架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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フィリピンを攻略する事情

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「マリアナでの損害で艦隊の数、空母の数が足りません。この状況でフィリピンを攻略するのは難しいです。延期しては」

 キングは損害を理由に作戦の延期を求めた。

「ウォッゼの空母群があるだろう」

 反対するキングにルーズベルトは指摘した。
 マリアナ攻撃前、ギルバードとクウェゼリンを攻略したとき、ウォッゼという環礁を米軍は占領した。
 小さな島々だが、珊瑚礁に囲まれた広大な海域は大艦隊の停泊に最適であり、日本への作戦基地として理想的だった。
 米海軍は、無数の支援艦艇、工作艦や移動可能な浮きドックを送り込み、後方拠点にしつつあった。
 だが日本軍によるウォッゼ攻撃作戦――雄作戦により一度大損害を受けた。
 空母への被害は少なかったが支援艦艇への被害は甚大であり、作戦スケジュールに遅れが出た。
 直後に出撃拠点の一つとなったトラックをスプールアンス率いる空母機動部隊が壊滅させ、後顧の憂いを断った。
 だが、マリアナ攻略中の奇襲を恐れて空母群の一つを休養と警戒のためにウォッゼ近辺に残していた。

「彼らを使えばマリアナは簡単だったのではないかね」

 マリアナが陥落しないのはキングのやり方が手ぬるい、戦力を分散させたためとルーズベルトは考えており、叱責も兼ねて尋ねた。

「彼らは休養を必要としていました。そして日本軍の奇襲に警戒する必要もありました」

 日本機動部隊の奇襲攻撃が多く、米軍機動部隊は太平洋をあちこち駆けずり回っている。
 どの空母群も疲労しており、休養を与える必要があった。

「今回のマリアナ攻略で作戦参加艦艇に損害も出ており、休養と再編成が必要です」
「これは決定なのだ、作戦部長」

 不機嫌そうにルーズベルトは言った。
 ルーズベルト自身もマッカーサーを好んでいない。
 大統領への野心を隠そうとしないマッカーサーが凱旋将軍として現れ、戦後に大統領候補として現れるのをルーズベルトは嫌がっている。
 しかし、国民の意見を無視することは出来ない。

「10月までにフィリピンに上陸させよ」

 次の選挙、11月に行われる大統領選挙への出馬宣言をルーズベルトはしている。
 戦時大統領のため、勝利は確実視されているが、これまでの苦戦を考えると、有利とは言えない。
 何としても、選挙の前に大きな戦果を上げたい。
 国民が望んでいるフィリピン奪回を実現させ、選挙戦勝利を確実なものにしたがっていた。
 例え、嫌いなマッカーサーに華を持たせることになろうともフィリピンを攻略する必要があった。

「台湾はダメですか」

 大統領のマッカーサーへの嫌悪を嗅ぎ取ったキングは再び尋ねた。
 フィリピンより台湾を攻略し中国へ攻め上がった方が日本の生命線を絶てると考えていた。

「だめだ。台湾は島が大きく、山も高い」

 だがルーズベルトは否定した。
 キングの台湾攻略は、ルーズベルトが指摘した欠点があり、上陸しても完全占領は難しいとされていた。
 海軍内でも反対意見があり、その意見をルーズベルトが口にしたのはキングに反対する連中が、密かにルーズベルトへ報告をしたためだろうとキングは思った。
 被害妄想が入っていたがキングの推測はあっていた。
 ワンマンの傾向が強いキングに反発する人間は海軍内にも多いのだ。

「沖縄も遠すぎるだろう」

 付け足すようにルーズベルト大統領は言った。
 マリアナ作戦語の作戦案の一つに沖縄攻略も入っていたが、日本本土と台湾に近く、陸軍機の航空援護が見込めないことから案から外された。

「太平洋方面は十月までにフィリピンへ上陸せよ。これは大統領命令だ。海軍作戦部長」
「……了解しました」

 キングはルーズベルト大統領の命令を了承した。
 不満があっても命令には従わなければならない。それが軍人だからだ。

「では、次にヨーロッパ戦線だが」

 話はヨーロッパ戦線に移った。
 アメリカにとっての主戦線はヨーロッパであり日本は二義的な存在に過ぎない。
 ドイツを屈服させるため、先ずはヨーロッパへ注力する事になっていた。
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