10 / 14
一二インチの戦い
しおりを挟む
「フッド、撃沈しました」
「「「フラーッ」」」
見張りの報告にビスマルク艦内は歓喜に包まれた。
「よくやった砲術長」
ドイツ製精密光学照準装置の正確なデータにより、短時間で命中弾を与えられたのが良かった。
しかし、安心したのも束の間だった。
フッドが放った最後の斉射の一発が、ビスマルクに命中した。
激しい爆発音が艦橋内に響き渡り、乗員達を黙らせた。
「被害報告」
リンデマン大佐は冷静に副長に尋ねた。
「第三砲塔に命中弾。被害ありません」
フッドと違い一二インチどころか一五インチ砲への耐久力を持った戦艦として建造されたビスマルクは堅く弾薬庫への直撃など許さなかった。
だが直後、プリンス・オブ・ウェールズが発砲、多数の砲弾が降り注ぐ。
「左舷副砲被弾、使用不能」
「高角砲損傷」
装甲を貫かれた砲弾は無かったが非装甲区画へはダメージを受けた。
「プリンス・オブ・ウェールズへ照準を変更。さっさと仕留めろ」
リンデマン大佐は命じた。
いくら敵の主砲が貫通しないとはいえ、甲板上の構造物を破壊されると今後の作戦行動に支障が出る。
ビスマルクの砲撃はプリンス・オブ・ウェールズを捕らえた。
次々と砲弾が撃ち込まれるが、互いに決定打を欠いた。
互いの主砲は一一インチと一二インチだが、防御は一五インチ相当。
相手に決定打を与える事は出来ない。
「やはり魚雷を積んでおくべきだったか」
リンデマン大佐は呟いた。
敵艦を仕留めるためにビスマルクに魚雷を装備する話があったが、被弾した場合魚雷の誘爆を招きかねないため、中止となった。
だが、砲撃で仕留められないのならば有効な手段ではあった。
実際二番艦ティルピッツは商船攻撃用だが魚雷を乗せる作業が進んでいる。
実戦をみるにつけ、魚雷を付けなかった後悔がこみ上げる。
事実、プリンス・オブ・ウェールズとビスマルクはほぼ同格だった。
主砲はビスマルクが一一インチ三連装砲四基
プリンス・オブ・ウェールズが一二インチ四連装三基で同じく一二門。
一インチ程度の差など誤差の範囲だ。
防御力はほぼ同等。
互いに決め手がない。
被弾数は増えていくが、貫通できない。
「不味いな」
リンデマン大佐は呟いた。
ほぼ互角だが、それではビスマルクの負けだ。
通商破壊戦に出ているビスマルクには補給も修理のあてもない。
ブレストに逃げ込む事は出来るが、長期離脱を余儀なくされれば、ドイツ海軍の損失になる。
一方英国はビスマルクが出てこないのを良い事に攻勢作戦に出てくる。
本拠地も多く、すぐに砲弾の補給も出来るだろう。
損害が増えれば、たとえ勝てたとしても、ビスマルクの戦略的敗退だ。
だが、突如プリンス・オブ・ウェールズが砲撃を止めた。
「どうしたのだ」
不可解に思っていたが、リンデマン大佐はすぐにその理由に思いあたった。
「砲塔が故障したか」
四連装にしたため、砲塔が複雑になり故障し発砲不能になったのだ。
しかも新造して検査も不十分な事が加わり、故障を招いて仕舞った。
「プリンス・オブ・ウェールズ、離脱していきます」
見張りが報告する。
「追撃しますか?」
「いや、このまま我々も離脱。ブレストへ向かう」
追撃する余裕など無かった。
撃沈できる手段もない。
プリンツ・オイゲンが魚雷を持っているが、主砲が一基でも健在だと反撃を受ける恐れがある。
重巡洋艦に戦艦の主砲に耐える能力は無い。
損害をこれ以上受けるわけにもいかない。
ビスマルクは離脱しようとした。
だが、新たな砲撃を食らった。
「何だ?」
「敵艦アタッカーの砲撃です」
プリンス・オブ・ウェールズの後方に付いていたアタッカーが攻撃を仕掛けてきたのだ。
プリンス・オブ・ウェールズの撤退援護のためにビスマルクに挑戦しているのだ。
「さっさと仕留めろ」
リンデマン大佐は静かに命じた。
戦艦もどきなど、一撃で粉砕できると思ったからだ。
主砲が旋回し、発砲しようとした瞬間、十発の砲弾がビスマルクの周囲に降り注いだ。
「「「フラーッ」」」
見張りの報告にビスマルク艦内は歓喜に包まれた。
「よくやった砲術長」
ドイツ製精密光学照準装置の正確なデータにより、短時間で命中弾を与えられたのが良かった。
しかし、安心したのも束の間だった。
フッドが放った最後の斉射の一発が、ビスマルクに命中した。
激しい爆発音が艦橋内に響き渡り、乗員達を黙らせた。
「被害報告」
リンデマン大佐は冷静に副長に尋ねた。
「第三砲塔に命中弾。被害ありません」
フッドと違い一二インチどころか一五インチ砲への耐久力を持った戦艦として建造されたビスマルクは堅く弾薬庫への直撃など許さなかった。
だが直後、プリンス・オブ・ウェールズが発砲、多数の砲弾が降り注ぐ。
「左舷副砲被弾、使用不能」
「高角砲損傷」
装甲を貫かれた砲弾は無かったが非装甲区画へはダメージを受けた。
「プリンス・オブ・ウェールズへ照準を変更。さっさと仕留めろ」
リンデマン大佐は命じた。
いくら敵の主砲が貫通しないとはいえ、甲板上の構造物を破壊されると今後の作戦行動に支障が出る。
ビスマルクの砲撃はプリンス・オブ・ウェールズを捕らえた。
次々と砲弾が撃ち込まれるが、互いに決定打を欠いた。
互いの主砲は一一インチと一二インチだが、防御は一五インチ相当。
