26 / 163
スクーター
しおりを挟む
「予算が足りませんか?」
「ああ、足りないね」
忠弥が確認するように尋ねると、義彦は大きく頷きながら答えた。
原付二輪の販売で収入が増えている島津産業だが、飛行機を生産するにはさらなる規模の拡大が必要だった。
生産工場の拡大、機械の新規購A入、滑走路の整地と整備。各地に飛行機を飛ばすとなると飛行場を建設する必要が出てくる。
それだけの費用を自動二輪の販売だけで賄うのは無理だった。
「普及型や販売用の飛行機でなんとかなりませんか?」
「注文は入っているが、原価を補うだけだ」
できるだけ早く飛行機が普及して欲しいので、販売用と普及型は低価格に抑えている。
物好きな金持ちには結構な金をふっかけようと思ったが、飛行機の宣伝を考えると数を売りたいので安価に設定している。
そのため利益が出ない。
投資を呼びかけているが海の物とも山の物ともしれない飛行機に投資してくる人はまだ少ない。
「だから、そろそろ新商品を作らないとダメだ」
忠弥の初飛行の偉業を見て興奮した各地の富豪が飛行場の建設に手を上げているが、自らの収入も確保して毎年一定額の研究資金を提供し続け研究を継続させたい義彦だった。
一時的な興奮で金を出すと言っていても、原付二輪のように常に一定の収入が入ってくるわけでは無いし、自由に使える資金でも無い。
島津産業の独立性、引いては飛行機製作が自由に出来るように、島津産業の収入アップを図りたかった。
「飛行機生産には金が掛かりますからね」
忠弥は義彦の意見に納得していた。
飛行機は小型機でも格納庫で自動車三台分以上のスペースが必要だし、生産となると更に大きな工場が必要だし資金も掛かる。
今でも原付二輪の工場の隣の格納庫で製作を行っているが、毎日数百台の原付二輪を作る工場と数機の飛行機を組み立てる工場の大きさが同じという有様だ。
かつて日本にあった中島飛行機は創業期に出資して貰った川西から採算が合わないから工場を買い取れと迫られ、資金繰りに奔走したという。
この時は新たな資金源を見つけて中島は工場を買い取り、一大飛行機会社への道を進んでいくという。因みにこの一件を川西は人生最大の痛恨事と終生嘆いたそうだ。
飛行機作りには資金が必要であり、それを得るための新商品。
飛行機より小さい規模で大々的に生産できて人々が買ってくれるものが必要だった。
「ではスクーターを作りましょう」
「スクーター?」
耳慣れない言葉に義彦は頭をもたげた。
「簡単に言うと原付二輪を更に発展させたものです」
忠弥は自室から設計図を持ってきて説明した。
「コンセプトは誰にでも使えるバイクです。バイクはクラッチ操作やレバーの操作が難しいですよね」
「ああそうだ」
自転車のようにバランスを取りながらギアを入れてクラッチを繋げるのは難しい。
特に発進時など、不安定な低速時に様々な操作をしつつ加速させるという曲芸のような状態となる。
「それを一切省きます。簡単に言うとスロットルを捻って開くだけで加速するバイクを作ります」
「まさか!」
忠弥の言葉に義彦は驚いた。
内燃機関の多くにクラッチが付いているのは、駆動軸との回転数の相違を吸収させるためだ。
自動車のエンジンは最大で八〇〇〇から一万回転、アイドリングの状態でも六〇〇から八〇〇回転だ。そして車は時速百キロ以上から停止状態まで速度が変化する。
当然エンジンの回転数と駆動輪の間に差があるのでギアを噛ませる。そして最適なギアは速度域によって違う
例えばタイヤの円周が一メートルとして時速一二〇キロの時は駆動輪は二〇〇〇回転し、時速六〇キロの時は一〇〇〇回転。
エンジンの最適な回転数が一五〇〇とすると走行速度におけるタイヤの回転数に合わせてギアを変える必要が出てくる。
エンジンが駆動軸に接続されている時にギアを変えるのは不可能に近い。
そこでクラッチをエンジンと駆動輪の間に付けて、一度エンジンから駆動輪を離してギアを変える。それがクラッチの役目だ。
クラッチを付けることで低速域で使うロー、中速域のセカンド、サード、最速域のトップに分けてそれぞれの速度で最適なギアを、クラッチで一度エンジンと駆動軸の接続を離してからギアを選択して走らせる。
その操作は練習による熟練が必要になるため、特に二輪という不安定な状態で行うバイク人口増加のネック、産業規模拡大の障害になっていた。
原付二輪は低速で走らせる上、エンジン自体が小さく、クランクの回転をゴムのタイヤに伝えそれを自転車のタイヤに押し付けて動かし、不要な時はエンジン自体を動かしてタイヤから離すことでクラッチの代わりにしていた。
それでも手間は掛かるがシフト操作がない分バイクより簡単だ。
だが、その構造故に原付二輪は、パワーアップができずにいた。
特に配達業の人々からは重い荷物を運ぶとき、もっとパワーが欲しいと要望されており、さらなる出力増加を求められていた。
だが、エンジンを大型化してもギアが無いため、エンジンの出力と回転数に対してタイヤの回転が合わず、思うような成果が出ていない。
しかし忠弥の言うスクーターはそれを全て解決するという夢のような機械だ。
「ああ、足りないね」
