106 / 163
忠弥の反撃
しおりを挟む
「司令、本国より気象報告です。天候は回復しつつあると報告が入っています」
「そうか」
後方飛行場の作戦指揮所に入った忠弥は通信員の報告を受け満足した。
緯度三〇度から六〇度にかけての上空には偏西風が吹いている。そのため、天候は西から変わりやすい。
前線の西側にいる忠弥達連合国軍は帝国より早く気象の変化を知ることが出来る。
気象の知識と地の利を得ていた忠弥の作戦は既に始まっていた。
そして雨が降って双方作戦不能となる状況を利用して次の作戦に備えていた。
指揮所に作戦に参加する全ての飛行隊と中隊長達を集めたのも作戦の最終確認を行うためだ。
「各飛行隊の状況は?」
忠弥は副長である相原少佐に尋ねた。
「全飛行隊、準備完了。後方飛行場の飛行隊も作戦開始と同時に前方飛行場へ展開し作戦行動を起こします。前方飛行場の機体も全力出撃します。戦闘機隊と地上襲撃機隊は前線飛行場から襲撃出来るように調整しています」
「よし、飛行場の状況は?」
「悪天候ですが、工兵隊などの力を借りて滑走路、駐機場の破壊箇所の埋め立ては完了。雨が上がり次第、排水し出撃準備を整えるそうです」
「よし、補給は?」
「各飛行場への鉄道及び軽便鉄道の建設は工兵と砲兵の協力により完成しました。砲弾輸送用の軽便鉄道を奪われることに難癖を言っていましたが、認めさせました。燃料、弾薬、爆弾、予備の部品、操縦士と整備士への食料、水、嗜好品も搬入終了。少なくなれば後方から直ぐに補給します」
「よろしい。支援体制は?」
「要塞部隊から支援の了解は取り付けました。既に前線近くから予備隊を中心に前線飛行場への配備は完了。前方飛行場と後方飛行場も軍予備を回して貰い、配置に付いています。掩体壕の中で待機中です」
「よし」
準備が完成したことに忠弥は満足した。
「作戦開始からどれだけ短時間で飛行機を上空に送り出し、何度も攻撃できるかが鍵だ。全員、作戦開始後、二四時間が勝負になる。気合いを引き締めてくれ。何か質問は?」
全員が黙ったままだった。
「宜しい。では作戦開始まで総員飛行隊で待機。開始と同時に作戦通りに出撃せよ。作戦開始後は計画通りに進めてくれ」
『はい!』
全員が大声で唱和した。
「まだ雨は止まないな」
掩体壕に入れられた兵士は愚痴った。開けられた窓の蓋を開けて外を見るが雨が激しく降っているだけだ。
彼は不満だった。クタクタで寝ていたところで起こされて掩蔽壕で待機する事になったからだ。
「しかし帝国の連中を倒すはずなのにこんな後方にいて良いのか」
彼の不満はそれだけではない。
彼は徴兵されたばかりで前線に出ていったことがなかった。愛国心に燃えて徴兵を受け容れて仲間と共に軍服を着て、前線で勇敢に突撃すると漠然と思っていた。
だが、訓練中に送り込まれた先は飛行場。そこで、穴を埋める訓練と実践を行っているだけだ。
それも雨の中だ。
激しい雨の中ポンチョ一つで爆弾で作られた穴に入り込み水をかき出し、シャベルで土を入れて埋め、ローラーでならす。
それを雨の中、一日中だ。
しかも泥でめり込む部分は土をかけてやり直し。
そんな事を雨の中、ずっと続けていた。
こんなことをして勝てるのかという、疑問がよぎっていた。
「他の仲間は要塞を守るために前線で戦っているのに」
その姿を古参の下士官は、苦笑いを浮かべながら聞いていた。自分にもそんな時期が合ったと。
初期の要塞戦に参加して仲間の多くが殺された砲撃で吹き飛ばされたり掩蔽壕ごと埋まったり。運良く生き残っても帝国軍との白兵戦で傷ついていった。
部隊が消耗して後方へ下げられた時、下士官が生き残っていたのは奇跡だった。その奇跡の付属品として下士官へ昇進し、配属された新兵を任された。
多少現実を見てきたため、彼は現状がどれほど幸運であるか知っているし、新兵のぼやきは分かる。そして現実を見れば新兵も自分の様になるだろうと考えていた。運良く生き残ればの話だが。
その前に戦争が終わってくれれば良いとも思っていた。
「こんな所で俺たちが働いて役に立つんですかね」
「上官に言われたことを遂行するまでだ」
新兵に聞かれて下士官は答えた。命令されてやって来ている。
それに効果があるかどうかは、上官が決める事だ。
だが今回の作戦では協力する航空部隊が勝ってくれれば帝国軍に大打撃を与えられると聞いている。
それなら飛行場で航空隊を支えるくらいは苦ではなかった。
「うん? 雨が弱まってきましたね」
新兵の言った通り、雨が弱まってきた。
「そうか」
