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1章1節 始まりの魔探偵
1-5,6 (5,6話)
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それから数時間後。
学校のチャイムとともに一斉に子供達が廊下を出ていく。
午後3時すぎ。授業が終わった時間。
シンのクラスも学活の時間が終わったところだった。
楽しそうに友達と帰る姿が見受けられる。
シンも帰ろうと黒いランドセルを背負った。
そこに後ろから声をかけられた。
振り向くと直とビリー。
「シン、一緒に帰ろ」
「うん」
3人は廊下に出て、下駄箱のところまで向かっていった。
仲良しの3人は常に同じ行動をとっている。
家に帰るまでずっと一緒。
下駄箱まで来ると、上履きから下靴に履き替えた。
外に出ると、放課後残って遊ぶものもいる。
ボールを使っての遊びや、アスレチックで遊ぶ。
人それぞれ自由な時間を過ごす。
帰って留守番をする子も少なくない。
時には児童館のようなところで一時預かってくれる場所まで行く子供もいる。
親が共働きで面倒が見れない親が多い。
そういう子供が大半を占める。
だけど、シン達の家には必ず誰かがいる。
なので、児童館に預けることもなくて済む。
校門を出て自分達の家に帰ろうとする時のことだった。
「ねぇ。今日は大丈夫なの?うちのお父さんに稽古をつけてもらおうなんて」
「大丈夫。ビリーのお父さんには言ってるんだろ?一度見てみたいんだー。ビリーのお父さんの姿」
ビリーの父親に稽古をつけてもらおうと前からビリーに頼んでもらい、許可が出るかを待っていた。
すると、この日なら空いているからいいよとビリーから聞いて今からその場所に向かおうとしていた所だった。
ビリーの父親は初代魔探偵の側近にあたる人で、2・3番目に偉いとされている人物だった。
何をするにしても初代についておかなければいけない存在でもあるのだ。
たまたまこの日はお休みで稽古場の方が空いているというので今回は特別に稽古をしてもらえることになった。
週に何回かは稽古場の生徒が来て稽古をしているらしいのだが、最近は人が少なくなって指で数えるくらいにまで減った。
ちょうど去年の今ぐらいは数百人という人が来ていた。
一時期は1ヶ月待ちまで出ていたくらいだった。
それが急に減って今ではガラガラな稽古場になったらしい。
入部希望の紙を貼っても誰も来ない。
経営にも少し苦しい事態になっていた。
何かしらのことがなければここまで減ることはないが、シンはそのことは知らなかった。
「まだ魔探偵になること諦めてないんだ。本当にシンはよく危なっかしいのを希望するね」
数年前まで魔探偵を目指していた者が多かった。
若い子から少し年配の人まで。
幅広く魔探偵になりたいと思う者も増えていた。
側近でも何でもいいという者達が日々鍛錬をこなしてきた。
しかし、今は違う。
なりたいと願う子供がいても、親は反対していた。
なぜなら、自衛隊と同じように命をかける仕事だから。
そんなものに決して入ってはいけないなんてルールの1つや2つは家庭内でも存在していたぐらい魔探偵に入ることはあまくはない。
そんな職に就くぐらいなら安全で安心な場所にしてほしいと願う親も多かった。
しかし、3年前の事件のせいで魔探偵はものすごいレッテルを貼られていた。
人を犠牲にしてまで魔探偵を続けたいかというデマまであったくらい。
それ以降、目指すものは急激に減った。
沢山あった稽古場も次々と閉鎖していくぐらいまでに発展し、今では全国に数ヶ所しかないぐらいになってしまった。
「何でだよ。人を守るんだぜ。悪魔を倒す探偵なんて他にいないだろ?」
「そりゃないかもしれないけど、他にもあるでしょ?消防隊になりたいとか、海上自衛隊になりたいとか」
父親の姿を見て育ってきたシンにとって、魔探偵は特別な存在。
なりたいと願ってきた職業でもあるのだ。
今更夢を変えることなんてことはない。
