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トイレの格差
しおりを挟む何とか女子トイレの列を避け、授乳室横の個室トイレに駆け込んだ沙織(拓也)。
「ふぅ……ま、間に合った……」
心の底からの安堵を感じながら、トイレを済ませて個室から出ると、すぐ近くで拓也(沙織)が腕を組んで待っていた。
「間に合った?」
「ああ、ギリギリ……」
「よかったわね。さ、じゃあ私は混んでいない男子トイレに行ってくるわね!」
拓也(沙織)は特に焦ることもなく、悠々と男子トイレの方へ歩き出す。
沙織(拓也)は、そんな拓也(沙織)の余裕ぶりに少しイラッとしながら言った。
「……お前、なんか余裕すぎない?」
「だって男子トイレって混まないでしょ?」
「まあ、確かに……」
二人は一緒に男子トイレの入り口に向かう。
そして——
**誰もいない。**
「え?」
拓也(沙織)が思わず立ち止まる。
男子トイレの入り口には、誰一人として並んでいないどころか、使用中の個室すらほとんどない。
「嘘でだろ!? こんなにスムーズなんだよ!?」
「だから言ったじゃない。男子トイレは混まないのよ!」
「いやいやいや、ちょっと待てよ! 俺はあんなに必死になって並ばされてたのに、お前は待ち時間ゼロかよ!?」
「うん、じゃあ行ってくるわね♪」
拓也(沙織)は軽やかにトイレへと消えていった。
一方、沙織(拓也)はその場で呆然と立ち尽くす。
「……なんか納得いかねぇ……」
女子トイレの長蛇の列と、男子トイレのガラガラの差に、沙織(拓也)はこの世の理不尽を感じるのだった——。
拓也の体になった沙織が男子トイレから出てくると、沙織の体の拓也が腕を組んで待っていた。
「おかえり」
「ただいま♪」
沙織(拓也)は不満げな顔で言った。
「お前、めっちゃスムーズに出てきたな……」
「うん、だって全然混んでなかったし」
「まじか……で、お前……まさか……」
沙織(拓也)はニヤッと笑いながら言う。
「お前、小便器でしたのか?」
すると拓也(沙織)は、何の躊躇もなく胸を張って答えた。
「勿論!」
「……」
「いや~、男の体って便利ね! 立ってそのまま用が足せるし、ズボンのファスナーをちょっと下げるだけでいいし、めっちゃ楽だったわ!」
「私、子供の時に上にお兄ちゃんが居たから男子トイレに入ってお兄ちゃんと並んで小便器でしたことが有るんだけど、その時はスカートもパンツも汚しちゃってお母さんに凄く叱られたんだよね!」
「お前チャレンジャーだな!……」
沙織(拓也)はなぜか変な敗北感を感じながら、妙に誇らしげな顔をした拓也(沙織)を見つめる。
「最初はちょっとコツがいるかと思ったけど、意外と普通にできるものね!」
「……いや、そんな誇らしげに言われても……」
「もうちょっと早くこの便利さを知りたかったわ!」
「いや、お前は女だから知らなくて正解なんだよ!!」
沙織(拓也)は思わずツッコミを入れたが、拓也(沙織)は満足げに頷いていた。
「うーん、男の生活って意外と悪くないかもね♪」
「いや、なんか色々大丈夫か、お前……」
こんな調子で、入れ替わり生活はまだまだ続きそうだった——。
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