後方飛行場の作戦指揮所に入った忠弥は通信員の報告を受け満足した。
緯度三〇度から六〇度にかけての上空には偏西風が吹いている。そのため、天候は西から変わりやすい。
前線の西側にいる忠弥達連合国軍は帝国より早く気象の変化を知ることが出来る。
気象の知識と地の利を得ていた忠弥の作戦は既に始まっていた。
そして雨が降って双方作戦不能となる状況を利用して次の作戦に備えていた。
指揮所に作戦に参加する全ての飛行隊と中隊長達を集めたのも作戦の最終確認を行うためだ。
「各飛行隊の状況は?」
忠弥は副長である相原少佐に尋ねた。
「全飛行隊、準備完了。後方飛行場の飛行隊も作戦開始と同時に前方飛行場へ展開し作戦行動を起こします。前方飛行場の機体も全力出撃します。戦闘機隊と地上襲撃機隊は前線飛行場から襲撃出来るように調整しています」
「よし、飛行場の状況は?」
「悪天候ですが、工兵隊などの力を借りて滑走路、駐機場の破壊箇所の埋め立ては完了。雨が上がり次第、排水し出撃準備を整えるそうです」
「よし、補給は?」
「各飛行場への鉄道及び軽便鉄道の建設は工兵と砲兵の協力により完成しました。砲弾輸送用の軽便鉄道を奪われることに難癖を言っていましたが、認めさせました。燃料、弾薬、爆弾、予備の部品、操縦士と整備士への食料、水、嗜好品も搬入終了。少なくなれば後方から直ぐに補給します」
「よろしい。支援体制は?」
「要塞部隊から支援の了解は取り付けました。既に前線近くから予備隊を中心に前線飛行場への配備は完了。前方飛行場と後方飛行場も軍予備を回して貰い、配置に付いています。掩体壕の中で待機中です」
「よし」
準備が完成したことに忠弥は満足した。
「作戦開始からどれだけ短時間で飛行機を上空に送り出し、何度も攻撃できるかが鍵だ。全員、作戦開始後、二四時間が勝負になる。気合いを引き締めてくれ。何か質問は?」
全員が黙ったままだった。
「宜しい。では作戦開始まで総員飛行隊で待機。開始と同時に作戦通りに出撃せよ。作戦開始後は計画通りに進めてくれ」
『はい!』
全員が大声で唱和した。
「まだ雨は止まないな」
掩体壕に入れられた兵士は愚痴った。開けられた窓の蓋を開けて外を見るが雨が激しく降っているだけだ。
彼は不満だった。クタクタで寝ていたところで起こされて掩蔽壕で待機する事になったからだ。
「しかし帝国の連中を倒すはずなのにこんな後方にいて良いのか」
彼の不満はそれだけではない。
彼は徴兵されたばかりで前線に出ていったことがなかった。愛国心に燃えて徴兵を受け容れて仲間と共に軍服を着て、前線で勇敢に突撃すると漠然と思っていた。
だが、訓練中に送り込まれた先は飛行場。そこで、穴を埋める訓練と実践を行っているだけだ。
それも雨の中だ。
激しい雨の中ポンチョ一つで爆弾で作られた穴に入り込み水をかき出し、シャベルで土を入れて埋め、ローラーでならす。
それを雨の中、一日中だ。
しかも泥でめり込む部分は土をかけてやり直し。
そんな事を雨の中、ずっと続けていた。
こんなことをして勝てるのかという、疑問がよぎっていた。
「他の仲間は要塞を守るために前線で戦っているのに」
その姿を古参の下士官は、苦笑いを浮かべながら聞いていた。自分にもそんな時期が合ったと。
初期の要塞戦に参加して仲間の多くが殺された砲撃で吹き飛ばされたり掩蔽壕ごと埋まったり。運良く生き残っても帝国軍との白兵戦で傷ついていった。
部隊が消耗して後方へ下げられた時、下士官が生き残っていたのは奇跡だった。その奇跡の付属品として下士官へ昇進し、配属された新兵を任された。
多少現実を見てきたため、彼は現状がどれほど幸運であるか知っているし、新兵のぼやきは分かる。そして現実を見れば新兵も自分の様になるだろうと考えていた。運良く生き残ればの話だが。
その前に戦争が終わってくれれば良いとも思っていた。
「こんな所で俺たちが働いて役に立つんですかね」
「上官に言われたことを遂行するまでだ」
新兵に聞かれて下士官は答えた。命令されてやって来ている。
それに効果があるかどうかは、上官が決める事だ。
だが今回の作戦では協力する航空部隊が勝ってくれれば帝国軍に大打撃を与えられると聞いている。
それなら飛行場で航空隊を支えるくらいは苦ではなかった。
「うん? 雨が弱まってきましたね」
新兵の言った通り、雨が弱まってきた。
0
あなたにおすすめの小説
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる