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滑空試験
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昴に発破を掛けられた忠弥は以前よりもパワーアップして飛行機製作へのめり込んだ。
徹夜して身体を壊すか心配だったが、昴の夜食が出てくると顔面蒼白となり眠いと言って布団に潜り込むため、睡眠は確保されていた。
と言っても寝ている野は自宅では無く格納庫の脇に作られた仮眠室だ。しかも忠弥が製作以外の時は設計や計算のために占拠しており事実上、忠弥専用の個室いや自室になっていた。
製作に関わる技術者の数が増え、作業を自ら行わない時間が増えると、自室に籠もる時間が増えた。
しかし、試作一号機が出来てからは自室に籠もる時間が減った。
「よし、バランスは取れているな」
忠弥は目の前の操縦桿を握る力を弱めた。
飛行機は地面に接した状態では無く空中に浮かぶ物体だ。
建物なら地面に強固な基礎を作り固定する。
だが空中に地面が無いため、機体のバランスを良くしておかないと安定せず、突風も無いのに回転してしまい墜落の原因になってしまう。
そうならないよう設計を綿密に行う必要がある。
具体的には揚力の中心となる揚心が自重の中心となる重心より上に来れば良い。
ボールを吊り上げるとき手で糸を引っ張れば、ボールの重さで手の下に位置するのと同じだ。
逆に揚心が重心より下の場合は、二つの点が許容範囲にあればよいが、もし超えてしまうと浮き上がる揚力が機体を回転させる力になってしまって飛行機を一瞬にして逆さまにしてしまう。
そのため、重量の配分と揚力が何処に発生するか綿密に計算する必要があった。
しかし、それも机上の空論であり、本当に正しいかどうかは実際に飛ばしてみないと分からない。
なので忠弥は自ら出来た試作一号機に乗り込んで空を飛んだ。
エンジンが完成していないため、機体をロープに結んで強風下の中、凧のように飛んでいるだけだが、機体の安定性を確認するのには最適だった。
設計が間違っている場合は最悪墜落して死ぬが、忠弥は気にしていなかった。
空を飛ぶこと以外、何も興味を持っていなかったからだ。
自分の夢である有人動力飛行のために唯ひたすら前に進むだけだった。
「気流は安定、機体のバランスは十分だ」
操縦桿を少し離してみたが、機体は水平を保っている。
少し風が乱れても直ぐに水平に戻ろうとする。バランスの良い証拠であり、設計が間違っていなかった証明だ。
忠弥は操縦桿を握り上下左右に動かす。
操縦桿に反応して機体は上下左右に傾く。
次は少し大きめに揺らして機体の傾きが前より大きくなるか確かめる。
いずれも異常なし、操縦性能も良い。
今度は足下のペダルを左右に踏む。
ペダルに合わせて機首が左右に動く。
「いいぞ、この機体は」
忠弥は試作機の出来に満足した。
「壊さないように機体を持ち帰って下さい」
地上に降りた忠弥は、飛行機製作で雇った人足に機体を持たせて格納庫に運ばせる。
本当なら車輪を付けたいところだが、重量軽減と負荷分散のためソリで離着陸をしている。
本番ではカタパルトを使った発進になる。
「忠弥お疲れ様です」
一段落した時、忠弥の元に駆け寄ってきたのは昴だった。
あの夜以来、昴は朝夕を問わず忠弥の側にいて献身的にサポートしている。
夜食は絶句するようなものだったが、元々創業者の娘であり、父親を見て育ったため人の上に立つ帝王学を幼いながら学んでおり、人を使うことに長けていた。
食事やお世話をする人を雇い、忠弥に食事や寝床、炊事洗濯などの日常生活をサポートしていた。
そのため忠弥は飛行機製作に全力を注いでいた。
小学校の出席日数が不味かったが、忠弥にとって飛行機製作の前には些細なことだ。
小学校中退も珍しくない世の中なので学歴を気にする必要も無かった。
「今日はハイランドの紅茶が手に入りましたので入れてみました」
「ありがとう」
地上から十数メートルほどしか上昇しないが、風が吹き寄せる中、操縦するため身体が冷えやすい。風力が一メートル増す毎に体感温度は一度下がるので長時間飛んでいると寒さを感じる。
