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メロンクリームソーダ
しおりを挟むカランカランと懐かしいベルの音が響いた。
「いらっしゃいませ、お好きな席へ。」
白髪が混じってきた、初老の男性がカップを大事そうに拭きながら、客を店内へ招き入れる。客はカウンターに座った。
「ご注文は?」
メニューはないのですか?と客は聞いた。
「うちはメニューを置かないんですよ。お客さんが飲みたいもの、食べたいものをうちでは出すようにしています。」
そうですか、と客は言う。そしたら、
「そしたら、メロンクリームソーダってできますか?」
客のスーツとネクタイを着た男が言った。
「できますよ。」
店主はそういうと冷蔵庫から鮮やかなエメラルドグリーンのメロンソーダを取り出し、背の高い透明なグラスに注いだ。氷を入れ、その上にバニラアイスクリーム。最後に真っ赤なさくらんぼ。
「どうぞ、メロンクリームソーダです。」
店主は男の前にスプーン型のストローとともに置いた。
「ありがとうございます。」
そういうと、男は一口ソーダを飲み、アイスを食べだ。
「こんないい大人がメロンクリームソーダなんて笑っちゃいますよね…。」
男はぽつりぽつりと話し始めた。
「実は私、小さいころに父を亡くしまして、毎日のように泣いていたんです。そんな時母がデパートに連れて行ってくれたんです。そこで初めてこれを食べて悲しい気持ちが和らいだというか。
それから、なにかあった時には母が連れて行ってくれて。忙しかっただろうに。」
「そうだったんですね。」
「そんな母が先日旅立ちまして。何となく見つけたここで、気を紛らわそうと思った次第です。
すみません、こんな話して。」
「いいえ、お構いなく。今はいいのか悪いのか、お客さんはあなたしかおりません。あなたがもしよろしければ、いろんなお話を聞かせてください。」
それから男はいろいろな話をした。家族のこと、会社のこと。好きな釣りの話も。
男がメロンクリームソーダを食べ終わると、席を立った。
「じゃあ、私はここで。お勘定を…。」
「いいえ、今日は結構です。いろんな話を聞かせてくれたので。お代はそれで。」
「いいんですか?」
はい、と店主が優しく微笑むと、それでは、と男が財布をしまった。
「またお邪魔してもいいですか?」
「いいですよ、お待ちしております。」
それでは、と男はまた懐かしいベルの音を鳴らして店を後にした。
「まぁたお代を貰わないで、そんなんでいいの?」
私が言うと店主は私を撫でまわしながら
「いいんだよ、それに休みの日になればたくさん人が来るしね、僕の暇をつぶしてくれたささやかなお礼さ。」
と言った。相変わらず人が良すぎるんだから。
店主が私をカウンターの上に乗せた。静かになったから私は心置きなく昼寝ができる。店主はグラスを片付け始めた。
初夏の昼下がり、猫と店主のとある一日。
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