新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
62 / 163

昴の迷い

しおりを挟む
「ふうっ」

 一人になった昴は誰も居ないことを確認するとため息を吐いた。
 しかし、気分は晴れず、顔は曇ったままだった。

「どうしましたの昴さん」
「ね、寧音」

 そこへ寧音がやってきた。逃げようとした昴を捕まえて話しかけた。

「先ほどの会議ですが」
「ええ、皆心配していますね。当然です、失敗するかもしれませんから」
「でしょうね。ですが一番恐れているのは昴さん、貴方では?」
「なっ!」

 寧音に言われて昴はうろたえた。

「け、決してそのようなことは」
「なら、どうして今の貴方はそんなに気弱なのです」
「そ、そんなこと」
「そうですか? 何時もの貴方なら、あんな空気を吹き飛ばして仕舞う方でしたが」

 良くも悪くも空気を読まず強引に進んでいく昴だ。
 学校でもクラスの出し物で主役を演じようと立候補したが、投票で寧音に決まっても一歩も退かず、自分が主役に相応しいと延々一時間演説を行った。
 結局、決定は覆らず、見る目のない人間ばかりだと昴は大いに嘆いた。
 だが、大勢が否定しても決して退かず自説を述べる姿は寧音の印象に残った。
 それが口先だけでないことも寧音は知っている。
 遠足の時、予定地よりも遠い山を素敵だからという理由で一人で登りはじめ山頂に登り上がってしまったくらい行動力がある。
 忠弥の飛行機製作を手伝っているのも忠弥の夢が途方もなく大きく、自分も大空へ高く飛べると思ったからだ。

「なのにどうして進め何のですか?」

 静かにだが逃がさない口調で寧音は尋ねる。

「……怖いのよ。大洋横断で忠弥が居なくなってしまうのではないか、事故を起こして帰ってこないのではないか、と」

 長距離飛行は何度も行っているが、何時も成功しているわけではなかった。
 地上でエンジンの試験中、突然エンジンが過熱して煙を上げたり爆発したことは何度もあった。
 事故を起こさないよう予め調べておくのが目的だった。
 だが、長距離飛行に向けた三角飛行の時、飛行中、突然エンジンが事故を起こした時、昴の目の前で黒煙を吹いて炎を上げた時は恐怖を感じた。
 その時は、忠弥が冷静に燃料コックを閉鎖して火災を消火して滑空し、無事に滑走路に着陸した。
 忠弥に怪我はなかったが、昴の心は恐怖で満たされた。
 皇国縦断飛行の時は陸地沿いなので少しは安全だった。しかし、積乱雲に遭遇し一度針路を逸らして見失った時は恐ろしかった。
 その時は無事に戻ってきたので、着陸した時は心底ほっとした。
 だが、次は陸地のない大洋横断。
 海軍の艦艇が洋上に待機するが、確実ではない。
 だから最近は忠弥が事故を起こし、消えていなくなってしまうのではないか、と怖くなっていた。

「忠弥さんが大切なのですね」
「ええ、そうよ。貴方には分からないでしょうけど」
「そうですね。どうして大切なのですか?」
「私を未知の世界に、大空に飛び上がらせてくれたからよ」

 片田舎の家に生まれながらも大空に憧れ続けた同い年の少年。
 それまでなら夢物語と衣装に付されたことを、少年は自分は出来ると信じて諦めなかった。
 そんな時出会った昴に、忠弥は猛アタックした。
 目当ては自動車とそのエンジン、そして製作手段で昴などそれをたぐり寄せるきっかけでしかなかった。
 これまで島津の財産目当てに近づいてきた人物はいたが、エンジン目当てに近づいてきたのは忠弥が初めてで、袖にされた事も軽くショッキングだった。
 そして忠弥の描く馬鹿馬鹿しくも、壮大な夢に圧倒された。
 次々と着実に夢に向かって地歩を固め、出会ってから半年で飛行に成功した。
 夢物語だった飛行を成功させ、人々の意識を大きく変えてしまった。
 何より空を飛んだのを見た時、昴の世界が大きく変わった。
 何処までも高く飛び遠くへ行けると思った。
 その後、自分も飛ばしてもらい、忠弥が自分を何処までも飛ばしてくれると信じた。
 だから初飛行以来、昴は忠弥の事から目が離せなくなり、大切な人となった。
 そして失うのが怖くなった。

「大洋横断が大切なのは分かっているし、忠弥がやりたいことも知っている。そんな忠弥を支えたいと思ってきたわ。だから止めることは出来ない。だけど忠弥を失うのが怖いのよ」

 そしてさみしげに昴は寧音に言う。

「馬鹿げているでしょう。こんなにも大事に思っているのに止めようとするなんて」
「分かりますわ」
「え?」

 寧音の一言に昴は衝撃を受けた。

「私も同じ気持ちです。皇都の一角で忠弥さんが飛んだあの日から忠弥さんを目で追っていました。貴方と同じように私も大空へ忠弥さんが導いてくれると思いました。そしてそんな忠弥さんが事故を起こしていなくなってしまうのではないかと心配しています」
「だったら」
「でも、今の昴さんは、昴さんらしくありません」
「どういうことよ」
「普段の貴方なら。何時も毅然としています。良くも悪くも、自分の気持ちに正直です」
「弱音を吐けって言うの」
「そうです。思いっきりに真正面に自分の気持ちをぶつけなさい。それが島津昴でしょう」

 寧音の言葉に昴は圧倒された。

「……貴方らしくないから、弱音を叩き付けてこいって、酷い言い草ね」
「でも、それが昴さんでしょう」
「そうね。私は島津昴、夜空に輝く星の名前を持つ少女だもの。弱音だって輝かせてみせるわ」

 決意すると、逸れも出の気弱さが嘘のように消えていた。

「それじゃあ、私は忠弥の元に行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」

 歩いて行く昴を寧音は見送った。

「本当は私が言いたいのですが、その役ではありませんね」

 そして、昴が消えるとさみしげに寧音は言った。
 自分の気質ではないしこれまでの関係性からも忠弥の力には慣れないと寧音は知っていた。
 だから一番力になれる昴に発破を掛けて計画が進むようにした。

「でも、負けませんからね。昴さん」

 いつか昴に変わり自分が忠弥の横に立てるようにしよう、と寧音は決意した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...