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第一部第二章
試運転
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「一四号列車入線確認!」
真っ白い駅長服に身を包んだトムは、駅の信号所から入って来た列車を見て、指を指して確認する。
日本の鉄道ではお馴染みの指さし確認。
元祖イギリスには存在せず、安全重視のため日本で生まれた独自の文化だ。
安全確認に最適なため、昭弥はこのような行動も取り入れて指導していた。
「一四号列車停止確認」
濃紺の制服を着た駅員が目視で確認して報告したが
「指さし確認を忘れているぞ」
トムはすぐさま注意した。
管理職は部下の教育が第一である。
少しでもミスをしたら注意しなくては正しい行動を行えない。
「は、はい、済みません。一四号列車停止確認!」
「よし、良いぞ」
改めて指さし確認を駅員が行いトムは褒めた。
「ポイント、信号切り替え」
「了解! ポイント、信号切り替え!」
信号所には何本ものレバーが並んでいる。それらは全てポイントと信号器を切り替えるために備えられている。
レバーを強く握って安全装置を解除して思いっきり引く。ガシャンと安全装置が降りたら切り替え完了。レバーによってワイヤが引っ張られ、ポイント若しくは信号が切り替わる。
今回は引き込み線に入って来た列車にぶつからないように、ポイントを切り替えて本線上を列車が通過できるようにした。さらに閉塞区画の信号を青にしてそのまま通せるようにしてある。
「ポイント良し、信号器良し」
指さし確認してポイントと信号器が切り替わったことを確認する。
ポイントの脇に方向指示器が備え付けられており、ポイントがどちらに切り替わっているかを確認することが出来る。
「二六号列車確認! 通過します」
貨車を引いた列車が入って来て駅の中を通過していった。
「一三一〇、二六号列車通過確認!」
懐中時計を取り出して、時間に正確かを確認してトムは指さし確認した。
もし、列車が違う時間に通過したら、調整などを考えなければならない。
だが、現在は問題無い。
「よし、続いて一四号列車発車だ。ポイント切り替え!」
「訓練は上手く行っているな」
昭弥は、トムたちの様子を見て満足していた。
慌ただしく教育を行い、一つ一つ教えているが時間が足りない。
何とか必要最低限の教育が出来たと判断し、試運転を兼ねた実地訓練を始めていた。
操作ミスでの事故も覚悟しているが、今のところ問題無い。
本来ならもっと時間を掛けたいのだが、開業しないと鉄道会社に収入は無い。何としても開業しなければならない。
そのため、無謀とも言える行為を行っているのだが、社員は無事にこなしてくれている。
「危なっかしいところがあるが、皆研究熱心で良い」
ぎこちないところが合ってもどうすれば改善するか駅員同士が確認し合っている。自分たちで直そうとしているのは良いことだ。
現場レベルで対処しようと考えてくれるのは会社にとって必要だ。
昭弥は彼らが動きやすくなるように会社を作れば良い。
「現場に口を出す必要はなさそうだね」
「皆、全力で準備をしていますよ」
セバスチャンが言った。
本来は執事なのだが、すっかり昭弥の秘書役になっている。
駅員達が、列車を発車させようとレバー操作をしている。
「出来れば運転司令所で集中管理がしたいんだけどな。せめて電気式だったら楽に切り替えが出来るんだが」
現代日本では大手鉄道会社の殆どが、一箇所の運転司令所で全ての列車に指示を出し、ポイントや信号を切り替えている。
それが出来るのも通信ケーブルや高性能コンピュータなどがあるためで、近世ぐらいの技術力しか無いこの世界では無理な話だ。
電気さえ無いのに電気式ポイント切り替えなど無理だ。