そのため地上で出される温かいお茶は芯まで冷え切った身体には有り難い。
「しかし今日も飛ばしすぎなのでは?」
「まだまだだよ」
「朝から一時間前後の滑空を何度も行っていますわ。やり過ぎでは」
試作機が出来てから忠弥は飛行テストと称して何度も飛ばしている。
「この機体が出来た日から何日も行っているのですよ」
そして飛行テストは機体が完成してから連日行っている。
流石に最初の飛行テストは短時間で済ませたが、機体の安定性を確認すると徐々にひこうじかんを伸ばして行き、最近は体調や疲労を考慮して一時間の飛行を休憩を挟みつつ行っている。
「そんなに飛ぶことが必要ですか?」
「うん、ぶっつけ本番で飛ばしても失敗するだけだから。出来る限り飛ばして飛行時間を重ねておきたい」
忠弥が飛行時間にこだわるのは、リリエンタールとライト兄弟の故事に習ったものだ。
グライダーの分野で先駆者となったリリエンタールだが、滑空回数が一〇〇〇回以上にもかかわらず一回の滑空距離は最長で二五〇メートル程。総飛行時間は五時間程度とみられている。
これでは飛行機の操縦を習得するには十分とは言えない。実際、リリエンタールは滑空中の事故が原因で死亡している。
一方ライト兄弟は、動力飛行の前に凧のように機体を浮かせて何度も空中でバランスをとり、操縦をマスターして動力飛行に望んでいた。
搭乗しての滑空試験も一月に一〇〇〇回以上行う念の入れようだった。
だからライト兄弟は成功したのだと忠弥は考えており、自分もそれに習おうとして、連日自ら飛んで飛行性能と自らの経験値を上げていった。
「力が入りますね」
「うん、世界初の有人動力飛行を実現させるためにね」
「まだ諦めていませんの?」
意表を突かれた昴は驚いて尋ねる。
「新大陸で既に有人動力飛行は成功していますのに」
忠弥がショックで無気力になったのは新大陸で有人動力飛行が成功したというニュースを聞いたからだ。
「お忘れですか」
「いいや、キチンと覚えているよ。その程度で落ち込むなんてどうかしていたよ」
「どういう事ですか?」
「新大陸の有人動力飛行は有人動力飛行じゃ無い」
徹夜して身体を壊すか心配だったが、昴の夜食が出てくると顔面蒼白となり眠いと言って布団に潜り込むため、睡眠は確保されていた。
と言っても寝ている野は自宅では無く格納庫の脇に作られた仮眠室だ。しかも忠弥が製作以外の時は設計や計算のために占拠しており事実上、忠弥専用の個室いや自室になっていた。
製作に関わる技術者の数が増え、作業を自ら行わない時間が増えると、自室に籠もる時間が増えた。
しかし、試作一号機が出来てからは自室に籠もる時間が減った。
「よし、バランスは取れているな」
忠弥は目の前の操縦桿を握る力を弱めた。
飛行機は地面に接した状態では無く空中に浮かぶ物体だ。
建物なら地面に強固な基礎を作り固定する。
だが空中に地面が無いため、機体のバランスを良くしておかないと安定せず、突風も無いのに回転してしまい墜落の原因になってしまう。
そうならないよう設計を綿密に行う必要がある。
具体的には揚力の中心となる揚心が自重の中心となる重心より上に来れば良い。
ボールを吊り上げるとき手で糸を引っ張れば、ボールの重さで手の下に位置するのと同じだ。
逆に揚心が重心より下の場合は、二つの点が許容範囲にあればよいが、もし超えてしまうと浮き上がる揚力が機体を回転させる力になってしまって飛行機を一瞬にして逆さまにしてしまう。
そのため、重量の配分と揚力が何処に発生するか綿密に計算する必要があった。
しかし、それも机上の空論であり、本当に正しいかどうかは実際に飛ばしてみないと分からない。
なので忠弥は自ら出来た試作一号機に乗り込んで空を飛んだ。
エンジンが完成していないため、機体をロープに結んで強風下の中、凧のように飛んでいるだけだが、機体の安定性を確認するのには最適だった。
設計が間違っている場合は最悪墜落して死ぬが、忠弥は気にしていなかった。
空を飛ぶこと以外、何も興味を持っていなかったからだ。
自分の夢である有人動力飛行のために唯ひたすら前に進むだけだった。