「いいじゃない、直。シンがなりたいって言ってるんだし。見守るだけ見守れば?」
「ビリーはいいじゃない。お父さんが魔探偵の側近なんだから。でも、ビリーだってなりたいんでしょ、魔探偵。
いいね、親が魔探偵とか。羨ましいわ」
ビリーも父親のように魔探偵になりたいと決めていた。
親の背中というものは憧れてしまう。
男の子にはあること。
側近である父親を誇らしく思うビリーは父親のようになりたいと強く決めていた。
魔探偵であれば誰でもいい。
側近になれるくらいならお構いなしだ。
「魔探偵たって側近だろ?ビリーの叔父さんならならせてくれるじゃん。今でも稽古してるんだろ?」
「まあね。毎日銃の稽古してもらってるから本当に助かるよ」
「俺は剣だからな・・・誰も教われないし、困るよな・・・。そういうの羨ましいわ」
シンは剣使い。
父親も剣を扱っていることからシンも使うことに決めていた。
しかし、剣を扱う稽古場はほとんど閉鎖されてしまい、どこも練習できる場所はなかった。
唯一できる場所がビリーの場所だった。
剣だけというとかなり遠い場所にあるため子供だけでは無理だった。
そんなことを話していながらビリーの稽古場まで歩いていった。
学校から歩いて15分ほど。
ビリーの言っていた稽古場に着いた。
大きさからすれば柔道をする体育館程度の大きさ。
3人は稽古場を見て立ち尽くしていた。
「どう?思っていた以上に小さいでしょ」
大きいイメージをしていたシンと直だが、想像していた以上に小さい。
ビリーが話してくれていたのよりもピンとこないレベルだ。
口を開けてポカーンとするシン。
背中を叩いて現実に戻そうとする直。
苦笑いするビリーを見つめる2人。
「本当にこれが稽古場なの?」
「何だろ・・・ビリーが話してくれたのとイメージが違ったからさ。 ちょっと戸惑ったよ」
シン達が想像していたのは体育館並みの大きさだと思っていた。
沢山の人数が入るといえば、体育館ぐらいしか思いつかなかった。
実際と想像とはケタが違うことを知ったのだ。
けど、思っていた以上に静かだった。
今日は稽古は休みなのだろうかとふと思っていた矢先、ガラガラと扉の開いた音がした。
3人はその音に気付き、前を向いた。
そこには30代に見える道場着姿の男の人がいた。
この人がここの師範なのだろうかと声をかけようとしていた。
「お父さん、ただいま」
それはビリーの父親、アルツ・グランシスだった。
グレーの短髪がビリーに似ている。
本当にこの人がビリーの父親とは知らなかった。
ペコリとお辞儀をする2人。
にっこりと愛想笑いをしたアルツ。
ようこそと言ってくれているみたいだ。
ビリーと2人で今日のことを話していた。
そのことを納得していたアルツはシンの顔を見た。
「君が金城君だね。 息子から聞いているよ」
「こんにちは。 今回はありがとうございます。 わざわざ時間をとってくださって」
いいよと言って笑ってくれたアルツを見たシンはこの人はいい人だと思い始めた。
ビリーからは怖いとしか言われていなかったので、想像するのが怖かった。
実際は優しい人ではないか。
ギャップというものは見なければわからないものだというのを知った。
「ここで立ち話もなんだ。 中に入りなさい。 彼女も入りなさい。 見学するぐらいなら大歓迎だよ」
下靴を下駄箱に入れて中に入った。
フローリングは冷たい。
足がひんやりしそうだ。
だけど、ここは銃専門の稽古場だと聞いていたが、銃らしきものは置いていない。
置いてあるとすれば竹刀が4本あるだけで、怪しいものは左にある黒いカーテン。
あそこには何があるのだろうか。
直はそのことについて聞いてみた。
すると、そこの黒いカーテンの先にあるのは銃の練習に使っていると言った。
ビリーもそこをよく使っているというので中を見せてもらった。
銃が撃てるように台が3つ置かれていた。
警察にある射撃訓練のような部屋そっくりだった。
台の上には練習用の銃が3丁あって、どれも弾は入っていない。
使うときはプラスチック製の弾を使うそうだ。