だから最初期に使われた各駅毎の信号所と手動による切り替えを行っていた。
ただ、この方法だと非常に重い。ポイント自体もそうだが、ワイヤーと滑車の潤滑具合が悪いと更に重くなる。遠くの信号器だと更に重くなる。
これらを素早く連続して切り替える駅員には頭が下がる。
「昭弥さん?」
「ああ、済まない。ないないづくしを愚痴っていた」
だが、現在採れる最善の方法がこれなのだから、しかたがない。外に出ていちいち切り替えに行くなど危険だし疲れる。
その時、異変が起こった。
「どうした?」
「一七号列車が停止位置を通り過ぎました」
駅長が昭弥に報告した。
待避線に入り停止予定だったが、そのまま走りすぎて本線に出てしまっている。
「直ちに信号を赤に切り替え。本線の列車を構内に入れるな。その間に機関車を停止位置まで後退させろ」
「はい」
直ぐに指示が飛び、駅員達が信号とポイントを切り替えて行く。
「二一号列車接近を確認。第一閉塞で停車を確認」
「一七号列車、停止位置に付きました」
「よし、ポイントを切り替えて、二一号を通過させろ。ポイント切り替え後、信号切り替え」
「はい」
すぐさま駅員が指示通りに行動して、列車を通していった。
「中々、緊急事態にも対処しているな」
「みたいですね」
何かあったら直ぐ停止。
それを基本にして昭弥はシステムを作り上げた。
鉄道駅の前に二箇所ほど信号による閉塞を作り、列車が駅構内に侵入しない状況を作り出している。
もし構内でトラブルが起きても手前の閉塞で、止める事が出来る。
止まっている間に、トラブルを解決して、順次列車を入れて行くのだ。
トラブルが長時間に及びそうなら魔術師の通信を使って運転司令所に報告して前の駅で列車を停止して貰うのだ。
「まあ、合格点かな。運転士の技量が良くないみたいだけど」
我流で運転していたこともあり、運転士の技量はピンキリだ。ただ運転の仕方や整備になれているため即戦力になる。それが非常に有り難かった。
「開業の目処は付いたな」
「では」
「ああ、いよいよ開業だ」
真っ白い駅長服に身を包んだトムは、駅の信号所から入って来た列車を見て、指を指して確認する。
日本の鉄道ではお馴染みの指さし確認。
元祖イギリスには存在せず、安全重視のため日本で生まれた独自の文化だ。
安全確認に最適なため、昭弥はこのような行動も取り入れて指導していた。
「一四号列車停止確認」
濃紺の制服を着た駅員が目視で確認して報告したが
「指さし確認を忘れているぞ」
トムはすぐさま注意した。
管理職は部下の教育が第一である。
少しでもミスをしたら注意しなくては正しい行動を行えない。
「は、はい、済みません。一四号列車停止確認!」
「よし、良いぞ」
改めて指さし確認を駅員が行いトムは褒めた。
「ポイント、信号切り替え」
「了解! ポイント、信号切り替え!」
信号所には何本ものレバーが並んでいる。それらは全てポイントと信号器を切り替えるために備えられている。
レバーを強く握って安全装置を解除して思いっきり引く。ガシャンと安全装置が降りたら切り替え完了。レバーによってワイヤが引っ張られ、ポイント若しくは信号が切り替わる。
今回は引き込み線に入って来た列車にぶつからないように、ポイントを切り替えて本線上を列車が通過できるようにした。さらに閉塞区画の信号を青にしてそのまま通せるようにしてある。
「ポイント良し、信号器良し」
指さし確認してポイントと信号器が切り替わったことを確認する。
ポイントの脇に方向指示器が備え付けられており、ポイントがどちらに切り替わっているかを確認することが出来る。
「二六号列車確認! 通過します」
貨車を引いた列車が入って来て駅の中を通過していった。
「一三一〇、二六号列車通過確認!」
懐中時計を取り出して、時間に正確かを確認してトムは指さし確認した。
もし、列車が違う時間に通過したら、調整などを考えなければならない。
