架空世紀「30サンチ砲大和」―― 一二インチの牙を持つレバイアサン達 ――

葉山宗次郎

文字の大きさ
8 / 14

デンマーク海峡

しおりを挟む
「プリンツ・オイゲンより通信。敵艦の推進音らしきものソナーにて感知。我々を追尾しつつあり」

 ノルウェーのフィヨルドを出撃したビスマルクは、霧が立ちこめるデンマーク海峡へ侵入した。
 敵に見つからないと考えていたが、随伴艦のプリンツ・オイゲンから敵艦が接近していることを知らされた。

「何故、敵はこの気象条件の中、我々を見つけられるのだ」

 リッチェンスは報告を聞いて驚いた。

「恐らくレーダーでしょう」

 出航前の報告にあった英国軍の艦載レーダーだろうとリンデマン大佐は考えた。
 実際、追尾しているのはレーダー探知を行っていたイギリス重巡洋艦ノーフォークとサフォークであり、レーダーで追いかけていた。

「追い払え」
「了解」

 ビスマルクは、前部主砲を発砲し、追い払おうとした。
 さすがに初弾命中はなく、砲撃に驚いた二隻は反転し、距離を置いた。

「報告、本艦のレーダーが故障しました」

 だが振動により、ビスマルクのレーダーも故障してしまった。

「追撃しますか?」
「いや、このまま離脱する」

 追いかけても向こうの方が優速であり、追いつけない。
 幾ら重巡洋艦に勝る砲力を持っていても、射程内に収めなければ攻撃できない。

「我々の目的は敵艦攻撃ではない」

 言い訳をリッチェンスは口にした。
 確かに攻撃はできる限り避けるように言われている。
 しかし、敵に現在位置を知られ、今も通報されている。

「敵に見つかる可能性が高いか」

 リンデマン大佐は戦闘を予期して乗員に休むように伝えた。



「サフォークがビスマルクとの接触を回復しました」

 英国海軍中将ホランドは座乗するフッドで報告を受けた。
 僚艦にプリンス・オブ・ウェールズとアタッカーを与えられた有力な艦隊でありビスマルクを撃破することを期待されていた。
 そしてサフォークの報告を元にビスマルクと接触するべく急行していた。
 ビスマルクを見つけたサフォークだったがレーダーの故障と濃霧によって一時見失った。そのためホランドはビスマルクを捕捉できず、有利な位置に遷移する事が出来ずにいた。
 だが今は接触を回復し、位置情報がもたらされた。

「すれ違ったか」

 当初ホランドはビスマルクを西側から待ち伏せ正面を横切るつもりだった。
 こうすればフッドはビスマルクの射程内を横切り懐に入りこんで撃破出来るハズだった。
 フッドは第一次大戦の巡洋戦艦で主砲は新造時一五インチ連装砲四基を備える四万トンの当時最大の戦艦だった。
 だが、第二次ロンドン海軍軍縮条約により既存艦も一二インチ砲搭載艦への変更を求められ、一二インチ三連装砲四基へ変更された。
 しかも不味いことに防御装甲は昔のまま、薄いのだ。
 砲塔交換の時に装甲板も追加される予定だったが、予算が足りず、後日となり、二度目の改造の前日、開戦となり延期となった。
 僚艦であるプリンス・オブ・ウェールズは、戦力不足のため未完成のまま艦隊に編入され、工員が乗ったまま艤装作業を出撃した今も続行している状況だ。
 試験も不十分で頼りなるか怪しい。

「駆逐艦は来ているか?」
「この嵐のため、遅れております」

 申し訳なさそうに幕僚は言った。
 この激しい荒天では、駆逐艦は波にもまれて付いてこれない。
 主砲が通らないのなら、戦艦の援護の下、駆逐艦が魚雷攻撃で仕留めて欲しかったのだが、この作戦は無理だ。
 サフォークとノーフォークにやらせようにもホランドとの間にはビスマルクがいて合流は無理だ。

「空母の来援は?」
「アークロイヤルが向かっているそうですが、時間がかかります。それにこの嵐では艦載機を飛ばせません」

 ホランドは再び外を見た。
 嵐は続いている。
 航空機が飛べないとなると航空索敵は困難。再びビスマルクとの接触を失えば発見は困難になる。
 再発見するまでに船団が攻撃される恐れがある。

「ビスマルクと交戦する」

 ホランドは決断した。
 予定とは違うが、ビスマルク攻撃の命令を受けている。
 大西洋を航行する船団を守るため、大英帝国の物流を支える商船団を守るべく攻撃に出ることにした。

「先頭のビスマルクをフッドとプリンス・オブ・ウェールズで攻撃する」
「アタッカーはどうしますか?」

 幕僚に尋ねられてホランドは顔をしかめた。
 アタッカー級戦艦、通称A級戦艦は世界に覇権を唱えるイギリスが各地に派遣するために建造した最良の<弩級巡洋戦艦>だ。
 一二インチ連装砲四基、基準排水量一万五〇〇〇トン、速力三四ノット。
 世界各地に配備するため量産性、整備性、建造費低減、維持費低減を優先し攻撃は一二インチ砲によるアウトレンジを基本にしたため防御が紙装甲。
 一二インチ砲搭載艦のいない海域での運用、重巡以下の駆逐を基本としている。
 そのために三四ノットという異様な速力を与えられ、巡洋艦や駆逐艦を追い回し一二インチ砲で吹き飛ばすために存在している。
 平時、通商路の確保、平和の維持を重視――先の大戦の傷跡深く、再度の大戦など英国には不可能であり、世界秩序を維持することが英国の最優先課題だ。
 日本とドイツのご機嫌取りをしてでも世界秩序を守ろうとした英国の縁の下の力持ちとして、係争地域、紛争への早期介入および対応のために計画されたのがアタッカーだ。
 世界各地に配備するためキング・エドワード七世級を超える一二隻の建造が予定された。
 だが、防御力が低く、諸外国の新戦艦が戦時の換装を前提に一二インチ以上の防御を付与していたため防御力が著しく低い事を理由に六隻で建造を中止。
 新戦艦としてキング・ジョージ五世級、ライオン級の整備へ転換した失敗作だ。
 しかし、ドイツ軍の攻撃により戦艦が足りないため戦力を補うためホランドの艦隊に配備されている。

「……連れて行く。戦力が足りない。アタッカーには随伴艦のプリンツ・オイゲンを攻撃させろ」

 戦力に余裕がないホランドは防御に不安のあるアタッカーも参戦させた。
 少なくとも重巡洋艦であるプリンツ・オイゲン相手には戦えると判断したからだ。
 アタッカーはそのために作られた艦なのだし、妥当な判断だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり

もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。 海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。 無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。

山本五十六の逆襲

ypaaaaaaa
歴史・時代
ミッドウェー海戦において飛龍を除く3隻の空母を一挙に失った日本海軍であったが、当の連合艦隊司令長官である山本五十六の闘志は消えることは無かった。山本は新たに、連合艦隊の参謀長に大西瀧次郎、そして第一航空艦隊司令長官に山口多聞を任命しアメリカ軍に対して”逆襲”を実行していく…

処理中です...