新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

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空軍建設の意義

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「お疲れ様です忠弥」

 司令部から出てきた忠弥を昴は迎えた。

「凄いですね。新たな軍を作って陸軍から離れていくなんて」
「予め社長に提案書を渡しておいた甲斐があったよ」

 予想外の方法で神木大将の元から離れた事に喜ぶ昴に忠弥は静かに言った。
 元々、航空産業の事を考えて空軍建設を考えていた。
 頭の固い陸軍上層部だと飛行機の発注は少ないだろう。
 彼らが思い浮かべるのは陸上の戦闘であり歩兵や砲兵が中心。航空機は便利だろうが、歩兵の補助程度にしか考えないだろう。
 そのため制空権という概念さえ理解できず、戦争でも有効活用する事は無い。
 戦略爆撃、戦略輸送、空挺降下など理解の範疇外であり、実現することはなく、選択肢に気がつかないまま時は過ぎゆき、帝国の戦力は弱体化したままとなる。
 そして飛行機の評価は低く大量生産される事は無い。
 これは航空産業に未来を見ている島津と岩菱にとって都合が悪い。
 民間航空へ投資してを盛んに航空産業を盛り上げようとしているが、どうしても需要が不十分だ。
 需要が足りないなら増やす。
 民間がダメなら軍に軍用機を購入してもらい、その金で設備投資をおこなう。
 需要が少なく規模が小さい産業勃興期には必要な事である。
 平和利用したくても投入される資金が少ないので、国そして軍の航空機購入は不可欠だ。
 だが、陸上部隊中心の陸軍、軍艦中心の海軍では航空機の購入は少数に終わり、金が入ってこない。
 金がなければ、まとまった数の受注がなければ研究も航空機生産能力も向上せず、航空機の発展は遅れてしまう。
 だが航空機を中心とした空軍ならば、航空機が主要な装備であり戦力となる軍隊ならば、大量の飛行機を発注してきてくれる。
 忠弥のアイディアを聞いた義彦と豊久は考えており、国政第一党と皇国一の財閥の立場を利用して政府に空軍創設案をねじ込み、実現に向けて動いていた。
 義彦の政党が第一党である議会の要望と財閥の雄岩菱の助言もあり、政府は手早く空軍創設を決めて忠弥を中心に空軍を創設することを決めた。
 ただ人類初の有人動力飛行と大洋横断の快挙を成し遂げた忠弥であっても、平民の子供であり、いきなり新たな軍の最高司令官というのは周囲にいらぬ軋轢を生む。
 そもそも、十代で佐官というのが前代未聞であり、そのことに反発が出ている。
 そこで、遊覧飛行で航空機に激しく入れ込んでいる碧子内親王を空軍司令官にすることで周囲の反発を少なくすることにした。そして忠弥を実質上の最高司令官として前線で指揮させる態勢を整えたのだ。
 航空隊が神木の命令によって結果的に大損害を受けたことも追い風となり、空軍創設は手早く進んだ。

「さて、忙しくなるぞ。分散配備された部隊を戻し、兵力を集中させてヴォージュ要塞を救援に向かおう」
「救援には向かうのですね」
「空軍を建設した成果を見せつけないといけないからね。ここでしくじれば陸軍に逆戻り、それどころか部隊を分割されて各師団に回されてしまうよ」

 新規事業を立ち上げても採算が取れなければ縮小、中止されるのは何処も同じだ。
 盛大に作り上げられた新組織のため、なんとしても大きな成果を上げて、存在感と発言力を確保したい忠弥だった。
 その点、現在戦局の焦点となっているヴォージュ要塞は注目が集まっており空軍のお披露目の舞台としては申し分ない。

「ヴォージュ要塞を奪われると連合軍は不利になるし、後方に作った航空基地も攻撃されてしまうからね」

 航空機はデリケートな機械だ。
 定期的な整備点検が必要だし、部品交換も行う必要がある。
 何時、襲撃されるか分からない前線で整備作業を行うとなると、敵襲の足袋に整備が中断してしまい非効率だ。
 更に困るのが、襲撃されるような劣悪な環境でのストレスで、整備がおろそかになり飛行機の故障や事故、空中戦の最中にエンジンが故障して動けなくなったところを銃撃され落とされるなどと言う不名誉な負け方となってしまう恐れがあった。
 安心して飛行機を整備できる後方支援基地は不可欠であり、敵に襲撃されない位置に置く必要がある。
 ヴォージュ要塞が陥落すればそこを中心にベルケの航空隊が攻撃を仕掛けてきて襲撃するだろうし、最悪の場合、帝国軍地上部隊が侵攻してきて占領される可能性もある。

「帝国軍を食い止めるためにも要塞を救う。それに」
「それに?」

 昴は小首を傾げて尋ねた。
 忠弥は少し迷いつつも、覚悟を決めて言った。

「これだけの大攻勢だ。ベルケとベルケの航空隊も必ず要塞攻略に参加しているはず。ここで彼らと勝負をする」

 昴に向けた忠弥の目には強烈な光、未来に向かって進もうとする意志の光が灯っていた。
 だが同時に優秀な同志と戦う事への悲しみも含まれていた。
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