台から5メートルくらいある的に狙っていつも訓練をしているというのだ。
ビリーがここで練習を受けていることを知った直は改めてすごいと感じていた。
そして、本題に入った。
シンがアルツに稽古をつけてほしいというのを聞いて1つアルツは疑問を持っていた。
「そういえば、うちの魔探偵が君の父親だと聞いたんだが、お父さんに稽古をつけてくれって言わなかったのかい? うちは銃専門だというのに」
その質問にシンは黙ってしまった。
清一郎だけには教わりたくないと思い、ここに来たのだがその質問が出てくるとは思っていなかった。
ビリーはすかさずそのことを口にした。
清一郎とシンはお互い別々に住んでいて、なかなか家にも帰って来ないこと。
帰ってきても息子の話は聞かないこと。
いろいろと話してみた結果、そのことには触れてはいけなかったことを謝罪した。
アルツはそのためにビリーを通してここで稽古をつけてほしいということに気付く。
「すまないね、シン君。 私もそのことは聞かなくてね。 前は君のことを話していたら楽しそうな顔をしていたのに。 今は君のことすら話さなくなったからね。 仕事で忙しいのかもしれないけど」
「いえ、別にいいですから」
下を向いてしまい、元気をなくしてしまったシン。
アルツは竹刀のあるところまで向かっていき、竹刀を2つ持っていった。
それをシンに手渡そうとした。
「君のことはよくわからない。 魔探偵もそのことに触れてないし。 ただ、君は君の意志でビリーに頼んで稽古をつけてほしいと頼んだのだろ? だったらやろうじゃないか」
シンはアルツの顔を見て竹刀を受け取った。
間合いをとってお互いに竹刀を前に出した。
防具も何も着けていない。
お互い技の打ち合いをしようというのだろうか。
ビリーはシンのランドセルを窓際に寄せて、正座で2人のことを見た。
それを見よう見まねに直もやってみた。
もしかしたら、足がしびれるのではないかと思い。
「さて、これから打ち合いをするよ。 お互い防具はなし。 どこに打ってもらっても構わない。 距離をとるのもいいし、片手で竹刀を持ってもらっても構わない。 それは自由だ。 ただし、竹刀が顔に向けられたらそこで終わりだ。 いいかな?」
そう言われてシンは目をつぶり、片手で竹刀を持った。
アルツはシンが打ちにくるのを待った。
そして、目を開けて竹刀を振りに振り下ろしていく。
打突をしようが、横に振って当てていこうとするが、当たらない。
当たっても竹刀の真ん中の辺りに当たっていく。
はじかれていきそうにもなるが、そこにはシンの勘でやっていくしかなかった。
振りに振り下ろして疲れが見え始めたのか息が荒い。
すかさずアルツは突きにいこうとした。
竹刀を縦にしてガードを試みる。
しかし、それが知らない間に竹刀がはじかれていた。
竹刀の先が顔の正面にくる。
打ち合いが終わった。
わずか5分半の打ち合い。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
竹刀がはじかれる寸前、突きに出ようとしていた。
なのに、一瞬向きが変わったようにも見えた。
どれがフェンシングの刃先のようにほんの少し曲がった気がした。
でも、肉眼では見えなかった。
ほんの一瞬の動きが竹刀をはじくなんて想像もつかなかった。
「牙突や間合いに頼りきってしまってはいけない。 時に守ることにも役立てられる。 振って体力を消耗するだけでは意味がないよ」
「じゃあ、どうしたらいいですか?」
その言葉にアルツはあることを聞いてみた。
君は間合いからの突きに入ったことはあるかい?と。
それはなかった。
そんな発想もなく振り回していたのだから。
銃専門のアルツでも清一郎に教わった技があった。
それは護身術。
竹刀でもできる護身術を。
手だけではなく、物を持っていてもできるということを。
それを知ったシンはその技を教えてほしいとアルツに頼んだ。
あっさりとOKをもらったシンはアルツと一緒に護身術を3時間もかけて学んでいた。
