新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
97 / 163

空軍建設の意義

しおりを挟む
「お疲れ様です忠弥」

 司令部から出てきた忠弥を昴は迎えた。

「凄いですね。新たな軍を作って陸軍から離れていくなんて」
「予め社長に提案書を渡しておいた甲斐があったよ」

 予想外の方法で神木大将の元から離れた事に喜ぶ昴に忠弥は静かに言った。
 元々、航空産業の事を考えて空軍建設を考えていた。
 頭の固い陸軍上層部だと飛行機の発注は少ないだろう。
 彼らが思い浮かべるのは陸上の戦闘であり歩兵や砲兵が中心。航空機は便利だろうが、歩兵の補助程度にしか考えないだろう。
 そのため制空権という概念さえ理解できず、戦争でも有効活用する事は無い。
 戦略爆撃、戦略輸送、空挺降下など理解の範疇外であり、実現することはなく、選択肢に気がつかないまま時は過ぎゆき、帝国の戦力は弱体化したままとなる。
 そして飛行機の評価は低く大量生産される事は無い。
 これは航空産業に未来を見ている島津と岩菱にとって都合が悪い。
 民間航空へ投資してを盛んに航空産業を盛り上げようとしているが、どうしても需要が不十分だ。
 需要が足りないなら増やす。
 民間がダメなら軍に軍用機を購入してもらい、その金で設備投資をおこなう。
 需要が少なく規模が小さい産業勃興期には必要な事である。
 平和利用したくても投入される資金が少ないので、国そして軍の航空機購入は不可欠だ。
 だが、陸上部隊中心の陸軍、軍艦中心の海軍では航空機の購入は少数に終わり、金が入ってこない。
 金がなければ、まとまった数の受注がなければ研究も航空機生産能力も向上せず、航空機の発展は遅れてしまう。
 だが航空機を中心とした空軍ならば、航空機が主要な装備であり戦力となる軍隊ならば、大量の飛行機を発注してきてくれる。
 忠弥のアイディアを聞いた義彦と豊久は考えており、国政第一党と皇国一の財閥の立場を利用して政府に空軍創設案をねじ込み、実現に向けて動いていた。
 義彦の政党が第一党である議会の要望と財閥の雄岩菱の助言もあり、政府は手早く空軍創設を決めて忠弥を中心に空軍を創設することを決めた。
 ただ人類初の有人動力飛行と大洋横断の快挙を成し遂げた忠弥であっても、平民の子供であり、いきなり新たな軍の最高司令官というのは周囲にいらぬ軋轢を生む。
 そもそも、十代で佐官というのが前代未聞であり、そのことに反発が出ている。
 そこで、遊覧飛行で航空機に激しく入れ込んでいる碧子内親王を空軍司令官にすることで周囲の反発を少なくすることにした。そして忠弥を実質上の最高司令官として前線で指揮させる態勢を整えたのだ。
 航空隊が神木の命令によって結果的に大損害を受けたことも追い風となり、空軍創設は手早く進んだ。

「さて、忙しくなるぞ。分散配備された部隊を戻し、兵力を集中させてヴォージュ要塞を救援に向かおう」
「救援には向かうのですね」
「空軍を建設した成果を見せつけないといけないからね。ここでしくじれば陸軍に逆戻り、それどころか部隊を分割されて各師団に回されてしまうよ」

 新規事業を立ち上げても採算が取れなければ縮小、中止されるのは何処も同じだ。
 盛大に作り上げられた新組織のため、なんとしても大きな成果を上げて、存在感と発言力を確保したい忠弥だった。
 その点、現在戦局の焦点となっているヴォージュ要塞は注目が集まっており空軍のお披露目の舞台としては申し分ない。

「ヴォージュ要塞を奪われると連合軍は不利になるし、後方に作った航空基地も攻撃されてしまうからね」

 航空機はデリケートな機械だ。
 定期的な整備点検が必要だし、部品交換も行う必要がある。
 何時、襲撃されるか分からない前線で整備作業を行うとなると、敵襲の足袋に整備が中断してしまい非効率だ。
 更に困るのが、襲撃されるような劣悪な環境でのストレスで、整備がおろそかになり飛行機の故障や事故、空中戦の最中にエンジンが故障して動けなくなったところを銃撃され落とされるなどと言う不名誉な負け方となってしまう恐れがあった。
 安心して飛行機を整備できる後方支援基地は不可欠であり、敵に襲撃されない位置に置く必要がある。
 ヴォージュ要塞が陥落すればそこを中心にベルケの航空隊が攻撃を仕掛けてきて襲撃するだろうし、最悪の場合、帝国軍地上部隊が侵攻してきて占領される可能性もある。

「帝国軍を食い止めるためにも要塞を救う。それに」
「それに?」

 昴は小首を傾げて尋ねた。
 忠弥は少し迷いつつも、覚悟を決めて言った。

「これだけの大攻勢だ。ベルケとベルケの航空隊も必ず要塞攻略に参加しているはず。ここで彼らと勝負をする」

 昴に向けた忠弥の目には強烈な光、未来に向かって進もうとする意志の光が灯っていた。
 だが同時に優秀な同志と戦う事への悲しみも含まれていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...