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指揮の乱れ
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「長官、偵察機が敵艦隊の位置を打電してきました」
小沢の元に伝令が報告を持ってきた。
「攻撃なさいますか」
参謀長が念の為に尋ねた。
「いや、ダメだ。遠すぎるし、意味が無い」
海図で敵艦隊の位置を見た小沢は否定した。
二月に行われたマリアナ空襲があったあとに進出してから時間はあまり経っていない。
十分な準備が出来ていないため、第一航空艦隊には防空に専念させた。
下手に準備が整わずに攻撃すれば戦力を磨り減らす事は前年のソロモンの消耗戦で分かりきったことだった。
敵が空母による全力出撃を、遠いところからわざわざ自分たちの陣地に攻め込んできてくれるのなら願っても無い事だ。
こちらは準備の整った陣地で迎え撃てば良い。
だが守りに入っていると部下の士気が悪くなる。そこが気がかりだった。
「防空戦闘で未確認ながら五十機を撃墜。更に撃墜しています。当方は一二機が墜落、二二機が損傷。また各基地に被害が出ています。一六機が地上で破壊され、その他多数の気が損傷を受けています」
地上の防空壕に退避させた攻撃機が気がかりだった。
防空壕に入れているが、それでも破壊される機体は多い。平常時でも戦闘で撃墜されるのと同じくらいの航空機が事故、飛行中機位を見失っての行方不明、飛行時間満了などで失われていく。
それでも一矢も報いずに敵に破壊されるのは非常に耐えがたいものだ。
だが、勝機が無いのに出撃を命令する訳にはいかず、小沢はひたすら耐えた。
「長官! 第二一航空戦隊が独断で攻撃を開始しました! 敵機動部隊に攻撃隊を発進中」
「直ぐに帰還させろ! 攻撃中止命令を航空戦隊と攻撃隊に出すんだ」
直卒の第六一航空戦隊と編成時から所属している第六二航空戦隊は自分の指示が徹底している。
しかし、編入されてから一月ほどしか経っていない第二一航空戦隊は司令官との協議が不充分で指示が徹底していない。
防空ばかりで戦いに消極的と伊わっれている小沢に対する反感もある。そのため独断で攻撃することは十分に予測できていた。
かといって第一航空艦隊の四分の一の戦力を有する攻撃隊を無駄死にさせるわけにも行かない。
「ダメです。通信基地が破壊されました。攻撃隊へ無電届きません」
「……各航空戦隊に防空に専念するように命令を改めて下すんだ。第二一航空戦隊の後追いは厳禁だ」
通信機の改良により航空隊への指揮は確実に良くなった。
途中で新たな目標への攻撃を支持出来るようになり戦いやすくなっている。
もし通信機の改良無くソロモンの消耗戦を行ったとしたら、狂ってしまうほどの大損害を出していただろう。
今こうして迎撃指揮が出来るのは通信機のお陰だ。
だが、通信基地を破壊されては遠くにいる攻撃隊へ通信を遅れない。
迎撃指揮に使っている短距離無線では届かず、それに迎撃指揮を行っている部隊に余裕はない。
「指をくわえて見ているしかないか」
攻撃隊は敵の手前で迎撃を受けて大損害を受けるだろう。
三割、いや一割程度まで数を撃ち減らし、何の損害も与えられず、帰還あるいは壊滅する。
小沢はそれを確定した未来として受け止め、攻撃終了後に二一航空戦隊司令官の解任を決めた。
命令違反と味方に大損害を与えた廉でだ。
実際に攻撃隊の攻撃は殆ど被害を与えられず空母一隻の飛行甲板に爆弾を命中させ中破させたが、その日のうちに復旧されてしまった。
対して発進した三〇〇機に及ぶ攻撃隊は出撃機の六割、攻撃機に関しては八割の損害を出し、事実上壊滅した。
第二一航空戦隊司令官は更迭され、以降は小沢長官の指揮の下、攻撃機は本土に下がり再編成。
残った戦闘機隊で防空戦に専念するが、攻撃力の低下は否めず、マリアナ沖海戦の行方を大きく左右することになる。
小沢の元に伝令が報告を持ってきた。
「攻撃なさいますか」
参謀長が念の為に尋ねた。
「いや、ダメだ。遠すぎるし、意味が無い」
海図で敵艦隊の位置を見た小沢は否定した。
二月に行われたマリアナ空襲があったあとに進出してから時間はあまり経っていない。
十分な準備が出来ていないため、第一航空艦隊には防空に専念させた。
下手に準備が整わずに攻撃すれば戦力を磨り減らす事は前年のソロモンの消耗戦で分かりきったことだった。
敵が空母による全力出撃を、遠いところからわざわざ自分たちの陣地に攻め込んできてくれるのなら願っても無い事だ。
こちらは準備の整った陣地で迎え撃てば良い。
だが守りに入っていると部下の士気が悪くなる。そこが気がかりだった。
「防空戦闘で未確認ながら五十機を撃墜。更に撃墜しています。当方は一二機が墜落、二二機が損傷。また各基地に被害が出ています。一六機が地上で破壊され、その他多数の気が損傷を受けています」
地上の防空壕に退避させた攻撃機が気がかりだった。
防空壕に入れているが、それでも破壊される機体は多い。平常時でも戦闘で撃墜されるのと同じくらいの航空機が事故、飛行中機位を見失っての行方不明、飛行時間満了などで失われていく。
それでも一矢も報いずに敵に破壊されるのは非常に耐えがたいものだ。
だが、勝機が無いのに出撃を命令する訳にはいかず、小沢はひたすら耐えた。
「長官! 第二一航空戦隊が独断で攻撃を開始しました! 敵機動部隊に攻撃隊を発進中」
「直ぐに帰還させろ! 攻撃中止命令を航空戦隊と攻撃隊に出すんだ」
直卒の第六一航空戦隊と編成時から所属している第六二航空戦隊は自分の指示が徹底している。
しかし、編入されてから一月ほどしか経っていない第二一航空戦隊は司令官との協議が不充分で指示が徹底していない。
防空ばかりで戦いに消極的と伊わっれている小沢に対する反感もある。そのため独断で攻撃することは十分に予測できていた。
かといって第一航空艦隊の四分の一の戦力を有する攻撃隊を無駄死にさせるわけにも行かない。
「ダメです。通信基地が破壊されました。攻撃隊へ無電届きません」
「……各航空戦隊に防空に専念するように命令を改めて下すんだ。第二一航空戦隊の後追いは厳禁だ」
通信機の改良により航空隊への指揮は確実に良くなった。
途中で新たな目標への攻撃を支持出来るようになり戦いやすくなっている。
もし通信機の改良無くソロモンの消耗戦を行ったとしたら、狂ってしまうほどの大損害を出していただろう。
今こうして迎撃指揮が出来るのは通信機のお陰だ。
だが、通信基地を破壊されては遠くにいる攻撃隊へ通信を遅れない。
迎撃指揮に使っている短距離無線では届かず、それに迎撃指揮を行っている部隊に余裕はない。
「指をくわえて見ているしかないか」
攻撃隊は敵の手前で迎撃を受けて大損害を受けるだろう。
三割、いや一割程度まで数を撃ち減らし、何の損害も与えられず、帰還あるいは壊滅する。
小沢はそれを確定した未来として受け止め、攻撃終了後に二一航空戦隊司令官の解任を決めた。
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