ビリーと直もそれをジッと見つめ、シンの応援をしていた。
夜がくる数時間。
あっという間に過ぎていった。
学校のチャイムとともに一斉に子供達が廊下を出ていく。
午後3時すぎ。授業が終わった時間。
シンのクラスも学活の時間が終わったところだった。
楽しそうに友達と帰る姿が見受けられる。
シンも帰ろうと黒いランドセルを背負った。
そこに後ろから声をかけられた。
振り向くと直とビリー。
「シン、一緒に帰ろ」
「うん」
3人は廊下に出て、下駄箱のところまで向かっていった。
仲良しの3人は常に同じ行動をとっている。
家に帰るまでずっと一緒。
下駄箱まで来ると、上履きから下靴に履き替えた。
外に出ると、放課後残って遊ぶものもいる。
ボールを使っての遊びや、アスレチックで遊ぶ。
人それぞれ自由な時間を過ごす。
帰って留守番をする子も少なくない。
時には児童館のようなところで一時預かってくれる場所まで行く子供もいる。
親が共働きで面倒が見れない親が多い。
そういう子供が大半を占める。
だけど、シン達の家には必ず誰かがいる。
なので、児童館に預けることもなくて済む。
校門を出て自分達の家に帰ろうとする時のことだった。
「ねぇ。今日は大丈夫なの?うちのお父さんに稽古をつけてもらおうなんて」
「大丈夫。ビリーのお父さんには言ってるんだろ?一度見てみたいんだー。ビリーのお父さんの姿」
ビリーの父親に稽古をつけてもらおうと前からビリーに頼んでもらい、許可が出るかを待っていた。
すると、この日なら空いているからいいよとビリーから聞いて今からその場所に向かおうとしていた所だった。
ビリーの父親は初代魔探偵の側近にあたる人で、2・3番目に偉いとされている人物だった。
何をするにしても初代についておかなければいけない存在でもあるのだ。
たまたまこの日はお休みで稽古場の方が空いているというので今回は特別に稽古をしてもらえることになった。
週に何回かは稽古場の生徒が来て稽古をしているらしいのだが、最近は人が少なくなって指で数えるくらいにまで減った。
ちょうど去年の今ぐらいは数百人という人が来ていた。
一時期は1ヶ月待ちまで出ていたくらいだった。
それが急に減って今ではガラガラな稽古場になったらしい。
入部希望の紙を貼っても誰も来ない。
経営にも少し苦しい事態になっていた。
何かしらのことがなければここまで減ることはないが、シンはそのことは知らなかった。
「まだ魔探偵になること諦めてないんだ。本当にシンはよく危なっかしいのを希望するね」
数年前まで魔探偵を目指していた者が多かった。
若い子から少し年配の人まで。
幅広く魔探偵になりたいと思う者も増えていた。
側近でも何でもいいという者達が日々鍛錬をこなしてきた。
しかし、今は違う。
なりたいと願う子供がいても、親は反対していた。
なぜなら、自衛隊と同じように命をかける仕事だから。
そんなものに決して入ってはいけないなんてルールの1つや2つは家庭内でも存在していたぐらい魔探偵に入ることはあまくはない。
そんな職に就くぐらいなら安全で安心な場所にしてほしいと願う親も多かった。
しかし、3年前の事件のせいで魔探偵はものすごいレッテルを貼られていた。
人を犠牲にしてまで魔探偵を続けたいかというデマまであったくらい。
それ以降、目指すものは急激に減った。
沢山あった稽古場も次々と閉鎖していくぐらいまでに発展し、今では全国に数ヶ所しかないぐらいになってしまった。
「何でだよ。人を守るんだぜ。悪魔を倒す探偵なんて他にいないだろ?」
「そりゃないかもしれないけど、他にもあるでしょ?消防隊になりたいとか、海上自衛隊になりたいとか」
父親の姿を見て育ってきたシンにとって、魔探偵は特別な存在。
なりたいと願ってきた職業でもあるのだ。
今更夢を変えることなんてことはない。
「いいじゃない、直。シンがなりたいって言ってるんだし。見守るだけ見守れば?」
「ビリーはいいじゃない。お父さんが魔探偵の側近なんだから。でも、ビリーだってなりたいんでしょ、魔探偵。
