魔王の子

烏帽子 博

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第一章

ミスリルガールズ

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百万ゴールドを手にしたので、実家に「リンク」で帰る必要は無くなった。

「そうゆう訳で、これからは、タマと自立して行くから。
これは、食費とこれまでの感謝の印です」

「えっ、マオマオ何それ?
明日からは、晩御飯に帰ってきたり、家に泊まることも無いのかい。
そんなの寂しいよ~」

「ヒューリ! ダメよそんなこと言っちゃあ。マオが旅に出るって言った時から決まってることでしょ」

マリアがヒューリをたしなめてくれた。

その時目の前の空間が少し歪んだ。
その中からタマがやって来た。

「おじさん おばさん おはよう御座います。マオマオおはよー」

「おはよータマ それじゃ行こう」

私たちは手を繋いで、トッポの町の冒険者ギルドの裏口に『リンク』で移動した。

「マオマオ 依頼を受けるのもいいけど、武器を買いに行かない?
私たちのこと知らない人から見たら、子どもがおもちゃの剣持ってるとしか思わないんじゃない?」

「そうだね。ちゃんと武装してるってわからないとね。」

私たちは、ギルドの受付のおねえさんに紹介してもらった武器屋に向った。

店に入るとすぐに、店の人が近づいてきた。

「おう、あんたらか。うちの店に来てくれたんだ。
ありがとうな。
闘技場では、一方的だったよな。たいしたもんだよ。
俺はこの店のオーナー シロウだ。よろしくな。」

「シロウさん、こちらこそ宜しくお願いします。
わたしはマオです。」

「よろしくおねがいします。タマラです。」

「本当に可愛らしいお嬢ちゃんたちだな、これであんなに強いんだから、驚きだな。
所で、前は男の人もいるパーティだったよな、えっと『シャル 何とか』って言ったっけ」

「よくご存知ですね。今は二人だけのパーティで、パーティ名はまだ決めてません。」

「そうか、それは残念」

「シロウさん、なんで残念なんですか?」

「この店の宣伝にね パーティ○○御用達店 とさせて貰えたら、お客さんがふえるんだよ。
そうしてくれたら、君たちには特別大サービスするぜ」

「特別大サービスは、してほしいわよね。マオマオ、パーティ名決めようよ。」

「だったら俺も、混ぜてくれよ、君たちデビューから負け無しだよな。『無敵少女』なんてどうだ」

「ごめんなさい、それは無しで」

「それじゃあ『ピーチガールズ』」

「エッチなお店みたいで嫌よ」

「うーん 『レイピアとランス』これでどうだ」

「ごめんなさいシロウさん。
やっぱり、自分達で決めるから」

「そうかい、うん、まぁ決まってたら教えてくれよな。
それで、今日は何が欲しいのかな」

「私はレイピア、タマラはショートスピアが欲しいんだけど」

「そうか、それじゃあ、こっちの部屋に来てくれ。」

「これなんかどうだい、ミスリル製のレイピアだ。マオさんクラスならこのくらいの品を持たないとな」

「シロウさん、これいくらなんですか?」

「三千万ゴールドだよ。」

「へっ!?三千万!そんな大金持ってません。
私たちこないだの闘技場での賞金とかの分しかお金持ってません。
もっと安い物を下さい。」

「いくらなら払えるんだい?」

「二人合わせて五十万ゴールド位迄なら……」

「マオマオ、五十万でもキツイよ」

「でも木の棒のまんまってわけにもいかないでしょ。
安物だとまたバカにされるわよ」

「お金がもっと貯まるまで、待とうよ」

「お二人さん、お話し中じゃまするよ。
ちょっとがんばって、五十万ゴールドだけで二人の武器をうちで用意しようじゃないか。
ただし、条件はさっきの宣伝。それと売買じゃなくてレンタルだ。期限は無しでいいが、当然所有権はうちにあるってことで、折れたりして使い物にならなくなっても、弁償しなくていい、ただし返却はしてもらう。
あと君たちのグッズ販売の独占契約もだ。
店の広告とセールスに協力も頼む、これはできる範囲で構わないよ。
武器は、その三千万のレイピアと二千八百万のショートスピアだ、これも輪島塗にミスリルの剣先で2つと無い逸品だぜ」