だが、現在は問題無い。
「よし、続いて一四号列車発車だ。ポイント切り替え!」
「訓練は上手く行っているな」
昭弥は、トムたちの様子を見て満足していた。
慌ただしく教育を行い、一つ一つ教えているが時間が足りない。
何とか必要最低限の教育が出来たと判断し、試運転を兼ねた実地訓練を始めていた。
操作ミスでの事故も覚悟しているが、今のところ問題無い。
本来ならもっと時間を掛けたいのだが、開業しないと鉄道会社に収入は無い。何としても開業しなければならない。
そのため、無謀とも言える行為を行っているのだが、社員は無事にこなしてくれている。
「危なっかしいところがあるが、皆研究熱心で良い」
ぎこちないところが合ってもどうすれば改善するか駅員同士が確認し合っている。自分たちで直そうとしているのは良いことだ。
現場レベルで対処しようと考えてくれるのは会社にとって必要だ。
昭弥は彼らが動きやすくなるように会社を作れば良い。
「現場に口を出す必要はなさそうだね」
「皆、全力で準備をしていますよ」
セバスチャンが言った。
本来は執事なのだが、すっかり昭弥の秘書役になっている。
駅員達が、列車を発車させようとレバー操作をしている。
「出来れば運転司令所で集中管理がしたいんだけどな。せめて電気式だったら楽に切り替えが出来るんだが」
現代日本では大手鉄道会社の殆どが、一箇所の運転司令所で全ての列車に指示を出し、ポイントや信号を切り替えている。
それが出来るのも通信ケーブルや高性能コンピュータなどがあるためで、近世ぐらいの技術力しか無いこの世界では無理な話だ。
電気さえ無いのに電気式ポイント切り替えなど無理だ。
だから最初期に使われた各駅毎の信号所と手動による切り替えを行っていた。
ただ、この方法だと非常に重い。ポイント自体もそうだが、ワイヤーと滑車の潤滑具合が悪いと更に重くなる。遠くの信号器だと更に重くなる。
これらを素早く連続して切り替える駅員には頭が下がる。
「昭弥さん?」
「ああ、済まない。ないないづくしを愚痴っていた」
だが、現在採れる最善の方法がこれなのだから、しかたがない。外に出ていちいち切り替えに行くなど危険だし疲れる。
その時、異変が起こった。
「どうした?」
「一七号列車が停止位置を通り過ぎました」
駅長が昭弥に報告した。
待避線に入り停止予定だったが、そのまま走りすぎて本線に出てしまっている。
「直ちに信号を赤に切り替え。本線の列車を構内に入れるな。その間に機関車を停止位置まで後退させろ」
「はい」
直ぐに指示が飛び、駅員達が信号とポイントを切り替えて行く。
「二一号列車接近を確認。第一閉塞で停車を確認」
「一七号列車、停止位置に付きました」
「よし、ポイントを切り替えて、二一号を通過させろ。ポイント切り替え後、信号切り替え」
「はい」
すぐさま駅員が指示通りに行動して、列車を通していった。
「中々、緊急事態にも対処しているな」
「みたいですね」
何かあったら直ぐ停止。
それを基本にして昭弥はシステムを作り上げた。
鉄道駅の前に二箇所ほど信号による閉塞を作り、列車が駅構内に侵入しない状況を作り出している。
もし構内でトラブルが起きても手前の閉塞で、止める事が出来る。
止まっている間に、トラブルを解決して、順次列車を入れて行くのだ。
トラブルが長時間に及びそうなら魔術師の通信を使って運転司令所に報告して前の駅で列車を停止して貰うのだ。
「まあ、合格点かな。運転士の技量が良くないみたいだけど」
我流で運転していたこともあり、運転士の技量はピンキリだ。ただ運転の仕方や整備になれているため即戦力になる。それが非常に有り難かった。
「開業の目処は付いたな」
「では」
「ああ、いよいよ開業だ」
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