水の申し子は無双したい訳じゃない

烏帽子 博

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ep2

パーティー、マーズ

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「魔物より、チャラの相手の方が疲れるわね」

「でもさぁ~それよりも、エリザベートさんとの約束がなぁー」

「あっ 忘れてたわ、シェアハウスから出ないとならなくなったのね。」

「えっ、ミルド、ロキシー、どっか引っ越しちゃうの。」

ミルドの話によると
そもそもここをシェアハウスとすることにした時、オーナーのエリザベートは、将来有望と思われる若手冒険者の手助けを目的としたそうだ。

ミルドもロキシーも、Eランクで収入も少なくて苦しかった時代にこのシェアハウスに入れてもらったそうだ。
当初は、家賃も滞納に次ぐ滞納だったが、嫌な顔1つせずに、食事も出してくれてたそうだ。

そんな訳で、二人はAランクになった時にも退居を打診されていた。
「稼ぎが少ない若者を応援したいのよ」
オーナーのエリザベートは、よくそう言っているそうだ。

「Sランクになって、そのまま居座る訳には、いかないってことよ。」

「じゃあ私も、出てかなきゃいけないのね。
え~~どうしよう。」

「まぁ、私たち今の稼ぎなら高ランクの宿でも泊まれるから、仕方ないわね。
これまでのお礼をして、退居しましょう。」

「私もミルドやロキシーと同じ宿にする。ねっ いいでしょ」

「もちろんだよ」「いいに決まってるでしょ」

「シェリーは、どうするのかな。彼女だって、ギルド職員として安定収入があるのよね。
生活苦の若者とは言えないわ」

「4人一緒に出るか。」

「それはシェリーが決めないと」

家に着くとパーティーMRAの3人で、エリザベートさんにSランク昇格の報告と退居の相談をした。

「まずは、Sランク昇格おめでとうと言わせて。
国中でも数える程のトップランカーが3人も私の家から出るなんて、なんて光栄なことでしょう。
今日はお祝いをしましょうね。」

シェリーはいつも仕事から帰ってくる時間になっても帰って来なかった。

「シェリーさん、遅いわね。
何かあったのかしら。」

「ああ それきっと私たちのせいです。
ダンジョン『あやかしの森』を2回攻略したので、そこそこの量の魔石を買い取ってもらうことになって。
今頃職員総出で鑑定とかしてるのかも知れないわ。」