忠弥が確認するように尋ねると、義彦は大きく頷きながら答えた。
原付二輪の販売で収入が増えている島津産業だが、飛行機を生産するにはさらなる規模の拡大が必要だった。
生産工場の拡大、機械の新規購A入、滑走路の整地と整備。各地に飛行機を飛ばすとなると飛行場を建設する必要が出てくる。
それだけの費用を自動二輪の販売だけで賄うのは無理だった。
「普及型や販売用の飛行機でなんとかなりませんか?」
「注文は入っているが、原価を補うだけだ」
できるだけ早く飛行機が普及して欲しいので、販売用と普及型は低価格に抑えている。
物好きな金持ちには結構な金をふっかけようと思ったが、飛行機の宣伝を考えると数を売りたいので安価に設定している。
そのため利益が出ない。
投資を呼びかけているが海の物とも山の物ともしれない飛行機に投資してくる人はまだ少ない。
「だから、そろそろ新商品を作らないとダメだ」
忠弥の初飛行の偉業を見て興奮した各地の富豪が飛行場の建設に手を上げているが、自らの収入も確保して毎年一定額の研究資金を提供し続け研究を継続させたい義彦だった。
一時的な興奮で金を出すと言っていても、原付二輪のように常に一定の収入が入ってくるわけでは無いし、自由に使える資金でも無い。
島津産業の独立性、引いては飛行機製作が自由に出来るように、島津産業の収入アップを図りたかった。
「飛行機生産には金が掛かりますからね」
忠弥は義彦の意見に納得していた。
飛行機は小型機でも格納庫で自動車三台分以上のスペースが必要だし、生産となると更に大きな工場が必要だし資金も掛かる。
今でも原付二輪の工場の隣の格納庫で製作を行っているが、毎日数百台の原付二輪を作る工場と数機の飛行機を組み立てる工場の大きさが同じという有様だ。
かつて日本にあった中島飛行機は創業期に出資して貰った川西から採算が合わないから工場を買い取れと迫られ、資金繰りに奔走したという。
この時は新たな資金源を見つけて中島は工場を買い取り、一大飛行機会社への道を進んでいくという。因みにこの一件を川西は人生最大の痛恨事と終生嘆いたそうだ。
飛行機作りには資金が必要であり、それを得るための新商品。
飛行機より小さい規模で大々的に生産できて人々が買ってくれるものが必要だった。
「ではスクーターを作りましょう」
「スクーター?」
耳慣れない言葉に義彦は頭をもたげた。
「簡単に言うと原付二輪を更に発展させたものです」
忠弥は自室から設計図を持ってきて説明した。
「コンセプトは誰にでも使えるバイクです。バイクはクラッチ操作やレバーの操作が難しいですよね」
「ああそうだ」
自転車のようにバランスを取りながらギアを入れてクラッチを繋げるのは難しい。
特に発進時など、不安定な低速時に様々な操作をしつつ加速させるという曲芸のような状態となる。
「それを一切省きます。簡単に言うとスロットルを捻って開くだけで加速するバイクを作ります」
「まさか!」
忠弥の言葉に義彦は驚いた。
内燃機関の多くにクラッチが付いているのは、駆動軸との回転数の相違を吸収させるためだ。
自動車のエンジンは最大で八〇〇〇から一万回転、アイドリングの状態でも六〇〇から八〇〇回転だ。そして車は時速百キロ以上から停止状態まで速度が変化する。
当然エンジンの回転数と駆動輪の間に差があるのでギアを噛ませる。そして最適なギアは速度域によって違う
例えばタイヤの円周が一メートルとして時速一二〇キロの時は駆動輪は二〇〇〇回転し、時速六〇キロの時は一〇〇〇回転。
エンジンの最適な回転数が一五〇〇とすると走行速度におけるタイヤの回転数に合わせてギアを変える必要が出てくる。
エンジンが駆動軸に接続されている時にギアを変えるのは不可能に近い。
そこでクラッチをエンジンと駆動輪の間に付けて、一度エンジンから駆動輪を離してギアを変える。それがクラッチの役目だ。
クラッチを付けることで低速域で使うロー、中速域のセカンド、サード、最速域のトップに分けてそれぞれの速度で最適なギアを、クラッチで一度エンジンと駆動軸の接続を離してからギアを選択して走らせる。
その操作は練習による熟練が必要になるため、特に二輪という不安定な状態で行うバイク人口増加のネック、産業規模拡大の障害になっていた。
原付二輪は低速で走らせる上、エンジン自体が小さく、クランクの回転をゴムのタイヤに伝えそれを自転車のタイヤに押し付けて動かし、不要な時はエンジン自体を動かしてタイヤから離すことでクラッチの代わりにしていた。
それでも手間は掛かるがシフト操作がない分バイクより簡単だ。
だが、その構造故に原付二輪は、パワーアップができずにいた。
特に配達業の人々からは重い荷物を運ぶとき、もっとパワーが欲しいと要望されており、さらなる出力増加を求められていた。
だが、エンジンを大型化してもギアが無いため、エンジンの出力と回転数に対してタイヤの回転が合わず、思うような成果が出ていない。
しかし忠弥の言うスクーターはそれを全て解決するという夢のような機械だ。
0
あなたにおすすめの小説
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる