんと手を繋いでいるのは、嬉しかったですよ。
でも、そのために何度もお願いしたわけじゃ無いから。
本当だよ。
どうしたら魔力の塊をぼくも作れるかを考えてたんだ、そしたら、なんかマリーンさんの魔力を捕まえられそうな気がしたんだ。
魔力の流れは、今もよくわからないけど、手に集めるようにイメージしたら、魔力ボールが出来たんだ。」



「わかりました。わかりました。力説しなくても信じるから、そんな『ご褒美ちょうだい』って仔犬みたいな目で私を見ないこと。」


「だってマリーンさん、さっきからちっとも目を合わせてくれないんだもん。」


「変な子ね。ロベルトは。14歳の男の子はみんなそうなのかな~
まぁいいわ。
貴方のやったのは、魔法の初歩を飛ばして、応用をやって見せたってことよ。
それが出来ればもう色んな事がどんどん出来るようになるわ。」

「うわ~い 本当ですか?
アハハ、ぼくも魔法が使えるんだ。ヤッター
もっと教えて下さい。」

「今日は、新しい魔法は無しよ。今あなたが作った魔力の塊を消えないようにキープするのが課題よ。
魔力切れには注意してね、酔ったようになって倒れる人もよくいるから、無理しないこと。出来れば見守る人が居るときにやること。」

「えー マリーンさんの魔法訓練もうおしまいですか?」

ロベルトが残念そうにそう言うとマリーンさんが

「ロベルト いらっしゃい」

と手招きしてる。
マリーンさんの所にロベルトが行くとマリーンさんはロベルトを抱きしめた

「初魔法おめでとう ロベルト ご褒美はこれでいいかしら?」

「マリーンさん、大好きです。明日からもよろしくおねがいします。」

「こちらこそ、よろしくおねがいします。
今日は、残りの時間そばて見ててあげるから、魔力ボールの練習しましょう」

マリーンさんと並んで座って、訓練終了時間まで魔力ボールを作って過ごした。

最初はほんの数秒で霧散したが、徐々に長く形をキープ出来るようになっていった。

「気持ち悪くなったりしない?大丈夫?」

と何度かマリーンさんが心配して声をかけてくれた。

返事をしようと口を開くと魔力ボールは、その度に消えてしまった。

「集中しないと難しいでしょ。でも初めてなんだし 無理しない 無理しない」

マリーンさんが少し足を組替えたり、髪をかき揚げたりするたびに、魔力ボールは消えてしまう。
マリーンさんは、ぼくの左側に並んで座っている。
なんだか左半身だけが、ヤケに熱い。
その時風がマリーンの匂いを運んできた。
ぼくは、もう我慢できなくなって、立ち上がりマリーンさんの前で打ち明けた。

「マリーンさん 今日会ったばかりだけど、あなたが好きです。
ぼくは、マリーンさんより強くなってマリーンさんを護れる男にきっとなります。
そしたら、ぼくのお嫁さんになってください!」

「ロベルト嬉しいわ、でも私5歳も年上よ。あなたが私より強くなる頃には、私は幾つになるのかしら?
ロベルトには、きっと私よりもっと可愛い人がそのうち現れるわよ。」

「1年です。1年以内にあなたを超えます。」

「あら?随分私のこと軽く見てる?そんなに甘くないわよ。」

マリーンは、殺気を膨らませた。

以前のぼくなら、気絶してたかも知れない。
でも、今なら耐えられる。

「わかったわ。私は自分より強い人しか好きにならないから。
1年後までに私に勝てなかったら諦めるのよ。」

「わかりました。」
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