相手に決定打を与える事は出来ない。
「やはり魚雷を積んでおくべきだったか」
リンデマン大佐は呟いた。
敵艦を仕留めるためにビスマルクに魚雷を装備する話があったが、被弾した場合魚雷の誘爆を招きかねないため、中止となった。
だが、砲撃で仕留められないのならば有効な手段ではあった。
実際二番艦ティルピッツは商船攻撃用だが魚雷を乗せる作業が進んでいる。
実戦をみるにつけ、魚雷を付けなかった後悔がこみ上げる。
事実、プリンス・オブ・ウェールズとビスマルクはほぼ同格だった。
主砲はビスマルクが一一インチ三連装砲四基
プリンス・オブ・ウェールズが一二インチ四連装三基で同じく一二門。
一インチ程度の差など誤差の範囲だ。
防御力はほぼ同等。
互いに決め手がない。
被弾数は増えていくが、貫通できない。
「不味いな」
リンデマン大佐は呟いた。
ほぼ互角だが、それではビスマルクの負けだ。
通商破壊戦に出ているビスマルクには補給も修理のあてもない。
ブレストに逃げ込む事は出来るが、長期離脱を余儀なくされれば、ドイツ海軍の損失になる。
一方英国はビスマルクが出てこないのを良い事に攻勢作戦に出てくる。
本拠地も多く、すぐに砲弾の補給も出来るだろう。
損害が増えれば、たとえ勝てたとしても、ビスマルクの戦略的敗退だ。
だが、突如プリンス・オブ・ウェールズが砲撃を止めた。
「どうしたのだ」
不可解に思っていたが、リンデマン大佐はすぐにその理由に思いあたった。
「砲塔が故障したか」
四連装にしたため、砲塔が複雑になり故障し発砲不能になったのだ。
しかも新造して検査も不十分な事が加わり、故障を招いて仕舞った。
「プリンス・オブ・ウェールズ、離脱していきます」
見張りが報告する。
「追撃しますか?」
「いや、このまま我々も離脱。ブレストへ向かう」
追撃する余裕など無かった。
撃沈できる手段もない。
プリンツ・オイゲンが魚雷を持っているが、主砲が一基でも健在だと反撃を受ける恐れがある。
重巡洋艦に戦艦の主砲に耐える能力は無い。
損害をこれ以上受けるわけにもいかない。
ビスマルクは離脱しようとした。
だが、新たな砲撃を食らった。
「何だ?」
「敵艦アタッカーの砲撃です」
プリンス・オブ・ウェールズの後方に付いていたアタッカーが攻撃を仕掛けてきたのだ。
プリンス・オブ・ウェールズの撤退援護のためにビスマルクに挑戦しているのだ。
「さっさと仕留めろ」
リンデマン大佐は静かに命じた。
戦艦もどきなど、一撃で粉砕できると思ったからだ。
主砲が旋回し、発砲しようとした瞬間、十発の砲弾がビスマルクの周囲に降り注いだ。
1
あなたにおすすめの小説
幻影の艦隊
竹本田重朗
歴史・時代
「ワレ幻影艦隊ナリ。コレヨリ貴軍ヒイテハ大日本帝国ヲタスケン」
ミッドウェー海戦より史実の道を踏み外す。第一機動艦隊が空襲を受けるところで謎の艦隊が出現した。彼らは発光信号を送ってくると直ちに行動を開始する。それは日本が歩むだろう破滅と没落の道を栄光へ修正する神の見えざる手だ。必要な時に現れては助けてくれるが戦いが終わるとフッと消えていく。幻たちは陸軍から内地まで至る所に浸透して修正を開始した。
※何度おなじ話を書くんだと思われますがご容赦ください
※案の定、色々とツッコミどころ多いですが御愛嬌
カミカゼ
キリン
歴史・時代
1955年。第二次世界大戦にて連合国軍に敗北した大日本帝国は、突如現れた『天使』と呼ばれる機械の化け物との戦争を余儀なくされていた。
GHQの占領政策により保護国となった大日本帝国は、”対『天使』の防波堤”として戦い続けている。……受け続ける占領支配、利益なき戦争を続けたことで生まれた”失われた十年”は、必ず取り戻さねばならない。
「この国には力が必要なんだ。もう、誰にも何も奪われないための……守るための力が」
「そのために、ならねばならないのだ。俺は」
「この国を救う、”神風”に」
──これは、日本を真なる《勝利》へと導いた、未来へ駆け抜ける神風の物語──
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
暁のミッドウェー
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。
真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。
一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。
そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。
ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。
日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。
その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
(※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる