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第一章

ジョンの失踪

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ジョンの悪行は、次々と証言者が現れて、余りに多くなり、特に悪質と思われることに絞って、裁判が開かれることになった。

しかし、そこにジョンの姿は無かった。
王族だから ということではなく、ジョンは姿をくらましたのだ。
裁判は、被疑者不在のままに開かれる世にも稀な欠席裁判となった。



「彼は、嫌がっているのにスキルで縛って、服をハサミで切って、私を裸にしたんです。
それから指を………
ああ~~、言えません
とにかくおもちゃにされました。うううっ」

「女の敵~~~」

「死刑だ!死刑!」

「去勢しちまえ~」






「騎士学院時代。彼とパーティを組むのは、皆嫌がっていました。
彼はパーティの誰が倒した魔物だろうと、全て自分の手柄にするんです。
それから、仲間の女性に対しても、性的サービスを強要しました。
またある時、ダンジョンから彼一人だけ生還したことが有ります。
仲間をスキルで束縛して、生贄にしておいて、一人だけ逃げ帰ったことがあります。
これはたまたま、居合わせた別のパーティの者が見ていて、生贄にされた人を助けたことにより発覚しました。
全て彼の犯行では無いでしょうが、このとき以前にも、彼のみが生還した事例が2回有ります」


「人でなし~」

「死刑だ 死刑!」

「生きてる価値なし!」

「地獄に落ちろ」






そしてジョンの側室となったリリーが登場した
側室とはいえ、妃殿下がその夫の罪状を語るのは、皆驚きの目でみた。

ジョンは、まだ当時メイドだった私を、スキルで束縛し犯しました。
私が行かないと、他のメイドが襲われます。
私さえ我慢して犠牲になれば他の人が救われると思い、私はジョンの言いなりになりました。
メイドの中には、ジョンに取り入って、側室の座を狙ってると言う人もいました。
実際後に側室となりましたので否定はしません。
でも、私の中でジョンは悪魔です。
わたしはそれから悪魔の子を宿しました。
子どもに罪は有りません。
そんなことは分かってるんです。
でも、愛せないんです。
自分で産んた我が子を!
ジョンの血が流れていると思うと恐ろしくて恐ろしくて。
我が子は、孤児院に預けました。
わたくしは、修道院に入りました。
わたくし始め、数多くの人の人生をおのれの欲望のままに踏みにじった者に、どうか厳しい裁きを与えて下さい。
彼のせいで死んでいった者、辛い思いをした者に心の平安が訪れるように祈ります。

裁判所の中ではアチコチからすすり泣く声が聞こえた。


そして、決闘の場において降参した後に襲いかかったこと、裁判前に逃走したことを踏まえて、死刑が確定し、その首には賞金がかけられた。


「なぁロベルト、ジョンの脱走を誰か手助けしたはずだよな。」

「ユウトわかってるよ。でもその人の名を口にしちゃあダメだよ。」

「どうするんだよ、ジョンの犠牲者が増えるぞ」

「君の手でジョンを始末出来ないかな。
ぼくには、出来そうもないよ」

「汚れ役かぁ。まぁロベルトの体を間借りしてたんだし、それくらいやるよ」

「すまないユウト。いつも頼ってばかりで」

「いいってことよ」





その晩ユウトは、ロベルトの体から抜け出して、次兄のパンチに取り憑いた。

パンチの記憶をなぞれば、ジョンを手の者と救い出して、西の森の別荘に匿っていることがわかった。

翌朝ユウトはロベルトと交代してメインキャラになった。

そしてジョーンズ王との面会に臨んだ。

「王様、おそれながら、お願いがございます。

ジョン追討部隊を編成して、ジョンを討取りたいと存じます。

取り逃がしたままでは王家としての面目が立ちません。
まして、もしジョンが逃走先で問題でも起こせば、王家に非難の声があがると思われます。

どうか、わたくしにジョン討伐の勅命を下さい」

こうして、王の勅命を得たユウトは、気心の知れた近衛兵の中から15人程引き連れて西へと向かった。

その中には、どうしてもついてくると言ってきかないマリーンの姿も、あった。

あと一息で別荘に付くところで、作戦会議を始める。
「ジョンのスキルは『威圧』『束縛』です。
したがって、彼が抵抗した場合、彼以上の気を持ってない者は対抗することが出来ません。
これから名をあげる者以外は、ジョンを見かけたら、直ぐに逃げて、私を呼ぶこと。
いいですね。功を焦っても、殺されるか、人質に取られるのが落ちです。
では、名を呼びます。呼ばれた者は、前に出てきて下さい、
アトス、ポルトス、アラミス、ダルタニヤン
以上4名
アトスとポルトス
アラミスとダルタニヤン
この形でバディを組んで行動して下さい。
決して単独行動はしないで下さい。
他の人も必ず二人一組を作って行動して下さい。
ジョン以外で抵抗する人との交戦は、極力避けていただきたいが、やむおえない場合は認めます。
武装していない人、無抵抗な人を玄関前に集めて下さい。
以上です。」

別荘は東に表門、西に裏門が有る。
アラミスとダルタニヤン
他4人が裏門を固め
本体が表門から中へと進む

「お待ち下さい。私、グリム伯爵家のヘンゼルと申します。訳有って、これより先に、行かせるわけにはいきません。
出来ればこのままひいていただきたい。」

するとアングリさんが、一歩前に出て
「我々は、王よりジョン元皇太子殿下討伐の勅命を拝した討伐部隊である。
我々に仇なすことは、国への反逆と見なす。
それでもなお抵抗するか?」

「妹が!グレーテルが人質にとられて居るのです。
お許し下さい。」

「バカ者!
そのジョン元殿下を手玉に取ったロベルト殿下がこちらにはおるのだぞ、貴殿など、なんの抵抗にもならん。
無駄な血を流すな。グレーテル殿は我らが全力を持ってお助けする。」

ヘンゼルは暫く逡巡したが

「………………
全員に告ぐ、武装解除せよ、抵抗せず投降せよ」

「ご英断です!」

「アトス ポルトス マリーンは付いてこい、他の者はグリム伯爵と共にここで待機
裏門のアラミス ダルタニヤンに突入の合図を送れ」

ジョンの行動は探知で把握出来ている。
一緒に居るのはグレーテルだろう。
今のところ、無事なようだ。
探知で示している所に向かって居る最中に、ジョンとグレーテルの反応が消えた。



「ユウト、反応が消えた部屋に、隠し通路が有るんだよ。王族しか知らない通路が。」

「ナイスだロベルト!」


「アトスはこの先の鳳凰の間で隠し通路を探してくれ。ダルタニヤンとアラミスが合流したら、隠し通路に入ってジョンを追い込んでくれ。
ポルトス マリーンは俺と来てくれ!
先回りして、ジョンが出てくるところを押さえる。」

「アトス、この部屋だ、頼んだぞ!」
アトス一人を置いて、北側の窓から飛び出した。
ポルトス マリーンが続いて窓から飛び出してくる。

ジョンは、人質を連れている。その上、片足片手を無くしている。そう速くは走れないはずだ。
ロベルトの記憶によれば、この先の祠に出口が有るはずだ。

俺たちが祠に着く。
まだジョンはこちら迄来てないようだ。

暫くして、祠の出口からジョンが姿を表した。

「ジョン、諦めろよ。」

「なに!ロベルト!貴様が追手か。そこから動いたらこの女の命はないぞ!」

「クッ。どうしたら……
なんて俺が言うとでも思ったかい。
闘技場同様に一瞬で首を落としてあげるよ。
それとも、もっとアチコチ切り刻まれたいかな」

その時数人の騎士が馬に乗り駆けつけて来た。

「ロベルト!ちょっと待って、待ってくれよ!」
その声はパンチ兄だった。

「ロベルト、ジョンを逃がしてやってくれよ。
もう足も手も片方しか無いんだ。充分じゃないか。
ここで死んだことにして、逃がしてやれないかな。」

「パンチ兄さん、あなたは何を言ってるか、分かってるんですか?
私たちは王の勅命を拝した追討部隊です。
そのような不正が出来るはずが有りません。
そして我々の邪魔をするなら、反逆者となりますよ」

「だから、ここに居る者だけの秘密にすれば」

「それは、全員殺して口封じでもしない限り無理です。」

「ぼくは、ジョンもロベルトも味方したいよ」

「パンチ兄に同行して来た騎士に命じる。
パンチ兄を拘束しなさい。
従わない者は、国家反逆者と見なす。」

一瞬の動揺が騎士たちにあった。
しかし、パンチ兄は同行してきた騎士によって拘束された。

その様子を見ていたジョンが、叫んだ

「ふざけるな、俺は王になるべく生まれた………ぐふっ」

ジョンは、話し終えることもなく崩れ落ちた。

マリーンの剣がジョンの胸に深く突き刺さっている。
ジョンから解放されたグレーテルさんをマリーンは抱き支えている。





ジョンの命はマリーンの手によってついえた。





「兄さん」パンチが駆け寄ろうとするが、拘束されていて動けない。



ポルトスがジョンのところにゆき死亡を確認する。
「お亡くなりになってます」

「パンチ兄の拘束を解きなさい。もう必要ない。」



パンチはジョンの所に駆け寄り、ジョンを抱き締めた。

「兄さんごめんね。力になれなかった。
子どもの時から兄さんと一緒にこの国を守っていこうと思ってたけど、なにもできなかったよ。
兄さん一人守ることも、ぼくはできなかった。
ごめんね兄さん。」





「これにて、我らジョン追討部隊の任務は達成された。
ジョンの亡骸と共に凱旋し任務を全うしたものとする」

呆然としているパンチをよそに、王城への帰路につく準備をする。


「パンチ兄も騎士団も俺は見ていない
見たのは、我が部隊の者がジョンを倒し、人質を助けた姿だけだ」

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