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有人飛行の定義
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「……えーと、どういう意味ですか」
何が基準で有人動力飛行では無いのか理解できない昴は尋ね返した。
「新大陸の奴はただ単に大きな模型飛行機に人を乗せて飛ばしただけ。紙飛行機にエンジンを付けてその上に人が乗っているようなものさ。とても飛行とは言えないよ」
飛行の意味は人それぞれだが、空中を自由自在に飛ぶという意味だと忠弥は捉えている。
「新大陸の場合、機体の安定性を重視しすぎて操縦性は皆無に近い。殆ど一直線に飛んで下りただけだ。だから川に浮かべた艀から飛ばして川の上を真っ直ぐ飛んで水上に下りただけだ」
最初の一報から時間が経つにつれて詳細な情報が入ってきた。
義彦が新大陸に人を送り調査したこともあって、忠弥には新大陸での有人飛行の実体を見ていたかのように語ることが出来た。
「彼らの期待は、エンジン出力を上げて、機体の安定性で飛ぶだけの代物。エンジン付の人が乗れる実物大模型飛行機みたいなものだ」
「空を飛べそうですが」
「空を飛べるけど、自由に操縦することが出来ない」
飛行機に必要とされる性能の一つに安定性がある。突風などで機体の状態を乱されても元の安定状態に戻れる性能だ。これが良くないと飛行機はバランスを崩して落ちてしまう。
「下降ぐらいはできるけど、旋回なんて出来ない。これじゃあ空を自由自在に飛んでいるとは言えない。操縦性が無いからね」
一方操縦性とは操縦者が進路を変更、修正するとき容易に行えるかどうかの性能を差す。これが良くないと飛行機は上下左右に進路を変更することが出来ない。
安定性と操縦性はトレードオフとされ、安定性を求めれば進路が変更しにくくなるため操縦性は小さくなり、操縦性を求めれば少しの操作で機体の進路がズレてしまい安定性を損なう原因になる。
そのため飛行機の設計において安定性と操縦性のバランスをどこに取るかは永遠のテーマとなっている。
「特に旋回が出来ない。機体が傾いてバランスが崩れるのを恐れて機体を傾けさせる機能が無い」
飛行機が旋回するとき、旋回方向に傾くのは旋回するために必要だからだ。機首の向きを変えために垂直尾翼の後方に方向舵はあるが、それだけだと機首が進路とズレるだけの横滑りを起こして針路変更が出来ない。忠弥はフライングランナーの機体構造の資料からそれを看破した。
「安定性を追求しすぎて真っ直ぐ飛ぶ以外に何も出来ない。搭乗車が何も出来ず、一直線に走るだけで、ただ機体が落ちていくのを見るだけの機体を飛行機と呼べるかな。せめて自由に空を飛ばないと」
「では忠弥の飛行機は自由自在に飛べるというのですか?」
「その通り」
忠弥は自信を持って答えた。
「操縦性を考えて設計しているよ。翼の一部を方向舵、昇降舵、補助翼にして操縦桿で動かせるようにしてある。これで安定性を残して自由に操縦できる」
「しかし、凧のように飛んでいるだけじゃないですか」
「エンジンの開発が終わって動力飛行が出来るようになれば大丈夫。機体の操縦性は確認済みだよ」
「機体は大丈夫なんですか?」
「何度も実験して検証しているから大丈夫だよ。さあ、今日もこれから頑張るぞ」
「あまり無理をしないで下さい」
「分かっているよ」
「本当に分かっています?」
「うん、昴が僕を気遣ってくれているのはよくわかっているよ」
「……やっぱり分かっていませんね」
「どういう意味だい?」
「私が何故ここまで献身的にしているとお思いですの?」
「え?」
昴に言われて忠弥はその意味を理解できなかった。
昴は溜息を吐いて、屈辱を、女から理由を言うという不本意な行動をとった。
「初めて会ったときの事を覚えていますか?」
「ええ、自動車を修理しました」