「気流は安定、機体のバランスは十分だ」
操縦桿を少し離してみたが、機体は水平を保っている。
少し風が乱れても直ぐに水平に戻ろうとする。バランスの良い証拠であり、設計が間違っていなかった証明だ。
忠弥は操縦桿を握り上下左右に動かす。
操縦桿に反応して機体は上下左右に傾く。
次は少し大きめに揺らして機体の傾きが前より大きくなるか確かめる。
いずれも異常なし、操縦性能も良い。
今度は足下のペダルを左右に踏む。
ペダルに合わせて機首が左右に動く。
「いいぞ、この機体は」
忠弥は試作機の出来に満足した。
「壊さないように機体を持ち帰って下さい」
地上に降りた忠弥は、飛行機製作で雇った人足に機体を持たせて格納庫に運ばせる。
本当なら車輪を付けたいところだが、重量軽減と負荷分散のためソリで離着陸をしている。
本番ではカタパルトを使った発進になる。
「忠弥お疲れ様です」
一段落した時、忠弥の元に駆け寄ってきたのは昴だった。
あの夜以来、昴は朝夕を問わず忠弥の側にいて献身的にサポートしている。
夜食は絶句するようなものだったが、元々創業者の娘であり、父親を見て育ったため人の上に立つ帝王学を幼いながら学んでおり、人を使うことに長けていた。
食事やお世話をする人を雇い、忠弥に食事や寝床、炊事洗濯などの日常生活をサポートしていた。
そのため忠弥は飛行機製作に全力を注いでいた。
小学校の出席日数が不味かったが、忠弥にとって飛行機製作の前には些細なことだ。
小学校中退も珍しくない世の中なので学歴を気にする必要も無かった。
「今日はハイランドの紅茶が手に入りましたので入れてみました」
「ありがとう」
地上から十数メートルほどしか上昇しないが、風が吹き寄せる中、操縦するため身体が冷えやすい。風力が一メートル増す毎に体感温度は一度下がるので長時間飛んでいると寒さを感じる。
そのため地上で出される温かいお茶は芯まで冷え切った身体には有り難い。
「しかし今日も飛ばしすぎなのでは?」
「まだまだだよ」
「朝から一時間前後の滑空を何度も行っていますわ。やり過ぎでは」
試作機が出来てから忠弥は飛行テストと称して何度も飛ばしている。
「この機体が出来た日から何日も行っているのですよ」
そして飛行テストは機体が完成してから連日行っている。
流石に最初の飛行テストは短時間で済ませたが、機体の安定性を確認すると徐々にひこうじかんを伸ばして行き、最近は体調や疲労を考慮して一時間の飛行を休憩を挟みつつ行っている。
「そんなに飛ぶことが必要ですか?」
「うん、ぶっつけ本番で飛ばしても失敗するだけだから。出来る限り飛ばして飛行時間を重ねておきたい」
忠弥が飛行時間にこだわるのは、リリエンタールとライト兄弟の故事に習ったものだ。
グライダーの分野で先駆者となったリリエンタールだが、滑空回数が一〇〇〇回以上にもかかわらず一回の滑空距離は最長で二五〇メートル程。総飛行時間は五時間程度とみられている。
これでは飛行機の操縦を習得するには十分とは言えない。実際、リリエンタールは滑空中の事故が原因で死亡している。
一方ライト兄弟は、動力飛行の前に凧のように機体を浮かせて何度も空中でバランスをとり、操縦をマスターして動力飛行に望んでいた。
搭乗しての滑空試験も一月に一〇〇〇回以上行う念の入れようだった。
だからライト兄弟は成功したのだと忠弥は考えており、自分もそれに習おうとして、連日自ら飛んで飛行性能と自らの経験値を上げていった。
「力が入りますね」
「うん、世界初の有人動力飛行を実現させるためにね」
「まだ諦めていませんの?」
意表を突かれた昴は驚いて尋ねる。
「新大陸で既に有人動力飛行は成功していますのに」
忠弥がショックで無気力になったのは新大陸で有人動力飛行が成功したというニュースを聞いたからだ。
「お忘れですか」
「いいや、キチンと覚えているよ。その程度で落ち込むなんてどうかしていたよ」
「どういう事ですか?」
「新大陸の有人動力飛行は有人動力飛行じゃ無い」
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