新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

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調査委員会

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「……ものすごい危機なのでは」

 義彦の言葉で皇主直属の枢密院が行う調査委員会の重みを再認識した忠弥は恐怖で震えた。

「くれぐれも失礼の無いように。調査委員会には皇族も参加している」

 義彦の説明にさすがの忠弥も白目をむき始めた。

「忠弥、何を躊躇う必要があるのですか」

 気絶しそうになる忠弥に昴は話しかける。

「皇族がなんですか。貴方は空を飛ぶのが夢でしょう。何千年も歴史がありながら空を飛べなかった連中に何を恐れる必要があるのですか」
「そうですね。空が飛べることの素晴らしさを力説すればきっと理解してくれるでしょう」
「くれぐれも失礼の無いようにな」

 変な方向に盛り上がる二人を義彦は落ち着かせようとした。
 さすがに皇国の最高権威に楯突いたとされたら島津はお終いだ。
 意見を言うことさえ畏れ多いとされているので反論さえ不敬とされかねない。

「空を飛ぶ素晴らしさをお伝えすれば必ず理解して貰えます」
「人の話を聞いているかい」

 忠弥のストッパー役をしていた義彦だが、忠弥の性格を思い出し、止めても無駄だと悟った。

「……まあ、忠弥の夢を阻む人間なんていないだろうね」

 初めて忠弥と出会った時を義彦は思い出した。
 片田舎の鍛冶屋の息子が突然、娘の車を修理して屋敷に入ってきて空を飛びたいという夢を語った。
 荒唐無稽な話だったが、何故かリアリティがあり実現できると確信し、心が熱くなった。
 内燃機関への知識だけでも利用出来れば十分、空を飛ぶのはついでだと思って許した。
 しかし、すぐさま結果を、原付バイクを生み出し島津は躍進の機会を得た。
 人も技術も集まってくる様を見て何時しか自分も忠弥の夢を一緒に追いかけていた。
 出会ってから僅か半年ほどで人類初の有人動力飛行を成功させて仕舞った。
 そしてかつては、二年ほど前までは夢物語だった大洋横断を成功させた。
 勿論多くの敵も現れたが忠弥の夢の前に何時しか取り込まれ一緒に走ってしまっている。
 今回も同じような事になる、と義彦は思った。

「出席すると先方には伝えておく」
「よろしくお願いします!」

 忠弥は意気込んで答えた。

「忠弥、調査委員会の事は聞きましたか」

 義彦と入れ違いに寧音が入ってきた。

「ええ、出席します」
「ダメです! 代理人を立てると言ってください。優秀な岩菱の弁護士が貴方の言い分を伝えてくれます」
「自分の夢は自分の口で語らないと」
「そのために雑事に時間を取る必要はありません」

 珍しく寧音が慌てた様子で言う。

「新しい飛行機を作るためにそんな事に時間を使わないでください」
「でも、今は懐疑的な人でも説得すれば飛行機製作を支援してくれるかもしれませんし」
「私たちの支援で十分ではないのですか」
「手助けしてくれる人は多いほど良いですよ」
「そ、そうですけど」
「それにもう、先方には出席すると答えましたし」
「そ、そんな……」

 寧音は床に崩れ落ちた。

「あの、大丈夫ですか?」

 突然のことに忠弥は寧音を気遣う。

「一寸した立ちくらみでしょう。しかし大丈夫です。わたくしが看病しますから忠弥は明日の準備を」
「う、うん、昴、寧音を頼むよ」

 そう言って昴に任せて忠弥はその場を離れた。
 そして忠弥が去ると昴は看病もせず見下して高笑いをする。

「ほほほ、忠弥の夢を信じ切れないようですね」

 寧音の姿を見て昴は笑みを浮かべ優越感に浸る。
 だがそれも僅かな間だけだった。
 寧音の腕が昴に伸びて行き昴の肩に指を食い込ませた。

「痛っ、何をする、ひっ」

 激痛で抗議しようとする昴だったが、鬼気迫る寧音の表情に悲鳴を上げて仕舞った。
 反射的に逃げようとしたが、がっしりと指を肩に食い込ませた寧音から逃げられなかった。

「昴さん、今、私たちの学校でなにが起きているか知っていますか? 何が起きたかしっていますか」
「い、いいえ……」
「……そうでしたね。貴方は学校を欠席していらっしゃるのでしたわね」

 忠弥の側に居ることの多い昴はここ最近、学校を欠席していた。

「仕方ありませんね。無知の力で進んでいるのが昴さんの強さですが、ですが何も知らないと言うことが、説きに罪である事を覚えておきなさい」
「どういう意味よ!」

 そのまま二人はその場で喧嘩になり、夜遅くまで言い合った。



 翌日、昭弥は指定された時刻に枢密院の置かれている宮城に向かった。
 近衛兵の守る南の太田門を通り過ぎ、近くにある枢密院の庁舎へ。
「国会議事堂みたいだな」
「国会議事堂を作る前の習作として設計施工されたから似ている」

 建物を眺めていた忠弥に義彦が伝えた。

「いよいよですね」

 車から降りて建物の中に入る忠弥は気合いを入れる。

「ここに来て、伝えるのもなんだが、注意するように」
「どうしたんですか?」
「今回の調査委員会の委員長は皇族が務めることになった」
「そんな事があるのですか?」
「皇族は枢密院の顧問官に自動的になれるからおかしくはない。だが、政争に巻き込まれるのを良しとしないため、傍聴はあっても出席することも希だ。今回は特例で就任しているようだ。だから気をつけろ」
「はい」

 忠弥は、調査会が行われる部屋に入った。
 予想より小さく教室程度の広さだ。だが、所々の装飾は凝っており、格式の高い部屋だと言うことは分かる。

「調査会を開会する。調査委員長が御入室する、総員礼!」

 室内の全員が一斉に頭を下げ忠弥もそれにしたがった。兎に角失礼の無いように、特に初対面での第一印象は大事なので、許可があるまで頭は下げるようにと義彦に言われていた。
 やがて複数の人々が入ってくる気配がして忠弥達の前に行く。

「其方が調査対象者、二宮忠弥か」
「はい」

 想像していたような格式張った声どころか、全く違う鈴の音のような声に戸惑いながらも、忠弥は答えた。

「面を上げよ」
「はい」

 言われるがまま、顔を上げるとそこには白銀の長い髪を持つ少女が座っていて、忠弥を驚かせた。
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