「その時私が何を行ったか覚えていますか?」
「修理できたら何でも言う事を聞くと」
「どういう意味か分かりますか?」
「言う事を聞くという意味でしょう」
昴は再び溜息を吐いた。
「字面通りの意味では、本当の意味があります」
「どういう事です?」
「私の身も心も好きにして良い」
「……え?」
昴の言葉を聞いて忠弥は驚いた。
「まあ、何でもの中には結婚を申し込まれても受けなければなりませんから。そういう答えも私は覚悟していました」
「……いや、そんな事出来ませんよ。それに僕の願いは飛行機を飛ばすために支援して欲しい、そのためにお父さんと会わせてという意味だったんで」
「ええ、そうでしょう。ですが私は貴方が御父様に結婚を申し込むと思いました。そういう意味かと思いましたから」
「……なんか勘違いをしてごめんなさい」
忠弥は戸惑いつつ頭を下げた。
「構いませんわ。あなたがそういう人だという事は最近分かりましたから。私の勘違いや思い込みもありますから、咎めませんわ」
「ありがとうございます。それと重ねてごめんなさい」
「謝らなくて結構です。でももう人に誤解を与えるような言動は避けて下さい」
「分かりました。あ、すいません! 撮影班の方、フィルムを直ぐに持ってきて下さい。飛行中の様子を確認したいので」
「本当に聞いていました?」
昴は文句を言うが忠弥は聞いていなかった。
半ば昴の言葉の意味を忘れるために作業に戻っていった。
この分だとまた夜遅くまで映画カメラで撮影された自分が試作機で飛んでいる様子を見るのだろう。
潤沢な資金を元に、映画撮影用の機材を買ったときは自分の姿を撮るのが好きな趣味人かナルシストだと昴は思った。
だが実際は、飛行姿勢を後から確認する為の撮影だった。
そのために開発されたばかりで高価なカメラとフィルムを大量に購入し、日中に飛行するとき多数の方向から撮影して、夜に上映して姿勢を確認し問題点を洗い出し改良するのが忠弥のスケジュールになった。
その姿を見た人々は忠弥の熱意に徐々に賛同するようになった。
何が基準で有人動力飛行では無いのか理解できない昴は尋ね返した。
「新大陸の奴はただ単に大きな模型飛行機に人を乗せて飛ばしただけ。紙飛行機にエンジンを付けてその上に人が乗っているようなものさ。とても飛行とは言えないよ」
飛行の意味は人それぞれだが、空中を自由自在に飛ぶという意味だと忠弥は捉えている。
「新大陸の場合、機体の安定性を重視しすぎて操縦性は皆無に近い。殆ど一直線に飛んで下りただけだ。だから川に浮かべた艀から飛ばして川の上を真っ直ぐ飛んで水上に下りただけだ」
最初の一報から時間が経つにつれて詳細な情報が入ってきた。
義彦が新大陸に人を送り調査したこともあって、忠弥には新大陸での有人飛行の実体を見ていたかのように語ることが出来た。
「彼らの期待は、エンジン出力を上げて、機体の安定性で飛ぶだけの代物。エンジン付の人が乗れる実物大模型飛行機みたいなものだ」
「空を飛べそうですが」
「空を飛べるけど、自由に操縦することが出来ない」
飛行機に必要とされる性能の一つに安定性がある。突風などで機体の状態を乱されても元の安定状態に戻れる性能だ。これが良くないと飛行機はバランスを崩して落ちてしまう。
「下降ぐらいはできるけど、旋回なんて出来ない。これじゃあ空を自由自在に飛んでいるとは言えない。操縦性が無いからね」
一方操縦性とは操縦者が進路を変更、修正するとき容易に行えるかどうかの性能を差す。これが良くないと飛行機は上下左右に進路を変更することが出来ない。
安定性と操縦性はトレードオフとされ、安定性を求めれば進路が変更しにくくなるため操縦性は小さくなり、操縦性を求めれば少しの操作で機体の進路がズレてしまい安定性を損なう原因になる。
そのため飛行機の設計において安定性と操縦性のバランスをどこに取るかは永遠のテーマとなっている。
「特に旋回が出来ない。機体が傾いてバランスが崩れるのを恐れて機体を傾けさせる機能が無い」
飛行機が旋回するとき、旋回方向に傾くのは旋回するために必要だからだ。機首の向きを変えために垂直尾翼の後方に方向舵はあるが、それだけだと機首が進路とズレるだけの横滑りを起こして針路変更が出来ない。忠弥はフライングランナーの機体構造の資料からそれを看破した。
「安定性を追求しすぎて真っ直ぐ飛ぶ以外に何も出来ない。搭乗車が何も出来ず、一直線に走るだけで、ただ機体が落ちていくのを見るだけの機体を飛行機と呼べるかな。せめて自由に空を飛ばないと」
「では忠弥の飛行機は自由自在に飛べるというのですか?」
「その通り」
忠弥は自信を持って答えた。
「操縦性を考えて設計しているよ。翼の一部を方向舵、昇降舵、補助翼にして操縦桿で動かせるようにしてある。これで安定性を残して自由に操縦できる」
「しかし、凧のように飛んでいるだけじゃないですか」
「エンジンの開発が終わって動力飛行が出来るようになれば大丈夫。機体の操縦性は確認済みだよ」
「機体は大丈夫なんですか?」
「何度も実験して検証しているから大丈夫だよ。さあ、今日もこれから頑張るぞ」
「あまり無理をしないで下さい」
「分かっているよ」
「本当に分かっています?」
「うん、昴が僕を気遣ってくれているのはよくわかっているよ」
「……やっぱり分かっていませんね」
「どういう意味だい?」
「私が何故ここまで献身的にしているとお思いですの?」
「え?」
昴に言われて忠弥はその意味を理解できなかった。
昴は溜息を吐いて、屈辱を、女から理由を言うという不本意な行動をとった。
「初めて会ったときの事を覚えていますか?」
「ええ、自動車を修理しました」
「その時私が何を行ったか覚えていますか?」
「修理できたら何でも言う事を聞くと」
「どういう意味か分かりますか?」
「言う事を聞くという意味でしょう」
昴は再び溜息を吐いた。
「字面通りの意味では、本当の意味があります」
「どういう事です?」
「私の身も心も好きにして良い」
「……え?」
昴の言葉を聞いて忠弥は驚いた。
「まあ、何でもの中には結婚を申し込まれても受けなければなりませんから。そういう答えも私は覚悟していました」
「……いや、そんな事出来ませんよ。それに僕の願いは飛行機を飛ばすために支援して欲しい、そのためにお父さんと会わせてという意味だったんで」
「ええ、そうでしょう。ですが私は貴方が御父様に結婚を申し込むと思いました。そういう意味かと思いましたから」
「……なんか勘違いをしてごめんなさい」
忠弥は戸惑いつつ頭を下げた。
「構いませんわ。あなたがそういう人だという事は最近分かりましたから。私の勘違いや思い込みもありますから、咎めませんわ」
「ありがとうございます。それと重ねてごめんなさい」
「謝らなくて結構です。でももう人に誤解を与えるような言動は避けて下さい」
「分かりました。あ、すいません! 撮影班の方、フィルムを直ぐに持ってきて下さい。飛行中の様子を確認したいので」
「本当に聞いていました?」
昴は文句を言うが忠弥は聞いていなかった。
半ば昴の言葉の意味を忘れるために作業に戻っていった。
この分だとまた夜遅くまで映画カメラで撮影された自分が試作機で飛んでいる様子を見るのだろう。
潤沢な資金を元に、映画撮影用の機材を買ったときは自分の姿を撮るのが好きな趣味人かナルシストだと昴は思った。
だが実際は、飛行姿勢を後から確認する為の撮影だった。
そのために開発されたばかりで高価なカメラとフィルムを大量に購入し、日中に飛行するとき多数の方向から撮影して、夜に上映して姿勢を確認し問題点を洗い出し改良するのが忠弥のスケジュールになった。
その姿を見た人々は忠弥の熱意に徐々に賛同するようになった。
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