龍馬の息子 知識チートで海援隊と共に明治を駆け抜け日露戦争を楽勝にする!

葉山宗次郎

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第一部 日露開戦編

戦費の予想は三〇億(当時)

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 是清は日本を出る前に、日銀や大蔵省に戦費を試算させており、その数字を出していた。
 日本の国家予算は史実だと開戦直前の一九〇三年で二億六千万円ほど。
 鯉之助の世界では、少し国力が増して三億円超となっている。
 そのことを考えれば、大蔵省や日銀が算定した戦費四億五千万円の試算は国家予算規模では妥当と言える。

「それは朝鮮半島防衛のみ、短期間、およそ半年の戦闘を想定した物でしょう。ロシアの根拠地は満州です。それにロシアは夏以降に兵力を増強できる算段を整えているハズです」

 これまではロシアの極東への交通路はインド洋経由での海路が主だった。
 だが夏に開業予定のシベリア鉄道によりロシアは陸路での交通路を確保できた。
 ヨーロッパに配備している部隊を満州へ運び込むことが出来るようになれば兵力を簡単に増強でき、日本との戦いがし易くなる。

「ロシアは半年程度で戦争を止める気は無いでしょうし、満州はロシア領ではありませんので、日本に攻撃されたまま講和することはなく、むしろ朝鮮半島をまるごと手に入れるくらいの考えで攻めてくるでしょう。おそらく戦争は一年半以上、戦費は三十億は掛かるでしょう」
「三十億!」

 当時の国家予算の十倍の額に高橋はたまげた。

(レポートがどこかで握りつぶされているな)

 日露戦が必至であることをメタ知識から知っていた鯉之助は海龍商会の研究所で日露戦を史実に基づいて図上演習――シミュレーションさせていた。
 戦闘だけでなく、総力戦――戦費、生産力、兵站、兵員補充、そして外交――講和締結まで全て考慮して演習を進めた。
 結果、ロシアとの戦争で三十億近い戦費が掛かると報告している。
 史実でもほぼ同じくらいの戦費が使われたのだから間違いは無かった。
 日本の国力が増大し兵力が増加しているので、戦費は三〇億を上回るだろう。
 長期化すれば余計に戦費が掛かる。
 鯉之助は父である龍馬に史実の件は伏せて報告した。レポートを政府にも渡すようにいっており、政府中枢にも渡っているハズだが、是清に渡されていない。
 大方、伊藤博文あたりが高橋に断られるのを見越してレポートを渡さず、築地の料亭で井上や桂は泣いてごまかし是清にこの役を受けさせたのだろうか。
 怒りがこみ上げてきたが、鯉之助は静かに言う。

「同じ比率でいけば、少なくとも販売する外貨公債の額は最低十億円となるでしょう」
「正貨全てを出しても足りません。それ以前に正貨準備が一億を下回れば日本の金本位は崩壊し、貿易も経済も崩壊します」

 金本位は、金を基準に紙幣を発行する通貨制度だ。
 一九〇四年当時はイギリスポンド金貨が基準になっており、用意したポンド金貨を元に国立銀行は紙幣を発行。紙幣は銀行に持って行けば金貨に替えてもらえる。
 そして他国も同じく英国のポンドを基準とした金本位を採用している。
 国内で金貨は必要ないが、海外貿易では国内の通貨は使えない。そのため金に換金する必要がある。
 その時使われる金貨は各国の金本位の基準となっている英国ポンドで行われており、当時の貿易の決算には英国ポンドが使われていた。
 つまり金本位である事で海外貿易を円滑に、特に通貨の両替が簡単に行えたのだ。
 逆に、支払える金貨がなくなれば、英国ポンドが無くなれば日本円、紙幣は紙くずとなり金本位制度は崩壊。
 金本位が崩壊した日本は貿易も軍需品、武器はともかく原材料となる特殊鋼や寒い満州で防寒着となる毛皮の原料を輸入できなくなり武器があっても戦争が出来ない状態になる。
 それどころか民生品さえ購入できず、日本経済は崩壊する。
 一般に経験から紙幣発行額の三割ほどの正貨を用意すればとりあえず金本位制度を安定して運用できるとされている。
 逆に三割を下回ると金本位制度は崩壊してしまい海外との貿易が出来ず、海外からの物品の調達が出来なくなり日本は立ちゆかなくなる可能性が大きい。
 日本は戦う前から、経済面で瀬戸際に追い込まれていた。

「いくら何でも外貨十億は多すぎる」
「戦後、朝鮮の開発を推し進めるためにもそれぐらいの費用は必要です」
「しかし、それほどの額は手に入れられません」

 最近になって日本は主にロンドンで外債を購入していたが、全て一億円以下、一千万ポンドに満たない額ばかりだ。

「それだけの多額の国債を発行しても返済の目処もありません」

 保証できるのは関税収入くらいだが、関税自主権を奪われているため、微々たるものでとても利子を支払えるだけの額には足りない。

「利率が六パーセントとしても十億円だと六千万円。平時の国家予算の二割に相当します。国外へ流出するのは避けたい」

 金利がコンマ以下の21世紀の日本では考えられないくらいの高利だが、当時としては普通だった。南米の諸国と同じくらいの利率だ。
 勿論列強の国債の利率はより低い。
 日本は三流国、高利で無ければリスクが大きすぎると判断されていた。
 だが高利だと利子の支払いが大きい。
 二一世紀の日本の歳出で国債費がおよそ二割を占めている。
 同じくらいかと思うが、二一世紀の日本の場合は国債の殆どを国内で賄っており、日本国内に還流され回っている。
 だが外債の場合は、海外から資金を得るため、海外に資金を返済する必要がある。
 外国に国家予算の二割を支払い続けなければならない状況となる。
 思いやり予算が建前上、日本国内の基地、基地で働く日本人の給与や土地の借り上げ代金として出ているので、出した予算は日本に戻っている。
 だが日露戦争で発行する外債は単純に海外へ流れてしまう。
 金が日本国外へ流れ続ければ国内に回る金が少なくなり経済は縮小してしまう。
 結局、日本経済は崩壊しかねない。
 しかも是清の心配は他にもあった。

「第一、ロンドンでそれだけの資金が集まるかどうか」

 単純に市場にそれだけの資金があるのか是清は心配していた。
 いくら世界の金融市場ロンドンとはいえ、資金が無尽蔵にあるわけがない。
 技術の進展激しく投資が各国で行われており資金需要は高く、そこに日本が割り込む余地があるかどうか。
 日本の信頼が小さいのと、戦争に勝てる見込みが少ないこともあり、調達自体にも多大な困難が予想された。
 頭を抱える是清に鯉之助は助言した。

「ニューヨークで集めてはどうでしょうか?」
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