「そんな高級品を、本当に良いんですか?」

「これは投資ってやつさ。俺の勘では、君たちはこれからもっともっと有名になって強くなるはずだ。
そうしたら、この店で買いたいお客さんも増えるってことなんだよ」

ー タマ 私はこの話乗ってもいいと思うけど どう思う ー

ー そうね 悪い話じゃ無いわね。あと折角だから『ミスリルガールズ』なんてパーティ名はどう?ー

ー それいいわね。シロウさんも喜びそうね。ー

私たちの念話の様子を不思議そうに見ていたシロウさんが、しびれを切らして恐る恐ると

「あの~ それで、どうすることになるのかな?」

「契約します。それとパーティ名は『ミスリルガールズ』にします」

「おお、そりゃあよかった。パーティ名もいいな。『ミスリルガールズ』かぁ よく考えたな。
これからが楽しみだ」

こうして、超高級な武器を私たちは手に入れた。

ギルドに戻って、受付のおねえさんにパーティ名の申請と、紹介のお礼を言うと

「早速 闘技場対戦者募集出しませんか?」と言われて
それも申し込んだ。

後でギルドマスターのハマーさんに聞いた話だと、受付のラオさんは、剣のシロウさんとできてるらしい。

まぁ騙されてる分けじゃないみたいなので、いいかな。

私たちは、たまに闘技場での挑戦を受けながら、ギルドに寄せられるさまざまな依頼をこなしていった。

おばあちゃんのお散歩と話し相手・庭の草むしり・蜂の巣の駆除・引っ越し・配達・薬草探し・ダンジョン探索・警備・警護
なんでも嫌とは言わずに、請けていった。

ミスリルガールズは、無敵の冒険者なのに何でも請け負ってくれるとどんどん評判がよくなった。
町を歩くとアチコチから声がかかる。

「ミスリルガールズだ!」と子どもが寄ってきたり。

「ほれ、サービスだ食べてくれよ」
と露店のおじさんが串焼きをくれたりする。

私たちが「美味しいね~」「ホント マジ美味い」って言ってると。人が集まって来て串焼きがいっぱい売れたみたい。

おばあちゃんが
「こないだは、ありがとうね」
と猫を抱いて声をかけてくる。

このおばあちゃんの猫はちょくちょく脱走する子で、探索依頼を私たちは、受けたことがあった。
タマの探知で簡単に見つけられたけど、オス猫と逢引してることは、おばあちゃんには言ってない。

5歳くらいの女の子が、ミスリルガールズの二頭身人形をリュックにつけて歩いている。

剣のシロウの店先には
『ミスリルガールズ御用達店』
グッズも有るよ
と大きく書かれた看板が建てられてる。

「ああ 二人共ちょうどいいところに来てくれた。
新しくロゴマークを作ってブランド展開したいんだ。ちょっと見てくれ」

たくさんのイラストから私たちが選んだのは、
レイピアとショートスピアが縦に描かれてる間に二人が背中合わせに立っているシルエットだ。

「来月には、闘技場にブランドショップを立ち上げる」そうで、私達にはロイヤリティとして、売り上げの5%をくれると言う話だ。

気がついてみると、私たちは、どんどん自由が無くなっていった。
朝新規オープンのお店の宣伝に駆り出され、昼には闘技場で試合。試合の後にはサイン会をこなして、夕方は講演会、夜はパーティとか、偉い人との食事会。
お金もどんどん入って来て、泊まる宿もどんどん高級になったけど、振り回されて疲れて寝るだけなら、どこでもよかった。

「ねぇ タマ もう寝た?」

「なあにマオマオ。明日も早いし早く寝ようよ。」

「もうやめない?何でも嫌って言わないで請けるのは」

「え どうゆうこと?」

「前にセーラさんをギルドに登録しにジンと行った時のこと覚えてる?」

「うん、Aランクってハマーさんが言ってくれたのに、ジンが『悪目立ちしたくない』ってBにしてもらったわね」

「そう、私たちBランクのままだけど、この町じゃあ有名人になったわよね」

「そうね、どこに行っても声かけられたり、サインねだられたり、視線を感じるわね」

「ジンの『悪目立ちしたくない』ってこういうことを嫌って言ってるのかなぁと思って」

「わたし、よくわかんない。もう眠いし。難しいこと考えらんない。
マオマオごめんね、寝ようよ。」

翌朝、タマと朝食を食べているところにシロウさんがやって来た。
「今度二人には歌を出してもらおうと思ってさ。
お年寄りから小さなお子さん迄二人のことが大好きな人がたくさん居るから、絶対に売れると思うんだ。」

「シロウさん、それはお断りします」

「えっ?みんな喜ぶと思うんだけど」

「私たち、この町に長く居すぎたと思います。
そろそろまた旅に出たいと思います。」

「えっ ちょ ちょっとまってくれよ。グッズだっていっぱい作って在庫してるし、どうしてくれるんだよ」

「グッズはシロウさんが勝手に作ったんでしょう。
在庫にまで私たち責任はとれませんよ」

「マオマオ、ちょっとシロウさん可哀想よ」

「タマ、あなたこんな生活いつまで続けるつもりなの?何のために冒険者になったの」

「おやおや、珍しく二人は仲間割れかい?
俺は商人でお金儲けが好きだけど、そのために二人にケンカして欲しかないよ。
在庫はマオさんの言うとおりだけど、突然旅に出られたら俺が困るのはわかるだろ。
できれば、あと3ヶ月だけでも時間をくれないか。」

「マオマオ、どうする?」

「とにかく わたしは、今日は仕事しないから。誰にも会いたくない。
タマ一人で行ってよ!」

私は部屋に駆け戻って、ベッドに潜って泣いた。

なによタマ、一人でいい子ぶって!

何でイライラするのか分からなかった。

わたしは、良い子なんかじゃない。
みんなにチヤホヤされたいと思わない。
シロウさんに迷惑かかるのは分かっている、でもぼんやり感じてたストレスが突然大きく膨れ上がって、もう自分では抑えられない気がする。

わたしは、置き手紙をして、一人で旅に出ることにした。
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