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時結莉黒

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雨と花火

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「今年も雨か…。」
青年は窓の外を見つめてつぶやいた。
「いいじゃない、雨でも。こうして二人だけで見れるんだから。」
ベットの上の彼女は微笑みながら青年に言った。
「いつになったら外に花火を見に行けるのやら…。」
「また来年もあるわよ、雨の日の花火も風情あるじゃない?」
笑顔のまま窓の外を見る彼女は、花火ではない、どこか遠くを見つめているようにも見えた。

 彼女の細い腕にはたくさんの管が刺さっている。タンスの上にはひまわりの花と写真が飾られている。
 窓の外を見てきれいねと笑う彼女の横で、青年は浮かない顔をする。
 花火は毎年見に行っていた。きれいな浴衣を見るのが楽しみでもあった。屋台のたこ焼きやガリガリとしたかき氷食べるのも恒例だった。しかし、今となっては何一つできない。真っ白な入院服、徹底的に栄養が管理された病院食、「晴れていれば」とドクターストップされここ二、三年雨続きである。

花火のように、はかなく散っちゃうのかな…。

 雨の日の花火を見ると、どうも嫌な、なんとなくもやもやした気分になる。

命に永遠なんてない、終わるのが早いか遅いかは神様が決めること

 そんなのわかっている、わかってるんだけど…。


「少し、お話が。」
 医師が青年に声をかけられ、部屋に通された。
「単刀直入にお伝えします。彼女は、あともって三か月です。
手は尽くしましたが、我々の力不足です。申し訳ないです。
最後まで、彼女のそばにいてあげてください。」
 それでは、と医師は部屋を出て行った。青年はまるで、心のこもっていない人形のように座っていた。
 
 三か月?
あれ?来年の花火は?
君の素敵な浴衣姿は?

もう…、見れない?


 青年が彼女の病室に戻ると、彼女は真っ白な入院服ではなくワンピースを着て、荷物をまとめていた。
「ねえ、聞いて。お医者さまが退院していいって!あなたと過ごす時間が増えるわ!」
少女の顔はとても輝いていた。それに返事をするように青年は必死に笑い返した。
「帰ろうか、僕らの家に。」

 二人は二人の家に帰った。
「ほんとにそのままで取っておいてくれたのね、ありがとう!」
「君がいつ帰ってきてもいいようにね、今日はゆっくりしよう。」
「そうね、私、やりたいことがたくさんあるの!遠出もしたいし、映画も見に行きたい!」
「わかったよ、楽しいこといっぱいやろうな。」

 次の日、彼は会社で上司に相談をしていた。
「そういう事情なら、しばらく休んでいいぞ。任せろ、お前が戻ってきたときのことも俺が保証する、仕事のことは何も心配するな、最後まで彼女のそばにいるんだぞ。」
 上司は加えて、うまいもんでも食えとお金も渡してくれた。青年は上司の優しさに涙しそうになった。同期や先輩後輩も理解してくれた。青年は仕事の引継ぎをし、急いで帰った。

「ただいま。」
「おかえりなさい、帰るの早いね。」
「長いお休みを貰ってきたんだ、これからはしばらく一緒にいれるよ。」
「ほんとう?いいの?」
「いいんだ、俺は君と一緒にいたい。」
「じゃあ、今日は一緒にご飯作ろう!こうなったら買い物に行こうよ!」

 二人は近所のスーパーに買い物に行った。たくさん作りすぎて二人で笑いあった。

 それから二人はいろいろなことをした。遠くへ旅行もしに行った。海にも行った。
 
 しかし、時間は刻一刻と迫っていた。
彼女はベッドの上で過ごすことが多くなった。ご飯も食べれらる量が徐々に減ってきている。
「ごめんなさい…」
「謝らないで、大丈夫。僕がいる」
そう言い、青年は彼女の手を握った。



………




「ねぇ」
 ベットの上、ずいぶんと痩せた彼女が青年の手を握りながら声を掛けた。
「なに?」
青年は空いていた手を彼女の頬に触れながら答えた。
「最後に、わがまま言っていい?」

「最後だなんて…、なんでも聞くよ。君の願いなら」


「最後にね、花火が見たいの。大きい花火」

「ああ、いいよ。とびきり大きいのを見よう」

「ふふっ、約束よ」

「うん。約束。」

2人は指を絡めた。

そして


不謹慎だと、怒られるかもしれない。

無駄なことだと、笑われるかもしれない。

しかし、青年とその周囲の人は彼と彼女のために走ってくれた。

晴れた夜を選んだ。遠くにいても見えるように。

大きな花が、暗い夜空に、咲きほこった。

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