いいね、親が魔探偵とか。羨ましいわ」
ビリーも父親のように魔探偵になりたいと決めていた。
親の背中というものは憧れてしまう。
男の子にはあること。
側近である父親を誇らしく思うビリーは父親のようになりたいと強く決めていた。
魔探偵であれば誰でもいい。
側近になれるくらいならお構いなしだ。
「魔探偵たって側近だろ?ビリーの叔父さんならならせてくれるじゃん。今でも稽古してるんだろ?」
「まあね。毎日銃の稽古してもらってるから本当に助かるよ」
「俺は剣だからな・・・誰も教われないし、困るよな・・・。そういうの羨ましいわ」
シンは剣使い。
父親も剣を扱っていることからシンも使うことに決めていた。
しかし、剣を扱う稽古場はほとんど閉鎖されてしまい、どこも練習できる場所はなかった。
唯一できる場所がビリーの場所だった。
剣だけというとかなり遠い場所にあるため子供だけでは無理だった。
そんなことを話していながらビリーの稽古場まで歩いていった。
学校から歩いて15分ほど。
ビリーの言っていた稽古場に着いた。
大きさからすれば柔道をする体育館程度の大きさ。
3人は稽古場を見て立ち尽くしていた。
「どう?思っていた以上に小さいでしょ」
大きいイメージをしていたシンと直だが、想像していた以上に小さい。
ビリーが話してくれていたのよりもピンとこないレベルだ。
口を開けてポカーンとするシン。
背中を叩いて現実に戻そうとする直。
苦笑いするビリーを見つめる2人。
「本当にこれが稽古場なの?」
「何だろ・・・ビリーが話してくれたのとイメージが違ったからさ。 ちょっと戸惑ったよ」
シン達が想像していたのは体育館並みの大きさだと思っていた。
沢山の人数が入るといえば、体育館ぐらいしか思いつかなかった。
実際と想像とはケタが違うことを知ったのだ。
けど、思っていた以上に静かだった。
今日は稽古は休みなのだろうかとふと思っていた矢先、ガラガラと扉の開いた音がした。
3人はその音に気付き、前を向いた。
そこには30代に見える道場着姿の男の人がいた。
この人がここの師範なのだろうかと声をかけようとしていた。
「お父さん、ただいま」
それはビリーの父親、アルツ・グランシスだった。
グレーの短髪がビリーに似ている。
本当にこの人がビリーの父親とは知らなかった。
ペコリとお辞儀をする2人。
にっこりと愛想笑いをしたアルツ。
ようこそと言ってくれているみたいだ。
ビリーと2人で今日のことを話していた。
そのことを納得していたアルツはシンの顔を見た。
「君が金城君だね。 息子から聞いているよ」
「こんにちは。 今回はありがとうございます。 わざわざ時間をとってくださって」
いいよと言って笑ってくれたアルツを見たシンはこの人はいい人だと思い始めた。
ビリーからは怖いとしか言われていなかったので、想像するのが怖かった。
実際は優しい人ではないか。
ギャップというものは見なければわからないものだというのを知った。
「ここで立ち話もなんだ。 中に入りなさい。 彼女も入りなさい。 見学するぐらいなら大歓迎だよ」
下靴を下駄箱に入れて中に入った。
フローリングは冷たい。
足がひんやりしそうだ。
だけど、ここは銃専門の稽古場だと聞いていたが、銃らしきものは置いていない。
置いてあるとすれば竹刀が4本あるだけで、怪しいものは左にある黒いカーテン。
あそこには何があるのだろうか。
直はそのことについて聞いてみた。
すると、そこの黒いカーテンの先にあるのは銃の練習に使っていると言った。
ビリーもそこをよく使っているというので中を見せてもらった。
銃が撃てるように台が3つ置かれていた。
警察にある射撃訓練のような部屋そっくりだった。
台の上には練習用の銃が3丁あって、どれも弾は入っていない。
使うときはプラスチック製の弾を使うそうだ。
台から5メートルくらいある的に狙っていつも訓練をしているというのだ。
ビリーがここで練習を受けていることを知った直は改めてすごいと感じていた。
そして、本題に入った。
シンがアルツに稽古をつけてほしいというのを聞いて1つアルツは疑問を持っていた。
「そういえば、うちの魔探偵が君の父親だと聞いたんだが、お父さんに稽古をつけてくれって言わなかったのかい? うちは銃専門だというのに」
その質問にシンは黙ってしまった。
清一郎だけには教わりたくないと思い、ここに来たのだがその質問が出てくるとは思っていなかった。
ビリーはすかさずそのことを口にした。
清一郎とシンはお互い別々に住んでいて、なかなか家にも帰って来ないこと。
帰ってきても息子の話は聞かないこと。
いろいろと話してみた結果、そのことには触れてはいけなかったことを謝罪した。
アルツはそのためにビリーを通してここで稽古をつけてほしいということに気付く。
「すまないね、シン君。 私もそのことは聞かなくてね。 前は君のことを話していたら楽しそうな顔をしていたのに。 今は君のことすら話さなくなったからね。 仕事で忙しいのかもしれないけど」
「いえ、別にいいですから」
下を向いてしまい、元気をなくしてしまったシン。
アルツは竹刀のあるところまで向かっていき、竹刀を2つ持っていった。
それをシンに手渡そうとした。
「君のことはよくわからない。 魔探偵もそのことに触れてないし。 ただ、君は君の意志でビリーに頼んで稽古をつけてほしいと頼んだのだろ? だったらやろうじゃないか」
シンはアルツの顔を見て竹刀を受け取った。
間合いをとってお互いに竹刀を前に出した。
防具も何も着けていない。
お互い技の打ち合いをしようというのだろうか。
ビリーはシンのランドセルを窓際に寄せて、正座で2人のことを見た。
それを見よう見まねに直もやってみた。
もしかしたら、足がしびれるのではないかと思い。
「さて、これから打ち合いをするよ。 お互い防具はなし。 どこに打ってもらっても構わない。 距離をとるのもいいし、片手で竹刀を持ってもらっても構わない。 それは自由だ。 ただし、竹刀が顔に向けられたらそこで終わりだ。 いいかな?」
そう言われてシンは目をつぶり、片手で竹刀を持った。
アルツはシンが打ちにくるのを待った。
そして、目を開けて竹刀を振りに振り下ろしていく。
打突をしようが、横に振って当てていこうとするが、当たらない。
当たっても竹刀の真ん中の辺りに当たっていく。
はじかれていきそうにもなるが、そこにはシンの勘でやっていくしかなかった。
振りに振り下ろして疲れが見え始めたのか息が荒い。
すかさずアルツは突きにいこうとした。
竹刀を縦にしてガードを試みる。
しかし、それが知らない間に竹刀がはじかれていた。
竹刀の先が顔の正面にくる。
打ち合いが終わった。
わずか5分半の打ち合い。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
竹刀がはじかれる寸前、突きに出ようとしていた。
なのに、一瞬向きが変わったようにも見えた。
どれがフェンシングの刃先のようにほんの少し曲がった気がした。
でも、肉眼では見えなかった。
ほんの一瞬の動きが竹刀をはじくなんて想像もつかなかった。
「牙突や間合いに頼りきってしまってはいけない。 時に守ることにも役立てられる。 振って体力を消耗するだけでは意味がないよ」
「じゃあ、どうしたらいいですか?」
その言葉にアルツはあることを聞いてみた。
君は間合いからの突きに入ったことはあるかい?と。
それはなかった。
そんな発想もなく振り回していたのだから。
銃専門のアルツでも清一郎に教わった技があった。
それは護身術。
竹刀でもできる護身術を。
手だけではなく、物を持っていてもできるということを。
それを知ったシンはその技を教えてほしいとアルツに頼んだ。
あっさりとOKをもらったシンはアルツと一緒に護身術を3時間もかけて学んでいた。
ビリーと直もそれをジッと見つめ、シンの応援をしていた。
夜がくる数時間。
あっという間に過ぎていった。
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