シェリーは、メインデッシュが出る頃になって、漸く帰って来た。

「わぁー 
私が誰のお陰で残業させられたと思ってるのよ。
その私をのけ者でアンタたちはパーティー?
いいご身分ね。」

「まぁまぁシェリーさん。
Sランク昇格のお祝いをしましょうって、私がいい出したの。
ごめんなさいね、あなたを待ってなくて。」

「オーナー、ごめんなさい。
言い過ぎました。
残業で疲れて、私イライラしてました。」

「シェリー、待ってなくてごめんな、一緒に飲もうよ」

ミルドがワインのボトルを持ってシェリーの所にいった。

「私たち、アクアも一緒にここを出ることにしたの。
もう生活苦の若手とは言えないからね。」

ロキシーがそう言い、続いてアクアが

「シェリーも一緒に行こうよ。私シェリーと一緒がいい。」


「アクア、あなたって本当に手のかかる娘ね。
私がいなかったら、ミルドとロキシーの二人じゃ持て余すでしょ」


「あら、結局4人とも出て、いいえ、この家から卒業なのね。
ちょっと寂しいけど、おめでとう、皆さん」

結局ミルド、ロキシー、シェリーの3人は真夜中まで飲んで語っていた。

エリザベートが退席する時

「アクアさん。あなたもう眠いんでしょ。部屋でお休みなさい」

そう言われて、アクアはシェリーの部屋のベッドに潜り込んだ。

アクアは、シェリーの匂いに包まれて、安心して、直ぐに眠りについた。





「そんな、昨日の今日で、出て行かなくてもいいのに。」

エリザベートさんも寂しそうだ

「ありがとうございます。
でも、ここで出ていかないと、私たち決心が鈍りそうで。
本当にお世話になりました。」

ロキシーが絞り出すように、別れの挨拶をして、エリザベートに抱きついた。

クラレンスたちメイドも含めて、見送る方も、見送られる方も皆泣いている。

「私たち、ここを出ても、この街には居るんですから、いつでも会えるじゃないですか。
みんな笑って別れましょうよ。」

そう言って、シェリーは涙でぐしゃぐしゃの顔で笑顔をつくった。

アクアはシェリーにしがみついて泣いている。

ロキシーとミルドも服の袖で涙を拭ってから、笑顔をつくり、エリザベートに一礼した。

「アクア、あなたも、もう泣かないのよ」

シェリーはアクアの頭を優しくなでた。

「うん」

アクアとシェリーも礼をして、エリザベートの屋敷から4人は出た。


「あー、駆け出しの頃からの色んな思い出が溢れてきて、あたし駄目だわ」

「ミルド、止めてよ、そんなこと言うの。私だってやっと我慢してるんだから」

どんよりとした雰囲気のまま、4人は、冒険者ギルドに着いた。

「おや どうした?
4人揃って暗い顔して。
いつもの元気がないぞ」

ギルド長のハックが話し掛けてきた。
すると、シェリーが真顔になり

「私、ギルド職員辞めます」

「えっ なんか空耳か?
今、辞めるって聞こえた気がするけど、まさかな」

「私、シェリーは、本日をもって、冒険者ギルドの職を辞して、1人の冒険者に戻ります。」

「ちょっとシェリー、何がどうしたって言うんだ。
君が辞めたら困るよ。
冗談かい、驚かさないでくれよ」

「本気です。アクアと一緒に冒険者をしたいんです。
もう一度、上を目指したいんです。」

「え~~~~~っ
本気なのかぁ。弱ったなぁ。」

「シェリー、私は歓迎するわよ」
「もちろん、あたしも大歓迎だよ」
「シェリーお姉ちゃんも冒険者になるの。わーい。
これでずっと一緒だね」

「そうよ、アクア先輩。宜しくね」

「えへへ 先輩って言われちゃったー」

「あー こりゃあ引き留められないな。
シェリー、Sランクについて行こうと無理だけはするなよ。」

「ギルド長、あたしたち3人がついているんだ。
心配無用だよ」

「そうだな。うちのシェリーを頼む。幸せになれよシェリー」

「まるで娘を嫁に出す父親みたいね。」

「ロキシー、俺はシェリーを娘みたいに思ってたんだ。」

「やだ、気持ち悪っ。
止めてよ、そう言うの。
公私混同しないで下さい。」


こうして、アクアたちのパーティーにシェリーが加わった。
パーティー名はMRAからMARSマーズに変更した。

この日彼女たちは、依頼を受けることもなく宿をとる事にした。

「あら、アクアちゃんじゃない、久しぶりね」

店のドアを開けるなり女将のマーサが声をかけて来た。

アクアがわがままを言って「かあちゃんの店」にその日は泊まることになった。

ミルドとロキシーは、それぞれ1人部屋で、アクアとシェリーは、二人部屋になった。
当然これは、「シェリーと一緒の部屋でなきゃ嫌よ」といってアクアがきかなかったからだ。

アクアは、屋敷で預かった個々人の荷物を、それぞれの部屋に行って出した。
みんな屋敷で大きな部屋を1人で使っていたので、荷物が多い。

「アクア、悪いけどこれとこれ以外は、また預かっててくれる?」

3人は、必要最低限以外の荷物は、再びアクアのストレージに預けた。

アクアが、再びストレージを出して、何かを取り出そうとしている。

「アクア、もう何も出さなくていいわよ。」

「シェリー、そうじゃなくて、シェリーなら、装備できるかもと思って」

「えっ なに?」

アクアは『はぐれメタルの盾』と『はやぶさの剣』を取り出した。

「これ、どっちも私、装備できないの、シェリーなら装備出来るかもと思って。」

「あっ えっ そう
どうかなぁ~」

シェリーは、どちらも装備することが出来た。

「ああ、良かったシェリーが使えて。これで無駄にならないわ」

「これを私に?こんな高価な物はもらえないわよ。」

「じぁあ貸すわ。私は装備出来ないから、ストレージにしまっておくだけだもん」

こうして、『スライムダンジョン』と『あやかしの森』のボス部屋の宝はシェリーの手に渡った。



♧♢♡♤♧♢♡♤

なんと!冒険者ギルドの受付嬢のシェリーが、冒険者になってしまいましたね。
しかもダンジョン最下層の宝を手にしたんですから、当然大活躍をしてもらいましょうね。
続きをお楽しみに。

皆さんの応援のお蔭で
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本当にありがとうございます。
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